ロマン職は異世界から帰りたい   作:庶民ザウルス三世

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第17話 あかい髪の人

 

 ダンジョン都市ルインエルデで魔道具屋を営む家の一人娘で、Aランク冒険者でもあるノアは、顔なじみの宿屋へ向かっていた。

 

 子供の頃からその店主とは知り合いで、母とそのうち再婚するであろう間柄だからだ。

 

 その宿には妹のような娘もいる。自身をお姉ちゃんと慕ってくれて、とても賢くてよい子だ。

 

 宿屋のおじさんとおばさんが冒険者時代に生まれた子供との事だ。ただ冒険者を引退して宿を経営すると決め、最後に潜ったダンジョンでおばさんは亡くなったらしい。

 

 それから男手一つでティアを育て上げた凄い人だ。

 

 ノアが子供の頃この町に越してきた時も、よくしてもらったのを覚えている。ノアも父をダンジョンで亡くしているからだ。

 

 だから似たもの同士の母と気が合うのだろうと思う。

 

 普段なら喜んで母が宿に荷物を届けに行くのだが、つい最近あったダンジョンで発生した地震の調査と、苗木のダンジョンに突如として現れた灰の砂漠の調査を頼まれたので少し忙しくなり、代わりに自分が向かっている。

 

 ダンジョンが地震で一層から四層まで揺れる事はない。断層がないからだ。上級などのダンジョンに行けばモンスターがアースクエイクなどの魔法を使うので、範囲内なら揺れる。

 

 だからノア自身は見てはいないが、全員が同じ揺れを体験したというのは異常な事なのだ。

 

「まだ……全員が混乱したって方が信憑性あるかなー?……無理か」

 

 そしてもう一つは、地震と関係あるかは分からないが苗木のダンジョンのボス部屋に出現した灰の砂漠だ。

 

 もうボス部屋は元の草原に戻っているが、砂を冒険者達が持ち帰りギルドが解析しているものの原因は不明だ。

 

 錬金術師系列の職なら何かわかるかも知れないとの事で貴重品ではあったが、灰の砂は小分けにされ我が家にも届き、母が解析している。

 

 母が言うには、凄まじい魔力変換が起きて崩壊した物の欠片が砂の正体だそうだ。

 

 ただ、こんな現象は今まで見た事もないし、できる者がいるとは考えがつかないから、たぶん違うとの事だ。

 

 仮説は立てられるが、試す事ができないので結果が分からない。だからどうしようもないとの事だ。

 

「小規模の魔力変換で試せないの?」

 

「んー……魔力変換はできるけど。それをどうやって攻撃というか破壊の力に変えるのかわからないのよ。剣で切るとか魔法で燃やすとかは力だけど、それを変換して同じベクトルにはできないでしょ?」

 

「魔法剣とかあるからどうなんだろ?」

 

「あれは極端に言えば、切る力に炎を乗せてるだけだからね~」

 

 普段はのほほんとしている母だが、研究者の血が騒ぐのか、分からない事が楽しそうだった。

 

 それが自然にできたのか、誰かが引き起こしたのかと話題になっているが、偶然が重なって自然に起きた事という所に収まりそうだった。

 

 人ができる範囲は超えているだろうし、できるならそんな人は初級のダンジョンにはいない。そういうモンスターが偶然湧くという事もないだろう。

 

 なので原因不明。最近、観光名所になりつつある水晶の泉と同じだ。

 

 ダンジョン自体もどうして魔物が湧くのか正確には分かっていない。だから意外にも解明されていない事は多い。

 

 魔物の素材で武器や防具を作り最適化すると、形が似てくるのと同じ様なものだ。

 

 そんな事を考えていると目的の宿屋にたどりつく。最近、穴があいて改装したと聞いたので前よりかなり立派な宿になり、防犯、防音もしっかりしているそうだ。

 

 中に入るとおじさんとティアが出迎えてくれた。

 

「おう。ノアか、いらっしゃい」

 

「ノアお姉ちゃんいらっしゃい!」

 

 今日は少し暇そうだったので、おじさんは皿を洗いティアはテーブルの上で何かを書いていた。

 

 未来の妹であろうティアと話もしたいが仕事なので、ノアはおじさんと話をする。

 

「回復薬とか一通り持って来ましたよ。売れ行きはどうですか?」

 

「ここは初心者、初級者が多いから高い物は売れんが……それでも二割掛けで出してるが全然売れるぞ」

 

「お店だと安くしないと売れないのに……」

 

「そらお前あれよ。元冒険者が冒険者相手に回復の大事さを説明してるからな。売れるのは当たり前だ。ここから直接、ギルドに行くヤツも多いからな」

 

「ちょっと歩けば道具屋あるのに……歩けよ初心者」

 

「まー初心者とか初級でも冒険者やってたら金銭感覚鈍るわな」

 

「大事な事なのに……」

 

 文句を言いながらノアはアイテムバッグの中から回復薬や様々な物を取り出して並べていく。

 

 宿屋のおやじはそれを丁寧に確認してから裏へと持っていった。

 

 少し時間があるのでティアが何をやっているのか見にいくと、簡単な計算問題をやっていた。

 

 この国では識字率は低く、計算できる者は案外少ないので勉強しているティアを見て少し驚く。

 

「ティアちゃん。それどうしたの?」

 

「ラシアさんに計算教えてって頼んだら問題つくってくれたから今やってるの」

 

 ラシアという人は金に近い赤い髪でオレンジの瞳が綺麗な女性だ。前にティアと一緒に買い物に来て、異常状態を詳しく聞いていた人だ。

 

 それから数日後に借金してまで混乱無効化のアクセサリーを買った人が来たと母が言っていた。特徴が同じだったので同一人物だろう。

 

「ラシアさんに将来、宿屋やりたいからどうしたらいい?って聞いたら、お金の計算とかあるから数字の勉強した方がいいって言うから教えてもらってるの!ノアお姉ちゃんあってる?」

 

「どれどれ?」

 

 間違っている所もあるが、ティアでもわかるような簡単な問題がいくつも書かれていた。ノアも冒険者ではあるが店の手伝いもするので、計算問題は得意なほうだ。

 

 冒険者でも計算できない人は案外多いので、ギルド以外で素材などを売ったりするとごまかされる事が非常に多いのだ。

 

「これとこれとこれが間違ってるよ。この問題作ったラシアさんってどんな感じの人?前に来た人だよね?あの強そうな人」

 

「面白いし、いろんな事よく知ってるけど、ぜんぜん人と話さない人!」

 

 そういえばティアがお店に来た時も、人間が嫌いとかそんな事を言っていたような気がした。

 

「今日は部屋に籠もるって言ってたから、ティア以外の奴とは話してないんじゃないか?ウチの宿も色んな奴が泊まってるが……あれは相当な変わり者だな」

 

 奥から戻って来たおじさんも話が聞こえていたようで会話に混ざってくる。

 

「かなりやり手の冒険者だが……難しいもんだ」

 

「そういえば私が火炎系のウィザードって一発で当てましたね……かなりの数の冒険者を見ないと職って当たらないのに凄いですよね」

 

「装備である程度はわかるが……系統までってなると相当だな」

 

「こう、ギルドの受付嬢とかどこかの国に仕えてたんでしょうかね?それなら見る機会も多いですし」

 

 と、ノアが悩んでいると、

 

「あれを倒せる戦闘力で受付嬢はねーわな……」

 

 とおじさんが呟いた。

 

 その言葉を拾おうとしたタイミングで、宿のベルが鳴った。

 

 入って来たのは、この街で医者をしているおじさんの弟さんだった。最近、水晶病の治療方法を発見したという凄い人でもある。医者の時点で十分に凄いのだが。

 

 お互いに挨拶を返すと、今話題のラシアに用事があったようで、おじさんにいるかと尋ねていた。

 

「いるが……今日は部屋から出ないって言ってたから、たぶん出てこないぞ」

 

「あの人は……」

 

 と大きくため息をつく。

 

「今日はがんばってアイテムバッグの整理するって言ってたよ!」

 

 そんな話題の人のアイテムバッグの中はとても気になるが……冒険者の資産なので見せて欲しいと部屋に乗り込んで行くことはできない。

 

 そんな事を考えていると、ティアがポケットの中から何かを取り出し口に放り込んだ。

 

 甘い匂いが辺りに広がる。

 

「ん?ティアちゃん。今舐めてるのは飴?」

 

「うん。ラシアさんにもらった!」

 

「いいなー私もほしい」

 

 と冗談で言ったつもりだったが、子供には冗談がわからないのか、「いいよ」と言ったあと立ち上がり二階へと上がっていった。

 

 そして下の階にいる者たちに話し声が聞こえる。

 

「ラシアさんいますかー。ノアお姉ちゃんが飴ほしいって」

 

 ガチャン!

 

 ガラガラ……

 

「……あーびっくりした。なに?飴欲しいの?」

 

「うん。何か凄い音したけど……大丈夫?」

 

「……ちょっとベッドかけたぐらいだからだいじょばない。はいどうぞ」

 

「ありがとう。お父さんにいっとこうか?」

 

「流石に自分で謝るから大丈夫……」

 

「あとお医者のおじさん来てるよ!」

 

「今日は、いないって言っておいて」

 

「わかった!」

 

 降りてくるティアを見守りながら、全員がなんとも言えない表情をする。

 

「ノアお姉ちゃん。飴もらってきたよ!」

 

「あっありがとう……っ!これ美味しい!」

 

 美味しく飴を舐める横で、おじさん達二人はとても難しい顔をしていたが、二人とも色々と諦めたようで大きなため息をついた。

 

 弟さんの方も用事があるようなので、また来ますと言って帰って行った。

 

「さてと……ベッド潰したとか聞こえたが、まぁ降りてくるまでは待ってやるか」

 

「え?普段なら宿の物壊したら殴って追い出すのに!美人だから!?お母さんいるのに!」

 

「アホか!こっちにはこっちの都合があるんだよ!」

 

「そうだよ!ノアお姉ちゃん」

 

「なんで!味方がいないの!?なにかあったの!?」

 

 二人はこれ以上は言わないとばかりに、左右同じタイミングで首を振る。流石は親子である。

 

 ティアはともかく、気難しいおじさんが味方になっているのは少し面白いなとノアは思う。

 

(そういえば……初級冒険者って言ってたから、中級に上がる時に他の街まで行かないと駄目だから、時間が合えば私が先導役をしても良いかも)

 

 まだほとんど話した事のない人物がいる部屋を眺めながら、ノアはそう考えた。

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