本日のラシアの仕事は、地星のダンジョンで手に入れたアイテムの精算だ。ぱっと見た感じだが……労力の割にレアアイテムなどは出ていないようだ。
「友よ。これは?」
「それは用途不明の換金用アイテム」
一人で黙々とやるのも辛いので、ナットンと世間話をしながら仕分けている。姫様とナットンには別の世界から来たことを話してあるので、色々と話しやすいというのもある。
「それで、こう……ローウェンテニア時代より、モンスターにしてもやれることが増えているような気がする」
「なるほど。私のデータベースには、妖精の女王フェリスロステは大昔から存在し、その力は『超すげぇ!』と記録されています。ですので、城を二つや三つ建てたところで驚くほどではない、というのはあります」
ラシアはダンジョンやモンスターがゲームの世界に繋がっているか、自分の記憶を元に作られていると思っていたが、どちらも違うのではないかと日に日に思うようになってきた。
自由度が高いというより、元から制限されていないという感じだ。スキルにしても、職によってデメリットはあるが……誰でも覚えられる。モンスターも言葉を喋って考え、ダンジョンから出てくる。
だから可能性の一つとしては、ゲームそっくりの世界が元からあったということなのだが……じゃあなぜ、ナットンやリレッサがいて、自分のことを知っているのかとなる。
「でもなー。それが一番、可能性がありそう」
「そういう時は一つずつ可能性を潰していくと絞れてきますよ。かといって全てを否定することは不可能です。この世界が友の見ている夢で、出てくる人全員も同じ夢を見ている可能性もあります」
「え? そういうのってあるの?」
「ないです。それを言い出したら、全ての可能性があることになってしまいます。実は私が神でこの世界を作っているとか言っても、それを否定できないからあるとか言ったら、ねーわってなりますので」
「なるほど」
「まとめると、元の世界が本当にあるかどうかも分かりません。目標を持つのは大事ですが、今ある生活も大事にしましょう。あと、手を動かしてください。友はさっきから進んでいません」
「うぐっ……」
手伝わせているナットンがラシアの倍以上働いているので、文句など言えるはずもない。一旦その辺りの話は置いておき、ラシアも頑張って換金アイテムを仕分けていく。
それから一時間ほどかかり、ようやくアイテムの整理が終わった。次は冒険者ギルドへ行って魔石や換金アイテムを売り、それを参加した人達に分けて……ようやく終わりなのだが、今更ながらクランマスターは超絶面倒くさい。
「今更だけど、他のクランに入っておけばよかった……色々と面倒くさすぎる。ナットン、ありがとう。また何かあったらよろしくお願い」
「分かりました。また何かあったら言ってください」
そしてラシアはナットンと一緒に一階へ降り、おやっさんに声をかけてから冒険者ギルドへ向かった。
王都はカオスドラゴンの襲撃があっててんやわんやしているのに、ルインエルデの冒険者ギルドは少し人が多いものの、何というか……通常営業だ。
この冒険者ギルドには初心者や初級者が多く、上でも中級者ぐらいしかいない。慌てても仕方がないのは分かるのだが……皆、離れた街で起こったことぐらいに思っているのかな、という印象だ。
だけど、ここにいる冒険者全員が手伝いに行っても、できることはないだろう。食べて生きるために冒険者をしているので、仕方がないという感じではある。
そしていつものように列へ並んで待っていると、ようやくラシアの順番が回ってきた。すると、いつもの受付嬢になんとも言えない顔をされた。
「こんにちは。……なんですけど、またなんとも言えない顔をしてますね。何もしてませんよ?」
カオスドラゴンの襲撃で建物を破壊したのはリレッサだし、道の所々が焦げているのはノアのせいだ。確かに初撃で地面を陥没させたが……文句を言われるようなことはしていないはずだ。
「いえ、ラシアさんはXランクですよ? 並ぶなとは言いませんが……もう少し堂々としていただければと」
そればっかりは持って生まれたものなので、どうしようもない。そう話していると、また個室で対応しますと言われたので、ラシアは受付嬢と二人で移動する。
この辺りはXランクに上がったメリットだなーとラシアは思う。こうして受付で話している時、後ろや隣から急に話しかけられることがあるのだが……個室ならそんな心配をしなくていいからだ。
そして以前も来た応接室へ案内され、お茶を淹れてもらってから話が始まる。
「ラシアさんのご用件は、魔石と換金アイテムの買い取りなどですよね?」
「はい。そうですけど……よく分かりましたね」
「ラシアさんとの付き合いも長いですからね」
こういう時は何か嫌な予感がするというか……何かあるのは間違いない。ラシアがそのことを尋ねると、騎士団長のデゴットと聖騎士長のロディー達の署名で、ラシアを最高ランクのZに上げてもよいとのことだった。
「そういうわけで、ラシアさんから反対意見がなければZランクに上がるように言われています」
「えっ……メリットがないので嫌です」
「分かりました。では手続きをしてきますので……少々お待ちください」
そう言って受付嬢は立ち上がり、部屋を出ていったが……しばらくすると走って戻ってきた。
「ラシアさん……もしかして今、断りませんでした?」
「普通に断りましたよ?」
どうして、というような顔をされたので、ラシアは説明する。もう超級ダンジョンへ行けるようになったので、ランクを上げる必要が全くないということだ。指名依頼があればZランクの方が高額になるだろうが……ラシアはお金に困っていないので、それもメリットにはならない。本当に必要ないのだ。
ラシアの話を聞いて、受付嬢はなんとも言えない顔をする。
「ラシアさんって、本当にランクに興味がないですよね。上げてほしいという人は多いのですが……」
「私の目的が超級ダンジョンに行くことだけなので、他の冒険者さんの前では言えないですけども、興味がないんですよね。強さを分類するぐらいで、特にメリットになるようなこともありませんし、国から依頼があったらどうせ断れないでしょう?」
「本当にその通りなんですけど、Zランクの方が少し断りやすいというのはありますよ?」
「貴族からのくそしょうもない依頼なら断ってもいいですけど、Zランクに国から声がかかる依頼って、基本的に断ったら駄目なのでは?」
「貴族からの依頼を、くそしょうもないと言わないでください」
基本的に国からの依頼は断らない方が良いと、今回の調査でラシアは思った。断っていたらどうなっていたか分からないし、フェリスロステと話が通じたのも、ラシアという昔なじみがいたからだ。
今回はデゴットから直接受けた依頼だったので、貴族からの依頼がどんなものかは分からない。ただ、高位の冒険者に変なことを依頼すれば、貴族側にもデメリットがある。思っているほど変な依頼はないだろう。
「時間がある時に何か取ってこい、ぐらいなら行きますので、別にZにならなくてもいいかなという感じですね。超級ダンジョンには入りたいのでXにはなりましたが……」
「なるほど。ラシアさんの言いたいことは分かりました。こちらとしても強要はできませんので、仕方ありません。私はラシアさんの担当なので少し立場が違いますが、一般の受付嬢からすればXでもZでも変わりませんからね。どちらも雲の上の人ですから」
「ギルド側からのサービス面で見て、XとZで違いってあります?」
「ないですね。ルインエルデにはラシアさん以外、どちらもいませんし……凄い人が来たと思うぐらいですね」
ランクを上げて余計な嫉妬を買うぐらいなら、上げない方がいい。上げたところで何もないなら、たぶん現状の方が良いと思う。受付嬢にまだ情報が伝わっていなかった場合はまずいので口には出さないが……国王陛下が亡くなっているのだ。こういう時は本当に何もしない方がいいというのが、ラシアの判断だ。
そしてランクを上げないことが決まり、次は魔石などの買い取りだ。一応、超級ダンジョンを踏破したということは騎士団から伝わっていたようだが……超級のボスモンスターの魔石やその他の換金アイテムを出され、受付嬢はうなり声を上げた。
「……こ、これが超級のボスモンスターの魔石なんですね。上級と比べて倍以上に大きいですね」
確かに受付嬢が言うぐらい、ボスモンスターの魔石は大きい。ゲームではイラストだけだったので、大きさが分かりにくかった。初心者や初級では大きくてもソフトボールぐらい。中級ではソフトボールか、それより少し大きいぐらい。上級ではバスケットボールぐらいで、超級になるとティアの身長の半分ほどにもなるので、本当に大きい。
雑魚モンスターの魔石でも、それなりの大きさになる。
ラシアから魔石や換金アイテムを受け取り、「査定してきます」と言って、受付嬢は部屋から出ていった。
そしてしばらくして戻ってくると、金額を提示された。合計で一千五百万セルになったので、単純計算で一人百八十七万五千セルの儲けとなった。
「本当は超級ダンジョンの踏破なので、もっと値が付くと思うのですが……初めて見る大きさの魔石なので、適正な値段が分からないところがあります。そこはご了承ください。ラシアさんが商人と直接交渉すれば、もっと価格は上がると思います」
「交渉って会話しないと駄目なので、その価格でいいです。それで十分ですし、もっと価格が上がりそうなら、その差額分は王都の復興に使ってもらえればと思います」
カオスドラゴンを倒した時も、魔石や換金アイテムをどう分配するかが大変なので、ラシアは自分の取り分を辞退してきた。リレッサもノアも、それでいいと言ったのでヨシだ。
ありがとうございますと受付嬢は礼を言い、ラシアへ渡すお金を準備する。額が額なので、ラシアもサインをしてそれを受け取った。
数日潜ってこの値段だから夢はあるように思えるが……敵の強さと価格が比例しないので、超級を踏破したいという人は本当にいないんだろうなーと思う。はっきり言って、ローウェンテニアなどの上級へ行く方が安全で稼げる。
ただ、どこに夢を置くかだとは思う。今回は出なかったが、超級で出るアイテムは基本的に凄まじい性能を持っていたりするからだ。命の危険はあるけども……
それから少し受付嬢と世間話をした後、ラシアは宿へ戻った。
で……ここからがまた大変で、残したアイテムと金額をうまいこと分けないと揉める。自分が損をすることがあっても、パーティーを組んだ人に損をさせてはいけないのが精算だ。
商人に魔石を売らなかったのは、交渉までやると自分のキャパを超えるからだ。その点は諦めてもらおうと思っていると、ちょうど一緒に行ったグオンとノア、フウコウがいて、近くにはガロニアもいた。
「ラシアさん、おかえりー。どうだった?」
「はい。魔石とか換金アイテムは初めての物が多かったのですが、上級で数日狩った方が稼げましたね」
金額を聞いても、ノアはそれぐらいかなーと思っていたので普通の反応だった。グオンも少し安いぐらいかという程度だったが……フウコウは膝から崩れ落ちた。
「あんだけ苦労してその値段とか、やってられないにゃ! しかも、わっちは死にかけ博士に雇われの身。そこからさらに減るにゃ!」
「まあまあ……そこそこ良いアイテムも出てますから、落ち着いてください」
ラシアがそうなだめながら、死にかけ博士って誰? と思っていると、ガロニアがフウコウの背後にやってきて、その頭を殴った。
「雇い主の目の前で悪口を言うとか、良い度胸だね」
「しまったにゃ……口からぽろっと出ただけにゃ……不幸にゃ……」
「それで? 超級ダンジョンに行ったんだろ? 私の土産はあるんだろうね!」
ちゃんとありますよ、と言おうとしたタイミングで、奥から笑顔のセレットがやってきた。
「ラシアちゃん。私のお土産は?」
ちゃんと師弟だなーとラシアは思いながら、皆にお金とアイテムを配り始めた。
お知らせ。
明日の投稿から新規勢開拓と言う事で、お昼の12時過ぎぐらいの投稿に変更しますのでどうぞよろしく。
とりあえず一週間ほど様子見になります。