「なぁー。俺達みたいな下っ端冒険者が、騎士団とかの演習に参加していいのか?」
「全然構へんで。騎士団も聖騎士も冒険者も、やってることは一緒やからなー。文句を言われたら、しばいたらええねん」
「どこに仕えるか、何をするのかという違いがあるぐらいだな。お前達冒険者が、騎士団や聖騎士を特別視しすぎているというのもある」
ダードの質問にティーガーとパルサーが答えながら、王都にある演習場へと向かう。
演習場へ向かうのは、LLLの全員と迎えに来てくれたティーガー、パルサーだ。
リレッサは宿で、ティアとフウコウとナットンと一緒にハンバーグを作ったりするそうだ。
何とも嫌な予感はするが……コツというか作り方は丁寧に教えておいたので、たぶん変な材料を使ったりはしないと思いたい。
そんなことを思いながら王都を歩いていると、スコップなどが置かれている金物店があった。ティーガーは皆に少し待ってもらい、その店で大きなスコップを買ってきた。
「お待たせ。悪いで!」
「何に使うんです?」
「そらもちろん、食人令嬢とエンブレント嬢を埋めに行くんやで」
「エンブレント……あのドリルヘアーの掘削令嬢ですね。無事でよかった」
エンブレント嬢は古代のダンジョンで行方不明になっていたが……お兄さんお姉さんズを含む捜索隊が救助へ向かった。
かなり下の階層にある休憩所で衰弱していたものの、無事に発見されたそうだ。
ラシアも巻き込まれはしたが、死んでほしいとは思っていない。
そのためダンジョンの見取り図を書き、各階層に出てくるモンスターも記して捜索隊へ渡しておいた。それがかなり役に立ったとのことだ。
捜索隊が戻ってきたのは一昨日なので、エンブレント嬢が元気になったらティーガーがきちんと埋めに行くそうだ。
「大丈夫なんですかね?」
「頭だけは出したるから大丈夫やな。死にはせんし、大公も花壇に埋めるか庭に埋めるか悩むぐらいにはノリノリやったで」
ラシアとしては勝負には勝ったので、もう放置でいいかなーという感じだ。
だが、よくも悪くもきちんと決着を付けなければ禍根が残るとのことだ。
ティーガー自身も、ラシア達を巻き込んで想像以上に危険な目に遭わせたからと、腹を切って詫びると言い出した。
ラシアは冗談かなーと思っていたのだが。ティーガーはふざけたところもあるが……やると言ったら本当にやるタイプだった。
「腹を切って詫びるわー」
そう軽く言った時には、すでにナイフがお腹に軽く刺さって血が出ていたので……ラシアは焦ってすぐに止めた。
回復薬のおかげで怪我の跡も残ってはいないが……ラシアとしては怒ってもいないし、気にもしていないので本気でやめてほしい。
その辺をティーガーに聞くと、「言うたらやる。やらんのやったら最初から言わん」が信条らしい。
そんなことを考えながら進んでいると、目的の演習場へとたどり着いた。
さすがのラシアも戦いの場なので、今日はいつもよく着ている軽装だ。聖銀鋼の鎧ではやりすぎだし、メイド服では場違いだ。
パルサーが受付らしき所で話をして中へ入ると、デゴットとロディーがいた。
騎士団と聖騎士の新兵と思われる者達も、合わせて七十人近くいた。
掘削令嬢を救出して帰ってきたお兄さんお姉さんズもいたので、後で時間を見て話を聞きたいところだ。
そしてデゴットとロディーに挨拶をしてから、演習が始まった。
ここからがLLLにとってはスパルタになる。
もちろん、ラシア以外だ。
メンバーには一人ずつ、ティーガーかパルサーのどちらかと戦ってもらう。
超級ダンジョンへ連れて行く者の選別だ。
ゲームのレベルで考えれば、ティーガーとパルサーでギリギリだ。
その二人と戦って勝つか、よい勝負ができなければ連れて行けない。
この世界では天城ダンジョンも難易度が爆上がりしている。だから超級ダンジョンも、きっと終わっているはずだからだ。
ティーガーもパルサーもやる気満々で、ティーガーに至っては虹竜込みになる。
本気で戦ってほしいと伝えてあるので、ぜひともメンバーには頑張ってほしい。
ラシアとしては、合格できるのはグオンぐらいかなーと思っている。
ノアも相手が悪いので、しんどいとは思う。よーいドンで始まる一対一の模擬戦では、どうしても前衛に分があるからだ。
デゴット達の近くにラシアも座り、出された飲み物を飲みながら見守る。
大公宅のように、毒の心配がないのがありがたい。
一人目はダードだ。
やる気満々で、いつも殴られているパルサーを指名した。
「お前にはいつも殴られているからな! 今日は日頃の恨みを晴らさせてもらう!」
「私も強くなっているからな……晴らせるものなら晴らしてみろ!」
そして簡単に吹き飛ばされ、空中で五回転か六回転した後、レクトアがいる辺りへ顔面から着地して勝負は決まった。
次はエリエスだ。
ティーガーを指名する。
「……負けるのは分かっているので、お手柔らかにお願いします!」
「戦う前から負けるって決めとる根性があかんな!」
「どうしろと! 全力でお願いしますって言ったら、ティーガーさんも本気で来るのでは!?」
「そらそうやろ!」
軽くは手加減されたが……似たような感じでエリエスも吹き飛ばされた。
次のビエットも吹き飛ばされ、遭難組の三人は居残りとなった。
そして次はグオン組の番となった。
エンセトは吹き飛ばされ、ゲニツは蹴散らされ、パドロワは地面に這いつくばり、フォルグは気を失った。
四人とも居残り組となった。
ここまで連戦だが、ティーガーもパルサーも体が温まった程度だ。
やはり騎士も聖騎士もかなり強い。
「他の同ランクの冒険者と比べると、ダードやエリエス辺りはええ動きしてるなー。さすがはラシア隊長のメンバーって感じですわ」
そう言いながらロディーはラシアに飲み物を注ぎ、ラシアもそれを飲みながら答えた。
「ティーガーさんもパルサーさんも、騎士団や聖騎士の型があって対人戦に強いのはあるけど、ダードさんにしてもエリエスさんにしても、もう少し考えて動かないと。戦う前から格上だというのは分かっているのだから」
「まぁ、それはあるわな」
その話にデゴットも加わり、ああだこうだと言いながら次の戦いを見守る。
次はノアの番だ。
ノアはティーガーを指名した。
「ティーガー! よろしく!」
「お? ウチか。パルサーを指名するかと思ったが……理由を聞いてもええか?」
「全体で見たら二人とも同じぐらいだけど、能力だけならパルサーの方が攻撃力も速度も少し高いからかな? 竜がいる分、ティーガーの方が手数は多いけど、一発は軽いから」
「なるほどな……よう見とるわ。これは加減なんかできへん感じやな」
ティーガーの気配が変わった後、戦いが始まった。
結果だけを見ればティーガーの勝ちだったが、ノアはかなり善戦した。
ティーガーにも少し危ないところがあった。
「ラシアさん、負けたけどどうだった?」
「ノアは……合格。パルサーとティーガーが思った以上に強かったから、ノアがギリギリの合格ラインになった。先は読めてるし、魔法の使い方も合ってるけど……魔法の手加減をしすぎ。回復できる者がいるから、もっと周りを気にせず魔法を使った方がいい。模擬戦だけど、戦いだということを忘れてはいけない」
そこでノアがラシアの異変に気付く。
「ラシアさん……もしかしてお酒飲んでる?」
「飲んでませんが?」
「ラシア隊長。飲んでませんがじゃなくて、さっきから飲んでるの果実酒やで。かなり薄い奴やけどな」
「なるほど。そういうことなら仕方がない。おいしいし大丈夫でしょう」
ロディーがまたラシアに果実酒を注ぎ、ノアが嫌な予感に襲われている頃、グオンはパルサーを指名した。
そして戦いが始まった。
こちらも勝つことはできなかったが、かなり善戦したのでグオンも合格となった。
「えっ……ノアよ。姐さん、酒飲んでるのか?」
「そうみたい……」
ラシアが酔っ払うとどうなるかを知っている二人からすれば、本当に気が気ではない。
だが新兵達の訓練として、全員参加の乱戦を行うことになった。
居残り組となったダード達もそこへ混ざり、騎士団や聖騎士の新兵と戦うことになった。
「騎士団や聖騎士の訓練としては、こんな感じだな。もう少ししたら、お前らが遭難した森へ連れて行くが……どうだ。ウィルディアの調査へ行ってくれるか?」
「こちらも気になるので行ってきましょう。後、全体的にぬるいので、もう少しきつくても大丈夫ですよ」
そんなことをラシアとデゴットが話していると、ダード達三人組と、同年代の若い騎士や聖騎士との間で喧嘩が始まった。
原因は若い騎士や聖騎士が生意気なのもあるが、冒険者がここにいるのが気に入らないといった感じだ。
ダード達も、ここで喧嘩をするのはまずいと思っていた。
だがラシア達の悪口を言われて「はぁ?」となり、先に手を出してしまった。
それをきっかけに乱闘となり……ラシア達の目の前で殴り合いが始まっていた。
「今回の新兵って、みんなこんな感じですわ。腕は優秀なんで、ウチやデゴットの言うことはさすがに聞くんですけど、生意気というか……何というか」
「昔の……ロディーを見ているようですね」
「うぐっ……」
「こういう時って、ローウェンテニアだとどうするんだ? というか、こいつらはいっぺん痛い目を見ないと分からないだろうから……ラシアがいいなら、しばいていいぞ」
「じゃあ、こちらとしてもストレス発散になりますし、全員沈めてきます」
ふらりと立ち上がるラシアを見て、ノアとグオンが慌てて大声を上げた。
「私達はここで見ているから!」
ラシアは軽く手を振ってから叫ぶ。
「来い! 聖銀鋼の鎧よ!」
ラシアの声に応えるように、アイテムバッグの中から生き物のように鎧が飛び出し、ラシアの体へ装着された。
そして恐ろしい重圧が新兵達を覆い、喧嘩が止まる。
全員の視線がラシアへ向けられた。
「お前ら全員! いっぺん死ね!」
死を感じた新兵達が恐ろしさに動けなくなる中、ラシアはゆっくりと歩き出した。
すると四人が、ラシアの前へ立ちはだかった。
お兄さんお姉さんズのラオメ、アトラス、ヘッジ、レクトアの四人だ。
「今ぐらいしかチャンスがないのでな。ラシア殿の胸を借りるつもりで、挑ませてもらおうと思うがどうだ?」
「回復役なら私がいます。ラシア様、どうですか?」
「一度、ラシア殿とは戦ってみたいと思っていたのだ」
「私達も騎士や聖騎士としては強者の部類だ。一人ずつ挑むのでどうだろうか?」
四人の申し出を、ヨッパラシアーが断るはずもなかった。
ラシアはすぐに答えた。
「一人ずつ? お前達全員でかかってこい。ローウェンテニアの死神を舐めてくれるなよ」
ラシアはプラティディオンハンマーを取り出して構え、戦いが始まった。