おやっさんには爆笑され、クランメンバーに加えてパルサー、ティーガー、お兄さんお姉さんズにも土下座をして許しを乞うたが……全員あまり気にしていないというか、メンバーに関しては酒を飲ませたロディーが悪いということで落ち着いた。
騎士団と聖騎士の新兵達は、あの死地を耐え切ったことで変な絆が生まれたらしく……今では全員仲がいいらしい。
新兵達は居残り組になった七人とも絆ができたようで、今も訓練では仲良くやっているそうだ。
ダードもエリエスもビエットも、友人と呼べるような相手ができたらしい。訓練が終わった後、一緒に買い物へ行くこともあるそうだ。
「話だけ聞くと、よかったような気もしますが……申し訳ない」
「まぁ……ラシアもストレスが溜まっているだろうから、たまには羽目を外すのもいいかもな」
「ものすごく痛かったけどねー」
「せやな!」
皆が笑っているので怒ってはいないと分かるのだが……本当に申し訳ないと、ラシアはもう一度謝った。
「まぁ冗談は置いといて……調査へ行く前に、不穏な話で悪いけど確認しとく。ラシ。この前ラオメ様に売ったヴァルキリーシールドがあるやろ? あれって空の城におったシエルオーテスが持ってた盾と同じやんな?」
ヴァルキリーシールドはシエルオーテスからドロップする。他に持っているモンスターも、ドロップするモンスターもいない。
ラシアの記憶違いでなければ、そのはずだ。
「そうですねー。一番簡単な入手方法としては、シエルオーテスを倒すことですね」
「なるほどな。ほんなら……悪い知らせや」
何とも嫌な予感がする。
話を聞くと……ちょうどエリゼとメニスが王城に訪れていたらしい。
その時、ラオメがヴァルキリーシールドを持っており、エリゼがその盾を見て、自分を竜の巣から救ってくれた五人の冒険者が持っていた盾と同じだと言ったそうだ。
それを聞いたラオメが驚き、エリゼとメニスに五人の特徴を確認したところ……羽がないこと以外は、天城ダンジョンにいた五人の戦女神と一致したらしい。
「で……その五人は、エリゼ達と一緒に竜の巣から出てきたんやと。メニスにもウチの方から確認した。大公に頼んで、王都の冒険者ギルドで五人を見た連中からも話を集めたけど……特徴は一致したな」
「……いや、でもティアちゃんの蟻の指輪みたいに、ランダムで盾が出た可能性も」
「それやったら、それでええ。やけど悪いことの方がよう当たるやろ? ……あいつら、ほんまに出てきたで」
最悪という言葉以外が見当たらない……。
その話を聞き、天使達の厄介さを知っているノアとグオンの顔色も悪くなる。
「迂闊だった。まさかダンジョン同士がつながっていて、モンスターも移動できたのか……ってことは、天城ダンジョンから竜の巣へ移動して、そのまま外へ出てきたのか……」
「まだ公にはなっていないが……これまでの歴史をひっくり返すほどの新発見だな。今までは、ダンジョンはそれぞれ独立した世界だと考えられていたからな」
その五人はどこかへ行ったとデゴットも言っていた。
その辺も詳しく聞くと、大公もすでに動いて探していたらしい。ただ誰かが隠しているのか、本当にもう王都にいないのか、全く足取りがつかめないそうだ。
「大公は『お前ら、誰やねん』ってなって、すぐに調べ始めたらしいけど、全然居場所がつかめんって言うとったわ。王都は隠れる場所も多いけど、誰かが隠さんと完全に姿を消すのは無理やからな」
出てきているなら、本当にもういないか、どこかに隠れているかの二択になる。
たぶん隠れている。
ゲームの設定では、天使の本体は魂だ。そして魂を見る方法はない。
「……どこにいるか分からないのに、調査へ行っている場合ではないのでは?」
その場にいた全員が頷いた。
パルサーもティーガーも同じ考えではあるが、騎士団や聖騎士の立場からすれば事情は少し違う。
行方を追うことはできる。
だが相手が何をするか分からない以上、具体的な対策は立てられない。
守る側は後手に回る。
こればかりは、どうしようもないことだ。
だからデゴットは、今回の調査をラシアに頼んだ。
何かあった時に備え、騎士団や聖騎士を王都から大きく動かすことはできない。ラシアならどちらにも属しておらず、ダンジョンやモンスターにも詳しい。冒険者なので足も軽い。
ティーガーやパルサーが強いとはいえ、騎士団や聖騎士にはさらに強い者も多い。
二人はラシアとも仲がいいので、調査中に何かあった時のサポート役として選ばれた。
「何を仕掛けてくるかは分からんけど……こっちは守るしかできんからなー。相手がどこにおるか分からんから、攻めようもないしな」
「後は、今さら行かないとも言えない。滅んだとはいえ、他国の最高クラスのダンジョンを調査するのだ。陛下の署名もある。国としても確かに遠いが……滅んだ原因はきちんと調べたいといったところだ」
そう言ってパルサーはアイテムバッグから署名入りの書状を取り出し、ラシアへ見せた。
書状にはラシア、パルサー、ティーガー、フウコウ、ノア、グオン、ラオメ、レクトアの八人の名前が記され、国王陛下の署名もあった。
「ほんまは姫様にも来てもらいたいんやけど……一国の姫には頼めんしな。ほんで回復役として、ラオメ様とレクトア様が一緒に行くって感じやな」
踏破ではなく調査だけなので、戦力的にはたぶん大丈夫だ。
ラシアとしても……滅んだ国も地星のダンジョンもとても気になる。
地星のダンジョンには、妖精の街があったりするからだ。
こちらはこちらで気になることは多い。行方不明の天使もそうだし、いまだ目覚めないリュートリア達のことも気になる。
だけど……気にしすぎて動けなくなってしまえば、それはそれで問題だ。
何かが起こる時は、近くのダンジョンに潜っていても起こるだろう。
それにラシアがいる都市はルインエルデで、王都ではない。王都で何かがあっても、確実にすぐ動けるわけではないのだ。
「こればっかりは仕方ないですね。調査へ行きましょうか……」
「騎士団にも聖騎士にも、ウチやパルサーより強い奴はおるし、たぶん大丈夫やろ。気にしすぎても動けんし、こっちのことはこっちに任せなしゃーないな」
ラシアがその通りだなーと思っていると、朝市へ行っていたリレッサとティアとフウコウが帰ってきた。
「ラシア達は今からダンジョンですか? 無理はせず、気を付けてください」
「はい。姫様も大丈夫だとは思いますが……こちらのことはお任せしました」
「おみゃー達は今からダンジョンか? ワッチは今日はお休みだから、姫様とティアと料理を作るにゃ。お土産、期待しとくにゃ!」
その場にいた調査へ行く者達全員が……フウコウの顔を見る。
「お前は何を寝言言うとんねん! さっさと用意して行くで!」
「おみゃーは何を言ってるにゃ! というか、どこに行くにゃ?」
「地星って言うとるやろがい!」
「それ超級ダンジョンにゃ! 行くわけないにゃ! 寝言は寝てから言うにゃ!」
何か食い違いがあるようだったので、ラシアが詳しく尋ねた。
全員、誰かがフウコウに伝えただろうと思い込み、結局誰も伝えていなかったらしい。
そもそもデゴットが、勝手に調査メンバーへ入れていた。
(ティーガーが確認しただろう。ヨシ!)
(パルサーが言うたやろな。宿も一緒やし、ラシも言うやろな。ヨシやな!)
(国のことだし、パルサーさんかティーガーさんが伝えただろう。ヨシ!)
パルサー、ティーガー、ラシアの三人とも、こんな感じだったのだろう。
ラシアはその場に膝をつくフウコウを見ながら、そう思った。
「にゃ……にゃんで、こんなことに……」
「ただ、行かないという選択肢はないぞ」
そう言ってパルサーが先ほどの書状を取り出すと、誰がどう見てもフウコウの名前が書かれていた。
「ふっ……不幸にゃ」
落ち込むフウコウの背後に、ヘルメットをかぶって指差し確認をしている猫が見えた気がした。
戦力的にもフウコウには来てもらわないと厳しい。
何とか急いで準備してもらい、フウコウの雇い主であるガロニアやクランメンバーに事情を説明すると、爆笑されたり呆れられたりと大変だった。
そしてようやく準備が終わり、皆に行ってきますと伝えてから、ラシア達は一度王都へ向かった。
そこでラオメとレクトアに合流し、挨拶を交わしてからポータルで移動する。
まずは国境近くにある、鉱山ダンジョンとつながった鉱山都市の冒険者ギルドへ出た。
ここには温泉もあるので一度は来たいのだが……ラシアが入れる温泉はないので、来たいのに来られない場所だ。
そこでも行方不明になった時に備え、冒険者ギルドで簡単な手続きをしてから、再びポータルへ並ぶ。
王都やルインエルデに比べると本当に人が少なく、すぐに移動できた。
次につながる街からは他国となる。
だがポータルを通って移動しているので、あまり他国へ来たという実感がない。
初めて見た他国の冒険者への第一印象は、怖いの一言だった。
何というか……目つきというか、雰囲気というか、気配というか……。
そんな冒険者達も、パルサーやティーガーが騎士や聖騎士だということは分かるようだ。
遠巻きに見てはいるが、喧嘩を売ってくるようなことはなかった。
「ラシ。どないしたん?」
「いやー……王都やルインエルデのあるこの国って、立派だったんですね。大公とか頭がおかしいので、変な国かと思ってましたよ」
「ラシも慣れたなー。おかんとかデゴット様とか貴族とか、だいぶ頑張ったみたいやしな。この辺の冒険者は、みんなこんな感じや。強かったら何をしてもええと思ってる奴らやな」
「こういう方々って、王都とかに流れてこないんですか?」
「たまに来るけど、好き勝手させへんのがウチら聖騎士や騎士団やからなー」
「ワッチも、だいぶ若い頃に流れてきた口にゃ。王都に来て、法があることにびっくりしたにゃ」
「色々とあるんですね」
この世界に来て最初にたどり着いた街がルインエルデでよかったなーと、幸せをかみ締めながら、ラシアはポータルへ入っていった。