パルサーとティーガーはコアラキングのことを報告しなければならないため、あれから夕食を食べてすぐに帰って行った。
夜が明けてラシアはいつものように遅めの朝食をおやっさんに作ってもらい、その時におやっさんにお土産を渡していなかったことを思い出し、リクエストを聞いた。
「お前な、セレットにもティアにもあれだけ渡してるんだから別にいらねーよ」
「普段の感謝の気持ちっすよ」
そう言いながらラシアは、おやっさんが料理をしている辺りを見回した。少し暗かったので、役に立ちそうな物を渡すことにした。
「というわけで、おやっさんにはこれ」
「なんだ、このちんくりんな花は」
ラシアが渡した物は、地星のダンジョンでよく拾えるランプ草という家具アイテムだ。設置すると周りが明るくなるとか、そんな物だった。
「またよく分からんアイテムか。色々あるんだな」
おやっさんが調理場の邪魔にならないところへ置くと、花の部分が発光し、良い感じに明るくなった。
「……これは良いと思ったが、どうやって消すんだ?」
「さあ?」
消し方はラシアにも分からないので、取りあえず夜になったら布をかけ、暗くする方向で決まった。
そしておやっさんはラシアに礼を言った後、世間話を始める。
「それで? 次は何処に行くんだ? 地星は踏破したんだろ?」
「しばらくは依頼をやったりとかですね。他の超級にも行きたいんですが……色々とキツいっすからね。あとはあんまり遠出できない理由も色々あるので……」
「まー、色々あるわな。コアラの王様が出たから笑い話で済んでるが、他だとシャレにならないからな」
「ほんとそれっすわ……というか、おやっさんまた料理の腕上げたな?」
「姫様が試作の調味料を作って、ナットンが量産するからな。美味くもなるわな」
「なるほど……それで? 麗しの姫様とナットンは?」
「ナットンはティアとノアを連れて、コアラ王様に街を案内するんだとよ。麗しの姫様は会議に行くって言ってたぞ。まぁ平和なもんだ」
「ほんとっすねー」
……
ラシアがそんな感じで食事をしている頃、麗しの姫様ことリレッサは……王都のロディー宅で会議をしていた。
ロディー、デゴット、デルパロア大公と、この国の重鎮が揃っている。パルサーとティーガーも参戦しており、会議と言って問題ない顔触れだ。
互いの挨拶はすでに済み、話し合いは始まっていた。内容はもちろん、ボスモンスター名鑑のことだ。
「あのアホ猫のせいで大変なことになったな。出てきたモンスターがコアラの王様だったから良かったが……」
「このメンバーが集まっている時に、コアラの話をするのもなかなかにおもろいけどな」
「おかん! なんもおもんないで!」
「ただ見方を変えれば、アイテムの存在を把握し、被害なく消費できたのはかなりの功績だな。こちらとしても、他に持っている者がいた場合は回収しやすくなった」
「まー、それはあるな」
結果論にはなってしまうが、フウコウがやったことも大きな功績になった。街に被害も出なかったからこそ、次の話へ移れる。
次の話こそが本命で、リレッサが来た理由でもある。
リレッサの故郷であり、今はダンジョンとなっているローウェンテニア城。その宝物庫は現在、騎士団と聖騎士が厳重に封鎖している。
リレッサはその宝物庫に、モンスターを指定して呼び出せるアイテムが入っていると一度だけ聞いたことがある。
「わたくし自身が直接見たわけではありませんので、ないかもしれませんが……一度確認しておいた方が良いかもしれません。まだローウェンテニアの宝物庫を全て調べたわけではないのでしょう?」
リレッサの質問にデゴットが答える。金など目に見えて価値の分かる物は取り出しているが、武器や魔道具、用途不明のアイテムは鑑定にも手間がかかる。そのため、あの広い宝物庫の中はまだ調べきれていないのが現状だ。
「一度、本格的に調べた方が良いかもしれんな」
「なければそれでいいが、あるとしたら天使達が確実に狙ってくるぞ? 滅んだ隣国のポータルは、ローウェンテニアにも繋がっているからな」
「そこは俺やロディー、騎士団と聖騎士の上位勢で行く。ラシアに頼んでもいいが……国のことだからな。毎回毎回頼むのもおかしな話だろう。まあ猫怪人だっけか? そいつはボスモンスター名鑑を見ているからな。連れて行く。……というか、怪人ってなんだ? 猫は分かるが?」
「ラシアが言い出して、ティーガーが流行らせるいつものパターンだから分からない。私の騎士団の青豹とか、エリゼの人食い令嬢みたいな物だ」
「私の首狩り大公や、エンブレント家の掘削令嬢などもある」
「あいつ、お前にまでそんな変な二つ名をつけてるのか……まあいいが」
「ラシアのやることですからね。それは置いておいて、仮にボスモンスター名鑑があったとして、回収した後に襲われても大丈夫ですか?」
本当に安全に進めるなら、ラシアやリレッサに頼む方が間違いはない。だがラシアにしてもリレッサにしても、この国に滞在しているだけで、この国の人間ではない。
依頼を出すのもいいが、何かあった時に国として対応できるのかは確かめておきたい。それに天使は数が多いとしても、その強さなら騎士団と聖騎士で対応できるからだ。
「分かりました。騎士団と聖騎士の実力を信じましょう。よほどの時は言ってくれれば手を貸しますので」
「協力に感謝する。だが……ここだけの話、陛下も亡くなられたから、姫様が新しい女王として立候補してくれてもいいぞ。姫様なら、そこの大公もロディーも文句は言わないしな」
「今日はたまたまお話に来ているだけの街娘なので、一国の王など恐れ多い」
「いや、姫様。街娘が私を含めた三人と会談することはないですからね?」
「あります。それならデルパロア大公が国王になっても良いのでは?」
「私か? 私には無理だな。役者ではない」
「姫様。こいつは無理です。王になったら、城門に人の首とか並べるような恐怖政治をする奴です!」
「大公やったらやりそうやなー」
パルサーはその光景を想像し、本当にやりそうだとは思うが、ティーガーのようには言えないのだ。
「さて、どうだろうな? それをやってメリットがあるなら喜んでやるが……ないならしないかもな」
「必要なら手は貸しますが……滅んだ国の者が新たな国の王になるのは、また違うと思いますよ」
それからも少し話は続き、デゴットとロディーの指揮の下でローウェンテニアの宝物庫へ行くことが決まった。その後、会議は解散となった。
ティーガーはリレッサの護衛を兼ねて、ルインエルデの宿へ向かうことになった。宝物庫へ行く時は同行するよう、フウコウへ伝えるためでもある。
パルサーも一緒に向かうのかと思ったが、デルパロア大公宅の花壇にエリゼと掘削令嬢が埋められているため、二人を助けに行くそうだ。
「もう一日ぐらいほっといてもええと思うで?」
「エリゼは良いが、メニスに頼まれたからな。勝手に二人を掘り起こしたら、その手首を切り落とすと大公に言われたそうだ」
そう言って大公宅へ向かうパルサーを見ながら、ティーガーはリレッサに話しかける。
「もうちょっと頑張らんと、姫様はおろかノアにも勝てんと思うけど、姫様はどう思う?」
「そうですね。もう少し自分に正直というより、わがままでも良いと思いますけどね」
「ってことは、姫様のライバルは……ノアけ?」
「いえ、ノアも油断はできませんが……最大の障害かつライバルはティアでしょう」
「あー……ラシってティアに激甘やしなー」
そんな話をしながらルインエルデへ戻り、宿に着くと、食堂でフウコウが軽食を食べていた。
「お? フウコウや。ちょうどええところにおるやんけ!」
「ワッチは今からご飯にゃ~。何の用事にゃ?」
「罪状に決まっとるやんけ。詳しいことは騎士団か聖騎士から何か届くと思うけど、数日中にダンジョンへ行くから、お前も同行せーって感じやな!」
「にぎゃ!? なんでそんな話になったにゃ!?」
「あー、そこまで気ぃ使わんで大丈夫やで。ウチのおかんかパルサーのおとんとかが行くだけやからな」
「なら良かったにゃー……なんて誰が言うかにゃ! それ騎士団と聖騎士のトップにゃ!」
いつもの不幸にゃ……と言ってフウコウがテーブルに崩れ落ちたところへ、おやっさんが料理を運んできた。ティーガーはおやっさんに挨拶し、リレッサも戻ったことを告げた。
「おやっさん、ラシアはまだ寝てるんですか?」
「もう飯も食って、時間があるから一人でダンジョンへ行ったぞ。クランでの狩りもしばらく休みで、グオンもダードも別々に狩りに行ってるからな」
「またですか……いつまで経っても、一人でダンジョンに行くのは変わりませんね」
「おやっさん。何処に行ったか分かるけ?」
「ああ。消臭玉と高級石鹸の材料がなくなるから、鉱山ダンジョンへ行くって言ってたぞ。あと少し気になることがあるそうだ。適当に狩りをしたら帰ってくるって言ってたぞ」
なるほどーとティーガーは少し考え、ラシアがいつ出ていったのかを聞いた。どうやら自分達が宿へ戻るのと入れ違いになるぐらいの時間だったらしい。
場所が場所だけに大丈夫だとは思うが、友人が怪我をしても面白くない。今日はこれ以上やることもないので、ティーガーはラシアの後を追うことにした。
「というわけで、虹竜に乗ってぴゃーって行ったらすぐに追いつくやろ。ちょっと行ってくるわ」
「分かりました。ティーガー、ラシアをお願いしますよ」
「あいよ」
……
…………
今日に限ってやたらと混んでいた受付を済ませ、ポータルを抜けたラシアは鉱山ダンジョンに来ていた。
超級ダンジョンを踏破できる者がこんなところに用事はないと思われるかもしれないが……そうでもない。
ナットンとの会話で、どうしても気になることがあったからだ。
そんなことを考えながらラシアが進んでいると、後ろから声が聞こえた。
「ラシ発見! ウチもついていくで!」