ラシア達がたどり着いたのは、金属のようでもあり石材でもあるような、変わった材質でできた部屋だった。色は違うが、トロッコⅤやゴーレムといったモンスターもこんな感じの素材でできており、部屋はよく分からない幾何学模様に彩られている。
「この前来たルインエルデの調査隊も、この辺までやったんやんな?」
「らしいですよ。セレットさんも凄く行きたがってましたからね」
「それやったら誘ったったらよかったんちゃうんか?」
「セレットさんを誘うと、いつ帰れるか分からないですからね」
ラシアはティーガーと少し離れ、辺りを調べる。こんな場所があったことをラシアは本当に知らなかった。
これで、ラシアの記憶からこの世界が作られているという可能性は消えた。記憶にない場所が実際に存在しているからだ。
それに鉱山ダンジョンはゲーム開始当初から存在し、廃人達に調べ尽くされている。ゲーム内にもこの場所があったのなら、今まで見つからなかったとは考えにくい。
だから……こちらの世界がゲームに干渉しているという説もかなり薄いだろう。
(となってくると、クリスマスとかに出てくる赤い三角帽子を被ったモンスターも、いなさそうだなー)
その辺りは帰ってからおやっさんに聞けば良い。これでラシアの記憶にない場所を訪れるという目的は達成された。
もう帰っても良いのだが……未発見のダンジョンというのも気になるので、もう少しここに残って調べることに決めた。
「ティーガーさん。何か分かりましたか?」
「分からんっていうことが分かった! ……それは冗談やけど、造り的には古代のダンジョンに似てるな。壁の模様とか、よう似てるもんな」
「ですよね。足下に転がってる部品とか、ゴーレムの物ですしね」
「やんな? ウチもそう思ったけど……ゴーレムを作る施設か?」
「にしては狭いなーって感じですよね?」
ゲームにもなかった場所を、ラシアはティーガーと調べていく。神殿のようにも思えるし、工場のようにも思える。そんな変わった場所だ。
そしてラシアが調べているうちに、ほかの場所とは少し音が違い、ここへ入ってきた時と同じように壁の反対側に空洞がある場所を見つけた。
そこをよく調べると僅かなくぼみがあり、それが扉になっていることが分かった。
ラシアの目的は達成されたので、このまま帰ってギルドに報告しても良い。だがティーガーに相談すると、面白そうだから進んでみようということになった。
罠を発見できる職はいないが、ラシアとティーガーの二人なら、不測の事態が起きてもある程度は対応できる。これで調べられないほど危険なら超級ダンジョン並みの難易度になるだろうと考え、ラシアはその扉らしき壁を破壊した。
すると……思っていたとおり通路があり、二人は中へ入っていく。
その通路は思った以上に長いが……モンスターなどの気配も全くせず、遺跡自体が死んでいるようだった。
「こう、何かモンスターがいっぱい出てくるかと思ったけど、出てけえへんな!」
「ですねー」
そんな話をしていたが、道が長いうえに似たような景色が続くので、ティーガーがとんでもないことを言い出した。
「よし! ガールズトークでもしよか! ラシは誰が好きなん?」
修学旅行中の男子中学生みたいなことを言い出したので、ラシアは本当に吹き出しそうになる。何とか我慢し、何でそんな話になったのかを尋ねた。
「そら、パルにノアに姫様やろ? 真面目、天然、無敵って揃っとるから、誰が本ちゃんかなーと。個人的にはティアかなーとは思う。他におったら言わへんから、教えてくれてもええんやで?」
「そこにティアちゃんを入れたら駄目なのでは?」
ティアは十一、二歳ぐらいで、ラシアは十九歳ぐらいだ。ティアが成人すれば年齢差としてはそんなものかとも思うが、今はそういう話ではない。何でティアまで候補に入り、こんな話になったのかとラシアは頭が痛くなる。
「ティアちゃんは妹枠ですからね。……というか未知の遺跡ですよ? やめません?」
「やめません。気になるやん。ちなみに同性やんとかいう返しはなしやで? 貴族でも平民でもおるしな」
ラシアの中身は男性なので、こういう話をされると本当に困る。だがある程度ではあるものの、ティアを除く三人から自分へ向けられている好意は分かる。
姫様は夜になるとベッドに忍び込み、ボディタッチも多い。ノアは態度が分かりやすく、ティアもたまにそのことを教えてくれる。パルサーも外ではめっちゃ怖そうな顔をしているが、ラシアを見つけたり話しかけたりする時には花が咲いたような笑顔になる。
これで自分のことを嫌いだと言われたら……人間不信になる自信はある。それでもラシアは誰も選ばない。
元の世界に帰るという目的だけは、ラシアの中で決してブレない芯だからだ。好き嫌いの問題ではなく、全員が友達枠だとだけティーガーに伝えた。
「なるほどなー。帰るってローウェンテニアやんな?」
「……そうですよ?」
「よし。ウチの秘密も教えたるから腹割って話そか。前から気になってたんやけど、ラシって中身は誰なん?」
急にそんなことを言われたので、ラシアは驚いて距離を取る。だがティーガーの雰囲気は変わらず「別に誰でもええねん。ウチが気に入ってるのは今のラシアや」と続けた。
どうしてそう思ったのか気になって尋ねると、ティーガーは子供の頃から、名前を伏せられたままラシアの話を聞いていたそうだ。ただ……聞かされていた人物像と今のラシアには大きな違いがあり、初めて会った時は「本当に本人か?」と思ったらしい。
「ロディーから聞いた私って、どんなのでした?」
「敵は問答無用で殺すやろ? あとは『はい』『いいえ』しか喋らんというか、ほとんど喋らん。社交性ゼロやろ。他にも色々あったなー」
「今とそんなに変わらないのでは?」
「全然ちゃうやろ。これは一番ウチが疑問に思ってたことやけど、年の割にモンスターとかアイテムにやたらと詳しいことやな。確かラシって十九歳ぐらいやろ? 仮に十五歳とかその辺でもええし、もっと前からモンスターを倒し始めたとするやろ? ほんで十七、八歳で王族直属の騎士になったとしたら、時間がおかしいよな」
ティーガーの違和感は、ラシアの年齢と知識量が釣り合っていないことだった。ロディーから聞いたラシアは本当に強かったが、ほとんど話さないため過去は分からない。それなのに、ほぼ全てのモンスターやアイテムを知っている。
だから……ロワンテと同じように、体はラシアでも別の人の魂が入っていると思ったそうだ。ただ、スキルなどは以前のラシアと同じように使えるため、それも含めて何かがおかしいと感じていたとのことだ。
「別に誰でもええんやけど、その辺どうなんかなーと」
こればかりは、どう説明すれば良いのか本当に悩む。この世界にラシアが実在していたとしても、ゲームのラシアを動かしていたプレイヤーもまたラシアなのだ。
リレッサにはすでに伝えてあるので、別の意見が欲しいという気持ちもある。問題になったらなったで構わないという思いもあり、何よりティーガーをそれなりに信用している。ラシアはしばらく悩んだ末、全てを伝えた。
……
…………
話を聞いたティーガーは考え込み、ようやく考えがまとまったようで口を開いた。
「なるほどなー。簡単に言うたら、おかんが知ってるラシアとは違う世界のラシアが入ってる感じやな」
「もの凄く簡単に言えばですけどね」
「ほんでラシは強いけど、素人みたいな動きする時あんねんな」
「中身は一般人ですからね。というかティーガーさん、別の世界とか言っても全然驚かないですね」
「今更感半端ないな! ラシが今いる場所は何処でしょうか?」
そう言われて今いる場所を思い出すと、ダンジョンもいわば別の世界なので、本当に今更だ。
「そういうわけで、私は元の世界に帰る方法を探しているという感じです」
「なるほどなー。ということは……ラシはローウェンテニアのラシアを、ゲームとかいう圧縮された世界を通して見てたと考えた方が楽かもな。その辺は姫様、何て言うとったん?」
「似たようなことを言ってましたね。姫様は、私がローウェンテニアのラシアの意識というか、その動きに干渉していたのではないかと言っていました」
「似たような感じやな。で……ラシの中身って男なんやな?」
「そうですよ」
「じゃあ……ち○ち○生えてるんけ?」
いきなり別方向から攻撃され、ラシアは吹き出してから反応する。
「体は女性なので生えてませんよ! いきなり変なことを言わないでください! というか赤くなるぐらいなら言わないでくださいよ!」
「しゃーないやんけ! 気になるやん! ってことは、ラシって下着とかどうやって買ってるん? 姫様に買いに行かせてるんけ?」
「そんな騎士がいてたまるかって話でして……こちらの世界に来る時に、そういうアイテムがありまして……」
何が悲しくて、未発見の遺跡でこんな話をしなくてはいけないのかとなるが……ティーガーがもの凄く食いついてくるので仕方がないのだ……。
そしてそのアイテムを取り出し、ラシアは顔を真っ赤にして説明した。
「というわけで、ウチもそのめっちゃ便利な下着セットみたいなアイテムが欲しい」
「どういうわけか知りませんが……運が良ければ妖精のポーチから出ますよ」
「よし、ほんだら今から超級行こや。ラシがハンマーしたらすぐやろ!」
「何でパンツのために、命懸けで超級まで数日かけて行かないと駄目なんですか! 行きませんよ!」
それからしばらく言い争いが続いたが……ようやく不毛な争いだということに気づき、二人は歩き始めた。
「そんなわけなので、味方になってくれとは言いませんけど……言い触らさないでくれたらと思います」
「全然ええで。ティーガーお姉ちゃんに任せとき。ラシの味方したるわ! ちゃんと帰った後のことも考えてるみたいやしな」
「最近は本当に帰れるのかって思うようにもなりましたけどね」
「気にするところはそことちゃうけど……まあええか! ほんだら約束やし、ウチの秘密も教えたろ。何がええ? スリーサイズやったら上からきゅうじ……」
「別に言わなくていいですよ! 隠したいから秘密にしているのでしょうし、とくに聞きたいとは……」
「ほんだら何がええかなー」とティーガーが言っているうちに、二人はようやく長い通路を抜け、かなり広い空間へ出た。
そこでティーガーは、本当にさりげなくとんでもないことを口にした。
「そうそう。ウチの父親やけどな。デルパロア大公やからな」
「へぇー…………はいぃぃぃ!?」