ラシアが鉱山ダンジョンにいるのは、ナットンとの会話で思いついた一つの可能性を潰すためだ。
その可能性とは、ラシアの記憶を基にこの世界が作られているというものだ。モンスターは記憶にない行動を取り、ダンジョンから出ればできることも大幅に増える。そのため可能性は低いと考えている。
それでも、ダンジョンだけはラシアの記憶を基に作られているのではないかとも考えた。モンスターの配置もドロップするアイテムも、ゲームと同じだからだ。
だが以前トロッコⅤを倒した時、ラシアの記憶にはない地下遺跡が現れた。記憶と連動しているなら、知らない物はダンジョンに存在しないはずだ。それでも実際にあったのだから、その確認に来たのだ。
少し忙しくて忘れていたが……今日はその調査も兼ねて鉱山ダンジョンに来ている。
一人で行ってパパッと見て帰るつもりだったが……ティーガーが追ってくるとは思っていなかった。
詳しいことまでは言っていないが……ティーガーには、時間ができたので調査に来たとだけ伝えている。
「なるほどなー。それやったらクランメンバーと一緒に行ったら良かったのに」
「以前、案内のために軽く見ましたが、何かあったら危ないので」
「まー、ほぼ未発見の遺跡やしな。一応は報告に上がっとるけど、Xぐらいの冒険者じゃあの辺の岩盤をぶち破れんから、再調査できひんって言うとったで。Z雇うと高いしな」
「なるほどー。トロッコⅤがやったことですから、何とも」
「まー、今から行くのにそれを言い出したら『どうやって入るんですか?』ってなるけどな。まあそれはええけど、早速向かう感じか?」
「いえ、消臭玉とか高級石鹸の材料が欲しいので、モンスターを倒しながら行きたいですね」
ラシアがそう言ったので、ティーガーは周囲を見回した。初級から中級ぐらいまでの冒険者がとても多い。
消臭玉も石鹸も生活必需品になりそうなので、材料を求める冒険者が増えるのも仕方ない。
「あれやな。セレットさんも儲かってしゃーないやろな」
「どうなんでしょうね? 材料の取引価格とかも上がってますから、思いのほか儲かってないかも? でも高級石鹸も消臭玉も登録してあるから、そのお金は入るのか」
「びっくりするぐらいの金額が動いてるかもな~」
そんな話をしながら進んでいく。スカルピッケルは攻撃力だけは少し高いが、動きが遅く、こちらから攻撃しない限り襲ってこない。この辺りは初級冒険者にちょうど良い狩り場なのだ。
たまに遭遇するスカルピッケルや鉱石コロガシを倒し、アイテムを回収するのだが……ここでもやはりゲームとの違いが少し出てくる。
これだけ狩り場に人がいるのに、モンスターが横湧きするところを見かけない。ゲームではダンジョンのフロアごとに、モンスターの数が決められていた。
この世界がゲームの設定と同じなら……モンスターの一体ぐらい横湧きしても良さそうだが、それがない。何かこう、死角で湧き、いつの間にかそこにいる感じなのだ。
ゲームよりもダンジョン自体が広いため、たまたまだと言われればそうかもしれないのだが……。
「ティーガーさんは、モンスターが湧くところを見たことありますか?」
「あるで? それがどうしたん?」
あると答えられるとは思っていなかったので、ラシアはかなり驚いた。詳しく聞いてみると、ラシアが想像していたものとは少し違っていた。
ちょうどこの場所のようにアンデッドが出てくるダンジョンで、足下から湧いてきたらしい。
「あー……思ってたのと違うけど、そういう湧き方もあるのかー」
「あれか。ラシが気にしてるのは、モンスターの絶対数と何処から来たかやな?」
「え? そんなのあるんですか?」
ティーガーは、ラシアが知らなかったことに驚きながら話し始めた。大昔というほどではないが、そうした実験が行われたことがあるそうだ。
ある学者が、ダンジョン内のモンスターの数はおそらく決まっていると考えた。そして大量の冒険者を配置し、全てのモンスターを倒したらどうなるのかを実験したそうだ。
結果は面白いことに、場所によって土の中から出てきたり、空を飛んできたり……いつの間にか死角に湧いていたりしたとのことだ。
「だからアホほど湧くこともないし、全くおらんって話にもならんわけやな。その実験をきっかけに、ダンジョンが一日で元に戻る現象の研究も進んだって話やな。この間の天使みたいに、見えへんところで復活しとるんやろな」
「なるほどー」
「あとは、ダンジョンの外にウチら人間の世界があるように、モンスターの世界もあって、そこからダンジョンに入っとるって説もあったな。まあそれは、入り口と出口は何処やねんってなって消えた説やけどな」
「ふむ。確かに入り口や出口はないですけど、その考えもありそうですね」
「夢に入るドラゴンもおるぐらいやしなー」
この辺りのモンスターなら、油断していても二人が負けることはない。話をしながら第二階層へ進むが、やはりここも人がとても多かった。
ラシアは聖銀鋼の鎧に身を包んだフル武装で、ティーガーも完全装備のうえ虹竜に乗っている。しかも虹竜まで、妖精のポーチから出た厳つい見た目の装備を身につけているので、やたらと目立つ。
そして竜に騎乗しているのは、この国ではティーガー、グオン、ロディーの三人しかいない。周囲から「あれって聖騎士の紅虎だろ?」とか「隣は白獅子か? こんなところに何の用だ?」などと聞こえてくるので、割と恥ずかしい。
じゃあ普段着ている軽装でもいいんじゃね? とは思うが、トロッコⅤがいるかもしれないし、何が起きるかも分からない。最初から最強装備で来た方が安全なのだ。
そのまま三階、四階へと降りていくと、モンスターも強くなり、初級者は姿を消して中級者が中心となる。上級の冒険者もちらほらと見えてきた。
「さっきよりは人が少ないねんけど……トロッコⅤでも狙っとんか? しかし人気のダンジョンになったな。前なんか全然おらんかったのにな」
「ですね。私も前に来た時は全然人がいなくて楽でしたが……」
ドゴォォォン!
ラシアの言葉をかき消すように、戦闘音が鳴り響いた。ラシアとティーガーがすぐにその場へ向かうと、冒険者達がトロッコⅤと戦っていた。
以前ラシアが倒してから数か月ほど経っているため、鉱山ダンジョンの時間湧きボスであるトロッコⅤが復活していたのだ。
しかもちょうど戦っている場所は、以前地下遺跡が現れた辺りだった。そのためラシア達は、戦いが終わるまで観戦することになった。
戦っているパーティーのリーダーは魔法使いなのだろう。様々な魔法を駆使し、仲間を支援している。
「ノアよりは弱い感じやな。ってことはSとかAのクランって感じか。支援もおるし、押し切れるか?」
「ノアさん、Sだったと思いますけど、かなり優秀ですからね……というか、ウチのクランには優秀じゃない人がいないという」
「ダードとかビエット、エリエスもランクの割に優秀やしな。グオンやグオン組も歴戦って感じがするもんなー。というか普通に、おかんがグオンを狙っとるしな。ローウェンテニア時代みたいに、竜に騎乗する部隊を作りたいんやと。今やと空中が弱いさかいなー」
「その辺はグオンさんに直接交渉して頂けると……クラン的には困りますけど、決めるのはグオンさんなので」
「ラシのそういうところはあかんな。今回もそうやけど……人付き合いが苦手なんはしゃーないとしても、人との関わりが希薄というか、無関心みたいなんはあかんで。世の中、変な奴ばっかりやから避けたくなるのも分かるけどな」
「うぐ……気をつけます」
「仲間は大事にせんとな!」
ラシアが見守る中、爆裂魔法の凄まじい音が坑道に響き渡り、戦闘は徐々に終わりへ向かっていく。
危ないところは幾つもあり、ラシア達が手を貸そうかと思う場面もあったが……最後まで立っていたのは冒険者達だった。彼らはトロッコⅤを撃破し、大きな魔石とドロップアイテムを手に、クランメンバー同士で喜び合っていた。
そしてひとしきり喜んだ後、白紙のスクロールでゲートポータルを使用し、冒険者ギルドへ帰還していった。
「なかなかやるやんけ。危ないところもあったけど、冒険者もやるやんけ」
先ほどまで冒険者達が戦っていたところへティーガーが降り立ち、ラシアもそれに続いて降りていく。
そして以前、遺跡を発見した辺りを調べるが、ダンジョンは一日で元に戻るため、遺跡へ続く道は消えていた。
「ラシはどの辺か覚えてるん?」
「はい。大丈夫ですよ」
ラシアはプラティディオンハンマーを構え、少し強めに地面を何度も叩いていく。すると大体予想していたところで音の質が変わり、下に空洞があることが分かった。
「コル・クール・パル」
目星をつけた辺りにスキルで透明な杭を出現させ、ティーガーに少し離れてもらった後、ラシアはプラティディオンハンマーでその杭を叩き込む。
すると光が天へ昇るように、辺り一帯が光の粒子となって消え、隠し遺跡へ繋がる道が現れた。
ラシアが「行きましょうか」と声をかけると、ティーガーは「ちょっと待ってな」と答え、何かを書き始めた。
そして書いた物を、その辺りに落ちていた木の棒へ貼りつけ、穴の横に突き刺した。
「それは?」
「注意喚起やな。入ってくるのは自由やけど自己責任やから、白紙のスクロールを持ってくるように書いといた」
「なるほど。私達も中に入ったら、帰還石を使えるか見ておかないと駄目ですね」
そしてラシア達は開けた大穴へ入り、奥へと進んでいく。
途中まではラシアも入ったことがあるが、そこから先は知らない場所を進んでいく。
中には壊れたゴーレムなどが大量にある。どういう仕組みかは分からないが、思ったよりも明るく、明かりまでは必要なかった。
そして広い空間へたどり着いた。