ラシア達は総力戦を乗り切った。怪我をした者もいたが、リレッサの回復魔法で治療できたので問題はなかった。
ただ、このダンジョンはゲームの頃の設定を受け継いでいるというか、ほぼゲームと同じだ。フロアを移動すると、倒したモンスターが復活している。
仕方がないと言えば仕方がないことだが……うーん、といった感じだ。
そしてようやく目的の武器などが置かれた部屋にたどり着いたので、ラシア達は中にいた天使達を一掃して調べ始める。
こういうダンジョンでオブジェクトとして置かれている武器は、仲間に調べてもらった方が間違いない。ラシアは少し休憩を取ることにした。
考えていたのは、ダンジョン全体のことだ。ラシアが持っているゲームの知識は通用するが……ゲームのダンジョンと、この世界にあるダンジョンは、とてもよく似た別物なのだと思う。
今回もそうだ。ゲームの中ならオブジェクトには触れられないのだが、こちらでは持って帰ることもできる。ラシアもローウェンテニアから風呂を持って帰ったりしているので経験済みだ。
その辺りはゲームと現実の違いと言われればそれまでだが……確実な違いとして、モンスターが目の前でリポップしないことがある。
一度そのフロアで倒してしまうと、少なくともラシア達がその場にいる間に、モンスターが湧くところを見たことがない。ゲームならそんなことはなく、決められた数のモンスターがいて確実に湧く。
「うーん。謎だけど、モンスターがどう復活するのかは少し気になる」
そんなことを考えていると、リレッサがやって来た。
先ほどの戦いのこともあるので大丈夫かと尋ねたが、問題はないようだった。そこでラシアは、今悩んでいたことをリレッサに伝えた。
「そういえば……確かに聞いたことはありませんね。誰かが復活の魔法を使っているわけでもないでしょうし」
「ダンジョン内に冒険者を敷き詰めたら、モンスターが復活しないのかな?」
「なるほど。誰にも認識されていない世界は、ないのと同じということですね。その辺りは経験が豊富なグオンなどに聞いてみれば、何かしら知っているかもしれませんよ」
グオンやお兄さんお姉さんズは経験も長いので、確かに知っていそうだと思った。
「ラシア。戦女神達に記憶が残っているのは、どうしてか分かりましたか?」
これが、ダード達の救援に少し遅れた理由だ。力を抑えて二体の戦女神と戦い、少し会話をしていたからだ。
それが本当なのかは分からなかったが、剣の戦女神ソールシエンテが言うには、自分達戦女神は魂が本体で、体はおまけというか付属品とのことだ。
魂や思念体の状態では物に干渉できないので、魔力で体を作っているとのことだ。
それが本当なのかはラシアには確認のしようがなく、どうしようもないのだが……リレッサはなるほどと言って頷いた。
「姫様的にはどう思います?」
「ラシア。さっきみたいにリレッサと呼んでくれてもいいんですよ?」
「……さっきは咄嗟だったので」
その反応が面白かったのか、リレッサは笑った。それから少し考え、それが本当ならダンジョンと世界の両方のルールが適用されているのだと答えた。
「えっと……それ、前に言ってたその世界のルールが適用されてるってやつですよね」
「はい。私はそう思っていましたが……今のラシアの話を聞くと、天使側のルールが適用されているように思えます。だから記憶が残っているのは、付属品が消滅しただけで、本体である魂は無事なのだと思いました」
「なるほど。でもそれだと……グオンさんが言っていた、ラットマンが少し強くなっている件は説明できませんよね」
「仮説ですし、ダンジョンは分からないことが多いですから難しいところです。ただ……このダンジョンのモンスター、特に戦女神達は確実に外へ出してはいけません。それだけは覚えておいてください」
ラシアは頷く。それは本当に間違いない。
都市や街の神殿には、羽の生えた人……一般的に天使と呼ばれる者の像が幾つもある。
羽の色などに違いはあるが……特に五人の戦女神は、そうした天使の像にそっくりなのだ。信仰対象になり得る。しかも、自分達が信仰対象になれることを理解し、それを利用するだけの知識もある。
自分達を信仰する者に剣を取らせ、戦いへと導く……それぐらいは絶対にやる連中だ。侵略者なので、人が減って嬉しいぐらいの感覚のはずだ。
ただ、リレッサの懸念はそれだけではない。先ほどの仮説に繋がる話が、もう一つあった。
ここにいる天使達は、別の世界の先兵だ。女神や主神と名のつく者達でさえ、神と呼ばれてはいるが……いわばシエルオーテス達の上司にあたる、中間管理職のようなものだ。
だから彼らには、別の世界に故郷があるはずだ。外へ出てその設定が残るのなら……自分達の世界とこの世界を繋ぐ方法を知っているかもしれないということだ。
ダンジョンの中でそれをしないのは、できないのか。それとも、する意味がないのかは分からない。
ただ外へ出てそれができるのなら……この世界は確実に第二のローウェンテニアのようになるということだ。
モンスターがいて、天使がいて、魔族がいて……常にどこかで戦いが起きる。そんな世界だ。
「私はラシアや他の者達のように城の外へ出られたわけではありませんので、そこまで詳しくは知りませんが……天使達の数は相当多いと聞きました。もしかしたら、ローウェンテニアの時代には繋がっていたのかもしれませんね」
「十分にあり得ますね……」
「全てが仮説ですけどね。白ナマズのように、この世界では再現できないものがある可能性も十分にありますが……天使達を外へ出してはいけないということだけは、頭に入れておいた方が良いかもしれません」
頷きながらも、ラシアは天使達の故郷や世界を繋ぐという話は、元々ゲームで誰かが考えた設定だったはずだと思う。
だが今のラシアは、ゲームとそっくりな世界が実際に別にあったのではないかと考えている。
ただ、これに関しても本当に仮説でしかなく……検証することもできないので難しい話だ。
そろそろラシアの頭から湯気が出始めたので、リレッサが笑って、今できることはここを踏破することと、天使達を外へ出さないことだけだと言って話をまとめてくれた。
二人で話をしている間に、このフロアを調べていた者達も調査を終えたようで集まってきた。
話を聞くと、見つかった武具は十分に使えるものばかりで、今使っているものより遥かに上質らしい。
ラシアもその装備を見せてもらうと……普通に天使を倒した時、たまにドロップするものばかりだったので、かなりの驚きだった。
「こんなに楽をしていいのだろうか……」
「ええんちゃうか? ここってモンスターも強いし、これぐらいないとうま味ないで!」
「あとは書物のようなものがあったが……見慣れない文字で書かれていたからな。持って帰れば解読できるかもしれないが……レクトア様達が持って帰らない方が良いと言ってくれたので、武具や防具だけにしておいた」
「あー……何が書かれているか分かりませんからね……」
そういうことだとパルサーが言ったので、ラシアもその通りだと思う。
ダンジョンへ行って面白そうなものがあれば、ティアやおやっさんにお土産を持って帰っているラシアだったが……このダンジョンは確かに変わったものが多い。
だが変なものを持ち帰り、それが天使召喚のアイテムだったということも十分にあり得る。
「ティアちゃんとおやっさんのお土産は、天使を倒したら出る換金アイテムでいいか……」
「お母さんの分は?」
ノアにそう言われ、ラシアが言葉に詰まっていると気配が変わり、扉の方から声をかけられた。
「ふむ。ローウェンテニアの騎士や姫君も、盗人のようなことをするのだな」
そこには……復活した戦女神達が立っていた。
こちらのことを認識し、対策を立てて襲ってくる……ゲームでプレイヤーがやっていることを、そっくりそのままやり返されているのだ。
この天城ダンジョンの脅威度は明らかに上がっている。踏破した後は、二度と来ない方が良い。何をしてくるか分からないからだ。
「欲しいものがあれば奪えと言われましたので」
「確かに言ったな。だが、ではお持ち帰りくださいとはならないだろう?」
そう笑って、シエルオーテスは他の戦女神や天使達に指示を出し、再び襲いかかってきた。
もうラシアが苦手とするタイプも見抜いている。
シエルオーテスと弓の戦女神がラシアを足止めし、他の者達は戦力の低いダード達を狙う。
狙いは殺すことではなく、重傷者を作ることだ。仲間を足かせにして、自分達を倒せるラシア達に全力を出させないための立ち回りだった。
一回目より、確実に今の方が強い。レベルが上がっているわけではないが……戦闘経験では確実に天使達の方が上だった。
……
今回の戦いも勝利することはできたが……明らかに脅威度は上がっている。
このダンジョンのほとんどの場所を回り、ボス以外のモンスターとも全て遭遇できた。そこでラシアは、もうボスを倒してダンジョンを踏破することにした。
(ただ……時間湧きのボスを見てないんだよな。戦女神達が移動するなら、こいつもするのか?)
そして天城ダンジョンのボス部屋へ向かう。嫌な予感というものは、よくこんにちはをしてくるので……その部屋では、ボスと時間湧きのボスがラシア達を待っていた。