第18話 あかい鬣、白の騎士
ダンジョン都市ルインエルデより西に約十五日ほど進んだ所に、王都バルザエインという巨大な街がある。
その街には国を治める王がおり、とても栄え発展している世界最大級の都市だ。
その街で王の次に力を持つ者が大公だ。
元の世界の中世で言う地域を治める貴族とは少し違い、ダンジョンや地域を管理し、どちらかと言えば政治家に近い者達がこの世界では貴族という。
その大公は昔から力をつけ、何かあれば力で解決し国を支え守ってきた。非道な方法なども数え切れないぐらいしてきた。
そんなツケが回ってきたのは大公本人ではなく、その娘だ。
幼少期に過激派に襲撃され、顔や体には大きな傷が残った。
大人になっても傷跡は消えず、その傷の深さがうかがえたが、それも過去の話だ。
今はあと二年もすれば成人する年頃だが、体のどこにも傷はなく、傷を隠す為に伸ばしていた髪が娘の美しさを引き立てていた。
ただそんな美しさに似合わず、眉間にしわが寄りご機嫌は斜めだった。
「お礼の一言を言いたいだけなのに、どうして私が父や祖父のツケを払わなければいけないの!……それでメニス。何か新しい情報は?」
「ありません。聖騎士、騎士、聖職者の系統を調べましたが……まったくわかりません」
「私も少し見えただけだから、男性か女性すらもわからないのよね」
「冒険者の方でも調べましたが……鎚系統の武器や赤い髪は多いので、追い切れないというのが正直な所です」
「護衛の兵達が言っていたけど、プリーストやグランドプリーストが使う回復フィールドを展開したのでしょう?そんな人が冒険者をするのかしら?」
「ZやXの様な高ランクになればいると思いますが……その方達なら追えるので、冒険者ではないかもしれません」
「貴女の古傷も全部治ってるって言ってたわよね?それだけ凄い回復薬を持っているなら教会関係の方は?」
「考えられますが……デルパロア家は古くより教会を支援しています。ですから彼らが理由もなく隠す事はしないと思われます」
「あるでしょ。ドラゴンを一撃で倒せて回復魔法を使える騎士よ。私なら隠すし温存するわ。奥の手って見せる物じゃないでしょ?」
彼女達が言っているのは、約二ヶ月ほど前に現れた騎士の事だ。背丈より高く巨大なハンマーを装備し、白く輝く鎧を身につけた騎士だった。
ダンジョン都市ルインエルデに用があり、その帰りにドラゴンに襲われた。
本来なら生息域ではない場所でだ。
大公の娘であるエリゼ・デルパロアの命を狙うために、ダンジョンからモンスターを召喚するアイテムを使い呼ばれたドラゴンだ。
護衛の者が弱かった訳ではない。ただ白昼堂々と狙ってくるとは思っていなかったので油断し、護衛が少なかったのも事実だ。
一人、また一人と護衛が喰われ殺され、次はエリゼ達の番という所でその騎士はやってきた。
エリゼが覚えているのは、白い騎士が巨大なハンマーを掲げた所までだ。
他は生き残った騎士からの話だ。
曰く、一撃でドラゴンを倒した。その一撃は空より飛来した岩の様だった。
曰く、瞬時に回復フィールドを形成し残った者を救った。
曰く、エリゼ達に何かを呑ませたら全ての傷が消えた。
そして何も言わず、何もせずにどこかへと消えた。
聞いた話だけでは嘘だと思うかもしれないが、護衛達が嘘を言っているとは思わない。
……そして何より、吹き飛んだ地面と消し飛んだドラゴンがそれは事実だと言っていた。
思惑がないと言われれば嘘になる。ただ自身が嫌っていた醜い傷跡が消え、助けて貰ったお礼を言いたいだけで、どうしてここまで苦労しないといけないのだろうかとエリゼは思う。
「まぁ……父や祖父のやってきた事を考えたら近寄らないの普通よね。……それだけ強いなら富とか名声とか欲しいでしょうに」
「仮に冒険者であるなら、どちらも手に入るので必要ないかと……もしくはすでに両方手に入れられているのかもしれません」
「あーもう!メニス!捜索範囲を広げてちょうだい。どんな些細な情報でもいいわ!」
「かしこまりました」
大公の娘とその専属のメイドは、見つからない探し人に苦労していた。
そんな事はつゆ知らず、ダンジョン都市ルインエルデの冒険者ギルドではラシアが依頼を見て微笑んでいた。
依頼表に載っていたホットな話題の一つ、水晶の泉の調査が取り払われたからだ。
調査しても分からず原因は不明。魔術、魔法的な価値は高いそうなので廃坑を整備しなおし、魔術の研究所の様な物をつくるそうだ。
灰の砂漠の調査も残っているが、あれ以降は苗木ダンジョンにも出ていないので原因不明として片付けられる事になるそうだ。
まだまだ問題は多いが、ラシアにしては異世界に来て初めてと言って良い嬉しい事だった。
普段笑わない美女が微笑むだけで絵になる。周りにいた男共は、自分に向けられた笑顔でないと分かっていても思わず鼻の下が伸びてしまう。
(いいぞー。この調子で白の騎士検索とかも消えてくれ。私の記憶からも消えてくれ)
かと言って、上級、超級ダンジョンに行くなら聖銀鋼の装備は必須なので、その時が来ればまた考えなければいけない。今はどうしようもないので、ラシアは今を大事にしようと心に決めていた。
一度苗木のダンジョンを踏破してから混乱無効化のブローチを買い、そこから二度ほど潜り混乱にならないかを試したが、高いだけあって混乱する事はなかった。
あまり試したくは無かったが、毒や睡眠といった状態異常を使うオールド・アイも出て来たので、自身の体で実験をした。
睡眠は前に思っていた様に蓄積型であり、数回くらうと眠気が来はじめる仕様だった。毒に関しては神経毒という感じではなく、体が熱くなった後に頭痛がして痙攣が始まる感じだった。
ただラシアの体がゲームの仕様と同じLV100の状態なら、状態異常に対する抵抗値が職の補正で高いので、その程度で収まっているだけだった。
なので別の実験で、店に売られている毒矢や毒瓶をドッグマンやラビットマンに使用すると、痙攣した後に吐血し死亡した。
スキルによる毒とアイテムによる毒の違いはあるのかと考えたが……流石に毒を飲んで試すことなどできないので、ラシアは諦めた。
(異常の抵抗値はあっても毒っていっぱいあるもんな。ふぐ毒でも毒だし酸でも毒。抵抗値あっても硫酸飲んだら死ぬだろって話だし……と言うか麻痺も幻惑も毒じゃないのか?)
思う事はあったが、今日のラシアは気分がいい。ふふっと笑うと周りにいた男性も女性もその仕草にドキッとする。
辺りがソワソワし始めたタイミングで、拡声器のような魔道具で名前を呼ばれラシアは受付へ向かった。
呼ばれたと言っても悪い事ではない。ラシアの冒険者ランクはCで、初級ダンジョンを数回踏破し実力的にも問題ないと思われたので、いつもの受付嬢が申請してみては?と言ったのを受けて申請したのだ。
もう少し苗木のダンジョンで検証したい事もあったが……中級の方が異常状態を使ってくるモンスターも多いので、タイミング的に良かったので申請を出したのだ。
通っていればそれでいい。駄目なら苗木のダンジョンで検証しながらお金を貯めるだけ。上に上がれないと言う事はないので、ラシア的にはどっちでも良かった。
仮に明日から上級に行って良いですよ、とか言われてもそちらの方が困るのだ。
いつもの受付嬢のところに行くと、お待たせしましたと言われ、いくつかの書類を持っていた。
「おめでとうございます。Bランクにあがる申請が通りました。ラシアさんの場合はウルフマンやラビットマンスナイプという中級モンスターも倒していますし、素行にも問題がないと判断されました」
嬉しい事は確かに嬉しいが、少し含みがある言い方と、この町は初心者ダンジョンと苗木のダンジョンに繋がっているだけと聞いたような気がした。
話を折るのもあれなので、お礼を言ってから続きを聞く。
「ここで断る人もいますが、Bランクに上がるにはパーティーを組んで王都に行ってもらう事になります。引率というより先導で、Aランク冒険者の方が数人来て頂けます」
「無理です!どうしてですか?」
「そういう規定ですからね。その人の人柄や実力、どこまで人と合わせられるか等を見る試験になります。Bになると少なからず指名依頼もあり、強いだけでやっていける世界ではなくなるので」
「……落ちる事はあるんですか?」
「ありません。Aに上がれなくなるだけです。王都の冒険者ギルドに到達でBランクにはあがれます」
「どうして……そんなに邪魔くっさい設定なんですか?」
お互い初めて出会った時は愛想もクソも無い間柄だったが、今では慣れたなーと受付嬢は思いながら話す。
「王都のポータルに入ればほぼ全ての街とダンジョンに繋がるからです。その人の行動一つで冒険者ギルドの評価も変わってきます。強いから、何でもできるからと言って好きにしていいという訳ではないと言う事です」
これ以上ない正論だった。
「それができない人は、この町や他の街にある初級ダンジョンにずっと潜っている人もいます。私達受付嬢のお給金よりは稼ぎはいいので……ラシアさんはどうします?」
そうなってはラシアに選択肢はないのだ。元の世界に帰るのが目標であって、この世界に住むのが目標ではないからだ。
だからしかたなく王都へ行きBランクになる事を伝えると、受付嬢も少し嬉しそうだった。
あとその事で講習の様な物があると教えてくれた。