ノアが受けた護衛依頼について行くため、ラシア達は馬車の中だ。一応は依頼だが、道中はたまにクレイウルフなどが出てくる程度なので、水晶の泉を見たいというティアも同行している。
仕事にティアを連れてきて大丈夫かとも思ったが、同行するセレットは有名な錬金術師で、その師にあたるガロニアも有名人なので、研究所側も問題ないとのことだ。
「街を出て王都以外に行くのは初めてだから楽しみ!」
「そうなの?」
「基本的に街の外って、どこにモンスターがいてもおかしくないからね~。住んでる人達は本当に用事がないと出ないかなー。兵士の人達が巡回してたり、冒険者にそういう依頼があったりするから、モンスターはほとんどいないけど、それでもゼロじゃないからね~」
冒険者として高ランクになってくると……忘れがちだが、初心者ダンジョンに出てくるマウスマンが相手でも、年に数回ほど冒険者になったばかりの初心者が亡くなっている。
モンスターの中で一番弱いと言われるマウスマンですら、人を殺せる強さなのだ。だから本当に戦えない一般人からすれば、モンスターは脅威でしかない。
「マウスマンぐらいなら、村では鍬を持った人達が倒してるってよく聞くけどね。ラットマンとかになると、数人で囲んで倒さないと駄目かもー」
「……じゃあ、前に出会ったキッチョウとかバスタースワローって普通に災害では?」
「そもそも遠距離攻撃のできる飛行型のモンスターって時点で、倒せない冒険者も多いからね~。ラシアちゃんも苦手な部類じゃない?」
「倒せと言われたら倒せますけど、戦いたくないですねー」
あとは冗談のように聞こえるが、村ではファンタジー小説のように大人の目をかいくぐって子供が村から離れた所へ行き、モンスターの餌食になることも本当に多いらしい。
この世界は本当に住みにくいなというのがラシアの感想だ。村と街で格差があるのは仕方がないが……命の危険が本当に段違いなのだ。ただまぁ、王都に住んでいるからといって安全というわけでもないので難しい。あそこはあそこで貴族様が跳梁跋扈しているからだ。
「住みやすい街がない! お家に帰りたい!」
ラシアがそんなことを言うと、フェリスロステが反応するように声を上げた。
「妖精の国に来ますか? ラシアが来るというのなら好待遇で迎えますよ? 戦いは妖精達に任せればいいので」
「年を取って戦えなくなったら何をされるか分からないので、やめておきます」
「その時は私と茶飲み友達になってくれればいいのです」
こいつはこいつで絶対に何かしそうなので、妖精の国にも住みたくないというのがラシアの感想だ。
研究所へ向かう道はある程度舗装されているので、モンスターさえ出なければ本当に平和な道だ。
そんな平和な道を進みながら、ラシアが考えるのは会談の内容だ。
全てを聞く必要もないので、フェリスロステとキングからある程度の内容だけ聞いた。前から言っていたように、フェリスロステを女王とする妖精の国の建国を認め、隣国には王都バルザエインの名で、建国に賛成するとの署名を送るそうだ。
ラシア達が戻ってから、妖精の国には隣国から接触があったらしいが……問答無用で黙らせたそうだ。
大国の王都ですら妖精達に力で押し切られたのだから、他国では無理だなという話だ。
あとは妖精の国でも人が増えつつあるとのことだ。家が余っているため、戦火を逃れてきた者達は妖精達から仕事をするなら住んでいいと言われ、その数を少しずつ増やしているのだそうだ。
「モンスターの脅威があるのに、何故人間同士で争うのか……」
「それは私やキングも思っていたところですね。私達妖精は仲間同士で争うようなことはありません。瘴気にやられた黒い妖精や、イタズラ妖精は別口ですが……キングの配下達も、喧嘩をすることはあっても争いにはならないと言っていました」
その辺はモンスターの方が優秀だと思う。人はすぐに争うし命を奪う。人同士がある程度仲良くすれば、モンスターの退治も楽になると思うが……この世界は物騒なので、どうしようもない感じだ。
「あとは頼まれ事ですが、天使達がいる国とはポータルを切っておきました。冒険者の移動などにも影響はあるでしょうが、天使達が王都に入ってきますからね」
「フェリスロステはポータルをいじれましたもんね」
「はい。あとは研究所から戻ってからになりますが、ルインエルデから繋がるダンジョンを増やしてほしいと依頼がありましたね。リストはもらいましたから、中級ダンジョンをいくつか開放してほしいとのことです」
毎回王都に行ってからダンジョンへ向かうのも面倒なので、それは便利になる。あとは少し距離があるが、妖精の国の一つ手前にある都市とも、王都からポータルを繋げておくとのことだ。
まぁ、結構な金額が動きそうな話だったので、かなりの数の奴隷が妖精の国に渡されたとのことだ。良かったか悪かったかは、本人達の受け取り方次第といった感じだ。主人が妖精でも気にならないというのなら、仕事さえちゃんとすれば守ってくれるからだ。
そこで気になったのは、奴隷をどうやって妖精の国へ運ぶかだ。ギルドにあるポータルは、冒険者や騎士ぐらいしか使えない。転移魔法でも何十人も運べるのか? という話だ。
「それは大丈夫です。人が使う転移魔法と私が使う転移魔法は少し違うので、距離や人数に関係なく運べますからね」
「ずるすぎる……」
なんてことを話していると、外では数頭のクレイウルフが現れたようで、ダードやグオン達が何の問題もなく倒していた。
あと大事な話はコアラキングだ。本人的には、いつかダンジョンから出ることを考えているそうだ。
「まー、ダンジョンみたいないびつな所にいるのもおかしな話だから、ある程度の知能があれば出ようとするか」
「出てきて敵対しないのであれば、王都とルインエルデを繋ぐ道の途中にある深い樹海に住むのが良いだろうと言っていましたね。その樹海は途中までがこの国の領土で、それより奥は誰のものでもないと聞きました」
その森は自分達が遭難した森だなとラシアは思い出し、あれから色々あったなーと少し笑う。
それからも少し話をしたり、たまに遠くに見えるモンスターを警戒したりしながら進んでいると、ようやく目的の水晶の泉がある研究所へたどり着いた。
護衛の仕事は一旦ここまでとなり、錬金術師が街へ帰る時にまた護衛するという感じになるのだが……魔法などを研究する所なので、お土産が売っていたりするわけでもない。
馬車を止めて入り口の方へ歩くと、そこには気難しそうな顔をしたガロニアが立っていた。
「ガロニアさん、今日は機嫌良さそ~」
セレットがそう言うが、ラシアにはどう見ても機嫌が悪そうにしか見えない。そう思っていると、ティアが「おばあちゃーん」と言ってガロニアの方へ走っていった。
確かにガロニアはセレットの師であり、親代わりみたいなものだと聞いたので、ティアの祖母と言えばそうなのだが……さすがは高性能AIティアだなーとラシアは思う。
ガロニアも何だかんだで孫のように思っているのか、少し嬉しそうな気がした。
「孫というよりは……ひ孫のような気もする」
「え? ティアちゃんとガロニアさん? ……確かにそう言われればそうかも。ノアちゃんが孫ポジかな~」
「私もお婆ちゃんって言った方がいい!?」
なんてことを話しているとガロニアに聞こえていたようで、「鬱陶しいから早く来な!」と怒られてしまった。
研究所の中は想像以上に広く、たくさんの錬金術師達がいた。素人のラシアが見ても何の実験をやっているかは分からなかったが、ガロニアが研究内容を簡単に説明しながら案内してくれたので、クランで社会見学に来ている感覚だった。
そんな中で……見慣れた人型が、人一人入るほど大きなガラスケースに入れられ、明らかに培養されていた。
それはラシアにも見覚えのあるものだった。
「ガロニアさん、これ明らかにアウトでは? 白ナマズですよね……」
「地下施設から回収したホムンナマズの方だね。こっちで改良したタイプだよ」
「フェリスロステ。ちょっとここにいる全員、縛り上げてもらえますか? 私は騎士団と聖騎士に通報してきますので……」
「許可はちゃんと取ってあるよ! あんたも錬金術師は碌でもない奴だと思ってるタイプだね」
本当に許可が取ってあるならいいが……この世界に来て、錬金術師が良いことをした記憶がラシアの中にはない。
詳しい話を聞くと、人として生活しているホムンクルス達の経過を見たり、食事や魔法で状態を改善できるか実験したりしているそうだ。
人とほとんど同じホムンクルスで実験するのは、人道的にどうなのかと思っていると、フェリスロステが興味深そうにそのホムンクルスを眺め、魂が入っていないと告げた。
それにはガロニアも驚き、さすがは妖精女王といったところだねと褒めた。
「女王様。魂が入ってないとどうなるの?」
ティアの質問に、フェリスロステは目の前のもののようになると答える。基本的に体があれば魂は確実に宿っている。魂がないということは、意図的に魂を抜き、そのまま何も入れていない状態を作ったということだ。
「そこまでのことを見ただけで分かるものなんだね。そこの妖精の女王が言う通りだね。私は魂の研究もやってたから、その実験の延長だよ。魂になると他の体に入れたりすることができる。だから逆に、体に魂が入っていない状況を作って放置するとどうなるのか? という実験もやっているんだよ」
ラシアを含めたクランメンバー全員がげんなりした顔になり、こいつ絶対に許可を取ってないなと思った。
この辺はやっぱり考え方の違いだなとラシアは思う。ラシア的には魂が入っていなくても人だと思うのだが、ガロニア達はたぶん魂が入っていないと、人の形をした肉の塊として見ているんだろうなーという感じだ。
まぁ、この辺は異世界なので仕方がないところだが……
それからガロニアとフェリスロステがその話で盛り上がり始めたので、二人を放置して、代わりにセレットが先頭を歩き、水晶の泉を見に行くことになった。
ラシアは夜の水晶の泉しか見たことがなかったが、昼に見る水晶の泉は整備もされ、巨大な水晶が取り込んだ光を反射して、とても綺麗だった。
初めて見るノアやティアは大喜びだ。ダードやグオン達も感動している。
「ラシアさん、綺麗だねー。こんな水晶の泉ってどうやったらできるんだろね!」
自分がやったとは言えないので、ラシアが「どうやるんでしょうねー」と言うと、隣でセレットが吹き出していた。