緋闇のダンジョンも屋敷のダンジョンも、ラシア以外のクランメンバーなら割と適正レベルなので、今のようにどこのダンジョンへ行くか悩んでいる時などは依頼として問題ない。
問題は緋闇のダンジョンにいる、すぐに進化するラビットマンバリスタと、さっきも話した屋敷のダンジョンの時間湧きのボスモンスター、コールベルだ。
このコールベルが、ラシア達のようにレベル差があるパーティーには問題となる。
コールベルはプレイヤーのレベルに応じたモンスターを召喚するのだ。ゲームの設定だとラシアはレベル100なので、90台のモンスターを二体ほど出現させる。
だから適正レベル以上のモンスターが出てくることになる。あんな場所でMr.フェンリルとかその辺が出てくると、適正レベルのプレイヤーには倒せないのだ。
「そこは大丈夫だ。コールベルがいない可能性もあるし、マジックダウンのスクロールを全員に持たせていくからな」
マジックダウンは、敵が使う魔法を発動前に強制的に潰す魔法だ。プレイヤーにも有効なので、PVPでは大技や発動までに時間がかかる魔法を潰すために使われる。ダメージなどはないが、確実に魔法をキャンセルできることが強みだ。
「うーん。大丈夫な気もするけど、いけるかな? モンスターの召喚ってけっこう早いですよ?」
「でもそこの女王陛下と陛下に比べたら遅いからな。コールベルは持ってるベルを鳴らさないと召喚できないだろ?」
それは確かにデゴットの言うとおりだ。ゲームと変わっている所もあるが、同じ所もある。スキルを使う前の予備動作などは割と同じなのだ。だからゲームと同じように、コールベルもベルを鳴らすとモンスターを召喚する。
ちなみに隣で話を聞きながらご飯を食べているコアラと妖精には、そんなものはない。瞬きしたら普通にコアラとか妖精が増えている。なんてことを簡単にやってのける。
近くでご飯を食べていたノアやグオンの方を見ると頷いていたので、ラシアはその依頼を受けることにした。
「分かりました。受けさせていただきますが……いつですか?」
「早い方がいいと思うからな。明日だ。あとは騎士と聖騎士の混合にはなるが、高ランクの冒険者上がりを入隊させたから、気に入らんかったら殴っていいぞ。ラシアの立場は特殊だが、俺と同格にはなっているからな」
「急すぎるし、なんか突っ込み所が多すぎる!」
「お前が俺より遙かに強いのが問題だな。言いたいことがあるのなら騎士団長になって国を変えてくれ」
そんな話をしながらデゴットは食事を楽しみ、おやっさんと少し飲んだあと王都へ帰還した。
ラシア達は翌日を迎え、クランメンバーとともに王都へ向かった。
するとパルサーとフウコウが待っており、その周りには騎士団員と聖騎士が約十五人いた。ラシアのクランを含めると、それなりの大人数になった。
簡単に挨拶を交わしてから辺りを見渡すと、今まで騎士団や聖騎士ではほとんど見なかったダンサー系の職などがちょくちょくいる。前に言っていた特殊職の勧誘の結果だろうとラシアは思う。
「私や父さんやロディー様で面接して、人格的に問題のない者を採用した結果だな。冒険者なら私より強い者はいくらでもいるが……騎士や聖騎士になると町のこともあるから、貴族や街の人と揉めるのはもってのほかだからな」
「にゃー。強さはあとから身につけられるけど、持って生まれたものはそうはいかないにゃー」
「フウコウさん。私を見ながら言うのやめてもらっていいですか?」
「心当たりがあるからそんな反応になるにゃー」
ティーガーに頼んで厄猫とかいう二つ名を流行らせてもらおうかとラシアが考えていると、どうしてこの場にフウコウがいるのか気になった。半分身内のような友人だが、デゴットからの依頼なので国の依頼なのだ。
パルサーが部下を受付に行かせたので、待っている間にそのことを尋ねた。
「Xランクになったから、国から指名依頼が入ったと喜んでたらこの依頼にゃ」
「フウコウさんって錬金術ギルドの冒険者なのに、普通の冒険者と同じ感じですね」
「まったくにゃ。わっち以外はみんな錬金ができるから、新しい研究所で研究してるにゃ。冒険者として動いてるのは実質わっち一人みたいなもんにゃ。しかもガロ婆がデゴット様に勝手に依頼していいとか言ってるからこうなるにゃ!」
「能力的に見てもフウコウほどのダンサー職はいないからな。騎士団か聖騎士には入ってほしいところではある。もちろんラシアやノアやグオンも入ってくれてもいいぞ」
ラシアはもちろん断るが、ノアとグオンは自分達も騎士団に誘われるようになったのかと少し感動していた。
そんなことを話している間にパルサーの部下が戻ってきたので、ラシア達はポータルへ並び、緋闇のダンジョンへ向かった。
今回はティーガー、ラオメ、レクトアがいないので、超級なら戦力的に心許ない。だが、ここは緋闇のダンジョンだ。ポータルキャッチを使える聖職者もいて、フウコウも矢よけの踊りを使うので、一匹だけ出てくるであろうカグヤちゃんなら問題なく倒せるといった感じだ。
問題は、自分が進化できると覚えているラビットマンバリスタの記憶をどうやって消すかだ。昨日のデゴットとの話でも、もしものことを考えたら外に連れ出して倒すのはNGだ。
そんなことを考えていると顔に出ていたのか、パルサーが笑いながらラシアに言った。
「今回は調査だからな。今日明日でどうにかしようとは国も騎士団も考えてはいない。一回で解決しようとするなら、それは調査ではないからな。ラシアは監督をして、カグヤちゃんDXが出たら相手をしてくれという話だな」
「なるほど。まぁでも早く解決法を探した方が良いですよね」
「それは何でもそうだな」
リセットされると、すぐにラビットマンバリスタが進化してカグヤちゃんになろうとするので、このダンジョンにいる冒険者の数は本当に少ない。いくら広いといっても地星のダンジョンよりは狭く、カグヤちゃんDXならどこから撃ってもポータルまで攻撃が届くからだ。
なんてことを考えながら綺麗な月を見ていると……月から糸が降りてきた。
知っている者からしたら……恐怖でしかないが、パルサーは即座にメンバーへ指示を出す。
「フウコウは矢よけの踊り! 聖騎士はフォースシールドを忘れるな! ポータルキャッチを使う者は攻撃の射線を見逃すなよ!」
そして凄まじい光がラシア達を覆うが、ダメージはなく、ポータルキャッチによって攻撃した者が近くに強制召喚された。
お相手はカグヤちゃん。DXになると黒髪だが、カグヤちゃんは銀に近い白い髪で和服を着ている。耳と尻尾がなかったら、雪女と言っても通じるようなモンスターだ。
「では悪いが、まずは私達で戦う。よほどの時はラシアの援護を頼むぞ」
「了解ですけど、気をつけてくださいね」
「ああ。こいつが近接戦もできるのは、地星のダンジョンで知っているからな」
そして戦いが始まった。パルサーもフウコウもカグヤちゃんより強いモンスターと戦った経験があり、騎士や聖騎士になったばかりの者達も冒険者としては上位勢だ。少し危ない所もあったが、無事に倒すことができた。
一度倒したぐらいでは分からないので、そのまま調査を続けていると、体感で一時間ほど経った頃にまた月から糸が降りてきて、カグヤちゃんとの戦闘になった。
これで分かったことは……少なくともダンジョン内では、言葉を話せないモンスターが倒されても記憶のリセットは行われないということだ。
だから大きな魔石や装備を狙えるというメリットはあるが……カグヤちゃんがこのダンジョンでは出てくるということになる。
そのことを調べるために何度か試したが……早い時で体感三十分ほど、遅い時でも一時間もあれば進化してカグヤちゃんになることが分かった。
「これが分かっただけでも大きいな。緋闇のダンジョンは封鎖した方が良いかもしれないな。屋敷のダンジョンにも行けなくなるが……」
「封鎖する方が無難ですけど、問題の先送りですからねー」
「にゃー。それは仕方ないにゃ。ただ狩り場が減るのは問題にゃ」
これで簡単な調査は終わりとし、屋敷のダンジョンへ向かう途中で、ラシア達は冒険者のようにモンスターを襲うラビットマンバリスタを見つけた。
たぶん記憶のあるラビットマンバリスタがリポップし、モンスターを襲ってレベルアップを目指しているのだが……ちゃんと自分より弱い者を選んで襲い、進化を企んでいた。
「うーん。たぶんこいつがカグヤちゃんになるんだけど、なんか良い方法はないものか……」
ダンジョンの中で何かしても、一日経てば元に戻る。連れ出して鉄の檻にでもぶち込み、出られないようにすることも考えたが、何かの拍子に死んでダンジョンへ戻ったらと思うと却下だ。
そのラビットマンバリスタがパルサーの投擲で倒されたのを見て、ラシアは少し考え方を変えた。
「パルサーさん。知り合いにテイマー系っていません?」
テイマーとはモンスターを使役できる職で、レベルとスキルに応じてモンスターをゲットだぜできる。
魔獣使い→魔物使い→精霊使い→竜使い→神獣使いとなるので、カグヤちゃんDXをテイムしようとすれば、神獣使いの職に就いていて、なおかつかなりの運が必要となる。しかも冒険者ギルドでテイマー職をほとんど見たことがないので、カグヤちゃんDXをテイムするのは、はっきり言って無理だ。
ならばどうするか。ラビットマンバリスタの時にテイムするのだ。
進化先で見ると、ラビットマン→ラビットマンスナイプ→ラビットマンバリスタ→カグヤちゃん→カグヤちゃんDXとなる。
少し楽なのは、ラビットマンバリスタなら魔物使いの職でテイムできることだ。
倒したラビットマンバリスタから槍を回収しながらパルサーは少し考え「いるぞ」と答えた。
「聖騎士になるが、精霊使いが一人いるな」
「だったらロディーかデゴットさんに相談してもらって、モンスターを襲うラビットマンバリスタをテイムするといいかも。連れ出すことにはなりますけど、テイムしたモンスターが人を襲うとは聞きませんし、テイマー同士なら譲渡できますからね」
パルサーは腕を組んで少し考えたあと、それもありだなと言ってラシアに礼を言った。
「私の一存では決められないが……解決策が出たのはありがたい。礼を言う」
「いえいえ。本当にテイムするなら成功率を上げるアイテムとかもあるので、相談に来てもらえればと」
「分かったが……父さんが言っていたように、お前が騎士団長になってもいいんだぞ? ラシアはモンスターや職にも詳しいからな」
「嫌です!」
「ラシアが騎士団長とか……部下がむっちゃ苦労するにゃ」
「ラシアさんが騎士団長なら騎士団に入りたい!」
「俺も俺も!」
十人程度のクランでもいっぱいいっぱいだから、騎士団なんか絶対に無理だと思いながら、ラシアは遠くに見えている屋敷のダンジョンへ向かって進み始めた。