「何かあれだな。騎士団も聖騎士も、もっといい物を食ってるのかと思ったらそうでもないんだな」
特訓に参加しているダードは、仲良くなった騎士団や聖騎士の新兵達と一緒に食事を取りながら、そんな感想を口にした。
拳ほどの大きさのパンと豆を煮たシチュー、サラダにソーセージが一本といった献立だ。
昼食を取らない平民も多いことを考えれば豪華な方だが、冒険者として活動しているダードからすれば少し質素な印象だった。
「あんまりいい物を食うと、色んな所から文句を言われるって聞いたことがあるな。俺は平民出だから豪華だと思うけど。冒険者はいい物を食ってるイメージがあるな。お前は?」
「ん? ウチは子爵家で、俺は四男坊だからなー。飯には困らなかったが……味付けはここの方がうまいな」
色々あるんだなーというのが、ダードの反応だ。
本日の訓練は、誰かさんのせいで消失した演習場の修復から始まった。
新兵達が土を運んで修理し、実質的には一から作り直した。
「新兵でも魔物を狩ったり、冒険者と喧嘩したりすると思ってたけど違うんだな」
「新兵ぐらいだと、冒険者と強さもあまり変わらないから危ないんだよ」
「ダードはラシア様のところのクランにいるんだろ? 最近はどんな所へ行ったんだ?」
「どんな所……水の中へ行ったり、空の上の城へ行ったりだな」
「そんな所があるのか! 詳しく!」
さすがに行き方までは教えられないが、こんな場所で、こういうモンスターがいたといった話をしていると、近くで飯を食べていた者達がどんどん集まってくる。
ダードを中心に、大きな人だかりが出来上がった。
「それでパルサー様達、この前そのことを話してたのか。てか、そんな所について行って、お前よく生きてたな」
「完全に実力不足だったな。盾ごと斬られて腕も落ちたし。何とかくっついて今があるわけだけど、今のままじゃ全然ついて行けない」
「それで新兵の訓練に参加してるんだしな。あの禿げたおっさんと美人魔法使いはXランクか?」
「お前、しばかれるぞ。グオンさんはXになったばかりだな。ノアさんは確か、まだSだったはずだ」
「ってことは……ラシア様はZか? ……まぁ普通に考えたらそうか。アトラス様達を瞬殺して、それ以下はないか」
「まだXだったはずだぞ。というか本人がランクに全然興味ない。少し前までSだったし、超級ダンジョンへ行きたいから嫌々上げたって言ってたからな」
「……マジかよ。冒険者って、ランクを上げたい者ばかりだと思ってたけど、そうじゃないのか」
「ウチのクランマスターは変わり者だからなー」
ダードは自分で言って、自分で納得する。
スキルやモンスター、アイテムのことは、聞けば丁寧に教えてくれる。その上、知識量も凄まじい。
モンスターなら、どこに何がいて、どんなアイテムを落とすのかまで知っている。行方不明になった侯爵令嬢も、その知識のおかげで助かったと聞いた。
だが顔見知り以外とは、ほとんど話さない。
最近になってようやく、道具屋にいるセレットの弟子と話している姿を見たぐらいだ。
そもそも気配の消し方というか、他人との間合いの取り方がうまい。
話しかけようとした瞬間に間合いを外され、そのまま逃げられた者を宿ではよく見かける。
その代わり顔見知りや友人とはよく話す。
自分達は遭難組なので前からよく話しているが、最近では猫怪人のフウコウともよく話している。
話せば面白いこともよく言うのだから、もっと他の人とも話せばいいのにとダードは思うのだが……。
そんなことを考えていると、他の新兵達から羨ましがられた。
「しかしダードはいいよな。あんな美人で、アホほど強い人のクランに入ってるんだろ? 俺はLLLに入れるなら騎士団を辞めてもいい」
「俺も俺も」
「俺もー」
言いたいことはよく分かる。
ダードから見てもラシアは超絶美人だし……何かエロい。
知り合いの冒険者からもLLLに入りたいという話はよく聞くが、ラシアの都合でメンバーの募集はしていない。
遭難して命の危険もあったが、LLLに入れたことについては幸運だったなーと思う。
「美人かどうかは置いといて、騎士団にはパルサー、聖騎士にはティーガーさんがいるだろ」
「お前は論外って言葉を知った方がいい。パルサー様に至っては騎士団の狂犬だし、ティーガー様は話しやすいけど何か怖いからなー」
「どっちかって言われたら、ロリ巨乳のティーガー様に軍配は上がるけどな」
「確かに……パルサーは怖いな」
「というわけで……ラシア様とお付き合いしたいから、俺もLLLに入れてくれるよう頼んでくれ」
「絶対に嫌だ」
「そんな冷たいこと言うなよー。一緒に吹き飛ばされた仲だろ!」
「それを言うなら、俺も一緒に吹き飛ばされたから入れてほしい!」
「俺も俺も!」
「飯の時に群がってくるな! 鬱陶しい!」
そんな感じでダード達が新兵達と仲良くやっている頃、ラシア達はいくつかのポータルを抜け、次の街へ向かって歩いていた。
「全部が全部、つながっているわけでもないんですね」
「場所にもよるが、こういうポータルの切れ目みたいな所はあるな。全部つながっていれば楽なんだが……まぁ仕方がない」
王都を出てから、ラシアは色々な街を見た。
冒険者ギルドの中にポータルがある街。神殿のような場所にポータルがある街。
中には街としての機能を失い、朽ちた屋根の下にポータルだけが置かれている場所もあった。
王都から離れれば離れるほど、必ず荒れていくというわけではない。
だが噂で聞いていたように、国を維持できていない場所は本当にあるのだとラシアは実感した。
そしてようやく次の都市が見えてくると、そこはルインエルデ並みに栄えていた。
朽ちかけた街がある一方で、ここまで栄えた都市もある。都市ごとの格差が本当に大きいことが印象的だった。
「今日はここで一泊やな。この街のポータルで飛んだ先からは、歩きって聞いた。滅んだ都市のポータルはもう使えんって話やから、壊れたんやろか?」
物である以上、壊れることはあると思う。
ただ壊れたポータルとは、どんな状態なのかなーとラシアは気になった。
そして宿を借りに行くと、部屋も空いていた。
男性はグオンだけなので、グオンは一人部屋になる。
残る者達は、誰がラシアと同じ部屋になるかで盛大に揉めた。
主にノアとパルサーが。
ラオメとレクトアが同じ部屋になり、揉めていたノアとパルサーも同室になった。
そしてラシア、ティーガー、フウコウの三人が同じ部屋になった。
まぁ色々とハプニングもあったが……無事に朝を迎え、最後に使えるポータルへ飛んだ。
ここからは三日ほど歩いて、滅んだ都市を目指す。
道中はもちろん野宿だ。
そして進んでいくと、気になることも出てきた。
襲ってくるモンスターが、王都やルインエルデ周辺と比べて圧倒的に強い。
苦戦するようなモンスターではないが、王都やルインエルデの近くでよく見るのはクレイウルフだ。
ラシアも、この世界へ来て初めて襲われたモンスターである。
だがこの辺で襲ってくるのは、そこから二段階進化したグレイウルフだ。
森に近い場所では、マウスマンナイトなども襲ってくる。
このレベルになるとダード達では負けるし、フォルグ達でも苦戦するかもしれない。
「この辺のモンスターがこんな感じだと、物流終わってません? 護衛も相当強くないと無理ですよね?」
「外にいるモンスターは、人を倒したからといってすぐに進化するわけではないが……人が定期的に巡回して間引かないと、いつの間にかこんな感じで強くなっている」
「都市が滅んで、こうなったんでしょうかね?」
「そうかもしれんが、元からかもしれんな。王都やルインエルデでは、モンスターの怖さを知っているから、定期的に依頼を出して間引いている。だが他の国は、そういったことをしていないとも聞く。だからこんな状態になっているのだろう」
「あー。グオンさんが、外のモンスターを狩る依頼をよく受けてる奴ですね」
「ええ。放っておくと、いつの間にか増えて強くなるんでね。場所にもよりますが、腕が立つ冒険者なら護衛だけで生計を立てられるほど儲かるっていいますからね」
そして最後に使えるポータルを出てから三日ほどかかり、ようやく滅んだ都市が見えてきた。
橋を渡って中へ入ると、想像以上に大きな都市だった。
こんな都市が滅ぶのかと、ラシアは驚いた。
何がいるか分からないので、全員まとまって行動する。
死臭などは全くしない。
だが本当に人はいないようで、ウサギのような小動物が街の中へ入り込んでいた。
街そのものが死んでいる。
「全く人の気配がしないな……」
「私の方も探索魔法を使っていますが……妙な気配はあるものの、人の気配はしませんね」
ラオメとレクトアは、この街に来たことがあるようだ。
城のあった方向へ向かいながら辺りを調べるが……本当に誰もいないようだった。
「村や町が廃墟になると、夜盗とかが住み始めるにゃけど……そんな気配も全くしないにゃー。探せば使えそうな物は絶対にあるはずにゃ」
「ただ足跡なんかは全部、街の外へ向かってるから……やっぱり避難した感じやとは思うねんけど、マジで人がおらんな?」
モンスターに街が襲撃されたのなら、戦闘の跡が残っているはずだ。
だが、そのような痕跡も見当たらない。
変わったところといえば……城へ近づくにつれて、草花が増え始めたことぐらいだ。
植物系のモンスターに襲われた?
そう考えていると、ラシアに声が聞こえた。
「来るぞ、相棒! 気を抜くなよ!」(幻聴)
え?
ラシアが城の方向を見ると、小さな光の塊が飛んでくる。
その直後、子供のような声が届いた。
「あー、人間が来た! と思ったら、ラシア・ラ・シーラだ! やっほー、元気だったー? 私達は元気だよ!」
「フェ、フェアリー」
全員の視線が、小さな体に羽を生やした一人の妖精へ集まる。
その中で……ラシアの顔だけが青ざめていった。