ラシアが王都に着くと、カオスドラゴンの襲撃から数日しか経っていないが、王都はゆっくりと元の姿を取り戻しつつあった。
元の世界に比べて科学などはあまり進歩していないが、人が強く魔法もあるので、一人でできることの多さが全然違うのだ。
その分、強さによる格差も生まれているが、強い者が一人いるだけで戦況がひっくり返ったり、片付けが楽になったりもする。
今も兵士達が壊れた家の瓦礫などを片付けているが、数人でよいしょと持ち上げれば、崩れた屋根まで動かせるのだ。
元の世界ではこうもいかない。色々と発展していないところもあるが……個人の力が強いから必要ない物もあるのかなー、というのがラシアの感想だ。
ただ……モンスターがいて、力こそパワーな世界なので、列車や飛行機みたいな物は絶対にできないだろうなという感じだ。
(上級に出てくるモンスターとか、普通に鉄板をぶち切ってくるだろうし……)
なんてことを考えながら騎士団の兵舎へ行くと、幸運なことにラオメとレクトアがいたので、少し時間をもらって精算の話をする。
「もう持ってきてくれたのか? 私もレクトアも、遅れたぐらいで文句は言わないぞ?」
「言いませんねー」
「こう……早めにやっておかないと、私の方が落ち着かないので……」
その言い方が面白かったのか、ラオメとレクトアはラシアを見て苦笑する。そして二人はまだ仕事中だったので、妖精のポーチは帰ってから開けてもらうことになった。そのまま少し世間話をする。
「妖精の女王、フェリスロステ様のことだが、反対意見ももちろんあるが……国としては賛成する方針だ。他国へ通達する際も、この国が支援する」
「なんか凄いですね。デルパロア大公辺りが、めっちゃ反対しそうなのに」
ラシアの台詞に二人はきょとんとした後、クスクスと笑ってから答えた。
「デルパロア大公は賛成側だな。そもそも、あの人がいたからこそ賛成に傾いた面が大きい。デゴット様やロディー様が賛成なのもあったが、それだけでは難しいところもあるからな」
「なんか、あの人が賛成すると、何を企んでるんだ? ってなりません? いや……何かしてる時点で企んでそうなのですが……」
「言いたいことは分かりますね。でも大公って、割と騎士団とか聖騎士のことは考えてくれてたりするので、そこまで悪いイメージは……ありますね。やる時は真面目にやるので……」
大公に対して良いイメージを持っている人がいたら、ぜひ会ってみたいものだと思っていると、ラオメが少し声を落として教えてくれた。
「陛下が生きていれば、話は変わったんだがな。仕方のないことだが……陛下は、魔物を倒してこの場所に国を建てた一族の血を引いている。毛嫌いとまでは言わないが……かなり揉めただろうとは思う」
「私達が賛成できるのは、妖精の強さを見ているからというのもありますね。他の貴族からしたら、手のひらぐらいの生き物がラオメや私と同格だと言われても、想像がつかないと思います」
「こちらの状況としてはそんなところだが、近いうちに使者を妖精の国へ送ることにはなるだろう」
そうなったらついていった方が良いのかなー、などと話してからパルサーの居場所を聞き、ラシアは二人と別れた。
パルサーは火事場泥棒が出るため、騎士団の部下達と見回りをしているとのことなので、教えてもらった方向へ向かっていく。
騎士団員なのだから当然だが、勤務中に訪ねるのも悪いなーと思っていると、運が良いのか悪いのかは分からないが、パルサーの方からラシアを見つけてくれた。
「どうした、ラシア。また王都にカオスドラゴンが出るとか言わないよな?」
「さすがに大丈夫だと思いますよ」
あまり長い時間話をするのも申し訳ないので、精算のお金などを持ってきたことを伝えた。
「家の方に持っていっても良かったんですが、妖精のポーチが少し特殊なアイテムだったので」
「ああ。ありがとう。特に急ぐような仕事ではないし、見回りだからな。多少は構わん。文句を言ってくるような奴もいないしな」
「それなら良かったです。次はティーガーさんなんですけど……どの辺りにいるか分かります?」
その質問にパルサーは、思い出しながら答えた。先ほど見た時は聖騎士の兵舎から出るところで、スコップ片手に大公の家へ行くと言っていたとのことだった。
一時間ほど前のことだったので、たぶんまだ大公の家にいるのではないかとのことだ。ラシアは礼を言って、そちらへ向かうことにした。
「あっ、そうそう。使用方法が分からないアイテムが出たら、言ってもらえれば見に来ますので、迂闊に使用しないでもらえると助かります」
「そこは大丈夫だ。フウコウの方を気にしてくれ。私の勘だが、絶対に何かやらかしてるぞ」
「そんな怖いこと言わないでください」
確かにそう言われれば、何かしそうなのがフウコウである。だが大丈夫な気もするので、ささっと用事を終わらせて帰ろうと心に決め、次の場所へ向かおうとしたが……ティーガーが行ったところは、悪魔の巣こと大公さんちだ。
世が世なら串刺しになった人達が庭に並べられていそうな家には、ラシアは行きたくない。親であるロディーのところへ行って時間を潰そうと考え、そちらへ移動しようとすると、隣に馬車が止まり……噂の大公様が顔を出した。
うげっと声が出た時には、時すでに遅く……ティーガーが家にいるとのことで、馬車に乗せられてしまった。
割と嫌なのだが……聞きたいこともあるので、まあ我慢という感じだ。
「そこまで嫌そうにされると、逆に嬉しくなるのはどうしてだろうな?」
「さあー……そういう性癖なんじゃないっすかね」
「そうかもしれんな」とデルパロア大公は笑い、話を続ける。
「さて……今更挨拶をするような間柄ではないからな。先に言っておく。ここから多少離れてはいるが、隣国での話だ。天使達がその国を滅ぼし、居座ったぞ」
「はい?」
言っていることの意味が分からなかったので、詳しく話を聞くと、その通りだった。
この王都に潜伏していたシエルオーテス達が、教会の関係者や身寄りのない者、家を失った者達を連れてこの国を出た後、隣国を襲撃した。そして教会の司祭だった男がその国の国王となり、天使達と国を作ることになったという話だ。
「情報源については、私の配下を現地へ行かせて確認してある。嘘ではあるまい。連れていった数百人を天使へと変貌させ、その国を襲い落としたそうだ」
大公が嘘を言っていないのであれば……またゲームとの違いが如実に出たことになる。天使達がそのような増え方をするなど、聞いたことがないからだ。
ラシアが幾つか質問すると、大公は分かっている範囲で答えた。
現状は混乱ばかりで、まともに国政が機能していないとのことだが、天使達の目的は、ゼレストニアという者をこちらへ召喚することらしい。
「それで、私が聞きたいのは、特定の者だけを呼び出すアイテムがあるのかということと、ゼレストニアの強さだな」
ラシアはボスモンスター名鑑というアイテムのことを伝えた。強いのは強いがフェリスロステには劣り、カオスドラゴンと大体同じぐらいだということも伝える。
「ただ……気をつけてほしいのは、モンスターがこの世界へ出てくると、枷が外れるというか、できることの幅が広がるので、想像以上に厄介だと思っておいた方がいいですね。シエルオーテスもダンジョンでは、人を生贄にして天使を呼び出すことなどしてこなかったので」
「なるほどな……どちらにせよ、一つの国を滅ぼしたのだ。こちらからは、いつでも仕掛けられる。しかもありがたいことに、面倒な教会連中は連れていってくれたからな」
妖精の建国には賛成した大公が、天使には明らかに敵対している。その違いが気になって尋ねると、やられたからやり返した者と、自ら進んでやった者とでは話が違うとのことだった。
「それに王都も、空を飛べる者は少ない。滅ぼされた国のように空から攻撃された時のことを考えれば、妖精の力を借りた方が楽だろう。力を貸してくれるかは知らないがな」
「というか……まだ出回っていない話っぽいのに、よく知っていますね」
「危険だと判断しているところには、色々と送り込んでいるからな。教会関係者の中にも、私の配下が幾人もいるというだけの話だ」
さすがは大公というかなんというか……とラシアが思っていると、馬車は大公宅へ到着した。ちょうどティーガーが、汚れたスコップを担いで門から出てくるところだった。
大公に頼んで馬車から降ろしてもらうと、ティーガーもラシアに気づいたようで、馬車から降りてきたことに驚いていた。
「お? ラシやと思ったら……なんで大公と一緒なん? 普通に珍しい組み合わせやな」
結果的に情報も手に入ったので、乗りたくはなかったとは言えず、ティーガーを探していたら大公に見つかってこうなったと話した。
ティーガーを探していたのは精算のためだと話し、妖精のポーチのことや出たアイテムの事も伝える。すると汚れたスコップを虹竜に立てかけて、悩み始めた。
「うーん……よし。今からラシのところ行こか!」
「え? 別にいいですけど……ティーガーさんが来る用事ってないですよ?」
ラシアの問いに、ティーガーは少し難しい顔をしながら答えた。勘だが、絶対にフウコウが何かすると。
「ウチの心が行けって言うてんねん。で。ボスモンスター名鑑って使い切りか?」
「はい。消費アイテムなので一体で一冊ですね。血塗られた契約書みたいなものなので」
パルサーも同じようなことを言っていたので……二人の中でのフウコウの評価は気になるところだが、精算も終わって帰るだけなので特に問題はない。ラシアはおkを出した。
「というわけで大公。ちょっとラシの泊まってる宿、行ってくるわ。屋敷の兵士には言うといたけど、花壇の近くに埋めたから、明日の朝ぐらいまで放置でええで!」
「分かった。兵士か使用人でも立たせて、顔に蜜でも塗っておこう。しかし……白騎士様を食事にでも誘おうと思ったが、先を越されてしまったようだな」
「しゃーないな。早いもん勝ちやしな。ほんだら行ってくるわ」
何が悲しくて大公と一緒にご飯を食べないといけないのかと思いつつ、ラシアはティーガーと一緒に、少し早めに冒険者ギルドへ向かった。
「そういえば、大公さん宅の花壇で花でも植えてたんですか?」
「せやで。二株やったけどな。ちょうど揃っとるって、大公に教えてもろたからな。行って埋めてきた。見てくれは綺麗な花やから、なかなかええ感じやったで!」
ティーガーは大公と仲が良いよな? と思いつつ冒険者ギルドへたどり着くと、ちょうどパルサーもフル装備で宿へ向かうつもりだったので、合流して一緒に向かうことになった。
そしてポータルを使ってルインエルデへ移動し、宿の近くまで来るが……特に変な気配などはなく、どこかで聞いたような声がするぐらいだった。
「悪い予感がしたけど、気のせいか?」
「いや、あのフウコウだぞ? だが、私達の気のせいならそれでいい。ご飯を食べて帰るだけだ」
どのフウコウだろうと思いながら、ラシアがドアを開けて宿の食堂に入ると、楽しげな声が聞こえてきた。
「おう。王様、飲むか?」
「いやー、主人。かたじけない」
たぶん酒を注がれていると思うのだが……ティアの半分ぐらいの大きさで、王冠を被ったコアラがご飯を食べながら、おやっさんと会話をしていた。