「ムーンライトコンタクト!」
月の光がプラティディオンハンマーに集まり、ハンマーはさらに美しく強力に磨き上がる。
クラックフォールで足止めされたスカルライダーに巨大なハンマーが振り下ろされ、触れた所から光の粒子になって消えていった。
それを見ていた、元XランクやSランクの冒険者だった騎士や聖騎士はドン引きだ。
どうしてそうなったかというと、屋敷のダンジョンへ向かっていると、またラビットマンバリスタがカグヤちゃんに進化して戦いになった。そのタイミングで時間湧きのボスモンスターがこちらを見つけたようで、襲ってきたのだ。
ラシアは大丈夫だが、さすがに騎士も聖騎士もクランメンバーも、カグヤちゃんの相手をしつつスカルライダーの相手をするのはきつい。
時間をかければ倒せるかもしれないが……今の緋闇のダンジョンで時間をかけすぎるのはよろしくないので、ラシアがスカルライダーを受け持った感じだ。
で……仲間のことを考えて倒したのにドン引きされるのは心外だと、アイテムを回収しながらラシアは思う。
「パルサー隊長。ラシアさんって強すぎません?」
「大丈夫だ。これでもまだ抑えている方だな。ラシアが本気かどうかの見分け方としては、普段物静かなラシアが……やたらと饒舌になったら逃げろ。ダンジョンが更地になる」
何をおっしゃるパルサーさん。とは思うがラシアを知っている者達全員が頷くので、本当に何とも言えない気分になった。
「あとはお酒飲んだ時は近づかない方がいいかな~」
「混乱とか状態異常の時も激ヤバにゃ」
「んぐっ……事実だから言い返せない!」
「沈黙のラシアってそんなに強かったのか……」とか「迂闊に話しかけないでよかったな」とか聞こえてくるので、何とも言えない気分になるが、こればかりは仕方ないと諦めて進んでいた。
そしてようやく古く大きな洋館にたどり着き、パルサーを先頭に中へ入っていく。ここからが屋敷のダンジョンになるのだが……来たことがない者達は、本当に何とも言えない顔になっている。
理由は簡単だ。ゲームをやったことのある人なら分かると思うが……外から見える建物の大きさと中の広さが合わないのだ。
外から見ても大きな屋敷ではあったが、中に入ると城内かと思うぐらいに広い。元の世界の基準で考えても、一軒家に入ったと思ったら中は球場ぐらい広かったとか、そんな感じなので、来たことのある者でも変な気分になるのだ。
この屋敷のダンジョンで気をつけることは……油断しないことぐらいだ。現在の戦力は過剰なので、ボスモンスターであるヴァンパイヤロードなんかも楽に倒せるはずだ。出てくるモンスターもほとんどが闇属性なので、聖属性を付与すれば楽という感じだ。
で、油断してはいけない理由はいくつかあり、その一つがボスのヴァンパイヤロードが固定の部屋にいないことだ。この屋敷のどこかをうろうろしているので、乱戦になっている時に出てこられると厄介という話だ。
ヴァンパイヤロードは混乱も使ってくるが……これも鎧の中に混乱無効化のネックレスを装備しているので問題ない。
パルサー達が倒しに来た時間湧きのボスモンスター、コールベルが少し問題となってくる。
こいつはモンスターを召喚するモンスターで、ボスモンスターなどは召喚しない。パーティーメンバーのレベルに合わせたモンスターを二体ずつ召喚する。
プレイヤーのレベルが60ならレベル50を二体といった感じで、召喚されるモンスターはランダムだ。ボスなどは召喚されないので、適正レベルならそこまで危険はないが……ラシアがいるので大問題になってくる。
ラシアのレベルはゲームだと100。だからランダムにはなるが、90台のモンスターが二体召喚されることになる。これは超級のモンスターが二体召喚されるということなので……ラシア以外にはまず倒せないのだ。
対策としては即座にコールベルを倒すこと、もしくはデゴットが持たせているであろうマジックダウンのスクロールで召喚をキャンセル。それが無理なら戦闘が始まった直後にラシアがコールベルから距離を取り、召喚されたモンスターをすぐに倒すことだ。
パルサー達の監督役がメインなので、ラシアが前に出て倒してもよくはない。新しく騎士や聖騎士になった者達がやっていけるかどうかを見る目的もあるだろうから。
「にゃー。ラシア。コールベルってどんな奴にゃ?」
「大きさは私達の腰ぐらいで、二足歩行で手には大きなハンドベルを持っています。ベルを持ったモンスターは他にはいませんので、見れば一発で分かりますよ」
「なるほどにゃー……あんな感じの奴かにゃ?」
そう言って広い部屋の端をフウコウが指差したので、ラシアがそちらを見る。確かにそこには大きなベルを持ったモンスターがいて、明らかにこちらを見ていた。
「はい。まさにあれがコールベルですね」
「なるほどにゃ~」
「「…………」」
ラシア達の間に変な間が生まれたあと、我に返ったパルサーが叫んだ。
「総員! 戦闘態勢! 白紙のスクロールでマジックダウンを使え!」
その声で我に返ったラシアが即座に皆から離れ、味方がマジックダウンを使おうとするが間に合わず、コールベルが手に持っているハンドベルをチリンチリンと鳴らした。
するとパーティーメンバー全員の隣に魔法陣が現れ、二体のモンスターが召喚された。
少し離れることができたラシアの隣にも魔法陣が現れ、やはりゲームと同じで90台のモンスターが二体召喚された。
一体は竜種だ。二足歩行で一升瓶を片手に持ち、腹巻きを巻いているハゲ竜というモンスター。ふざけた見た目と名前だが、深淵のダンジョンに出てくるモンスターだ。
もう一体は九十九ダンジョンに出てくるダイコンオロチ。大根みたいな白い蛇のモンスターだが、蛇型のモンスターの中では最強クラスだ。
ちなみに……こいつの亜種は白蛇様(ちゃん)という巫女姿の女の子モンスターで、人気高めだ。
ラシアは即座にプラティディオンハンマーを構え、先に状態異常攻撃を仕掛けてきたハゲ竜へ殴りかかる。だがハゲ竜は、ラシアが振り下ろしたハンマーに頭突きをぶちかまし、攻撃を相殺した。
ふざけるのは見た目だけにしてほしいと思いながら、ラシアは一旦距離を取るとノアから大きな声で呼ばれた。
「ラシアさん! 戦闘中にごめん! 少しだけ見てほしい! このモンスター絶対に倒したら駄目だよね!」
ノアがかなり慌てているのでそちらを向くと、紙袋を持ったコアラがキョロキョロして慌てていた。
たぶんというか、明らかにキング関係で、ルインエルデでクッキーを販売しているコアラだろう。
「絶対に駄目ですね! ノアさん、ほぼ確実にキングの知り合いなので、簡単に理由を説明して離れてもらってください!」
「わ、分かった! コアラさん。街でクッキーを販売している人だったら、少し離れておいてほしい! 今戦闘中だから!」
その説明で理解できたのか……コクンと頷いたあと、近くにいた他のモンスターを殴り飛ばしてノアの援護に入った。
……
…………
サクッと倒せた者達が苦戦している者の援護に入り、コールベル自体もそこまで強いボスモンスターではないので、戦闘は比較的早く終了した。
一番時間がかかったのはラシアだ。ラシアが本気を出すと周りを巻き込むので、こればかりは仕方がない所だ。
多少の怪我はあったが、無事にコールベルを討伐する事ができた。
とどめを刺したのはフウコウだ。ラシアは横目で彼女の隣に出てきたモンスターを見ていたが、レベルで見ても60前後の奴だった。
ラシア的には、今いるメンバーで自分の次に高レベルなのはパルサーだと思っていた。だがフウコウは同じぐらいか、それ以上らしい。皆が思っている以上に高レベルだったので、ラシアも少し驚いた。
ただ、そんな彼女だが……不幸なのは健在で、呼び出されたモンスターの攻撃を浴びて、今はドロドロに汚れている。
フウコウがアイテムを回収しながら「不幸にゃ」と言っているのが、いつも通りで少し面白かった。
「ラシアさん。強そうなの出てたけど大丈夫だった?」
「大丈夫ですよ」
アイテムを回収しながらノアの方を向くと、紙袋を開けてクッキーをつまんでいた。
「美味しそうだから、さっき売ってもらった! もう帰っちゃったけどね」
たぶんキングの方で再召喚して、向こうへ呼び戻されたんだろうなーと思っていると、ノアがコアラの形をしたクッキーを一つ掴み、ラシアに向かって「あーん」と言った。
前にも一回やったのでは? と思うが……キングのクッキーの味も気になるので、ラシアが口を開けるとノアがクッキーを入れてくれた。
「おのれ……コアラのくせに、数日で私よりうまく作ってるのは何かこうムカつく……というか前にも言いましたけど、ノアさん。赤くなるならやめてくださいね」
「いやー……何回やっても恥ずかしいなと」
そう思うなら食べる方も恥ずかしいからやめてほしいと思っていると、パルサーとフウコウがやってきた。
「見てる方も恥ずかしいから余所でやってくれ」
「マジでそれにゃ。それでラシア。コールベルからこんなベルが出たにゃー」
「うおっ!? 超絶レアアイテム」
フウコウが持っているのは、コールベルが落とす「魔物の呼び鈴」というレアアイテムだ。使用してもなくならず、鳴らした人のレベルに応じたモンスターを召喚する。
ボスモンスターは召喚しないので、レベル上げには本当に最適で、ゲームでも高値で取引される。ただし十回に一回はドッペルゲンガーが出てくるので、注意が必要なアイテムだ。
「それ鳴らすと……」
「鳴らすとなんにゃ?」
チリンチリン。
「いい音するにゃ~」
「確かにいい音だな」
「モンスターが出るので鳴らさないでくださいって言おうとしたのに、どうして鳴らすんですか!?」
そしてコールベルがモンスターを召喚する時のような魔法陣が現れ……真っ黒なマネキンが召喚された。