ラシアがデゴットに渡したアイテムは『仲良し軟膏』という課金アイテムで、テイマー専用の物だ。
さすがに黒いプラティディオンハンマーをもらって何もなしというのは申し訳なさすぎる。代わりと言ってはなんだが、この世界では非常に手に入りにくい課金アイテムを渡すことにしたのだ。
「私の知る限りでは100%の確率で成功するアイテムですが、こちらの世界でも同じかは分かりません。それでも、よほどのことがない限りはモンスターを捕獲して使役できると思いますので、緋闇のダンジョンにいる記憶持ちのラビットマンバリスタ対策に使ってもらえればと」
「なるほど。だが……テイマー職って本当に見ないからな。使役して連れ出したモンスターって大丈夫なのか?」
「その辺も踏まえて、捕まえてみるのが良いかもですね。普通のモンスターは言葉を話せないかもしれませんが、テイマーとは意思疎通できると思うので、どんな感じで記憶が残っているかも聞けるでしょうし」
「それもそうか……でもあれだな。聞いただけなら、ラビットマンバリスタに使うのはもったいない気もするな」
その辺はラシア的にももったいないと思う。ゲームでも基本的にテイマー職がこのアイテムを使う時は、90台の高レベルモンスターを対象にする。ラビットマンバリスタなんてよく見かけるので、もったいないと言えばもったいないが、それはそれといった話だ。
そして、だいたい聞きたいことも話したいことも終わったかなーとラシアが思っていると、デゴットが一度姿勢を正したあと、ラシアにもう一度丁寧に礼を言った。
「どうしたんですか? 急に……」
「いやな。大公を筆頭に、この国って変な奴が多いだろ? それなのに貴重なアイテムまで寄付してくれて、よくこの国のために働いてくれてるなーと思ってな」
「隊長。大公の家ぐらいやったら更地にしてもええですよ」
「『じゃあ喜んで』と言って大公さん宅に行ったら、どうするんでしょうねとは思いますが……できる範囲で協力して、この国が住みやすくなれば私のためにもなるので大丈夫ですよ。姫様とかコアラとか妖精のことで優遇されているのも分かりますし」
「王女様はともかく、コアラの王様とか妖精の女王には迂闊に手出しできないってのはあるからな」
「無理に仲良くはしなくても良いから、敵対だけはしないでもらえたらなーと」
デゴットもロディーも、本当にそうだなと頷いた。そして最初にラシアが言っていた、防具を修理するための紹介状を書いて渡した。
「俺とロディーの直筆のサイン入りだから、それを持っていったら文句も言われずにやってくれると思うぞ。まぁムカついたら更地にしても構わん」
「しませんけどね。というか更地更地って、私が更地にした所なんてないですけども?」
「隊長ってちょいちょい嘘言いますよね。屋敷のダンジョンも更地にしたって聞いたし、この前もそうだった気が……」
「うぐっ……それはロディーが仕事で疲れているだけです」
「まぁ、ラシアがそこら中を更地にしているのは周知の事実だからな。そういえばアトラスとヘッジが、また模擬戦してほしいとか言ってたぞ。気が向いた時で良いから、前みたいに団員をしばきつつ相手をしてやってくれ」
「何を言われるか分かったものではないので嫌です」
緋闇のダンジョンと屋敷のダンジョンの報酬をフウコウの分と一緒に受け取り、嫌だと言いながらも、よほど気が向いたら相手をすると伝え、紹介状の礼を言ってからラシアはその鍛冶屋へ向かった。
騎士団を出て、ほぼ修復が終わった城の前を歩きながら鍛冶屋へ向かう。ルインエルデと比べて王都は広く、本当に人が多い。城に用がないであろう冒険者や街の人なんかも近くを歩いている。
修復の進んだ城と明るい人々を見ていると、王都がカオスドラゴンの襲撃に遭い、国王と第一王子が亡くなったという話が嘘のように思える。
ラシア的にはこの国に居着くつもりはないが、どうでも良いとまでは思わないので、本当にどうなるんだろうという話だ。
王位継承とか言われても、そんな単語はゲームでたまに見るぐらいなので、どういうふうになるのかは本当に分からない。
何はともあれ、天使の国や妖精の国のこともあるので、誰かしら舵取りをしないと駄目なのでは? と素人ながらにラシアは思っていた。
そんなことを考えながら鍛冶屋へ向かっていると、道中に美味しそうな焼き菓子などを売っている店がいくつもあった。買って食べながら歩いていきたいところだが……ティアもいないので、気合いを入れてまでやることではない。我慢して素直に鍛冶屋へ向かった。
そしてようやく目的の鍛冶屋が見えてきたのだが……なんか店がでかく、冒険者も騎士も聖騎士もめっちゃ多いのだ。
しかもなんかパッと見た感じだが……パルサーやティーガーと同じぐらいの強さの者が何人も混じっているように思えるし、それより強そうな人もいる。
街の人から、冒険者や騎士は怖いという話を聞くことがあるが……中身が一般人のラシアからしたら、雰囲気というか目つきが明らかに違うので、言いたいことは分かる。
鎧が壊れてなかったら……このまま回れ右をして、ティーガーかパルサーを誘ってさっきの店でお茶をし、ティアにお土産を買って帰るのだが……そうは問屋が卸さないのだ。
ラシアは何度か大きく深呼吸をして、鍛冶屋の中へ入っていった。
中に入っても明らかに人が多く、有名店というか名店なのだろうと思う。元の世界でもラシアは基本的に人が多い所へは行かないので、軽く目眩を覚える。
あと、有名人でもないのに「あれって沈黙のラシアか?」みたいなことを言われるのは、切実にやめてほしいと思う。
悪口ではなく二つ名だとは思うのだが……こう、呼ばれ慣れないのでこっぱずかしいからだ。
ゆっくり店内を見たいところだが……人が多いし、ゆっくり見られそうな気がしないので、ラシアはそそくさと受付のような所へ向かう。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件ですか?」
受付にいた人にそう言われたので、ラシアは防具の修復に来たことと、デゴットからの紹介状があることを伝えてから、その紹介状を見せた。
「えっと……これってもちろん本物ですよね?」
「はい。書いてもらった所を私も見たので、本物のはずです」
「分かりました。親方に話をしてきますので、少々お待ちくださいませ」
言葉遣いは丁寧だが、内心かなり焦っているのはラシアにも分かる。騎士団長と聖騎士長の直筆の紹介状だからだ。ロディー辺りが変なことを書いていなければいいなーと考えながら少し待っていると、先ほどの店員がやってきた。
「ではお客様。こちらへどうぞ。奥の工房に親方がいますので」
ラシアは礼を言って、その店員のあとについていく。店舗の奥では武器や防具を作っているようで、騎士団とはまた違う熱気に満ちていた。
言えば見学ぐらいはさせてもらえそうだが……それはそれで迷惑がかかるし大変なので却下だ。
そして目的の工房に入ると、小柄だが体格の良い人がいた。顔を隠すように、ゴーグルと革製であろうフルフェイス型のヘルメットをかぶっていた。
「お前さんが噂の白騎士か。こっちでも沈黙のラシアって名前で話題になってるが、騎士団長と聖騎士長の直筆の紹介状っていうのはどういう話だ?」
めっちゃ偏見だが……いかにもゲームとかで出てくる鍛冶屋みたいな話し方なので、ラシアは少し安心する。
「はい。普段使っている鎧に戦闘でヒビが入り、欠けたので、修復と強化を頼みたいなと。ブロン鋼みたいな材料はこちらで持ってます」
「分かった。ならそこの作業台の上に、修理する鎧を一式出してくれ。噂の白騎士だし、フルプレートだろ?」
「自分から名乗ったことはないですけどね」
ローウェンテニアの死神と呼ばれるよりはマシかなーと思うが、鎧が白いだけで白騎士は安直じゃね? とも思う。だがラシアもフウコウのことは猫怪人とか言うので、同レベルかと思いながら作業台の上に聖銀鋼の鎧を並べ始める。
全てを並べ終えると、親方と呼ばれた男性がゴクリと喉を鳴らした。
「噂の白騎士がどんな防具を身につけてるのかは気になっていたが……どえらい防具だな、これは……確認させてもらってもいいか?」
「はい。大丈夫ですよ」
ラシアが了承すると、鍛冶屋の親方は鎧を手に取り、一つずつ丁寧に調べ上げていく。
少し時間はかかりそうだが、店の方へ行っても時間を持て余すだけなので、ラシアはその場で静かに待った。
体感だが、そろそろ一時間ぐらい経ったかなーという所で、鍛冶屋の親方は全てを調べ終え、結果をラシアに伝えた。
「結論から言えば直るが……少し問題がある」
ラシアはほっとするが……その問題が気になるので詳しく聞くと、欠けた部分のことだそうだ。
「武器や防具をブロン鋼とかで強化修復すれば直るには直るが……欠けた部分が元の状態に戻るわけじゃない。傷や割れは直るがな」
「なるほど」
「だから完璧に直そうと思うなら、これと同じ金属が要るって話だ。普段やってる修復は、簡単に言えば別の金属で穴埋めするって感じだな。こんな見事な鎧だから完璧に直した方が良いと思うが……同じ金属を持っているか?」
さすがのラシアも持ってはいないが……手に入りそうな所は覚えている。確か聖銀鋼の鎧の説明欄に、炎より遥かに熱い獄炎の中で生まれた金属で作られた鎧と書かれていたからだ。
そんな所があるのか? という話だが……ある。超級ダンジョンの一つ。
獄炎のダンジョンのことだ。