本日のラシアは少し早めに起きて、鎧の修理をおやっさんに相談している。
屋敷のダンジョンで黒ラシアこと、たぶんドッペルマンとやり合った結果、聖銀鋼の鎧にヒビが入り欠けているからだ。
結論から言えば直るのだが……ラシアが泊まっている宿では直せないとのことだ。
「いける! おやっさんならいけるから、なんとか気合い入れて直して!」
「あほか! 宿屋の主人にお前は何を求めとんのだ」
「それはもちろん鎧の修理」
「はっ倒すぞ!」
おやっさん曰く、包丁をカンカンするのとは訳が違うらしく、ちゃんと鍛冶屋に持っていって修理してもらわないとどうなるか分からないとのことだ。
そうは言うがラシア的には、ゲームではルインブレイカーのような武器破壊効果を持つ攻撃を受けても、課金防具が壊れることはなかった。課金武器が壊れても修復すれば直ったのだ。だからおやっさんがカンカンすれば直るんじゃね? という話だ。
「ちょっとヒビ入ってるぐらいだから、このままでいいかな? いや、絶対に駄目な気がする」
「絶対に駄目だから行ってこい。昼からデゴッパチの所に行くんだろ? あいつは騎士団長だから、確実に鍛冶屋ぐらい知ってるんだから聞けばいいだろ。ロディー様にしてもお前の元部下なんだろ? 鍛冶屋の一つぐらい知っているだろ」
ぐあぁぁと言いたくなるが……今回ばかりは割と切実なので仕方がない。ルインエルデでよく行く武器屋などでは、ラシアが着るようなフルプレートの補修はしていないから無理とのことだった。
少し前に気がついたことだが……ラシアが本気でプラティディオンハンマーを振れるのは、聖銀鋼の鎧のお陰というのが本当にある。
リレッサが部屋に棚が欲しいと言ったので、おやっさんに許可をもらって小さな棚をラシアが作っていた時のことだ。釘を打っている時に、誤って手を叩いてしまったことがあった。
その時に気がついたというか当たり前のことだが、普通に痛く、数日はじんじんとしていたのだ。
そのことが少し気になって考えてみれば、プラティディオンハンマーで何かを殴った時には色々な物が飛んでくる。衝撃波はもちろんのこと、砂や小石も凄まじい勢いでラシアに飛んでくるのだ。
先日の屋敷のダンジョンでも、黒ラシアとの戦いではフル装備のパルサーが吹き飛ばされるほどの衝撃が出ていた。
そんな中でラシアが無傷なのはどうしてか? 確実に防具のお陰なんだろうなーとラシアは思う。たぶん今着ている軽装でプラティディオンハンマーを振ったら、肌が露出している部分に何か刺さると思う。
「しゃーない……諦めてデゴットさんに良い鍛冶屋がないか聞いてきます」
「おう。そうしろ。よっぽど嫌ならティア連れて行っても良いぞ」
「さすがに王都みたいな魔窟にティアちゃんは連れて行けないので、頑張ってきます。仕事の話もあるんで」
まぁ頑張ってこいとおやっさんに笑われながら、ラシアは朝食を食べたあとに宿を出た。
防具の修理などもあるので、数日は自分が参加するクランでの狩りを休むと伝えてある。だがグオンもノアも根っからの冒険者なので、フウコウや他のクランメンバーとどこかのダンジョンに行っているとのことだ。
ラシアは正直、帰るためだけに冒険者をやっているので、夢中になれるというか、必死になれることがあるのは少し羨ましくもある。
ただノアにしてもグオンにしても生活がかかっているので、生きるためにやっている部分もあり、その中で楽しみを見つけているんだろうなーとは思う。
ルインエルデの冒険者ギルドにたどり着くと、王都がカオスドラゴンに襲撃された影響で、ルインエルデへ来る冒険者の数がかなり増えている。
その影響もあってか、おやっさんの宿なんかは部屋をちゃんと確保しておかないと、空きを狙っている冒険者が多いとのことだ。
そして受付にいるいつもの受付嬢と目が合ったので、ラシアは軽く会釈をしてからポータルに入り、王都へ飛んだ。
王都の冒険者ギルドは、いつ来ても人が多いなと思う。しかも少しずつラシア自身が有名になってきているようで、「沈黙のラシア」なんて悪口も聞こえるのだ。
ただ話しかけられることはない。今のラシアは話しかける気配も距離も分かるから、その距離から外れればいいのだ。
(見える! 私にも敵が見える! ……敵ではないけどね)
なんてことを考えながら冒険者ギルドを抜け、ほぼ元通りになっている王都の街を歩いていると、少し変化もあった。こちらでもバスという、人を運ぶ馬車が走るようで、試運転をしている者達も見かけた。
街などが発展していくのは本当に凄いことだと思うのだが、自分だけが世の中に取り残されている気分になるのはどうしてなんだろうとラシアは思う。
(いい加減、もっと他の人とも話した方が良いとは思うけども、こればっかりはなー)
そして屋敷の方へ行き、門を守っている兵士に尋ねると、本日は騎士団の方にいるとのことなので、ラシアは少し悩みつつそちらへ向かった。
仕事中に行っても良いものかと思うが……依頼のお金と黒いプラティディオンハンマーのこともあるので、仕事の延長だということにして騎士団へたどり着く。
もう騎士団や聖騎士にはラシアの悪名がはびこっているようで、かなりびびられながらもデゴットへの取り次ぎを頼む。すると、すぐに入ってこいと返事が返ってきた。
冒険者に比べて何というか、規律とかそういうものがしっかりしているので、よく昼まで寝ているラシアからすれば肌に合わないのが、騎士団と聖騎士の兵舎だったりもする。
戦闘訓練の掛け声が聞こえる活気のある場所を通って進んでいくと、大きな扉があった。前を歩く兵士がノックすると返事があったので、ラシアは挨拶をしてから中へ入った。
「よく来てくれた。聞きたいことが多かったからな。こちらから行こうと思ってた所だ」
「ラシア隊長。まいどどーもです」
中は会議室のような場所で、デゴットとロディーが書類や地図などに埋もれていた。
ラシアにも聞きたいことは多かったが、まずはここに来た理由をしっかりと説明する。高くても構わないから、腕が確かで余計なことを外に話さない鍛冶屋がいたら教えてほしいとラシアは伝えた。
「あるぞ。そもそも騎士団が依頼を出してる所の大半はそんな所だからな。見られたくない装備なんかは山ほどあるからな」
「よかった……じゃあ、申し訳ないですけど、あとで良いので教えてもらえます? 私の一張羅にヒビが入って、欠けたりもしてますので……」
「設備さえあればおやっさんでも直せるが……今は宿の親父だからなー。俺が若い頃は、よく騎士団の装備の修理とかやってたんだぞ」
「まぁ、やり手の親父って感じしますしね。おやっさんは」
そして鍛冶屋はあとで紹介してもらえることになったので、他の話に入る。
まずはラシアも気になっている魔物の呼び鈴だ。この世界においては、どう考えても危険すぎるからだ。
「天使の国に忍び込んで鳴らしまくるって案を出した奴もおったけども……さすがにそれは却下になりました」
「……でしょうね。仮に天使の国を滅ぼせたとしても、それができるようなモンスターが残るわけですからね」
「まぁ、そういうことだな。ダンジョン内でうまく使えば楽に経験も積ませられそうだから、俺が責任を持って管理するという形だな。俺も長年騎士団にいるが、初めて見るアイテムではあるから貴重なのは分かる」
「私も持ってないぐらいの物ですからね。割と本気で貴重品です」
「俺的には、こういう使い所が難しい貴重品より、見て分かる宝石とかの方が楽でいい。……あとはパルサー達から聞いたが、黒いハンマーを手に入れたんだろ? 持ってきていたら見せてくれるか?」
パルサーを疑うわけではないが、本当に自分が持っていて良いのか? という思いもあったので、ラシアは黒いプラティディオンハンマーを取り出して二人に見せた。
見慣れない黒い金属の塊に二人は驚き、ラシアに許可を取ってから触る。さすがは騎士団長と聖騎士長のデゴットとロディーで、両手で持ってようやくといったところだが、持ち上げて振ることができた。
「重たっ! ……若い時にも白い方を持たせてもらったけども……さすがは隊長や」
「お前よくこんなの振ってるな……俺はお前を人と言える自信がないな」
「失敬な。まぁ冗談は置いておいてもらって、このハンマーどうします? 個人的には使わせてもらえるならありがたいですけども」
デゴットは冗談で言ったつもりはなかったようだが、その返事は早かった。使いこなせる者もいないし、売るとなっても価値が分からないので、ラシアの物でいいとのことだ。
「この辺はパルサーやロディーとも話し合ったが、使える者が使う方が良い。お前に頼むことも多いしな。その方がお互いにメリットがあるだろう」
ラシアにとっては思ってもいなかった話なので、そこは好意として素直に受け取っておくことにする。
そしてお礼というわけではないが、ラシアはアイテムバッグの中から一つだけアイテムを取り出し、デゴットの前に置いた。
「お礼とまでは言いませんけど、緋闇のダンジョンにいる記憶持ちのラビットマンバリスタに使ってください」
「これは?」
ラシアが置いたそれはテイマー用の課金アイテムで、使うと100%の確率でテイムに成功する。単品で買うと500円だが、ラシアが聖銀鋼の鎧を狙っていた時に、何万円もの課金で当たったハズレの類いだ。