ロマン職は異世界から帰りたい   作:庶民ザウルス三世

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第168話 地星のダンジョン

 ポータルを抜けると、ラシア達は少し高い崖の上のような場所に出る。

 

 その足元はくぼんでおり、ジャングルと言っていいほど凄まじく深い森が広がっている。

 

 地星のダンジョン。

 

 大地に星が落ち、そこから時間をかけて木々が生えていったダンジョンだ。

 

 プレイヤー達は、コ○ニーでも落とされたんだろうとかよく言っていた場所だ。

 

 他の超級ダンジョンは十五階層、長いところでも二十階層なのだが、この地星のダンジョンは一階層のみ。

 

 その代わり凄まじく広く、オープンワールドのような造りになっている。

 

 中にいるモンスターも凶悪で、端までたどり着いたプレイヤーはいないほどだ。

 

「ワッチは初めて来たんにゃけど……こんな森の中でどうやってボス探すにゃ? どこかに鎮座してるにゃ?」

 

「私とレクトアも来たことはあるが……すぐに撤退したな。モンスターのレベルが高すぎる」

 

「ラオメ様とレクトア様でそうやったら、ウチらいけるんか?」

 

 ヴェユリテスアのいる場所は大体分かっているのだが……直線で進めば確実に死ぬ。

 

 ラシアが死ぬなどと言えば指揮に影響が出るので、そこは言わずに説明する。

 

 今いる場所が南エリアだ。

 

 ヴェユリテスアは北エリアにいて、各エリアには何なのかよく分からない巨大な人工物が地面に突き刺さっている。

 

「ここからなら、東の方角に何か大きな物が刺さっているのがギリギリ見えるでしょう? あんな感じで地面に刺さっている物を目印に進むんですよ。今回は西ルートを通って北へ行きます。西ルートには襲ってこないモンスターがいるので、少し安全なんです」

 

「そ、そうなんだ。色々あるんだね」

 

 このまま崖を下りて先へ進みたいところだが、その前に一番重要なことを確認しておかなければならない。

 

 今いる場所から、崖沿いに東へ移動する。

 

 すると……少し霧がかかり、その先に妖精達が住む街が現れるのだ。

 

 霧が晴れると景色が切り替わり、花と緑に包まれた超絶ファンタジーな街へたどり着く。

 

 ゲームでも休憩する時によく来ていた場所なので、ラシアも懐かしさを覚える。

 

 ラシアがよく休憩場所にしていた巨木もあり、そこには椅子なども置かれていた。

 

 皆がその景色に感動していると、妖精達が大量に飛んできた。

 

「あー! ラシアだ!」

 

「久しぶりー」

 

「外の皆が言ってた通りだー」

 

「皆さんもお元気そうで」

 

 ラシアは笑いながら答え……心の中では盛大にため息をつき、軽く絶望する。

 

 やはりフェリスロステは馬鹿ではなかったということだ。

 

 妖精達を全員連れ出して外の世界へ行ったことを期待していたが……。

 

「皆さんは外には行かないんですか?」

 

「私達はお留守番ぐみー」

 

「お外こわいー」

 

「でもパンケーキは食べたーい」

 

 ラシアからすれば、あんた達の方が怖いよって話だ。

 

 ……この確認だけがしたかったのだ。

 

 これでフェリスロステを完全に倒すことは、現状不可能だと確定した。

 

 外にいる全ての妖精を倒したとしても、この街にいる妖精の誰かが次のフェリスロステになるだろう。

 

 しかも外の妖精達とは、確実につながっている。

 

 ここにいる妖精達も、外で作ったパンケーキのことまで知っていた。

 

 そのことを理解したティーガーは「無理やな!」と言った後に大きく笑い、レクトアなどは顔を青ざめさせていた。

 

 こればかりはどうしようもない。

 

 後は国へ帰って報告し、お偉いさんに決めてもらおうという話だ。

 

 そして超級ダンジョンへ向かおうとしたのだが……全員がこの街を気にして仕方がないようだったので、少し見て回ることになった。

 

「さっきから気になっててんけど、なんであの木の下に人間用の椅子置いてあるんや?」

 

 ティーガーが近くの妖精へ尋ねる。

 

 ラシアもそれは気になっていた。

 

 あの辺りはゲーム時代にラシアがよくいた場所なので、椅子などがあれば覚えているはずなのだが……。

 

「あれはラシアよー。ここに来るといっつも立って難しい顔して、誰とも喋らずあの辺で森の方向見てたからー。椅子置いといたー」

 

「……ありがとうございます」

 

「ラシは妖精相手でも変わらんなー」

 

 ラシアは居心地が悪くなり、そそくさとその場を離れて辺りを見て回る。

 

 街は妖精のサイズに合わせて色々と作られているので、見て回るだけならそれほど時間はかからない。

 

 そしてもう一つ、気になっていることがある。

 

 この街にも城があり、本来ならそこにフェリスロステがいる。

 

 それだけは確認しておきたかったので、城へ向かう。

 

 近くにいた妖精へ頼んで外にいるフェリスロステから入城の許可をもらい、中へ入った。

 

 するとやはりロディーの時と同じで、本来いるべきNPCはそこにおらず、王のいない玉座だけが残されていた。

 

 こればかりは仕方がないとラシアは色々と諦め、城の外へ出る。

 

 その後、回復薬や消耗品などを購入して仲間達と合流し、地星のダンジョン踏破へ向かった。

 

 上から見るよりも、地星のダンジョンは深く険しい。

 

 木はそこまで大きくないが、草花や菌類などは巨大で、辺り一面を覆うように生い茂っている。

 

 触ったからといって何かが起きるようなギミックはゲームにはなかった。

 

 だが現実となった今、何があるかは分からない。

 

 変わった物や怪しい物には、できるだけ触れたくないのだ。

 

 そして冗談を言えるのも……ここまでだ。

 

 ガサガサと音がした後、モンスターが姿を現す。

 

 現れたモンスターは、カーツ首領。

 

 二足歩行の大きなブタがトレンチコートのような服を着て帽子を被り、口には葉巻をくわえている。

 

 そして手には巨大な斧を持っていた。

 

 軽口を叩く者はいない。

 

 レベルにして九十台。

 

 ラシアがいなければ……戦いにすらならない。

 

 ラシアはすぐに距離を詰め、プラティディオンハンマーを振り上げて力の限り叩きつける。

 

 が……さすがは超級ダンジョンに出てくるモンスター。

 

 ドラゴンすら一撃で倒すラシアの攻撃を、立派な斧で受け止めた。

 

 カーツ首領を殴った衝撃で地面はへこみ、落ち葉が舞い、ノアは尻餅をつく。

 

「まぁ……さすがは超級。一撃で倒せるとは思ってませんが、強いですね」

 

 ラシアの言葉をモンスターが理解したとは思わない。

 

 だがお前もな、と言わんばかりにカーツ首領はニカッと笑い、ラシアと同じように斧を振り上げて叩きつけた。

 

 ラシアがそれを受け止めると、今度はラシアを中心に地面がへこみ、凄まじい衝撃波が発生する。

 

「ハンマーコンタクト!」

 

 プラティディオンハンマーの攻撃力をスキルで増加させ、再び殴り合いが始まる。

 

 ……。

 

 最終的には勝ったが……モンスターのレベルが高くなるほど、ゲームとの違いがはっきり出てくる。

 

 弱ければゲームと同じように一撃で終わる。

 

 だが一撃で倒せない相手になると、現実の戦闘は一気に長引く。

 

 まだこの辺りなら大丈夫だが……この先は厳しい戦いになることが予想された。

 

 ラシアはレクトアに回復魔法をかけてもらい、さらに全員へ強化支援をかけてもらう。

 

「さー、ささっと帰るにゃ! ラシアがあんな手こずる相手がいるダンジョンとか、まともに行けるわけないにゃ!」

 

「まー……さっきは少しミスして、支援かけてもらう前でしたからね。今からはもう少し楽ですよ」

 

「ワッチとおみゃーの『楽』という言葉に、壮大な食い違いがあるにゃ!」

 

 フウコウの言葉に、ノアとグオンも盛大に頷く。

 

 だが騎士団、聖騎士組は踏破する気満々だ。

 

 妖精の街を見てから、明らかに気合いが入っている。

 

「帰るんやったら帰ってもええけど、ウチらは何があっても進むからな。ラシ頼みになるけどな」

 

「フウコウさん以外は帰っても大丈夫ですけど、何が何でもフウコウさんは連れていきますよ。踏破の難易度が明らかに変わるので」

 

「にゃんでワッチにゃ! ワッチより強い奴しかここにはいないにゃ!」

 

「その辺は夜になってからのお楽しみで……」

 

 仲間達には伝えてあったが、この地星のダンジョンにも昼夜がある。

 

 夜でもゲームなら十分明るいので進めるのだが、現実となると少し進み方に悩むところが出てくる。

 

 昼と夜ではモンスターの種類が少し変わり、昼間は襲ってこないモンスターも夜になると全て襲ってくる。

 

 休憩できるフィールドはいくつかあるが、夜は危険すぎて眠ることができない。

 

 寝るなら昼間に交代で休むのが一番安全なのだが……できれば明るいうちに進みたい。

 

 その辺りが少し難しいところだ。

 

「また細かいことは夕暮れになったら話しますので、フウコウさんは教えてもらった勝利の踊りを、戦闘が始まったら踊って皆に支援してもらえればと思います」

 

 耳と尻尾を下げ、元気なく「分かったにゃー」と返事をするので、本当に申し訳なくなってくる。

 

 ラシアが先頭を歩き、ラオメが後衛を守る。

 

 ティーガー、パルサー、グオンは隊列の中央だ。

 

 ラシアが戦っている間に別のモンスターが現れても、すぐに対応できるようにしている。

 

 そうして森の中を進み、様々なモンスターに苦戦しながらも倒していくうちに……太陽がゆっくりと沈み、月が姿を現し始めた。

 

 ここからが、このダンジョンの本番だ。

 

 遠くでは狼の鳴き声に似たモンスターの遠吠えが響き、ダンジョンが夜へと切り替わった。

 

 再び支援をかけ直し、ラシア達が気を引き締めている頃……。

 

 王都でも月の光に導かれるように、一つの動きがあった……。

 

 王都の街から少しだけ離れた医療所でのことだ。

 

 そこに寝ていたリュートリア達が、全員同じタイミングで起き上がり、月を見た。

 

 そしてリュートリアだけが、最後の夢を見た。

 

 小さい頃の自分を、遠くから見ている。

 

 その子供はどこかへ向かって走っていた。

 

 家へ向かっているのだな、とリュートリアは気付く。

 

 ああ、この夢は私が冒険者になろうと思った時の夢か。

 

 街に来ていた冒険者から話を聞き、自分も冒険者になりたいと思った。

 

 特別凄い話だったわけではない。

 

 こんなモンスターがいる。

 

 お城のようなダンジョンがある。

 

 今となっては、どこでも聞くような話だった。

 

 だけど子供の頃のリュートリアからすれば……とても凄い話だった。

 

 だから冒険者になろうと思い、父と母に伝えに行く途中だった。

 

「どうしてこのことを忘れていたんだろうな?」

 

 その問いに、誰も答えはしない。

 

 そして子供のリュートリアが扉を開ける。

 

「お父さん! お母さん! 私、冒険者になるの!」

 

 そういえば最近、実家に帰っていないな。

 

 リュートリアはそう思いながら、開いた扉の中を覗き込むが……そこには何もなかった。

 

 いや、いた。

 

 暗いだけで、何かはいた。

 

 黒よりも黒い、一匹の竜がいた。

 

 額には大きな目がある、一つ目の竜だ。

 

 その竜と、リュートリアは目が合ってしまった。

 

 夢が……大きくうねって、意識が消えていくのが分かった。

 

(ああ……ここで終わり……か。ノア。ごめんなさいね……)

 

 最後にラシアにも謝ろうとしたところで、リュートリアの意識は消えていった。

 

 そして……夢と連動するように立ち上がったリュートリア達は、体の穴という穴から黒い霧を吐き出した。

 

 その霧は空へと昇り、何かを形作っていく。

 

 全てを吐き出すと……床には人の皮だけが残った。

 

 そして吐き出された黒い靄は竜の姿を形作り……産声を上げた。

 

 竜の巣のボスモンスター、カオスドラゴン。

 

 それが王都に、この世界に生まれたのだ。

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