第174話 嘆きの街
王都に戻ったラシア達は、その凄惨な有様に言葉を失った。
立派だった城は半壊し、貴族達が住む地区ではまだ火がくすぶり、煙が上がっていた。
ラシア達がポータルを抜けて出た冒険者ギルドのある地区はまだマシだったが……それでも戦闘があったのだろう。所々に戦闘の跡が残っている。
あまりの惨状にティーガー、パルサー、ラオメ、レクトアは近くを歩いていた兵士を捕まえ、事情を聞いた。
「戦闘は終わったらしいけど、まだ何があるか分からん! ウチらは先に行くからラシもついてきてくれ!」
「わっ、分かりました」
ティーガーとパルサーは二人で虹竜に乗り、城のある方へ向かって飛んでいった。ラオメとレクトアもそれを追うように走った。
そしてラシア達も訳が分からないまま後を追った。
そこで目にした景色は焼け野原とまでは言わないが、あれほど美しかった王都とはとても思えないものだった。
「何があったのかな……」
「戦闘があったのは間違いないと思うのですが……」
「ワッチは一旦抜けるにゃ。ちょっと錬金ギルドの方を見てくるにゃー」
「モンスターの気配はしませんが……気をつけて」
「分かったにゃ。後でまた合流するにゃ!」
フウコウとはそこで一旦別れ、ラシアはグオンに頼み、灰竜で一度空へ上がって街を確認してもらった。
やはり空から一望すると被害の大きさが分かりやすく、今は住人達が総出で復旧作業に勤しんでいるようだった。
そしてようやく兵舎にたどり着くと、ラシアを知っていた兵士に奥へと案内された。
「兵士が私のことまで知っているとなると……騎士団や聖騎士に関わっている実感が湧きますね」
「いやー……ラシアさんは目立つから仕方ないかなー」
「そら姐さんはあれだけ暴れたら覚えられますぜ」
前を歩いて案内してくれる兵士まで頷いたのを見て、ラシアは変な声を上げそうになったところで、ようやく目的の場所へ到着した。
中には先に行ったティーガー達やデゴット、ロディーなどがおり、リレッサの姿もあった。
「ひっ、姫様!?」
「元上司と部下というだけあって、ロディーと反応が同じですね。ラシア、お帰りなさい」
「はい。ただいまですが……何があったんですか?」
皆が挨拶を交わした後、デゴット達は王都で何があったのかを語り始めた。
リュートリア達に寄生していたカオスドラゴンが外へ出たこと。
王都で戦いが始まったこと……かなりの犠牲が出たこと。
戦女神のシエルオーテス達が王都に隠れていたことなどだ。
話を聞くにつれ、全員の顔が青くなっていく。自分達が調査に行っている間にそんなことがあったのかと……。
「もう少し早く戻ってきていれば……」
「そこは気にするな。何かあった時に備え、ラシア達を行かせた後もかなりの戦力を残していた。責任があるとすれば、俺達騎士や聖騎士にある。まあ今はそれどころの話ではないからな」
「そっ、それで、リュートリア達は!?」
慌てて質問を投げるノアに、デゴットもロディーも首を横に振った。
「入院しとった冒険者は、たぶん全滅や。そこにカオスドラゴンが出現したからな……人の皮っぽいものは残ってたんやけど……それもほとんどが焼けててな」
「そっそうですか……」
ロディーの説明にノアは言葉を失ってしまった。
被害については、騎士団、聖騎士、冒険者の上位勢が即座に対応できたため、王都で戦闘が起きたとは思えないほど兵士の死者は少なかった。
リレッサが支援のためにルインエルデから来たことも本当に大きく、手足がなくなろうが腸が出ようが、その驚異的な回復魔法で即座に回復させた。死者は除く。
「でもよく、姫様……ではなく、リレッサは王都が襲撃されていると分かりましたね」
「宿の手伝いをしていると人付き合いもできますので、仲の良い方々に教えてもらいました」
「なるほど」
ティーガーとパルサーは『ほんまか?』とでも言いたげな顔をしている。そしてデゴットが話を続けようとしたところで、兵士達から怪しい獣人を捕まえたという連絡が入った。
「獣人……そういえば猫怪人はどっか行ったんけ?」
「あ……」
それで捕まった獣人がフウコウだと分かり、迎えに行くとやはりフウコウだったため、ラシアはそのまま連れて戻ってきた。
「いきなり捕まったにゃ……不幸にゃ……」
一言伝えておけばよかったと、ラシアはフウコウに謝った。それから話は続いた。
「にゃー。先に言っとくにゃ。錬金ギルドの方は特に被害はないにゃ」
「そうなのか? 建物とか壊れてなかったか?」
「大きな被害はなかったにゃ」
フウコウの返事にデゴットが頷いたところで、何故かリレッサが続けた。
「錬金ギルドの人達はルインエルデの方に移動していますからね。人的な被害もなかったのでしょう」
「そういうことにゃー。前にできた水晶の泉の近くに新しい研究所ができたから、ルインエルデを拠点にするらしいにゃ……てか、にゃんで姫様が知ってるにゃ?」
「……姫ですから」
目の前の姫様は優秀だが、他の姫様はそうでもないのだろう。皆がそう思う中、話は戻った。
まずは……カオスドラゴンの攻撃によって国王陛下と第一王子が亡くなった。当初は行方不明とされていたが、ようやく瓦礫の下から遺体の一部が見つかり、死亡が確認された。
他にも宰相や使用人など、様々な人が巻き込まれて亡くなったそうだ。
ただ、それだけで国が存続できなくなるわけではない。国王やその血筋に何かあった時に備え、大公や侯爵といった貴族達がいる。
「ただ、国王というのはその国の象徴でもあるからな。この場では話しているが……しばらくは陛下が亡くなったことの発表を控える。陛下の存在を支えにしている人達もいるからな」
「第一というくらいですから、第二とか第三の王子がいて、その方達が次の国王になるんですか?」
「そうなるかもしれんが……当分は復興が先だな」
そしてそこからが本当の問題だった。カオスドラゴンとの戦闘中、五人の戦女神達がどこからともなく出現した。
「どっ、どうなったんですか?」
「そいつらを隠していた教会の連中が隣の国の者達だったからな。新たに増えた数百人の信者を連れて街を出た……逃がしたと思われるかもしれないが、何もしていない相手に攻撃を仕掛けてしまえば、こちらが悪になるからな。何もできん」
詳しく話を聞くと、リレッサが応援に来た頃にはすでにシエルオーテス達は動いていた。彼女達はカオスドラゴンと戦うことなく、瓦礫に埋もれた人達を助け、怪我人を魔法で治しながら支持を集めていた。その姿は本当に天からの使いだと思わせるものだった。
「……見た目だけは人受けが良いですからね。私の古い友人と同じですね」
「お前、友達いたのか? まあそれはいいが……全てが後手後手に回ったという話だな。騎士や聖騎士の被害は少なかったが、国王は亡くなり、街の人達にも死者が出た。建物への被害も相当なものだ」
「まーでも、冒険者に被害が少なかったのはまだましやな。ルインエルデもここもそうやけど、生活の要は魔石やからな。ダンジョンに潜ってもろて、って感じですわ」
そして本題のカオスドラゴンだが、支援に回っていたリレッサは負傷した兵士達の治療を終えた後、戦いへ参加した。そして最後はロディーとの連携によって倒されたとの事だ。
「倒したと思うんだが、生態がわからんからな。難しい所ではある。しばらくは要警戒だが……ダンジョンのボスモンスターが外に出られるとは思わなかったな」
「ほんまにもうこりごりやな。こういうことが二度と起こらないことを祈るばかりやな!」
場を明るくするためにデゴットとロディーは努めて明るく言ったが、調査に行っていたラシア達の顔は暗くなる。
「? ラシア。顔色が悪いですけど大丈夫ですか?」
「先に言っておくが、調査の内容が悪いって話なら聞かないからな!」
「それを言ったら、今回報告できることってない気がしますが?」
調査に行った者達が全員頷き、ティーガーが少し考えた。
「ええところか……ラシが仲良しなのと、思った以上に話が通じるのと……女王も王様もちゃんと王様やったぐらいか?」
「いや、出る方法が分かったのも大きい。いざとなれば封鎖できるからな。という訳で父さん、諦めて話を聞いてくれ。総合的に判断したらかなりのプラスだ」
「にゃー……プラス。にゅーん……まぁプラスにゃ」
絶対に嫌な予感がしたデゴットは逃走しようとしたが、ロディー、ラオメ、レクトアの三人に肩を掴まれて進路を塞がれ、話を聞かされることになった。
そして……そんなことになっている間に、シエルオーテス達は司祭や難民達と共に国境近くまで来ていた。
「さてと、ここまで来ればいいか」
「はい。シエルオーテス様。お願いします」
「構わんが、元には戻らんぞ?」
「問題ありません。これも神からの試練です」
「お前達が言うのならそうだろうな。ただ覚えておけ。一つの生命を優遇する神がいれば、それは邪神の類いだぞ」
「はい。ですが……邪神も神の一つですよ」
よく口が回るものだとシエルオーテスは笑い、司祭や教会の関係者は残すよう、他の戦女神達に指示を出した。
そして五人の戦女神が空へ上がって呪文を唱えると、自分達についてきた難民達の足元に魔法陣が浮かび上がった。
そこに集まったのは、司祭やシエルオーテスの言葉に騙された者達ばかりだ。
私達についていけば幸せになれる。楽園はある。そこに行けば争いのない穏やかな生活を送れる。
王都での生活に不満を持つ者達は、その言葉を信じてここまでついてきた。
やがてシエルオーテスは呪文を唱え終えた。これから何が起こるのかはもちろん知っているが……人間達より自分達天使の方が優先だった。
そこに集まった人達の肉が膨れ上がり、羽が生え、その姿が変わっていく。
自分達が死んだことにも気づかないまま……変化はすぐに終わった。
そこにいた全ての者達は、シエルオーテス達の配下である天使へと変えられていた。
人間達がどうなろうと何とも思わない。自分達の配下が再びこれほど増えたことを、シエルオーテスは喜んでいた。
「人間達に感謝しておけよ」
そう言うと天使達は一斉に頷き、空へと上がった。
「おお! これが神の御業!」
「戦力としては少し心許ないが……ローウェンテニアの死神のような強者はいまい。我らは先に行き、滅ぼしておく。お前達はゆっくり来るがいい。天使は十体ほど残り、こいつらを守ってやれ!」
天使達は頭を下げると、司祭のもとへ降りていった。
シエルオーテスはラシアのいる王都からかなり離れた街へ向かって飛んだ。
そして間もなく……一つの国家が滅び、シエルオーテス達と一緒にいた司祭が国王となり、天使達が住まう新たな国家が誕生した。