第190話 新たなる事
フェリスロステがおやっさんの宿に現れてから一日が経ち、先ほど使者が現れ、明後日には王城で話し合いを行うとのことだ。
その話し合いには、獣の王であるコアラキングとローウェンテニアの王女であるリレッサも参加してほしいらしい。ただ二人の参加は強制ではなく、あくまで意見を聞きたいとのことだ。
キングは行く気満々だが……リレッサは悩み中だ。自分が行ったところで……という感じだそうだ。
本当に町娘として生きるなら、そういうことから離れて生きていかないと駄目だとかなんとか。
ラシア的には無理なんじゃね? と思っているが……本人の努力次第だろう。
そしてフェリスロステだが、このルインエルデの街を見学に行っている。ティーガー、パルサー、ラオメ、レクトアが護衛兼案内役として同行し、リレッサもこの街に詳しいので一緒に行っている。
で、ラシアはというと、いろんなことを考えながらコアラの頭の形をしたクッキーを焼いている。どうしてそうなったかというと……キングが宿代ぐらい自分で稼ぎたいと言い出したからだ。
じゃあ冒険者で良いのでは? とラシアは言ったのだが、何でもかんでも暴力で解決するのはつまらないらしい。
で、ちょうどおやっさんが料理していたのを見て、何か作って売るのも面白そうだと言い出したので、散々悩んだ挙句、コアラの頭の形をしたクッキーを売ることになり、今に至るという感じだ。
「うむ。ラシアは料理もできるのだな! 敵を倒す以外には何もできぬと思っていたが……理性が残っていたようで良きことだ」
「フェリスロステもキングも、私を何だと思っているのだろう……」
「何を面白いことを言っている。死神であろうに!」
モンスターを見かけるたび、古い特撮の赤いアイツ並みに狩っていたのだ。白いアイツと言われても仕方ないなと、ラシアは色々と諦めて話題を変える。
「どうしてボスモンスター名鑑からフェリスロステが出たんだろう? 個人的にはフェリスロステとヴェユリテスアは同じ扱いだから呼び出されたと思うんだけど……キングはどう思う?」
「それが一番近いであろうが……我が思ったのは、ダンジョンにいる者は全てモンスター扱いになるのではないかということだ。我達のように言葉を話す獣を、この世界では獣人と呼んでいるだろう? 妖精も似たようなものだが……我もボスモンスター名鑑で呼ばれたのでな」
「でもそうなると……ボスモンスターとモンスターの違いって何だ? 強さ? 魔力?」
「それは人が勝手に分けた物差しであろう。強いて分けるなら、持っている魔力の大小であろうな」
「あっ、そうか。思い出した。体内に魔石を持っているかどうかが、動物とモンスターの違いだ。その上で、あとは強さって感じか」
「その考えでいくなら、フェリスロステが呼ばれた理由は明々白々であろう。かの者も魔石を持つ強者であるからな」
ゲームでは、人間の体内に魔石が生まれると、アンデッドなどのモンスターになる設定だ。深淵のダンジョンにいるハイヒューマンも、人間に魔石が宿ったモンスターの一種である。
そこでラシアは、ゲームでNPC扱いだったフェリスロステを呼び出せるのなら、他のNPCやプレイヤーも同じように呼び出せるのではないかと思った。それならラシアが呼ばれた理由にもなりそうだが……いまいちピンとこない想像だった。
「フェリスロステのことはそれでいいかって感じだけど……分からないことが多いなー」
「考えるのは大事だが、そんなものと諦めることも大事だぞ。キリがないのでな」
「よく言われますわ」
そしてクッキーが良い具合に焼き上がった。取り出してからしばらく話しているうちに冷めたので、いつの間にかテーブルに座って待っていたセレットとティアのもとへ持っていく。もちろん、その横でくたばっているフウコウにもだ。
「作り方はあんな感じだから、分からなかったらまた聞いて」
「うむ。あれなら作れそうであるな。問題はかまどだが、そこはグオン達のを借りればよかろうな。この宿のは主人の邪魔になるのでな」
そんなことを言いながらテーブルに着き、ラシアも食べ始める。なかなかうまく焼けたようで好評だった。
「しかしあれよね~。呼び出されたのがキングさんとかフェリスロステ様で良かったけど、フウコウちゃんの不幸って想像以上よねー」
「そんなことはないにゃ!」
フウコウは反論するが……ラシアも頷く以外の選択肢はないのだ。
「フウコウさんは……教会に行ってお祓いした方が良いかもしれませんね」
「おみゃーまでそんなこと言うかにゃ……実は前に行ったことがあるんにゃけど、女神様の像に祈ったら腕が折れて目の前に落ちてきたから、色々諦めたにゃー」
「さすがはフウコウさん……」
「違う方向にその才があれば、歴史に名を残すような英雄になっておったかもしれんな!」
「まぁ、こればっかりは仕方ないにゃー。たまには良いこともあるし、付き合っていくしかないにゃー」
そんなことを言っていると、ティアが「フウコウにクッキーあげる!」と言ってフウコウの皿にクッキーを載せていき、そのまま頭を撫でられていた。
話が一段落したところで、セレットがラシアに質問する。次はどこのダンジョンへ行くのかという話だ。
それに関してはラシアもすごく悩んでいる。行くならもう超級ダンジョンなのだが、踏破した地星のダンジョンに比べれば、他はきつくなってくる。
地星のダンジョンはとても広く、強力なモンスターも多い。確かに大変だが、フィールドダメージなどのギミックがない分、まだ戦いやすかった。
一方、獄炎や絶冬では、アイテムや装備で対処しなければ炎や冷気によるダメージを受ける。
天風に至っては浮島が舞台で、そもそもそんな場所で戦えるのかという問題がある。聖陽では出現するモンスターが全て聖属性で、プレイヤー側も聖属性の防具を装備しなければダメージを受け続ける。ラシアは行けても、他のメンバーは行けないのだ。
「行くなら……ウィングブーツを買うか取りに行くかして、全員分そろえてから獄炎か絶冬ですね。で、絶冬は王都から繋がっていないと聞きましたので、獄炎かなーと」
「冒険者ならポータルを使って移動できるから早いけど、普通の人なら運河を船で北に向かうって感じだからね~」
「その辺はクランメンバーと要相談ですね。それに今はキングやフェリスロステ……この辺りは大丈夫でも、天使のこともありますし」
「ラシアちゃんって冒険者のはずなのに……騎士団みたいなこともやってるわよね。いるだけで抑止力になってるし」
「それはそうであろう。子が悪いことをしたときは『ローウェンテニアの死神が来るぞ』とよく言うものであるからな」
「言いませんからね」
「ラシアさん、死神だったの!?」
「ティアちゃん。コアラの言うことは信じてはいけません」
「おみゃーの昔話を聞いてると、あながち嘘とは言えないにゃー」
そんな話をしていると、出かけていたノアが戻ってきた。ノアの分の飲み物と残ったクッキーを用意して事情を聞くと、冒険者ギルドで依頼を見てきたようだった。
「何かいいのありました?」
「今は王都の復興に必要な物資が多いから、運搬とか材料集めの依頼が多いんだけど、その辺は受ける人も多くて報酬が安くなってる感じだね~。あっ、そうそう。フウコウさん。冒険者ギルドから呼び出しがあったよ」
「にゅうん? わっち何もしてないにゃー」
「悪い感じじゃなかったよ。ランクの話をしてたから、ランクアップの話じゃない? フウコウさんってSだから、Xになるのかな?」
「ラシアとかパルサーとかティーガーとか見てると……迂闊にXになっても良いものかとは思うにゃー。そもそもラシアがXなのも頭おかしいにゃ」
「それは私も思う」
なんてことを言っているが、ラシアから見てもフウコウにはXランク相当の実力があると思う。冗談抜きで、あの不幸体質でここまで五体満足で生きているのは、身体能力がずば抜けて高いからだ。
職は支援型のダンサー系なのに、前に出ても戦えるし、後ろにいて狙われても高い身体能力で普通に躱す。これが同じ後衛のノアだとそうもいかない。ノアも勘や経験で躱すのだからすごいが、フウコウは見てから躱せる。これが本当にすごい。
だからティーガーやパルサーに聞いても、フウコウがXになるなら「そうだろうなー」としか言わないと思う。
「なったらなったで……仕事が増えそうにゃ」
フウコウは錬金術ギルドというか、ガロニアに雇われている冒険者なので、Xランクになるのなら独立すればいいのでは? と思うが……フウコウにも色々あって、ガロニアを放っておけないんだろうなとラシアは思っている。
宿に来るメンバーの中で、たぶん一、二を争う常識人枠だからだ。割と不幸だけども……
「そうそう、ラシアさん。しばらくダンジョンに行く用事がないなら、護衛の任務とか受けていい? ダンジョンとか行かないやつで、朝行って次の日に帰ってくるの」
ラシアが「大丈夫ですよ」と伝えると、その依頼にはセレットも心当たりがあったようで、ノアに質問する。
「ノアちゃん。それって、ここから水晶の泉にできた研究所までのやつ?」
「それそれー。受ける人がいないのと、私も水晶の泉を見たいから受けようかなーっと。あと研究所も見たい!」
「でっかい水晶の塊があるのと、錬金術師の建物があるぐらいで、特ににゃんもないにゃ」
その水晶の泉を作ったのはラシアだが……現状どうなっているのかは、確かにラシアも気になるところだった。
「そこって何を研究するところなんですか?」
「ガロニアさんは、ポータルとかそっちを研究する場所だって言ってたわよ。ラシアちゃんも気になるなら行ってみたら? 最近ガロニアさんを見ないから、たぶんそっちに行ってると思うの。会えたら色々教えてくれると思うわよ?」
「え……気にはなりますけど、調子の良い時ばっかり話しかけんじゃないよ! とか言われません? 普段あまり話とかしませんし」
ラシアは別におかしなことを言ったつもりはないのだが、皆から何とも言えない視線を向けられる。
「にゃー。それは大丈夫にゃ。ガロ婆は性格終わってるけども、気に入らない奴には近寄らないし話もしないにゃ。ラシアが行ったら、機嫌良く講釈を垂れてくれるにゃ」
それはそれでなんか嫌だし、行かなくていいかなーと思っていると、ティアが行きたいと言い出したので、ティアに激甘なラシアも行くことに決まった。
「暇そうならフェリスロステも連れて行くか。奴は魔法関係にやたら詳しく、ポータルも制御できるし」
「え? フェリスロステ様ってそんなことできるの? さすがは妖精女王……そうなると私も行こうかなー。気になること多いし」
「我はこちらでクッキーを焼いて販売しておるのでな。この宿ぐらいなら守ってやるので、好きに行ってくるといい。だが行く前に、開業の資金は貸してほしいところではある!」
それからしばらくしてリレッサ達が戻ってきた。今の話をすると、水晶の泉へは城での会談が終わってから向かうことに決まった。