ロマン職は異世界から帰りたい   作:庶民ザウルス三世

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第2話 夢の始まり

 はぁぁぁぁぁ……

 

 赤みを帯びた金色の長い髪は、わずかに波打ち、異性であっても同性であっても絶世の美女と称されてもおかしくない女は、人生に絶望したような大きなため息をつく。

 

「おうち帰りたい……」

 

 その呟きに対して無理ですと言わんばかりに、木で出来た気密性の低そうな扉がノックされる。内側からかんぬきを外してドアを開けた。

 

「ラシアさん。おはようございます!今日の朝ご飯もきっと美味しいですよ」

 

 十二、三歳の少女がトレイにのせて朝食を運んで来てくれる。下にある食堂で食べれば良いのだが……ガチムチの人や、明らかに人を殺してますと言わんばかりの冒険者達と同じフロアでご飯を一緒に食べるという選択肢は、人見知りのラシアには存在しない。

 

「ティアちゃん。いつもありがとう」

 

「いえいえ。これぐらいならお安いご用です」

 

 礼を言ってからトレイを受け取り机の上に朝食を置く。肉と野菜の入ったスープの良い匂いがラシアの鼻をくすぐった。

 

 そしてテーブルの上にラシアが置いた壺に手を入れると、小さなあめ玉が現れお礼の代わりにそれをティアにあげた。

 

 この世界では甘い物は珍しいらしく、ランダムで色んな飴が出てくる物でもティアは目を輝かせ喜び、ラシアに礼を言った。

 

「ラシアさん。いつもありがとうございます。命まで助けてもらって、ご飯を運ぶだけでこんな甘い物まで貰えるなんて」

 

 年の割にしっかりしているなとラシアは思うが……下で知らない人とご飯を食べることを避けられるだけでも、とてもありがたい事なのだ。

 

「ラシアさんは今日もダンジョンですか?気をつけて行ってきてくださいね」

 

 そう言ってティアは父親が経営している宿の仕事に戻っていった。

 

 テーブルに座りラシアは外を見ながら朝食を食べ始める。何かの肉と野菜のスープはそこそこ美味しい。卵の味はこちらの世界の方が美味しい気がする。よくわからないサラダは食べた事のない味がする。パンは顎がだるくなるぐらい固い。

 

 そんな固いパンをもちゃもちゃと噛みながら、こちらに来てから数え切れないほど言った言葉を口に出す。

 

「おうち帰りたい……」

 

 ラシア・ラ・シーラはラノベとか小説で言うところの転生、転移者と言った者だった。

 

 ゲームの課金の為にコンビニに行き、帰りに変な浮遊感に飲まれた所までは覚えている。

 

 そして……気がついた時には全く知らない世界の草原で目が覚めた。それだけでも一般人なら混乱するが、その上でこの世界には魔物がいて魔法があるといったファンタジー全開の世界だった。

 

 その時点でもう帰りたい気持ちは決定的だったが……さらに悪い知らせが追い打ちをかける。元の世界にいるときは男性だったが、どういう訳かスマホゲームで使用していた女性キャラクター、ラシア・ラ・シーラになっていたからだ。

 

 男の時とは体の構造が違いすぎて……こちらの世界に来た時は本当にパニックを起こしていた。

 

 ただ良いこともいくつかはあった。

 

 まだこちらの世界にきて一ヶ月ぐらいで詳しく調べないと駄目だが、スマホゲーム時のレベル100とステ振りはそのままこの体に適応されているようだった。

 

 ロマン職ステだったが、それでも出会ったモンスターを軽く倒せる程にはこの体は強く、岩を殴れば砕け、鉄を殴れば穴が空くほどだった。加減のしかたも体が分かっているようで、日常生活で何かを破壊してしまうという事もなかった。

 

 そしてもう一つの幸運は、ゲームでダンジョンに挑んだ時に持っていた物を全て持って来ていたという事だった。

 

 最強装備はとある事情で今は使えないが……先ほどティアにあげた飴も、ガチャで当たった使うとMPを少し回復する飴が出る壺だった。ゲームだと連打して使うがここは現実なので一回に何度も食べられはしないが、属性武器、回復アイテム、消耗品といった物もアイテムバッグごとこちらの世界にやってきた。

 

 だから今は軽装なのだが、武器や防具もアイテムバッグにしまってあり盗難の心配は少なかった。そしてこの世界にもアイテムバッグはあるようなので、その辺りも安心だった。

 

「はぁぁ……普段から整理整頓しなかったのが生きてる。ゲームダンジョンに挑んだ時もいらないアイテムとか倉庫に入れてなかったから助かった」

 

 朝食を全て食べ終え、口直しに飴を口に放り込んでからトレイを持って下へと降りていく……初めてこの宿に来た時はやたらと他の冒険者に絡まれたので、静かに足音を消して階段を下る。

 

 元から静かに歩く癖があったので、その癖が身体能力によって強化されているのか、軽装を着ようがフルプレートを着ようが全く足音がしなかった。

 

 表の扉から出ると絡まれる可能性が高いので、静かにトレイを置いてから裏口からこっそりと外に出る。その時にちょうどこの宿の親父と目があったので、ラシアは会釈だけして静かに宿を出た。

 

 お金も換金である程度は持っているので、数日ほど宿の部屋を借りている。寝るところの心配はしなくて良かった。

 

 外に出るともうすぐ昼に近いのか人の数はとても多い。商人が売るアクセサリーを買うか悩む娘、街を巡回する兵士風の人達、それを見て真似をする子供達、宿屋で見かける様な武装した冒険者達。

 

 ラシアは目的の場所に向かって歩く。

 

 旅行で来たのならとても良い思い出になるような街だった。よく喧嘩はあるし治安もそれなりには悪いが活気があった。

 

 種族も人だけではなく、猫耳や尻尾が生えた獣人やファンタジーの定番とも言える耳の尖ったたぶんエルフであろう人達もいた。

 

 ラシアの見た目に男性達が幾度となく振り向き、ようやく目的の場所へとやってくる。

 

 そこはこの世界では冒険者ギルドと呼ばれ、ダンジョンへの入場を管理している場所だった。

 

 ラシアは色々あってなんとかこの町にたどり着き、冒険者となった。理由は簡単だった。身分証になり街に入場しやすくなり、ダンジョンにも入場が可能になるからだ。

 

 この世界には電気の代わりに魔力が発達している。明かりを灯すのにも魔力を使い寒さをしのぐのにも魔力を使う

 

 魔力にはいくつか種類がある。人や自然から生まれるもの、そして魔石から放出されるものだ。

 基本的にこの三つで世界は回っているらしい。

 

 魔物を倒せば魔石が取れ、それをギルドが買い取り世界を回す。簡単に言えばそんな感じだった。

 

 だからダンジョンがある所にはこういう大きな街が存在していた。

 

 力があれば生きていける。今のラシアには冒険者になる以外の選択肢は存在しなかった。

 

 今日も冒険者ギルドは繁盛している。中央にある光の道、ポータルを抜ければダンジョンだ。

 

 この町、ルインエルデからは二つのダンジョンに繋がっている。ゲームで言うなら初心者ダンジョンと初級者ダンジョンといった所だ。

 

 ラシアは暇な時に街の図書館で勉強しているので、少し街のことに詳しくなっていた。

 

 周りが少し騒がしくなる。

 

 その初心者ダンジョンには似つかわしくない人達がポータルを抜けてやってくる。

 

 明らかに最高クラスの装備に身を包んだ精鋭たちだ。

 

 そんな者達がどうしてこの場所にいるのか?

 

 今、ホットな話題が二つある。

 

 一つは大公の娘からの人捜し依頼だ。自分達がこの近くでドラゴンに襲われていた時に助けてもらった、白の鎧に身を包んだフルプレートの騎士を探しているとの事。見つけてくれれば金額は問わない。

 

 もう一つは、近くにあった水晶の廃坑に突如として出現した水晶の湖の調査だ。数日前までは確実になかったが、一夜にして現れた原因不明の、百メートルを超える、溶けた水晶がそのまま固まった湖の事だ。

 

 心当たりは山ほどあるが……ラシアは何も知らない顔で受付へと向かった。

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