ラシアの予想は、大体当たっていた。
地星のダンジョンに入ってすぐ右へ向かって歩けば、モンスターと戦うこともなく妖精の街へ行ける。
冒険者か商人あたりがゲームのイベントと同じように「妖精って珍しいな。捕まえて売ったら金になるんじゃね?」と思ったのだろう。
この世界には、妖精の力を抑えるアイテムなどないはずだ。
無抵抗で捕まるなんてあり得ない。
だから妖精達は弱い振りをした。
妖精達は賢い。
定期的にどこからか人がやってくることから、この世界はおかしいとすぐに気付いたはずだ。
自分達がいたダンジョンの外にも、世界があると……。
だから捕まる振りをして、ダンジョンの外へ出たのだ。
ラシアがそのことをフェリスロステへ伝えると、笑いながら正解だと言った。
「さすがは……我らが友。ラシア・ラ・シーラですね」
ラシアの推測はほぼ正解だったようで、フェリスロステが補足するように続きを話し始めた。
いつ頃からかは分からないが……妖精の街に、それまで訪れていた者達とは毛色の違う人間が来るようになった。
以前、ラシアを仲介役にして和解しようとした人間達とは違い、妖精を初めて見たと驚いていた。
何度か訪れるうちに、その人間達とは奇妙な縁ができた。
情報を交換し、簡単な物だけではあったが……交易を始めることになった。
そして妖精達の話を聞いたこの国の貴族達が……妖精を飼ってみたいと言い出し、一人の冒険者が言葉巧みに一匹の妖精を連れ出した。
そこが滅びの始まりだな、とラシアは思った。
ゲームの設定にも書かれていたが……全ての妖精はつながっている。
個体ごとの性格のようなものはあるが、この街で最初に出会った妖精がラシア達を見た時点で、その情報は全ての妖精へ共有されているのだ。
だから……一匹でも外へ出れば、そこで見た物を全ての妖精が知ることになる。
そして他の妖精達も、荷物に紛れたり攫われた振りをしたりして後に続いた。
「元は滅ぼすつもりもなく、外の世界を知り、人の生活圏と関わらないように森にでも妖精の国を作るつもりでした。ですが……あまりにも横暴で、私達妖精に喧嘩を売っているようでしたので、王族やそれに関わる者達は滅ぼさせていただきました」
曰く「ペットになれ」。
曰く「その力を我が国のために使え」。
あまつさえ妖精の力を使い、他国へ侵略しようとまで考えていたのだ。
だからフェリスロステは、この者達はいらないと判断した。
この者達の存在は、自分達に害はあっても利益にはならない。
いくら妖精達が強くても、それより強い者は探せばいくらでもいる。
それはプレイヤーやラシアのことだ。
そんな者達がどこにいるのか分からない状況で、無関係な人間まで襲うのは愚の骨頂。
だから害になりそうな王族や貴族だけを排除し、街の人々は全て追い出したのだ。
「断った時に何人かの仲間を殺されたので、こちらもやり返したという感じにはなります」
ラシアは心の中で、よく言うなーとは思うが声には出さない。
揉める必要はないからだ。
「そして人がいなくなったので、この場所にある私達の故郷へつながる道を利用して、この世界のこの場所に私達の国を作ろうと思います。ラシアは賛成してくれますか?」
その質問にラシアはすぐに答える。
「ええ。私も殴られたら殴り返しますから、フェリスロステの言いたいことは分かりますし、賛成もできます。ただ、こちらも国の依頼で来ているので、どの情報をどう持ち帰って伝えるか、仲間達と相談させてほしい」
「ええ。問題ありませんよ。貴方達もここに来たばかりで疲れているでしょう。街の方には、まだ人間が使っていた宿などもあります。今日はそこでゆっくりと休むといいでしょう」
「では最後に一つ。妖精のことは、どこまで仲間達に話しても大丈夫ですか?」
ラシアの質問に、フェリスロステは顎に手を当て、少し考えてから答えた。
貴女とは揉めることはないので、全てを話しても大丈夫だと答えた。
「そうですか。ありがとうございます」
「では、こちらからも一つ。ローウェンテニアから出てきた者は、貴女だけですか?」
迂闊に情報を与えたくはないが……嘘をつくのはまずいとラシアは思った。
だから正直に答える。
「部下が一人と、リレッサ・ロード・ローウェンテニア様がいますね」
「なるほど……ローウェンテニアの神童ですか……分かりました。ありがとうございます」
そこで一旦話は終わり、ラシア達は人のいなくなった街へ戻った。
そして誰もいない宿へ入り、そこで休ませてもらうことにした。
部屋へ入ると、ラシアは一度大きく深呼吸をした。
そこから皆で話し合いだ。
「あかんな! ウチとパルサーのセットでも、ちっこい妖精に勝たれへんな」
「悔しいが……そうだな」
ティーガーが場を和ませるように言ってくれるが……本当に仕方がない。
超級に出てくるモンスターなのだから……。
ラシアがそう思っていると、ラオメとレクトアも自分達では厳しいと言っていた。
もちろんフウコウやノア達も同じだ。
一匹ならラオメとレクトアの二人で倒せるので問題はないが……妖精はそこら中にいる。
皆にも思うところはあるだろうが……まずは妖精がどういう存在なのかを話してから、ラシアは意見をもらおうと考えた。
基本的に、妖精は全てつながっている。
個体ごとの特徴はあるが……女王を中心に、一つの個体と考えた方が早い。
簡単に言えば、全ての妖精が女王のスペアであり、全ての妖精が女王でもあるということだ。
ゲームの設定に書かれていた話にはなるが……女王が倒されても、他の妖精が記憶などを引き継いで次の女王になる。
これが妖精の正体だ。
ゲームではフェリスロステはNPCだったが……姿は人では無いのだ。だから深緑のダンジョンにいた司祭とは少し毛色が違うとラシアは思う。
仮にNPCと同じだったとして、試しにぶっ殺させてくれませんか? とお願いはできなし……その個体が消えただけで他の妖精に記憶が移るはずだ。
モンスターとして出てくる妖精と、街に出てくる妖精に違いはないからだ。
ただし、地星のダンジョンの妖精には一つだけ異なる存在がいる。
ボスモンスターである妖精王ヴェユリテスアだ。
こいつはフェリスロステが大昔、自身の狂気を体から引き離した時に生まれたモンスターという設定になっている。
モンスターとして出てくる妖精も、こいつの瘴気に当てられて凶暴化しているという話だ。
だがフェリスロステには狂気はなくても、怒りという感情はある。
だから怒りを買ったこの街の王や貴族が消えたのだ。
「なるほどなー。ほんで女王陛下がラシを友達って言うたのは?」
「はい。この街と似たようなことが起こり、妖精の力を悪用しようとした人がいたので、妖精達に力を貸したことがあるんです。その時のことを言っているのでしょう。後は、この世界でいう地星のダンジョンによく行っていたからでしょうね」
「なるほど」
これは本当に嘘ではない。
ラシアが一番よく行っていた超級ダンジョンが、地星なのだ。
その頃の記憶が残っているなら、狩りへ向かう前に妖精の街にも立ち寄っていたため、そのことも覚えているのだろうというのがラシアの考えだ。
そして静かに聞いていたラオメが、ラシアへ質問する。
「この際、知人や友人という話は置いておく。ラシア殿が妖精達と戦闘になったら勝てるのか? それが聞きたい」
ラシアは先ほど説明した妖精王の話へ少し戻る。
ヴェユリテスアとフェリスロステは、元が同じなので強さも同じなのだ。
超級ダンジョンのボスモンスター。
これだけは、本当に伊達ではない。
倒せないプレイヤーもたくさんいる。
レベルで考えても100を超えており、天城ダンジョンにいた主神ゼレストニアなどよりも遥かに強い。
それが超級ダンジョンのボスモンスターだ。
ラシアはゆっくりと答えた。
「倒すだけなら……倒せます。だけど、滅ぼすのは無理ですね」
その言葉で、ティーガーとレクトアは理解してくれたようだ。
二人とも大きくため息をついた。
「にゅうん? どういうことにゃ? ティーガー、分からないなら分からないって言った方がいいにゃ。後で大変にゃー」
ティーガーは何も言わずにフウコウへ近づき、その頭にアイアンクローを食らわせた。
「じょっ、冗談にゃ! 痛い痛いにゃ!」
フウコウも、たぶん場を和ませるために冗談を言ったのだろう。
ラシアはティーガーを止め、妖精達がここに国を作るなら賛成だと答えた理由を説明し始めた。
先ほど言ったように、全ての妖精が女王であり、女王もまた全ての妖精だ。
ゲームの設定がこの世界にも反映されていることは、すでに確認している。
だからラシアが女王を倒しても、すぐに他の妖精が次の女王になる。
一匹でも逃したらアウトだ。
騎士団や聖騎士の力を借りれば、こちらの世界にいる妖精を一匹残らず駆逐することは可能かもしれない。
だが……確実に全ての妖精がダンジョンから出てきたわけではないはずだ。
そうなると、こちらの世界にいる妖精を倒しても、ダンジョンの中にいる妖精へ記憶が引き継がれ、女王は蘇ることになる。
簡単に言えば、天使達が行ったゾンビアタックを、今度は妖精達がこの世界で仕掛けてくるということだ。
だから……どうやっても今は倒せないということになる。
そのためラシアは、フェリスロステがここに国を作ると言ったことに賛成したのだ。
近くに住んでいる人達と揉めるかもしれない。
仲良くなるかもしれない……だけど。
ラシアが住んでいる場所からすれば、遠く離れた国の話なのだ。
それにラシアは、いつか元の世界へ帰るつもりだ。
その時のためにも、戦争の火種になるようなことは避けるのが無難だ。
この街に住んでいた人達には悪いが、諦めてもらうしかない。
自分の手が届く範囲でしか、ラシアも助けることはできないからだ。
妖精の話を聞き、皆が考え込んでいる。
きっと、いつものように答えのない問題だからだ。
そしてしばらくはここに滞在するため、街に食料などが残っているか調べようと、ラシア達は宿を出た。