調査の内容を聞き終えたデゴットとロディーは、思うところこそあっただろうが、そこまで難しい顔はしていなかった。
「カオスドラゴンが出てきたからな……外に出られるのは分かっていたが、モンスターが国を作るか……」
「あとは……隊長の言うとった『理性があれば出てくる』ってのもホンマやろうな。天使も出てきたしな。まー、あいつらはボスちゃうけども」
「それで? ラオメとレクトアには後から会議で詳しく話してもらうからいいが……仮に妖精の国を一つの国として認めるとしたら、お前達はどう思う? それだけの強さがあれば国を築くこともできるだろうが、一つの参考として聞かせてくれ」
皆が少し悩みながら考えを述べると、ノア、グオン、フウコウは反対。逆にラシア、パルサー、ティーガーは賛成と綺麗に分かれた。
信用できるかどうか以前に、ラシアでも倒せない者がいるのが怖すぎる。それに妖精一人の強さがラオメとほとんど同格で、それ以下でも二、三人いれば負けるというのは問題があると思うとのことだ。
「あとは全員が見た物を共有できるってことだから、うっかり余計なことを言ってしまったらと思うと……相手が強者だからこその怖さはあります。妖精達は可愛いけど、良き隣人にはなれないかなー」
「国ができるのは仕方ないとしても……付き合い方は考えた方が良いとは思いますね」
それがノア達の意見だ。
逆にラシア達は、もしもの時には地星のダンジョンに繋がるポータルを閉鎖し、総力戦で全員を倒せば強制的にダンジョンへ戻せる。付き合い方さえ間違えなければ、良き隣人にはなれそうだと言った。
「まー、ラシありきの方法で総力戦やけどな。最後はちょっと雰囲気ちごたし、あれやったら信用してもええかなってウチはおもた。ウチでも勝てんけど、人間よりはましかなーと思う」
「私も危険だとは思うが、魔法に関してもずば抜けているからな。付き合い方さえ間違えなければ……かなりの国益になると思う。確かに力はあるが……人のように、その力を破壊へ向ける者達ではないような気はしたな」
「そこまではっきり分かれると難しいな。ラシアは?」
「私の場合は古い友人ですから、まずは信じてみようかと。何かあれば殴りに行くと言いましたし、ボス戦で無茶をして二日ほど意識を失っていたんですが、そのチャンスも使わずに気にしていてくれたので」
「なるほどな。話だけ聞くと、とんでもないというのはよく分かった。あとは国での話し合いだな」
そしてそれからも調査の結果などを伝え、ようやく話が終わった。
「こんなことになってなかったら、超級ダンジョンを踏破したんだから国から色々あったんだが……すまんな」
「それは遠慮したので大丈夫です。それで、パルサーさん、ティーガーさん、ラオメさん、レクトアさん。ドロップアイテムの精算ってどうします? 宿の方も気になるので、私達は戻ろうかと思います」
ラオメが少し考えた後に伝える。
「ほとんどラシア殿が倒したから、辞退しようと言いたいところだが、それを言うとラシア殿に迷惑がかかるからな。アクセサリーを含む装備品や珍しい物以外は売って分けてしまおう。その方が話が早いと思うが、どうだ?」
「分かりました。では魔石とかも含めて売って、こちらで価値のある物を取っておいて、後で分ける感じでいいです?」
「ああ。それで頼む。王都はしばらくこの有様だからな。私達がそのうち宿の方に行くか、ラシア殿がこっちに来た時に誰かへ渡しておいてくれればいい。急ぐ必要もないのでよろしく頼む」
「それだったら俺のところに持ってきてくれれば、資金を増やしておくぞ」
「デゴットさんは勝手に売りそうなので駄目です。ティーガーさんかパルサーさんに渡しておきます」
これ以上ここに自分達がいても邪魔になるので、パーティーを組んだティーガー達に礼を言い、挨拶をしてからラシア達はルインエルデへ帰還することになった。
「あっ……ラシアさん。私はちょっとリュートリアのこととか気になるから、少し王都に残るね。夕方か夜には戻ると思う」
ついていこうか、と言おうとしたが……どう言葉をかけて良いのか分からず、気をつけてくださいとだけ言ってノアとそこで別れた。
王都からルインエルデの冒険者ギルドへ戻ってくると、多少の混乱はあり人も多かったが、なんというか割と平常運転だった。
さすがに今日は精算する必要もないので、ラシアは一緒に戻ってきたリレッサに話しかける。
「何か……凄いことになってましたね。天使は出てきているとは思ってましたが……カオスドラゴンまで出てきているとは……」
「はい。あと少し厄介なのが、討伐した後にその魂と記憶がどうなっているのか分からないことです。ダンジョンなら復活しますが……この世界で倒しても魂がダンジョンに戻るのか分かりません。言葉を話す者なら確認できますが、相手は竜ですからね」
「そればっかりは前例がないから分からないにゃー。初心者ダンジョンのラットマンで試しても良さそうだけど……モンスターの言葉なんか分からないにゃ」
「コアラの王様のおかげでボスも出られるのは確実なんですが、試す訳にもいかねーですしね」
「確認したいけど……そのためだけに命と数日をかけて竜の巣に行くのは辛い……」
「ただ……カオスドラゴンは倒したと思いますが、天使のようにまた復活する可能性も捨てきれないというのが、また……」
「姫さん……せっかく帰ってきたのに、あんまり怖いこと言わねーでくだせー」
「ほんとにゃー」
グオンとフウコウの言うことも分かるが、リレッサの言うこともよく分かる。
ゲームでは確実にできないことを、モンスター達はやってくるからだ。一番分かりやすいのは、フェリスロステが城を建てたことだ。
ゲームにはやり込み要素も多く、できることも多かったが……城を建てたり、モンスターが国を作ったりすることは絶対にできなかった。
カオスドラゴンにもゲームとの違いは必ずあるだろう。だから本当に何をしてくるか分からないのだ。
何もしてこないのが一番いいが……再度出現した時のことは考えておかないと駄目だな、という話だ。
そんなことを話しながら歩いていると、ようやく宿にたどり着いた。
中に入るとティアが掃除をしており、おやっさんは片付け、セレットは道具屋で忙しそうだった。
「あっ! ラシアさん、お帰り」
「ティアちゃん。ただいま、疲れたー」
ラシアはようやく帰ってきたんだなーと実感しながら、ただいまの挨拶をすると温かく迎えられた。
そして食堂に移動し、おやっさんに料理を作ってもらって待っていると、ラシアが帰ってきたのを聞きつけたクランメンバー達が食堂に集まり始めた。
「王都でカオスドラゴンが出て大変なことになってましたが……皆さんは大丈夫でしたか?」
「俺達もフォルグさん達もまともに巻き込まれたけど、アトラスさんとかヘッジさん辺りがもう戦闘を始めてたからな。他の新兵と一緒に後方支援って感じだ」
「ダード……『様』ね、『様』」
「こっちも一緒でさ。騎士達と夜回りしてたら急にカオスドラゴンが現れて。まー、大変でしたね。姐さんの方は?」
国同士の話になってくるので、妖精が人間の国を滅ぼして建国したとは言いにくい。その辺りは少しぼかしつつ、地星の超級ダンジョンを踏破したとだけ伝えると、メンバーからは歓声が上がった。
あまりの驚きようだったので詳しく尋ねると……超級ダンジョンの踏破は初とのことだった。
「てか、そこの猫怪人とかグオンさんと一緒に行ったんだろ? 聞かなかったのか?」
「誰が猫怪人にゃ! おみゃーもそのうち引っかくにゃ……というか、それが些細なことって言えるぐらい色々あったにゃ……」
「本当にあったな……実際に姐さんならできそうって感じだし、そもそも他のインパクトが強すぎて……」
「妖精はいるわ、喋るコアラはいるわで……大変にゃったにゃ」
「ねぇねぇ、喋るコアラって何?」
「ティア……喋るコアラだから、それ以外に説明のしようがないにゃ」
ようやく料理ができたようで、セレットさんとおやっさんが料理を運んできてくれた。その時に「ノアは?」と尋ねられたが、近くにティアがいるので少しぼかして伝えた。それでも事情は伝わったようで、そうかと頷いていた。
そして料理を食べながら、ラシアはおやっさんに質問する。
「こっちは被害とかなかったんですか?」
「少し人が流れてきているぐらいで、そこまで混乱はないな。この都市はこの都市だけで機能してるし、ポータルが使えない人からすれば二週間もかかる王都の話だからな」
「ポータルが使えると近く感じるんだけどー。使えないとどうしてもね。あと、商人さんとかはこっちが発展してきてるから、何かあった時のために資金とか分けてたみたいだから、被害はあっても致命傷にはならなかったみたい」
「あとは……難民じゃねーが、こっちに流れてくる人は多いんじゃねーかって話は出てるな。税金はこっちの方が安いし、治安も良くなってるし、何よりバスとかできて便利になってるからな」
ご飯を食べながらラシアがその辺りを詳しく聞くと、住居区も大がかりに広げる方向で話が進んでおり、かなりの人数が増えても問題がないよう準備しているとのことだ。
「なんか目まぐるしいですね。私が流れてきた時とか、そこら中で喧嘩したのに……」
「ルインエルデは初心者の街だけど、治安悪かったからねー。あとはー、試しとしてティアちゃんぐらいの子供が通う学校みたいなのができるらしいわよ。市長さん曰く、読み書きや計算ができないと駄目だとかなんとか」
「見たことないですけど、ちゃんと仕事してる市長さんなんですね」
「知らない間に別人になってるんじゃねーか? あいつ、一年ぐらい前に汚職で捕まりかけてたぞ」
「そんな話もあったわねー」
妖精の国に行ってる間に世の中はちゃんと流れているようで、少し浦島太郎の気分だなーとラシアは思い、食事を続けた。
そして……夜になったが、ノアは戻ってこなかった。
「お姉ちゃん、遅いね」
「……本当だね。少し気になるので探しに行ってきます」
そう言ってラシアが立ち上がると、リレッサも一緒に行くと言い出した。
「私の友人でもありますし、王都も気になりますからね。行きましょう」
「分かりました。じゃあ行きましょうか」
「すまんが、ノアを頼むぞ」
ラシアは了解と言って、リレッサを連れて夜の王都へ向かうことになった。