ラシアの相手は二体の戦女神だ。剣の戦女神ソールシエンテと、弓の戦女神バリスティオンだ。
バリスティオンに関しては遠距離型なので少し苦手だ。ただ、そんなことも言っていられない。さっさと倒して援護に行かないと駄目だからだ。
他の戦女神と戦っている仲間達は、慣れない相手に苦戦するかもしれないが……倒せる。
ラシアが危惧しているのは、天使を引き受けてくれたダード達だ。彼らにとっては、強敵もいいところだ。
ラシアが構えを取ると、戦女神達も構えを取る。
「なんとも懐かしい顔だが……昔話は必要か?」
「……必要ないですね」
「ふむ。なんとも付き合いの悪い奴だ」
そう言った後、ソールシエンテは急降下し、ラシアに剣を叩きつける。ラシアも簡単に受け止めるが、その衝撃は凄まじく、漫画のように地面がドゴン! と陥没した。
そのタイミングでバリスティオンが弓を引くと、ラシアへ光の矢が雨のように降り注ぐ。
さすがにこれで終わったとは、二体の戦女神も思っていない。砂煙の中からラシアが一瞬で現れ、ソールシエンテに向けて巨大なハンマーを振り下ろす。
ソールシエンテはラシアの攻撃を流そうとした。だが、その威力を受け流すのは容易ではなく、そのまま腕ごと切断された。
ソールシエンテはすぐにラシアへ蹴りを叩き込む。バリスティオンの援護を受けて一度距離を取り、失った腕を再生させた。
「さすがはローウェンテニアの死神といったところか……」
確かに強敵ではあるが……油断さえしなければ問題はない。ゲームなら一人で踏破できるダンジョンだ。
だけど少し疑問に思ったことがあったので、ラシアは尋ねる。
「元の世界では……あなた方を倒したと思いますが、どうして復活しているのでしょう。私には記憶が欠けているところがあるので、答えてもらえればと思います」
ラシアがこんなに話すとは思っていなかったのか、ソールシエンテは大きく笑った。
「お前はそんな声で話すのだな。答えてやる義理はないが……勝ったら教えてやるかもしれないぞ?」
「……話せる程度には加減してあげますよ」
そして戦闘が再開した。
……
ラオメ、アトラス、ヘッジも、盾の戦女神シエルオーテスと向き合っていた。
「ふむ。その盾は私が使っていたものか……なかなかに興味深いな」
「敵でないのなら、ご指導ご鞭撻のほどお願いしたいところだが……こちらにも都合があるのでな。倒させていただくがよろしいか?」
「一身上の都合というやつだな!」
ラオメとヘッジが構えを取る頃には、アトラスが飛び出し、シエルオーテスに斬りかかっていた。
その攻撃は即座に盾で受け止められ、アトラスは与えたダメージの二割を反射される。それでも気にせず攻撃を続けた。
剣を盾に押しつけてシエルオーテスの動きを制御し、空いた手で腰に下げていた武器を手に取る。箱船ダンジョンで手に入れた、光の刃を生成する武器だ。
アトラスはシエルオーテスの死角から刃を生成し、その首へ突き刺そうとした。
生成された刃はシエルオーテスの首を狙っていたが、あと少しというところでアトラスごと押し飛ばされ、届くことはなかった。
「ふむ。ローウェンテニアの死神や姫君以外は雑魚かと思ったが……そうではないようだな。失礼した」
「気にしなくてよい。こちらも、あのお二方に勝てるとは思っていないのでな」
そう言ってアトラスは剣を構える。
目の前の敵は強敵ではあるが……倒せないモンスターではない。自分達が知らない技を持っているのは、確かに脅威ではある。
ただ時間をかけて倒すほどの余裕はない。さっさと倒して、ローウェンテニアの姫君への援護に行かなければならないからだ。
行く必要はないかもしれない。だが戦いには、もしもということがある。
それに……姫君に何かあった時、その直属の騎士であるラシア・ラ・シーラと敵対することだけは、絶対に避けなければならない。
ラシアは確実に、自分達や騎士団長のデゴット、聖騎士長のロディーよりも強い。
彼女が他者との接触を極力避けているので、今のところ何も問題は起きていない。だが……貴族達は何を考えているのだろうと思うことが多々ある。
今回の狩猟祭でもそうだ。だから何事も起きないように、姫君の護衛という形で自分達がいる。
ただ……水没ダンジョンやこの天城ダンジョンに関する情報は、もう少し隠しても良いように思える。
そういうところも含め、面白い人物だというのがアトラス達四人の評価だ。
だから今は、目の前の人語を話すモンスターを倒すだけだ。
……
パルサー達五人の相手は、魔の戦女神レイテルパシオンとなる。
「さて、虫程度の人間がどこまで戦えるか見物だな。ローウェンテニアの死神が良かったが……まぁチャンスはいくらでもあるか」
その台詞の直後、レイテルパシオンが即座に魔法を放ち、戦闘開始となった。
爆風が辺りを包むが……多少のダメージはあったものの、パルサー達は無事だった。
「虫程度の人間も一発で倒されへんってことは、同レベルの羽虫って感じか? 確かに強いが……倒されへんって感じはせーへんな!」
「ああ。この面子なら問題はない。ノア、グオン。私達が仕掛けるから、適当に合わせろ」
「わっ、分かったけど! なんか命令が雑!」
「まー、こういうのは早い者勝ちだな。ドラゴニックパワー! ストーンブレス!」
グオンが皆に支援をかけた後、灰竜に命令する。灰竜はすぐに岩のブレスを吐き出し、レイテルパシオンを狙った。
レイテルパシオンが、これぐらいなら問題なく躱せると油断していたところ、ガクッと体が重くなった。続いて、雰囲気に合わない声が聞こえる。
「お前ぐらいなら、ワッチが出なくても余裕にゃんだけども……焼かれた尻尾の恨みにゃ!」
いつの間にか背後に回り込んでいたフウコウのスキルで行動を制限された上、飛んでくるストーンブレスへ向けて蹴り飛ばされ、レイテルパシオンは直撃を受けた。
「ぐはっ!」
幾つもの尖った岩が、その体に突き刺さる。
とどめと言わんばかりに一斉に攻撃を仕掛けるが、レイテルパシオンは範囲魔法を近距離で爆発させて一旦上空へ退避し、その傷を癒やした。
「よくもやってくれたな!」
「思ったよりは弱い感じやな。仕切り直しやけど……きっちり相手したるわ!」
「ワッチ! ワッチの尻尾が!」
「フウコウさん! 水、水!」
「強敵相手のはずなのに締まりがねー……」
「まぁ……仕方がないな。その程度の相手ということだ」
……
リレッサは、生の戦女神ライフィルシエステと向かい合っていた。こちらも話し合いに応じないことは、もう分かっている。
ローウェンテニアも天使族に攻め込まれたことがあり、この天城ダンジョンにいる者達とは因縁がある。
「まさかー、ローウェンテニアの姫君がこんな所にいるとは思いませんでしたねー」
「そうですね。私も自分自身が冒険者になって、あなた方と向かい合うとは思いもしませんでした」
リレッサの周りでは、召喚された天使達が騎士のように姫の周囲を固めている。
先手はライフィルシエステだ。ほぼ無動作で、小さな光の矢をレーザーのように打ち出す。その狙いはリレッサの心臓だ。
だけどそれは屈強な天使達に阻まれ、届くことはない。ライフィルシエステも届くとは思っていないので、その行動は観察に近い。
「さてさてー、姫君がここまで戦えるのは想定外ー。まぁいいけどね。それで一つ聞きたいけどいい?」
「なんでしょうか?」
「好いた男に振られて、祖国を滅ぼされた気分ってどんな気分?」
リレッサは少し考えてから答える。
「今まで生きた中で、一番最悪の気分ですね。簡単に言えば……貴女と出会った気分に近いですね」
その反応が面白かったのか、ライフィルシエステは大笑いして、さらにリレッサをからかう。
「えっ? なになに? ローウェンテニアの神童ともあろう者が、これぐらいで怒ってるの? うっけるー」
「そうですね。怒ってるというよりは……気分が悪いといった感じですね。それと……」
「それと?」
「頭が高い」
「えっ?」
その声がライフィルシエステの耳に届いた瞬間には、その首はリレッサが召喚した天使によって刎ねられていた。
落ちていく首は、自分の体を見つめていた。
そしてモンスターが消えるのと同じように、ライフィルシエステは消えていった。
……
最後は、ラシアが一番気にしていたダード達だ。
グオン組の四人は装備と経験があるので戦える。だがダード、ビエット、エリエスの三人にとっては、かなりキツい戦いだ。
三人の中で攻撃がまともに通るのは、ビエットの闇属性の弓のみだ。ダードの攻撃では、属性を付与しても飛んでいる天使に当てることは不可能だし、エリエスの地属性魔法もかなり当てづらい。
だからダードとエリエスがビエットを守り、ビエットが攻撃する形だ。
「ペネトレイトアロー!」
ビエットの矢が天使を貫き、ダメージを与える。だが、それでも一撃で倒すことはかなわない。
「こっちも余裕はない! ダード! ラシアの姐さんが来るまで耐えろよ!」
「分かってる!」
そう叫ぶフォルグ達も戦えてはいるが、ダード達を守れるほどの余力はなかった。
「ぐっ! ラシアはこんな奴らと戦ってるのか!」
天使の攻撃を虹蜘蛛の素材で作った盾で受けるが……凄まじい衝撃が腕に伝わる。
「私達がLLLに入ってるのが……場違い過ぎる気が」
「二人ともしっかりしてください!」
二人はビエットに怒られて気を引き締めるが……ダードの中では、自分の死が少しずつ現実味を帯び始めていた。
今受けた攻撃で……手首が折れたのだろう。手に力が入らず、激痛が走る。
それで少し反応が遅れ、隣にいたエリエスの足に魔法の矢が突き刺さった。
そして……見たこともない魔法が降り注いだ。
ダードは、ここが自分の人生の終着点だということを悟り、目を瞑った。
だけど……その場にそぐわない声が聞こえた。
「あー! 間に合った! リレッサ、回復をお願いします!」
「ソレイユ・サンクチュア」
太陽の光のように、温かくまぶしい光がダード達を包み込む。
「ハンマーブーメラン!」
凄まじい風切り音が響き、ダードは驚いて目を開ける。すると、あれだけいた天使達はほぼ全て倒されていた。
「お待たせしました」
「ラシア……ありがたいが、もう少し早く来てくれ。死にかけた」
「いやー、申し訳ない」
「それだけ話せるなら、ダード達も大丈夫なようですね」
「ダード! 先にお礼!」
「ほんとですよ……」
そしてラシアとリレッサはすぐにフォルグ達へ加勢した後、戦女神と戦う仲間達を見守った。