ロマン職は異世界から帰りたい   作:庶民ザウルス三世

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第19話 遠征講習

 

 先ほどまでは鼻歌でも歌えそうなほどラシアの機嫌は良かったが、今ではどんよりとした雲がかかっている様な気分になっていた。

 

 ラシアはこの世界に来て唯一、自身にメリットだと思っている事がある。それは女性になった事でも、LV100でも装備を持ってこれた事でもない。

 

 人間関係の希薄さだ。

 

 誰かが困っていても助けないし、誰かが亡くなっても気にも止めない。仲間が死んでも次の日には新しくパーティーを組んでいる。

 

 人と人とのつながりはあるが……薄いというか、こういう世界だからこそ生きるためには何をやっても良いという感じだとラシアは思っていた。

 

 外では毎日のように誰かが何かを盗まれているし、冒険者も普通に亡くなっている。

 

 それが当たり前と言わんばかりにだ。

 

 確かに治安の悪さはしんどいが、お互いがお互いに干渉しない距離感だけは気に入っていた。

 

 のだが……ここに来て王都までパーティーを組んで行ってこいとか、どういう拷問かと。

 

「ラシアさん。凄い嫌そうですね。先ほどまで機嫌良さそうでしたのに」

 

「……実際いやですからね。なぜ知らない人とパーティーを組まないと駄目なのか……」

 

「……でしたら大丈夫ですね。パーティーになる方はラシアさんが前に助けた方もいますし、Aランクのノア・ラステルさんがラシアさんが行く時があったら引率行きますと言ってくれていますので、知り合いの方は多いと思いますよ」

 

 ラシアの頭の中で頭痛の鐘が鳴り響く。

 

 なぜアホほど冒険者がいる中で前に助けた人達とパーティーになる事があるのか……それにノアの事は魔道具屋で働いてる冒険者ぐらいしか知らない……こう中途半端に知ってるなら、全く知らない方が楽なのだ。

 

「だからどうしてさらに嫌そうになるんですか?」

 

「こう……中途半端に知ってると街中で会った時に無視できないじゃないですか?……あれに近い感じです。まったく知らないなら放置で良いですけど、変に知ってるから話しかけられるし話さないと駄目なので……」

 

 受付嬢は心の中で分かるわーと強く頷く。休みの日に買い物に行ってギルドに入った新人に会うような感じだ。こっちも無視できないし相手も無視できない。

 

 変に知っている方がめんどくさい……ではなく大変な事もあるのだ。

 

 それを言いそうになるが仕事中なので流石にラシアには言えない。

 

「ではランクを上げるのはやめておきますか?」

 

「諦めて……素直に行って来ます。講習っていつですか?」

 

「Bに上がれる方が一定以上集まると開催されますが、ラシアさんは運がよかったですね。今日の午後から開催されます。場所はこのギルドの二階になります。多少は遅れても問題ありませんが、遅れないでもらえると助かります」

 

「……わかりました。図書館で時間潰してまた来ます」

 

 そういってトボトボと歩いて離れていくラシアを受付嬢は見送る。

 

「あの人、前はぜんぜん話さなかったのに慣れましたね。今でも先輩以外と話してる所みませんけど」

 

「私もみないわね。普通は冒険者同士で情報交換したり、私達のような受付嬢と雑談して情報引き出そうとする人が多いんだけど……」

 

「冒険者に向いていない感じですよねー」

 

「悪く言うつもりはないけど確かにそうね。冒険者の人って悪く言えば強欲で、良く言えば夢を追いかけるタイプだから」

 

 受付嬢の二人がそんな話をしている間にラシアは近くの図書館にたどり着き、王都までの道のりや出現するモンスターの下調べなどをし時間を潰した。

 

 そして午後を告げる鐘が鳴ったので、もう一度冒険者ギルドへ行き二階にある講習会場へと向かった。

 

 会場は講堂のような作りになっていて、すでに何人かの冒険者が座って待っていた。

 

 こういう時は隅や角に座ると逆に目立つので、中央より少しそれた辺りにラシアは座った。

 

 そこなら見晴らしも良く、話もよく聞けて目立たないだろうという判断だった。

 

 まだ講習は始まらない感じだったので、図書館で見た王都までの道のりを紙を取り出し書きながら考える。

 

(10~15日を馬車でだから……400とか600キロぐらいか?馬車の平均が一日30~50キロぐらいだから……結構遠くないか?それでたまにモンスター出るんだろ?……かなりキツいかも)

 

 宿場町の数とか聞いておいた方がいいなとラシアが考えていると、書いていた紙に影がかかったので顔を上げると、三人の若い冒険者がいた。

 

 ラシアはその三人に見覚えがあった。苗木のダンジョンでウルフマンから助けた二人と、逃げてくれた人だ。

 

 確か三人でパーティーを組んでいるのを見たことがあり、元気そうで何よりと思っていると、とんがり帽子を被った魔法使いの女性が頭を下げた。

 

「この前は助けて頂いてありがとうございました!もう一度お礼を言いたかったんですが……中々お会いする機会がなかったので」

 

 それに釣られる様に他の二人もラシアに頭を下げる。

 

 礼なら死者を弔っている時に聞いたし本人はあまり気にしていないので、反応に少し困る。

 

 周りからの目も気にはなるが……何というか若い子特有のまぶしさが強い。ラシアが闇ならこの子達は光属性だろう。

 

 無視する訳にもいかないので頑張って声を出す。

 

「大丈夫です。皆さんも講習ですか?」

 

「はい!私はエリエスと言います」

 

「俺はダードだ。見ての通り剣士だ。あの時は助かった」

 

「僕はビエットといいます。ありがとうございました」

 

 そういえば名乗ってなかったなとラシアは思い、ラシアです。と簡素に言った。

 

 エリエスは戦っていた所を見たことがあるので魔法使いの地属性型。ダードは自分で言った様に剣士。腰に剣があるのでタンク兼前衛の盾持ちだろう。ビエットは折りたたみ式のクロスボウを担いでいるのでアーチャーだろうとラシアは考える。

 

 ラシアのキャラクター設定は確か19歳だったはずなので、それよりは若く見える。15~17歳ぐらいだろう。

 

「ラシアさんも中級にあがるんですね!一緒に王都に行けるPTになると思うのでよろしくおねがいします」

 

「そういうのってギルド側が決める物では?」

 

「ある程度は決めるそうですが、今回は二組から三組ぐらいになるそうなので言っておけば一緒のパーティーにしてくれるそうです。初心者、初級者には優しくがモットーだそうですよ?」

 

「中級にあがってからが大変だそうだからな。上がるぐらいは楽させてくれるって話だ」

 

「と受付の方が言っていました」

 

 三人を見てラシアは思う。こいつらのせいかと……。ただ面と向かって文句も言う気も無いので、ラシアは心の中でため息をつき色々と諦める。

 

「それで?ラシアさんは何を書いていたんですか?」

 

 赤に近い茶色の短い髪がメモ帳をのぞき込む。日本語で書いてるつもりだったが字を書くとこの世界の文字に変換されるので、エリエスにも読めたようだ。

 

「はい。ここから10~15日ほどかかるらしいので、宿場や他の村があるのか講習の人に聞いておこうと思いまして」

 

「なるほど。ラシアさん強いので王都から来たのかと皆で話していたんですよ」

 

 そんな話をしているといつの間にか人も増え、時間になった様で講習をする人が入ってきたが明らかに冒険者の姿をしていた。

 

「よし。ガキ共ささっと座れ。説明するぞ」

 

 エリエスはラシアの隣に座り、ダードとビエットはその後ろに座った。

 

 こうすぐに人のエリアに入ってこれる人は光属性だなっとラシアが思っていると、冒険者の自己紹介がはじまった。

 

「Sランクでやってる冒険者だがギルドで教官という立場の者だ。そんなに会うことも無いから教官とでも呼んでくれ。訓練場によく来てる奴は知ってるよな」

 

 そう言ってラシアの方を向く。と言うよりもラシアの後ろにいたダードとビエットの知り合いだった様で、小声であの人はガット教官だと教えてくれた。

 

「と言っても簡単に言えば王都まで行ってポータルで帰って来るだけの話だ。難しい事はない。多少はモンスターも出るが最低でもAランクの冒険者が引率する。だから不必要に心配はするなよ」

 

 そして話が始まる。

 

 ただ王都に行って帰ってくるだけでは無駄なので、5~6人のパーティーを三組作り、行商の荷物を護衛しながら行くとの事だ。

 

 途中で村があり、そこで困っている事があればそれをこなしてから王都に向かうそうだ。

 

 そして日数的にもラシアが思っていた様に、寄った村の依頼や途中で戦闘になる事も含めると15~20日とかかるそうだ。

 

「結構かかるな」

 

「その間シャワーとかどうするんだろ?」

 

 という様な声が聞こえ、教官がそれに応える。

 

「まぁ途中に村はあるからそこでなら体ぐらい拭けるだろ。王都まで行けば大体の街につながるから大変なのは今回ぐらいと思っておけ。移動だけの話だがな。何か質問あるか?」

 

 目立つのは嫌だが命がかかってる事なのでラシアは手を上げて質問する。

 

 王都につくまでの宿場の数と出てくるモンスターの種類と基本的な遭遇率だ。毎回遭遇するようなら流通は崩壊するはずだからそこまで多くは無いはずだとラシアは思っている。

 

「ふむ……ここと王都の間に大きな都市は一つある。それと村を入れると九だな。出てくるモンスターは基本はクレイハウンドやクビカミキリ辺りが多い。遭遇率はそれほどは高くない。五回もあれば多い方だ」

 

「ありがとうございます」と礼を言ってラシアは座る。日にちに対しての村の数が少ないので、間違いなく野営の準備もいるなと考える。モンスターにしてもクレイハウンドやクビカミキリといったモンスター程度なら問題はないと考えた。

 

(でもこっちに来てすぐグランドドラゴン見たよな?外はあんなのがいっぱいいるわけじゃないのか?まー生き物だから移動する事もあるか)

 

「後は村の依頼を受けるか受けないかは自分達の判断でいい。ただ村にはポータルが基本的には無い。だから冒険者はいない。だから困った事があればこの町や王都に助けを呼ぶ事になる。ここや王都は冒険者、そいつらが問題起こした時に止める兵士がいるからモンスターも基本近寄らない。危ないからな。だが村は普通に襲われる事もある。それは忘れるなよ」

 

 いくら字を飛ばせる文字盤があっても街から村に行くまでには時間がかかる。その間に村にかなりの被害が出ることもあるそうだ。

 

(でも……ゲームだと職によったら記憶した場所に転移できる魔法とかあったけどそれはどうなんだ?……取ってたらそっちが物流のメインになりそうだけど持ってないのか?)

 

 それからも細かい話は続き、三日後にラシアは王都へと向かう事になった。

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