パルサー達が離れたのを確認してから、ラシア達はヴァンパイヤロードに向き合い、さらに力を解放する。
「ラシア! 分かっているな!」
「行くぜ! 相棒!」(幻聴)
「ああ! 問題ない!」
「遅れを取るなよ! 相棒!」(幻聴)
ヴァンパイヤロードがもう一度巨大なコウモリを召喚するが、黒ラシアがハンマーを地面に叩きつけ、その衝撃波で塵にする。
そのまま屋敷のダンジョンを潰し、舞い上がった瓦礫でヴァンパイヤロードの視界を奪った。
凄まじい量の塵や埃でヴァンパイヤロードがラシア達を一瞬見失った次の瞬間、体の右側から凄まじい衝撃が伝わり、車にはねられたボールのように飛んでいく。
だが次に左側からドンと衝撃を受け、黒ラシアに簡単に受け止められた。
そして声が聞こえる。
「今がチャンスだ! 私ごと倒せ! ラシア!」
「分かった!」
黒ラシアはヴァンパイヤロードの体に爪を食い込ませ、簡単に抜けないようにしてから白紙のスクロールを使用する。
「ダブルマジック! そしてっ! ダブル・コル・クール・パル!」
ヴァンパイヤロードの斜め左右に二本の透明な杭が現れ、黒ラシアは敵を逃さないように羽交い締めにする。
ヴァンパイヤロードは暴れるが、その体はびくとも動かない。
そしてここからがラシアの番となる。
ラシアは黒ラシアから受け取った黒いプラティディオンハンマーを左手に持ち、右手には白紙のスクロールを持っている。
「ダブルマジック! ダブルギガンテックハンド!」
ラシアの両腕は巨人のように巨大に膨れ上がり、背負っていたプラティディオンハンマーを右手に持つ。
「ムーンライトコンタクト!」
そして月の光が、白と黒のハンマーをさらに美しく巨大に磨き上げる。
「いけぇぇぇーー! ラシアァーー!」
「ぶちかませ!」(幻聴)
「ぶっ壊せ!」(幻聴)
「おっしゃーーーーー! ヴァンパイヤロード! 月夜に眠れぇぇぇぇぇ!」
先に右手の白いハンマーが透明な杭を打ち込み、コンマ数秒遅れて左手の黒いハンマーが打ち込まれた。
激しい爆発も凄まじい音も発生しなかった。白と黒が交わった所から静かに世界が綻び始め、全てを飲み込むように灰色の光がゆっくりと二人を包んでいった……
その中で黒ラシアは、ラシアに静かに話しかける。
「私達はどこから来て、どこへ行くんだろうな?」
「そんな哲学みたいなことを言われましても……」
「確かにそれはそうだ……別の世界から召喚されて、君も大変だな」
「最近……少し慣れてきましたけどね。できたら早く帰りたいですけども」
同じ記憶を持つ二人は静かに笑い、黒ラシアはゆっくりと消えていく。そしてもう一度、灰色の光がラシアを包み込んだ。
……
…………
緋闇のダンジョンと屋敷のダンジョンは、やはり別々の空間になっているようで、屋敷から外に出たパルサー達は全員無事だった。
それでもラシアの攻撃によって、緋闇のダンジョンから見える屋敷はきれいに更地になっていた。
「ラシアさん、大丈夫かなー」
ノアが心配する中、パルサー達にはたぶん戦闘は終わっているように思えた。そのため再度、屋敷のダンジョンに突入する。
中も外から見た景色と同じようにきれいな更地となり、灰の砂漠が完成していた。
皆がラシアを探すと、遠くに帰還用のポータルが出現しており、その近くにラシアが座っていた。
全員が慌てて近寄ると、鎧は欠けヒビが入ってはいるが……ラシアは元気そうに座っており、巨大な黒いハンマーを背負っていた。
「無事とは言い難そうだが……無事で良かった」
「けっこう危なかったかも。ヴァンパイヤロードがいなかったら、負けてたかもしれません」
「そこまでの相手だったのかにゃ……ラシア。本当に申し訳ないにゃ……」
正直、誰かに非があるわけではないが、悪い者がいるとすれば自分だろうとラシアは思う。コールベルから魔物の呼び鈴がドロップするのを知っていたのは自分だけだし、他に止める方法はあったはずだが……油断していた結果がこれだ。耳と尻尾が下がっているフウコウは、あまり悪くないのだ。
フウコウの不幸を考慮するなら、最初から連れてこなければ良いだけの話だし、呼び鈴が出たのはフウコウのお陰だ。
「特に大怪我をしたとか、誰かが亡くなったとかもないですし、あまり気にしなくていいですよ。どうしてかは知りませんが……ドッペルマンからハンマーもらえましたし」
いつも元気なフウコウがここまでへこんでいるのを見ると、ラシアの方が悪いことをした気分になってくる。本当に大丈夫だと伝えて、少し元気を出してもらった。
「それで? ラシア、今のドッペルマンというのは?」
「はい。私も出会ったことはないのであれですけど、ドッペルゲンガーの進化形にドッペルマンというのがいるんですよ。ローウェンテニア時代(ゲーム)にも、そういうのがいるという話は聞きました。本当に風の噂程度ですけど、戦って勝てば装備をもらえるとのことなので、このことかなーと」
そう言ってラシアは、黒いプラティディオンハンマーをパルサー達に見せた。
「なるほど……ドッペルマンか。私の知らないモンスターは本当に多いものだな……よし。これ以上ここにいても仕方がない。帰るぞ」
皆が頷き、更地になった屋敷のダンジョンに現れた帰還用のポータルへ入り、王都へ帰還した。
王都に帰還すると冒険者なら精算になるのだが、今回は騎士団と聖騎士に雇われる形になっている。そのためドロップアイテムなどは基本的にパルサー達の物となり、あとで売った分から依頼料を支払ってもらう形になる。
王都の冒険者ギルドの一室を借りて、ラシア達が回収したアイテムをパルサー達に渡していく。この部屋は魔法で防音対策もされているので、どんな話をしても外には漏れないとのことだ。
「けっこう色々出たが……問題は魔物の呼び鈴と、その黒いハンマーか……」
ゲームでもコールベルの魔物の呼び鈴は、課金アイテム並みに高く売れるレアアイテムだ。街中でテロをする時にも使えたりする。だが、この世界での問題は値段ではなく、その危険性だ。
街中で使われたら、召喚されたモンスターが外の世界を知ってしまうということだ。
どのモンスターがコアラキングのように人の言葉を話すかは分からない。だから迂闊にベルを鳴らして召喚してしまったら、その時は倒せても、そのあとどうなるかは分からない。
さらにティアを助けるために倒したクリスタルリザードなんかが街中で召喚されたら、皆が水晶病にかかる恐れがある。
水晶病のように、蓄積値が溜まったあとに発症する系の状態異常は多いのだ。睡眠や石化などなど……
キングと一緒にクッキーを売っていたコアラが召喚されたので、ダンジョンにいるモンスターが召喚されると分かったのも、かなりの功績だと思う。
ラシア的にはダンジョンから召喚されるのか、それともなんかこう、ふわっとした感じでその場にモンスターが作られるのかと思っていたからだ。
これを言うとフウコウがさらにへこむので言えないが……今までの戦いで一番危なかった。
けど、それをチャラにするぐらいの情報やアイテムは手に入ったというのが、ラシアの本音だ。
「とりあえず魔物の呼び鈴は、父さんやロディー様と要相談だな。で……問題はそのハンマーだが……父さんには話しておくから、ラシアが持って帰ってくれ」
「分かりました」
黒いハンマーに関しては少し面白いことがあり、ラシア以外は装備レベルが足りないので、両手で持っても持ち上げることができないのだ。全体重をかければ動くのは動くが……黒いプラティディオンハンマーはその辺も再現されているようで、装備レベルが90以上ないと装備できない武器だ。たぶん持てるのは、ラシアの他にはロディーぐらいかなーとラシアは思う。
ちなみにリレッサは職の違いで装備できないので、たぶん持てない。
そんなことを考えていると、調査に行った者全員が、床にめり込んだ黒いプラティディオンハンマーを持ち上げようと挑戦し始めた。
そして一人が挑戦する度に、こんな物を片手で持っているのか? というような顔でラシアを見る。やめてほしいとラシアは思う。
「ま、全く動かない!?」
「……おみゃー。マジでこんなの片手で持ってるのかにゃ?」
「まぁ今更だが、ラシアは人間やめてるな」
「やめてませんが!?」
「そのハンマーに関してはラシアが出した物だしな。父さんの方には私から説明しておくから、どうするかは父さんと相談してくれ。あとは依頼料だが、明日か遅くても明後日には支払えると思う。これだけ人数はいるが、クランのリーダーはラシアとフウコウだけだからな」
ラシアとフウコウが返事をし、これで依頼は完了となった。騎士団と聖騎士とはそこで解散し、ラシア達はポータルを抜けて宿へ戻った。
その帰り道で、フウコウがラシアに質問する。
「そういえば、あの魔物の呼び鈴ってローウェンテニア時代だと、いくらぐらいで取引があったんにゃ?」
ラシアにはゲームの記憶はあっても、ローウェンテニア時代の記憶はない。その辺を思い出すと、確か……ゲームの通過でも数千万で取引されていたはずだ。
「ローウェンテニア(ゲーム)だと一~二千万くらいしたと思うので、こっちの世界だといくらになるんでしょうね?」
「マジかにゃ?」
「マジです。ですけど、この世界だと危険すぎるので値がつかないかも? コールベルを狙って狩る人が増えて流通したら、やばいですからね」
「……マジでそれにゃ。ぬか喜びも良いところにゃ……」
そんな話をしているうちにラシア達は宿へ帰還し、おやっさんに料理を用意してもらいながら、今回の反省点をメンバーで話し合った。