ロマン職は異世界から帰りたい   作:庶民ザウルス三世

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第173話 帰ろう

 ラシアがヴェユリテスアと戦っていた頃……王都でもかなりの動きがあった。

 

 国王や第一王子といった者達は未だに行方不明のままだが、もう一度カオスドラゴンが出現した。

 

 ただし前回のように王都から少し離れた場所ではなく、貴族達が多く住む地区だ。

 

 どこでどう戦えば……戦いやすいか?

 

 カオスドラゴンなりに考えた結果だ。

 

 ドラゴンからすれば、人の巣になる。

 

 だが、こんな密集した場所で魔法など使えば建物は吹き飛び、怪我人が出る。

 

 いわば街中ではモンスターは全力で暴れられるが、人間は全力で戦えないという最悪のデメリットがある。

 

 戦争の多い国や、モンスターと頻繁に戦う都市なら市街戦の経験や防衛方法もあるだろう。

 

 だが、ここは王都。

 

 気の遠くなるような時間をかけて、人が住みやすくしてきた街だ。

 

 王都の周りにもモンスターはいる。

 

 だが……防衛が優秀だったが故に、街中でモンスターと戦う事態など起きなかったのだ。

 

 だから被害が拡大していく。

 

 カオスドラゴンもナイトメアを召喚すると、自身を守らせるのではなく散らばらせ、騎士団と聖騎士の兵力を分断させていた。

 

「あかんな! 被害ばっかり拡大してく! 回復係は!?」

 

「街の方に行っている!」

 

 ロディーやデゴットが騎士達に指示を出していると、多数の冒険者に守られた者が現れた。

 

「ここの支援は私が持ちましょう。街の方は戦える者を回した方が良いでしょう。天使達が動き出していますよ」

 

「へ?」

 

 聞き覚えのある声にロディーが振り向くと……そこには、かつて仕え、今も心では主と仰ぐローウェンテニアの王女がいた。

 

「ひっ、姫様!?」

 

「ロディー……ここでその呼び方は色々とややこしくなるので、リレッサで問題ありませんよ」

 

 そして「貴方達は騎士や聖騎士の支援に回りなさい」と、一緒に来ていた者達へ指示を出した。

 

 デゴットはリレッサがローウェンテニアの者だと知っているので話が早かった。

 

「ご支援痛み入る。それで? 天使がどうとか言っていたが?」

 

「ええ……」

 

 リレッサはデゴットに、ここへ来るまでの間に見てきたことを伝えた。

 

 ……。

 

 …………。

 

 ヴェユリテスアを倒してから二日後、ラシアはようやく目を覚ました。

 

 まだぼーっとする頭で部屋から出るとノアがいたので、ラシアは挨拶をする。

 

「ラシアさん、おはよう! もう起きて大丈夫?」

 

「はい。ご心配をおかけしました。どれぐらい寝てました?」

 

 そう尋ねると、二日ほど寝ていたとのことなのでラシアはとても驚く。

 

 フェリスロステにしてもコアラキングにしても……眠っている時なら余裕でラシアを倒せるはずだったのだが……。

 

 妖精にしてもモンスターにしても、少し考えを改める必要があるなと思いながら外へ出て顔を洗ってくる。

 

 戻ってくるとパンなどの簡単な朝食をノアが準備してくれていたので、それを食べながら世間話をする。

 

「私が寝ている間に何かありましたか? 危険があったとか」

 

「んー。ラシアさんが心配してるようなことはないかな。皆元気だし、女王様もコアラの王様もラシアさんを心配していたぐらいかな」

 

「コアラキング、まだいるんだ」

 

「今はティーガーさんとかパルサーさんと話してるねー。後は……見た方が早いのと、ちょっとだけ住人が増えてたぐらいかな」

 

 その辺を詳しく尋ねると、ラシア達がダンジョンに潜っている間に、奴隷商人のような者がこの都市が滅んで妖精の街になったことを知らずに来たらしい。

 

 そこで妖精達は、残った家畜の世話や農作業を任せるために奴隷を購入し、新たな住人として迎えたそうだ。

 

「行動が早い……大丈夫そうでした?」

 

「大丈夫じゃなかったから、ラオメ様とレクトア様が女王様に教えに行ってるー。なんか女王様って出会った人間が中級とか上級の冒険者ぐらいだから、戦えない人間のイメージがあんまりないらしくて」

 

 フェリスロステにとっては、弱いと言っても中級クラスの冒険者が人間の基準だったようだ。

 

 そのため全く戦えない者をどう扱えばいいのか、困惑しているらしい。

 

 簡単に言えば、こんなに弱い人間がいるのか? という感じだ。

 

「まー、超級に来れる人って冒険者ですからね」

 

「商人でも元が冒険者で、超級に入って妖精達を連れ出したとかそんなんだと思うから、あんなに弱いとは思わなかったんだって」

 

「なるほど。それで? 奴隷というか、新たな住人の人達からは苦情みたいなの出てないんですか?」

 

「それは見た方が早いかな?」

 

 ノアがそう言ったので、ラシアは二人で外へ出てフェリスロステの城がある跡地へと向かうが……明らかに様子が一変していた。

 

 なかったはずの城ができている。

 

 ただ人が石などを加工して作ったような城ではなく、巨大な木でできたような城だった。

 

「……あんなのなかったですよね?」

 

「女王様が魔法で作った……ラオメ様が、国としてやっていくなら人を迎える場所があった方が良いって言ったら、分かりましたとか言って作った」

 

「さすが……妖精の女王」

 

「その時に奴隷で買われた人達はまともにその力を見ちゃって、どうせ行く所もないから、この国で生きていくって諦めたのか決めたみたい」

 

 中にはその力に恐怖して街から逃亡した者もいるとのことだが……戦えない者がここを出てもどうなるのかは想像に難くない。

 

 ラシアは新しくできた城へ向かって歩いていく。

 

 街では妖精達も元気に飛んでおり、ラシアが起きたのを見かけると喜んで近付き、話してからすぐにどこかへ飛んでいく。

 

 ゲームが現実になっただけで、ここまでできるようになるのだなとラシアは思う。

 

 ヴェユリテスアを倒した時のことも覚えているが、ゲームならもちろんあんなことはできない。

 

 フェリスロステが城を作ることも、コアラキングがダンジョンから出ることもなかった。

 

 本当にゲーム時代の制約が外れている。

 

 今回の旅で、ラシアはそれを強く実感していた。

 

 そんなことを考えながら……ラシアは城の中へ入っていく。

 

 妖精達は飛んでいるので床など必要ないかと思ったが、訪れる人間のことも考えられている。

 

 床は元の世界のフローリング並みに綺麗な木で作られ、光の入らない場所には光るキノコが生えている。

 

 全体的にとても幻想的な城だった。

 

 ノアは入ったことがあるようで、玉座も作られているそうだ。

 

 そして城の中を歩いていると、一匹の妖精がラシア達の元へ飛んできた。

 

「ラシアー。体、大丈夫?」

 

「はい。大丈夫ですよ」

 

「おお。それは良かった。女王様が今はポータルのある部屋にいるから、用があるならそちらにってー」

 

 教えてくれたことに礼を言い、ラシアとノアは歩き始めるが……迷った。

 

「ノアさんが自信満々に歩くから、ついていったのに!」

 

「いや、だって私も妖精が案内してくれると思ったからね!?」

 

 同じ所をぐるぐるしていると、見かねた妖精が迎えに来てくれて、ようやく女王の元へたどり着くことができた。

 

 そこには仲間達もコアラキングも集まっており、ラシアはもう体は大丈夫だということを伝えた。

 

 そして皆に喜ばれてから話をすると、どうやら簡単な実験をするらしい。

 

 近くにいたグオンが教えてくれた。

 

「一度、外に出たモンスターは再度出入りできるかどうかの実験ってヤツですね。コアラの王様もその辺が気になるようで、試すようですぜ」

 

 なるほどと言いながらラシアが見守っていると、先にコアラキングがポータルへ入る。

 

 少し待ってからティーガーも入り、今度は二人一緒に出てきた。

 

「なるほどな。ダンジョンには戻れるが、一度出ようが何をしようが、人と出るというルールは変わらんか」

 

「貴方のような獣王が迂闊に外へ出れば大変なことになりますからね。このダンジョン自体が封印のような物なのでしょう。血塗られた契約書と言いましたか? あのような例外もありますが」

 

 フェリスロステが言うことが、一つの正解なんだろうなーとラシアは思う。

 

 外へ出てしまえば……世界そのものを変えてしまうような存在が大勢いる。

 

 だから世界とダンジョンは分けられているのかもしれない。

 

 良い悪いは置いておいて、フェリスロステが外へ出ただけで人の街が妖精の街へ変わった。

 

 超級ダンジョンの存在が外へ出れば、簡単に世界が変わる良い例だ。

 

「さてと……ラシアも目覚めたことだしな。我は帰るとしよう」

 

 帰るとは思っていたが……そんな遊びに来ていた人が帰るみたいにあっさり帰るのはどうなの? という感じで、皆の目が点になりコアラキングを見る。

 

「何もおかしなことはあるまい。家臣を置き去りにして他の世界で遊ぶ王が、どの世にいる」

 

「結構いると思いますが……助けてくれてありがとうございました」

 

 ラシアが丁寧に頭を下げると、コアラキングは大きく笑った。

 

「うむ。大いに恩に感じてくれれば結構。そして我が困った時は助けてくれれば、それで良し」

 

「困ることってあるんですかね?」

 

「さぁな! 困ったことがないので分からんな!」

 

 豪快なコアラだ。

 

 ラシアがそう思っていると、ティーガーが別れの挨拶をする。

 

「王様。世話になったで! 強くなったら挨拶に行くから、その時は相手してや」

 

「うむ。良かろう。若き虎よ。その時を楽しみに待っているぞ! では皆の者! また会おう!」

 

 そしてそのまま振り返りもせず、ポータルを抜けてコアラキングは帰っていった。

 

 その姿を見て、フェリスロステはため息をつく。

 

「はぁ……食料なら妖精が用意できるので、この世界にいれば良いものを……融通が利かないところは変わりませんね。それで、ラシアは体の方は大丈夫ですか?」

 

 何というか、フェリスロステの気配が少し柔らかくなったようにラシアは思えた。

 

 大丈夫だと伝え、寝ていた時のことなどを詳しく尋ねた。

 

 今は元に戻っているが……ラシアの攻撃によりダンジョンはほぼ消失し、砂漠化していたとのことだ。

 

「おみゃーは、いっつもダンジョンぶっ壊してるにゃ」

 

「失敬な。蟻の巣ぐらいですよ」

 

「ラシって、ちょいちょい嘘言うよな」

 

「後はモンスターを倒した時に出る物を、人はドロップアイテムというようですが、それもこちらで回収しておきました。ただ規模の割に少ないので、蒸発したか壊れたのでしょう」

 

 フェリスロステが魔法を唱えると、空間が少し割れた後にドサドサっと魔石やアイテムなどが結構出てきた。

 

 その中には今まで見たこともないような巨大な魔石もあり、それがヴェユリテスアの魔石だと分かった。

 

 他にも色々とあるが……天城ダンジョンへ行った時もそうだったように、苦労の割にはドロップアイテムがしょぼすぎる、というのがラシアの感想だ。

 

「これって私達が全部もらって大丈夫ですか?」

 

「ええ、構いませんよ。こちらでネコババした物はありません。それは貴方達に任せます」

 

 取られて困るようなドロップアイテムはないので、フェリスロステが嘘を言っていることもないだろうとラシアは思い、その全てを礼を言ってから受け取った。

 

 そしてこのポータルは地星のダンジョンにはつながるようにしておくが、他の街からの接続は切っておくとフェリスロステは言った。

 

「そういうのって切ったりつなげたりできるんですか?」

 

「はい。簡単ではありませんが、できますよ。いわば魔法を使わずに使用するゲートポータルなので、そこを分かっていればできます。それに便利ですが……これを通してモンスターがいる世界とつながっているということは忘れては駄目ですよ」

 

 本当にそうだなとラシアは思う。

 

 今回の旅で、ボスモンスターすら外へ出られることが分かった。

 

 王都でそんなものが出てくれば大惨事になるし、人が攻め込む場合でもポータルを抜ければ一気に首都まで来られる。

 

 便利な物ではあるが……危険性だけは絶対に忘れてはいけない。

 

 それからも様々な話し合いをした。

 

 ラオメとレクトアが責任を持って、新しく妖精の国ができたことを国へ伝える。

 

 そしてお互いに思うことはあっても、最初から暴力だけで解決しようとするのはやめよう。

 

 そんな小さな約束も決まった。

 

 もう一日だけ新たに生まれた妖精の都市で一泊し、次の日に王都へ帰還することも決まった。

 

 皆がフェリスロステに別れの挨拶を済ませたが、最後にフェリスロステが時間をもらい、ラシアと二人で話をすることになった。

 

 他の妖精もいない。

 

 とても静かな部屋での話だ。

 

 そしてフェリスロステが、ラシアへ質問を投げた。

 

「ラシアはどうして妖精を助けようと思ったのですか? 貴方ならヴェユリテスアの正体が私だと知っているでしょう? 私の本当の名はフェリスロステ・ヴェユリテスアなのですから」

 

 ラシアは考える。

 

 ゲームの中でのイベントのことを言っているのだが……本当に胸糞が悪いイベントだったからだ。

 

 確かに妖精は何を考えているか分からないこともあるし、怖い。

 

 だがラシアにとって、それはまだ「怖い」で済む話だった。

 

 人間は怖いだけではなく、醜い。

 

 本当に何を考えているのか分からない者もいる。元の世界でもそうだった。

 

 だから妖精と完全に理解し合えるとは思わない。

 

 それでも、お互いに干渉しすぎない距離なら保てると思う。

 

「……私からすれば人間の方が怖くて、妖精の方がマシだったので助けただけですよ。だからフェリスロステも国を作るというのなら……人への警戒は最大級に。人の欲望は底がないらしいので」

 

 フェリスロステは少し考えた後、静かに「分かりました」と呟いた。

 

「ラシアがそう言うのであれば、そうなのでしょう……最後に一つ。これからも良き友人としていてくれますか?」

 

「ええ。喜んで。友なので、フェリスロステが間違ったことをしたら殴って止めに行きますよ」

 

「ふふ……それは怖い。気を付けるようにしましょう」

 

 そしてラシアは最後に一つだけ質問を投げた。

 

 フェリスロステやコアラキングのように人の言葉を話し、外を知るモンスターのことだ。

 

 他にも知能の高いモンスターはいると思うが、その辺が不明なのだ。

 

「私が思っているのは、本能で生きるか理性で生きるかの違いです。地星のダンジョンには狼の王や豚の王もいますが……彼らは強く賢くても、本能で生きています。だから外のことまで考えられないのかもしれません。私達には群れや家臣がいて、何かあれば守らなければならない。その違いが出ているのだと思います」

 

「なるほど……」

 

「考えることさえできれば、ダンジョンという世界の歪さには気付きますからね。ですから言葉を話せるかどうかではなく、理性を持つモンスターなら、すでに外へ出ている者が他にもいると思っておいた方が良いでしょう。あの世界は歪ですから」

 

 そしてラシアが天使達も出ているかもしれないということを伝えると、フェリスロステは「まぁ、出ているでしょうね」という反応だった。

 

「フェリスロステ。ありがとうございました」

 

「それはこちらの台詞ですよ。また会いましょう」

 

 ラシアは仲間達の元へと向かった。

 

「色々ありすぎて疲れたー」

 

 ノアの呟きに、皆が力強く頷いた。

 

 そしてラシアも「本当ですねー」と言った後、たくさんの妖精達に見送られながら、王都へ向かって帰還した。




これでこの章は終わりで次回から新章入ります。
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