ティアを助けるためとはいえ、異世界に来てかなり調子に乗っていたことは否めない。その結果が目の前にあると……本当に何とも言えない気分になってしまう。
人食い令嬢は助かって良かったかもしれないけど、クリスタルリザードを静かに数匹だけ倒してティアちゃんを助けていたら、今みたいにややこしい感じにはなっていなかったのかなーとは思う。
が……自分のことなのでよく分かる。絶対どこかで調子に乗って面倒なことになっていただろうことは目に見えているので、きっと今が最良の結果なんだろうと思うことにした。
改めて水晶の泉を観察すると、綺麗に整備され、周りには歩道や見慣れない器具なども設置されている。
水晶の上にも錬金術師達が乗っており、何かを計測しているようだった。
「ノアちゃん。水晶の上に乗ったら怒られるから、乗らないようにねー」
「お母さん、さすがにしないからね!? それならティアちゃんに言ってね!」
「お姉ちゃん! 私そんなことしないよ!」
ノアとティアだが、確かにセレットが言うように、どちらかが乗りそうと言われたらノアに軍配が上がるなとラシアは思う。こう、ノアの方が犬っぽいからだ。
クランメンバーが邪魔にならないように辺りを散策し始めたので、ラシアはセレットに質問する。水晶の上にいる錬金術師達は何をやっているのかということだ。
「あれはね、魔力を流してその動きを見ているの。実は魔石と水晶には似ているところがあるから、こんな大きな魔石があったら魔力はどう動くのか? みたいな実験だねー」
「へー。よく分かりませんが、なんかすごそうで面白そう!」
「私はラシアちゃんの反応が面白いかな? これを作れるすごい騎士様なのに、反応が一般の人と同じだからー」
「セレットさん。私はちょっと戦える一般人ですよ」
セレットが「ちょっと戦える一般人」と言いながら目の前にある水晶の泉を見るので、ラシアも空を見上げ、「今日も良い天気ですね」ぐらいしか言えない。
そしてセレットが、ここでどういうことをやっているのか話し始める。簡単に言えば、ポータルの実験をやっているとのことだった。
水晶の端に何人かの錬金術師がいて、右端から左端まで魔力が伝わるのにどれだけ時間がかかるのかなどを調べている。
「最終的には、これをポータルとして使えれば良いなーって感じだね~。冒険者じゃなくても使えるポータルが理想。外はモンスターとかが多いから、危険を冒さずに荷物とかを運びたいしね」
「妖精の国に行く時に思いましたけど……物流が死んでないのが奇跡ってレベルですもんね」
「ダンジョンみたいにモンスターが簡単に進化しないから、まだマシなんだけどね~」
「その辺の虫とかを倒して進化したら……人間が住めない魔境に……でも、そう考えたらモンスターの進化って何なんでしょうね? 外とダンジョンで違いますし」
「その辺は専門外だけど、魂の総量が満タンになると進化するっていうのは読んだかな? ダンジョンでは一体倒せば進化するけど、外に出ると人と同じになるみたいな。人もモンスターを倒してると強くなるでしょ? あれと似たような感じなんだって。専門じゃないから詳しくは知らないけどね」
その場所のルールが適用されるのかなとラシアは思う。人はダンジョンに入ってモンスターを倒しても進化せず、強くなるだけだ。逆にモンスターも外に出ると簡単には進化せず、レベルが一定値を超えると進化するみたいな感じだ。
セレットから水晶の泉について話を聞いていると、研究所の方から満足そうなガロニアとフェリスロステがやってきた。
ものすごい偏見なのだが、二人が満足そうな顔をしているだけで、碌なことをしなさそうに見えるのは本当にすごいと思う。
「これが水晶の泉ですか……なるほど、さすがはラシアといったところですね」
「何もしていませんが!?」
「そもそも、灰の砂漠を出現させたのがあんただって分かってるんだから、今更隠してどうするんだい! こんなことができる人間が何人もいてたまるかって話だよ!」
隠したいから隠しているのだということを、どうして目の前のお婆ちゃん達は分からないのか? とラシアは思うが、それを声に出してしまったら大変なことになるので言えはしないのだ。
ただ今ラシアの近くにいるのはセレットぐらいなので、聞かれたところで問題はない。
「フェリスロステから見て、これをポータルとして使えるんですか?」
「基本的には無理ですね。ポータルというのは、魔力の淀みにできた穴同士を繋いだものです。魔法のゲートポータルと仕組みはほぼ同じです。違いは、魔力が溜まりやすい淀みにあるため、常に魔力が供給されて開き続けていることです」
「ん? でもダンジョンの中にこんなポータルは無いのでは?」
「貴方達が帰ってから、妖精の街にあったものを調べて分かっただけですよ」
そしてポータルは本来、街から別の街やどこかへ移動するためのものだったようだが……どこかでダンジョンと繋がり、今の形になっているのだとフェリスロステは言った。
「過去を知る魔法はないので、私の国に残っている書物に書かれているものになりますが」
「確か千年ぐらい前に現れてどうのこうのとは聞いたけど……人は戦いまくってるし長生きできないから、正確な歴史って分からない感じだったような」
ラシアの言うことにセレットも頷く。争いがなくても、どうしても人のやることなので、不注意などで書かれたものは失われてしまう。最後は今を生きている人の想像になってしまうとのことだ。
「千年前から地星のダンジョンと繋がっていて、妖精達との交流があったなら、フェリスロステはその辺を覚えてないの?」
「覚えてないですね。ダンジョンの中は時間の流れがとてもいびつですからね。ラシアも住んでみれば分かりますが、一日が一年のようで、一年が一日のような感覚ですよ」
「ちなみに大昔だけど、そういう実験はあったよ。ダンジョンで生活したらどうなるのか? みたいなね。だいたい一か月で発狂して、最期は死んだという記録しか残ってないね」
「うーん……さすがはダンジョン。怖っ」
そして少しだけ話は戻り、これをポータルとして使うなら、大量の魔石を用意することで強制的に繋ぎ、魔石のエネルギーが続く間だけは使えるとのことだ。
そこでラシアがふと思ったのは……ここから深淵のダンジョンに繋げてもらえば良いんじゃね? ということだ。
図書館などで調べたが……ゲームにあったダンジョンは、イベントなどを除いて全て見つかっている。
見つかっていないのは、深淵のダンジョンだけだ。
だから探す手間を考えれば、ここから深淵のダンジョンに繋いでもらった方が早いし楽だ。フェリスロステに尋ねると、確証はないが、たぶんできるとのことだった。
帰還するにしても、深淵のダンジョンでは帰還石も白紙のスクロールも使えるので、帰りの心配もない。
「ただ魔力の流れもない土地に、一瞬とはいえポータルを出現させるには凄まじい魔力が必要ですよ。それこそ、ラシアに見せてもらったヴェユリテスアの魔石のような大きなものが必要でしょう」
それなら、この前倒した時に手に入れた魔石を売らないでおけば良かったと口にすると、ガロニアが近くにいた錬金術師に声をかけ、何かを取りに行かせた。錬金術師がすぐに戻ってくると、アイテムバッグの中から巨大な魔石を取り出した。
その魔石には見覚えがあった。ラシアが冒険者ギルドで販売したものを、錬金術ギルドが買い取ったとのことだった。
「というわけで、ラシア。こいつが欲しいんだろ? いくらで買う? 珍しいものと交換でも可」
さすがにゲームみたいにしばいて奪うという選択肢はないし、超級へ行けばまた手に入れられるが……これを使って繋げられるかだけでも見ておきたいので、ラシアは適当にアイテムバッグを漁る。
そして漁りながら、ティーガーと一緒に地下遺跡で手に入れた壊れていない魔導エンジンを思い出した。
「壊れていない魔導エンジンでどうですか?」
「良いじゃないか。幾つだい?」
「ガロニアさん……一つで王都に家が建ちますからね」
セレットが呆れるが、超級のボスモンスターの魔石の方が貴重だとガロニアは反論する。
「じゃあ……三つでどうですか?」
「よし。それでいこうじゃないか。この魔石はあんたのものだよ」
「……ラシアちゃん、なんでそんな貴重なものいっぱい持ってるの?」
ティーガーと一緒に地下遺跡へ行ったことはセレットには言っていないので、「Xランク冒険者をやっていると、そこそこ手に入りますよ」と誤魔化しておいた。
そしてフェリスロステに、実際に入る必要はないので、この魔石を使って深淵のダンジョンを見つけられるか試してほしいと頼んだ。
「分かりました。ですが私はその深淵のダンジョンを知らないので、猫の怪人にやったように少し記憶に干渉しますよ」
「痛いのは嫌ですけど……記憶を読むわけではないんですよね?」
「はい。ラシアの記憶に干渉して探すといった感じになりますね」
正直、読まれたところでたぶん問題はないので、ラシアは了承する。するとガロニアが水晶の泉の上にいる錬金術師達に下がるよう声をかけ、近くで見学していたティアやクランメンバーもこちらへ戻ってきた。
すぐに準備は整い、ラシアの後ろにフェリスロステが並ぶ。水晶の泉の上には大きな魔石が置かれ、実験が開始された。
フェリスロステが呪文を唱えると、小さな魔法陣がラシアにまとわりつき……一瞬だけ激痛が体内を駆け抜けた。
これ……マジで痛い。ラシアが少し涙目になっていると、魔法陣は魔石の方へ移動した。一瞬だけ光ったあと、魔石の上に今いる場所とは違う景色を映し出す。
そこには、ラシアも数回だけ行ったことのある深淵のダンジョンが映っていた。