本日のラシアの予定は、デルパロア大公宅へ行くことだ。狩猟祭で令嬢ズに勝利したので、約束通り超級ダンジョンの情報をもらうためだ。
正直……会いたくも関わりたくもないので行きたくない。だが、願いが叶うと言われている深淵のダンジョンを踏破し、元の世界へ帰るのが目標だ。
元の世界とこの世界で、どのように時間が流れているのかは分からない。ただ……同じように時間が流れているなら、自分と入れ替わる形で元のラシアの魂があちらへ行っているのではないだろうか。
今のラシアはそう考えている。
激しい人見知り男の体に、ラシアみたいな美女の魂が入っているとか、どんな罰ゲームだとは思うが……元のラシアも相当な人見知りなので、ぜひぜひ頑張ってもらいたい。
ライオンみたいになった髪に、寝ぼけながら櫛を通していく。
この体にも慣れたなー、というのが今の感想だ。
もう一つ考えるのは、元の世界に帰れなかった時のことだ。
その時は冒険者をやめて、冒険者相手に何か商売をするのがよさそうだなとラシアは思う。
そんなことを考えながら、いつものメイド服に身を包んだ。
そして何を血迷ったのか……髪を縛ってツインテールにし、頭にフリルを載せて完成だ。
見た目だけは確実にメイドなので、誰が見てもメイドだろう。
「よし。可愛い」
こうやってたまに気分転換しないとやっていけないのが、この世界なのだ。
そんなことを思いながら一階へ行くとティアと出会い、さっそく感想を言ってくれた。
「ラシアさん可愛い! どうしたの、それ!?」
「王都に行くから変装!」
「うん。これならラシアさんって分からないと思う! 可愛い!」
「ティアちゃんもツインテールにする?」
「する!」
そう言うのでティアを食堂の椅子に座らせ、髪を梳かして縛っていく。少し前まではかなり髪が傷んでいたのだが、以前作った高級石鹸のおかげなのだろうか。ティアの髪もさらさらだ。
そんなことをやっていると、奥からおやっさんが現れ、呆れた顔を向けられた。
「お前らは何をやっとんのだ」
「ラシアさんにツインテールにしてもらってる」
「よし、できた。というわけで私は王都に行ってきますわ」
「どういうわけだよ。朝飯は? 王都で食うのか?」
外でご飯を食べるなどという奥義が、ラシアなんかに使えるはずもない。
帰ってきてから食べると、おやっさんに伝えた。
「私は知らない人と会話するぐらいなら、空腹を選ぶんですよ、おやっさん。というわけで行ってきます」
「お前は全然変わらんなー」
おやっさんに呆れられながら、ラシアは王都にあるデルパロア家へと向かった。
ラシアが出てすぐ、道具屋を手伝っていたノアがやってきて、ツインテールになっているティアを発見する。
「うわっ! 可愛い! ティアちゃん、それどうしたの!?」
「ラシアさんとお揃いにしてもらった~」
「おぉー、なるほどー。ってことはラシアさん、今ツインテール? 見たい見たい! どこにいるの?」
「ラシアなら王都の大公宅に行くって言って、出かけたぞ」
「ぐぁ! ツインテラシアさんとか超レアなのに、私も見たい!」
「私、ポニテラシアさんとか見たことあるよ! 可愛かった!」
「なんでっ!? 私、見たことないよ!」
そんなことをやっている間に、ラシアは冒険者ギルドへとたどり着いた。
そこでいつもの受付嬢とばったり出会い、何度も上から下まで視線を往復させられた後、何とも言えない顔をされた。
「……ラシアさん。とてもよく似合っていますが、なぜツインテールでメイド服なのでしょうか?」
「最近大変だったので……ただの気分転換です。気にしないでもらえると」
巷で話題のLLL。そのマスターであり、白の騎士や白獅子とまで呼ばれ、未発見だったエリアを二つも発見して踏破した本物の強者。
そんな人物が何をしているのだろうと、受付嬢は軽い目眩を覚えた。
ただ、そんな人物がメイド姿で遊んでいるとは誰も思わない。カモフラージュにはなっているのかもしれないが……フル装備の時とのギャップが大きすぎて、同じ人物とはとても思えなかった。
「それで、ラシアさんは王都へ?」
「大公さん宅へ行って、文句の四つや五つぐらい言ってやろうかと」
受付嬢からすれば、デルパロア大公など恐怖の対象でしかない。
そんな相手に軽口を叩けるのはラシアぐらいだ。姿は違っても、やはり本人なのだと納得してしまった。
大公宅へ急いで行く必要はない。それに祭りのせいで高ランク冒険者が減った後の動きも知りたかったので、ラシアは少し時間をもらい、世間話を始める。
「最近ってどんな感じです? 祭りの影響ってあったりしますか?」
「そうですねー。ラシアさんにまともに関係ありそうなのは、LLLに入りたいという冒険者がかなり増えていることですね」
「それは却下で。他は?」
「後は終わって間もないので、まだ大きな動きはないといったところですね。このルインエルデには元々高ランク冒険者が少ないので、影響もほとんどありません。ただ……王都では少なからず問題が出そうです。私達のような民衆にはあまり関係ありませんが、貴族の方々には問題が出ますね。基本的に高ランク冒険者は、国や貴族からの依頼を多く受けていますので」
「なるほど。街や都市のエネルギー源は魔石だから、高ランク冒険者が減ってもそこまで関係してないって感じなんですね」
「はい。後は医療に関しても、高ランク冒険者が行くような高難度のダンジョンで採れる素材から作る薬などは、一般人では手が届かないほど高いので、あまり関係ないといったところですね」
この世界には、元の世界のような医療制度があるわけではない。お金がなければ、助かる命も助からないのは仕方がないことだとは思う。
その代わり魔法があるので、怪我や骨折ぐらいなら医療院のような所で治療を受け、その日のうちに動くこともできる。
元の世界と比べて、良い所も悪い所もある。
他にも、このダンジョン都市は商人達からすると面白い街になっているらしく、王都からこちらへ移ってくる者も多いそうだ。
王都の方が人は多いが、貴族などもいるので何をするにも自由が少ないらしい。その点、ルインエルデには領地を治める貴族はいるが、この街に住んでいる者はほとんどいない。
いたとしても権力を振りかざすような者ではなく、金持ちの商人と大差ない感覚らしい。そのため王都よりも色々と動きやすいそうだ。
「今は余裕があるので問題ありませんが、これからもっと人が増えるという話が出ています。そのため、大規模な区画整理や都市を広げる計画が進んでいるそうですよ」
「へー。何かすごいっすね」
「噂では市長が目覚めたらしく、画期的に色々とやっているとのことですよ。昔は危なかった組織の人達も、バスの運行で儲かって、かなり都市の発展に協力してくれているようですし。打倒、王都だそうです」
「何に目覚めたんだって話ですね」
それからも少し話は続き、気になるというより、気にしなければならない話が一つあった。
ルインエルデから馬車で半月ほどかかる遠い国が、少し前に滅んだそうだ。
その国から冒険者達が流れてくるかもしれないという。
「国が滅ぶって、けっこうな大ごとですよね? その関係で、エリゼ嬢を助けた五人も、その国から来た冒険者って感じかー」
「大ごとですね。その辺は私も直接見たわけではないので不明ですが……冒険者というより、騎士のような五人だったという話ですよ。生き残った国の騎士だった可能性が高いと思いますけどね。冒険者はポータルを使えるので、ある程度は王都やルインエルデにも流れてくると思います。少し混乱が起きるかもしれません」
その辺も少し気になるので、時間があればデゴット宅やロディーの所へ行き、詳しく話を聞こうとラシアは思った。
もう少し話を続けた後、ラシアは王都へ飛び、デルパロア家へ向かった。
モンスターが喋り、ゾンビアタックをしてくる天城ダンジョンと、このデルパロア家。
どちらかに行けと言われたら、殴って解決できるダンジョンの方を選ぶなとラシアは思う。どうせ、どちらにも命の危険はあるのだ。
門兵にラシア・ラ・シーラが来たことを伝えると、メイド姿なのでめっちゃ疑われたが……何とか信じてもらえた。
大公へ連絡を取ってもらい、応接室へと案内された。
道中、一切話をしないのはプロだなーと思うし、ラシアとしても会話をしなくていいので嬉しい。
案内された応接室で待っていると、ラシアより年上に見えるがまだ若い、執事らしき男性を連れてデルパロア大公がやってきた。
「まずは……狩猟祭での勝利、おめでとう」
そう言って手を叩き始めたので、ラシアは失礼だとは思いつつも、小さくため息をついてしまう。
「思ってもいないことを、よくそんな感じで言えますね」
「思っていなければ私は言わないがね。まぁ、あのような祭りだ。君からすれば楽しめる要素など皆無だろうな」
「……もう少し楽しめる祭りをお願いします。というか、なんでまたあんな祭りを開いたんですか?」
「さぁな。お前からすればろくでもない祭りかもしれないが、冒険者や民衆は楽しんでいたようだぞ」
「高ランクの冒険者が大勢死んでいるのに……」
「人は自分に関係のない者を数で数えるからな。それは覚えておいた方がいい」
そう言って大公は隣にいた執事へ指示を出し、まとめられた資料をラシアの前に並べさせた。
「それが今、この国で分かっている超級ダンジョン全ての資料だ」
ラシアはその資料を手に取り、軽く目を通す。
載っていたのは獄炎、絶冬、天風、地星、聖陽の五つのダンジョンだ。
「……深淵のダンジョンは?」
「ああ。それに関してはお前から少し聞いていたからな。こちらでも調べたが……この国にはない。あるかもしれないが、見つかっていないと言っておこう。もちろん、お前が嘘を言っていないのが前提だがな」
嘘は言ってませんけどね、と文句を返してから、ラシアはもう一度資料を眺める。
どれもラシアが知っている超級ダンジョンだった。
そこで気になったのは、王都から行けるのは獄炎、天風、聖陽の三つで、残る二つは他国側から入ると書かれていたことだった。