たぶんだが聖銀鋼は獄炎のダンジョンの下の方にあった記憶がある。アイテムとして取れる物ではなく、岩の間にある綺麗な石のようなオブジェクトだったはずだ。
公式設定資料集にも、あまりの熱量で邪な物が全て燃え、残った綺麗な物を聖銀鋼と呼ぶ、みたいな説明があったはずだ。
だけど問題が出てくる。超級ダンジョンに行くのに、聖銀鋼の鎧なしでははっきり言って無理だ。
ここで自分自身に文句を言いたい。なぜ聖銀鋼の鎧が手に入る前に着ていた鎧を、手持ちのアイテムバッグではなく拠点のアイテムボックスにぶち込んでいたのかということだ。
だけど、まぁ……コンビニの帰りに穴に落ちて異世界に行くとか思わないので、仕方がないとラシアは思う。
今の聖銀鋼の鎧は無強化だけど、最新の課金武具だけあって過去の装備より強い。
イメージ的には、普段着ている軽装がゲーム初期の鎧なら、聖銀鋼の鎧は最終装備で。前に着ていた鎧は中盤から最後まで着れる防具とかそんな感じだ。
攻撃力やクリティカルダメージ、防御力は聖銀鋼の鎧が上だが、耐性やHP、MP回復で考えると前に着ていた鎧の方が上だ。だが、そんな鎧はアイテムバッグにはない。
あるのは軽装と壊れた聖銀鋼の鎧のみ。
だから獄炎に行くとなると、目の前の鎧を応急処置してもらって行くか……新たに鎧を買うかになる。だが、聖銀鋼の鎧が直ったら着ないので、買わない方が無駄なお金を使わずに済む。
あと悪く言うわけではないが……超級モンスターの攻撃を、その辺で売っている防具で耐えられる気はしない。
「この鎧って、応急処置をしてもらったあとでも完全に直せますか? 次に行こうと考えているダンジョンで取れるんですが、この鎧がないと無理なので」
「直るには直るが、応急処置に使った鉱石とかはなくなる。それでもいいか?」
「はい。全然問題ないのでお願いします」
分かったと鍛冶屋の親方は返事をして、ラシアと話を詰めていく。
ラシアの聖銀鋼の鎧はガチャで当たってからすぐにこちらへ飛ばされたので、当然ながら無強化だ。あとで完全に修理すると材料は無駄になってしまうが、今の状態で+6まで強化してもらうことになった。
ゲームでは+7から武器や防具が壊れる確率が発生するからだ。ぶっちゃけこの辺は本気で実験したので、はっきり言って+1でも素人がやれば壊れると思う。壊れたことはないけども……
そして親方にブロン鋼、シルバ鋼、ゴルディ鋼を渡し、代金なども確認して応急処置に入ってもらった。
すぐに金槌とどこからともなく金床を取り出し、聖銀鋼の鎧の応急処置を行う。傷は綺麗に消え、欠けた部分も埋まったので、ラシア的にはこのままで良いんじゃねって話だが……やっぱり駄目とのことだ。
「防具としての性能はほとんど変わらんが……なんでかは知らんが耐久度は落ちるんだよな。個人的に思うのは壊れた状態のまま、防御力が上がってる感じか」
なんとなくだが親方の言いたいことは分かる。ゲーム的に言えば、壊れた鎧+6といった感じだ。
「そこまですぐに壊れる物でもないから、今回みたいな無茶をしなければ大丈夫だろう」
「ありがとうございます。次のダンジョンにあると思うので、行って回収してきます。その時はお願いできますか?」
「おう。騎士団長様と聖騎士長様直々のお客さんだからな。断ることはねーな。ただ、この応急処置だけだと金のもらいすぎだから、ついでになんか鍛えてやろうか? それかなんか持って帰るか?」
そう言ってくれたので、どうしようかなーと考えていると幻聴が聞こえる。
「いっそのこと、新入り達を鍛えてやった方がいいと思うぞ、相棒」(幻聴)
(確かにそれが良いかも……)
黒いプラティディオンハンマーはコピーされた時点で+10なので問題なしだが、メテオドライブハンマーと古城のダンジョンで先生からもらったルインブレイカーはまだ無強化なのだ。
ルインブレイカーは強化すると+1ごとに武具破壊の確率が1%上がり、攻撃力も上がる。メテオドライブハンマーだけは少し問題が出てくる。
それは無強化の場合は何もないが、+1強化するごとに攻撃速度と隕石の発生率が1%ずつ上がるのだ。
現実の世界でそれって大丈夫なの? という話になるので強化していなかったが、試さないわけにもいかないので今が良い機会なのかもしれない。
まぁ、ゲームのグラフィックではアホみたいにでかい隕石が落ちてくるわけでもなく、人より少し大きい隕石が落ちてくるのだ。
そのサイズの岩を仮に上空数千メートルから落としたら威力がおかしいことになるはずなので、どうなるかは少し気になる。
ルインブレイカーとメテオドライブハンマーを取り出すと、鍛冶屋の親方はまた息をのむ。
ラシアはブロン鋼、シルバ鋼、ゴルディ鋼、リハル鋼、ヒヒイロ鋼の五種類の鉱石を取り出し、ルインブレイカーとメテオドライブハンマーの+10を目指す。
「こちらを信用してくれるのはありがたいが、どう頑張っても七回目以降の強化では壊れる可能性がある。それでもいいか?」
そしてそこは課金アイテムでカバーする。七回目以降は、一つ三百円の『神鉄の欠片』を使って強化すれば、壊れずに成功するのだ。
神様が守ってくれているとのことなのだが、神様よりお金の方が強いのは課金があるゲームでは当たり前のことなのだ。
そして鍛冶屋の親方はおやっさんと同じでヒヒイロ鋼のことは知っていたが、武器の強化に使用できることは知らなかったので、神鉄の欠片と一緒に説明しておいた。
「長年……鍛冶屋をやってるが、この歳になっても学ぶことは多いものだな」
「偉い人曰く、死ぬまで勉強らしいですよ?」
「なるほどな。流石は噂の白騎士様か。それで? この欠片は何処で手に入るんだ?」
別の世界から持ってきた物だし、課金アイテムなので手に入れる方法は限られている。
だから嘘は言わないように、超級ダンジョンの地星にいる黒い妖精から手に入る『妖精のポーチ』から、運が良ければ出ると伝えておいた。
「そういや……お前さんは超級のダンジョンを踏破したんだったな」
その辺を詳しく尋ねると、ラシアの超級ダンジョン踏破は本当に凄いことだったらしく、冒険者に関わる鍛冶屋などはほとんどが噂で知っているとのことだった。
目の前の親方もその辺に興味津々だったので、話さないとも言いにくい。そこで、出てくるモンスターや取れる素材などの話をした。
そして結構長い時間話して、ようやく親方は満足したようだった。
正直、強化に関しては……実験も兼ねている。
ゲームとの違いは幾つもあるので、課金アイテムである神鉄の欠片を使っても武器が壊れることがあるのか、確かめるための実験だ。
この二つのハンマーなら壊れても替えが利く。壊れることがあったなら、聖銀鋼の鎧は修理したあとも+6でストップだ。聖銀鋼の鎧は確実に替えが利かないからだ。
ルインブレイカーは装備条件がなく、メテオドライブハンマーは確か装備条件がレベル60ぐらいだったので、親方は工房から応援を呼んで、その二つのハンマーの強化を始めた。
親方がハンマーを強化する様子を、ラシアはドキドキしながら見守った。そして作業は無事に終わった。
結果は……神鉄の欠片か親方の能力のお陰かは分からないが、二つのハンマーは強化に成功し、+10特有の神々しい光を放っていた。
「神鉄の欠片とか言ったか? それは流石に手に入らんかもしれんが、ヒヒイロ鋼は買いあさっておいた方が良いかもしれんな」
「どうでしょうね? 売った方がお金になるかもしれませんので、なんとも……」
「高ランクになると武器に愛着がある奴も多いしな」
「なるほど」
そして聖銀鋼の鎧の応急処置代を払って帰ろうとしたが、教えてもらった情報には見合っていないからタダで良いと言ってもらえた。
だが、ゲームなら誰でも知っている知識だし、タダは怖い。それにラシアは仕事にはちゃんとお金を払いたいタイプなので、しっかりと代金を払った。それから、また材料が集まったら来ますのでお願いしますと頭を下げた。
「おう。いつでも来てくれ。それと、そのハンマーに巻いてある革は自分で巻いたのか?」
「いえ。ルインエルデの武器屋で巻いてもらいました」
「なるほど。かなり上手いから仕事を回そうと思う。場所を教えてくれ」
流石にそれで怒られることはないだろうし、嫌ならあの店主も断るだろう。ラシアは店の場所を伝えてから鍛冶屋をあとにした。
鍛冶屋の親方とかなり話をした勢いのまま、ラシアは来る時に見かけたお菓子などを売っている店で、ティアやリレッサ達へのお土産を買って宿へ帰還した。
宿に戻ると忙しい時間は過ぎていて、おやっさんが皿を洗っていたので、ラシアは戻ったことを伝えた。
「あれ? 姫様とティアちゃんは? ノアさんはまだダンジョンだと思うけど」
「ノアはその通りで、姫様とティアは一緒に風呂に入るって言ってたぞ」
流石に羨ましいとは言いづらい雰囲気だったので、ラシアは+10になった二つのハンマーをおやっさんに自慢した。
「見て見て。おやっさん! 両方+10!」
「眩しいのはいいが……また訳の分からんアイテムの類いか?」
「地獄のサタンも金次第ってことですよ」
「また訳の分からんことを。まぁいいが、床に置いて凹ますなよ」
そんなヘマはしないとラシアは笑い、ルインブレイカーをしまってメテオドライブハンマーを振ってみる。ちょうど今はお客さんもいないからだ。
流石に+10だけあって攻撃速度も10%上がっているので、いつもより遥かに振りが軽い。
「お前な! そんなでかい物を振り回したら埃が舞うだろうが!」
確かにおやっさんの言うことも一理あるなと思ったタイミングで、メテオドライブハンマーを振った時の音が変わり、魔法陣が発生した。
「え?」
「おいこら。なんか魔法陣出たぞ」
「……おやっさん! 先に土下座しとく!」
「……大丈夫だ。許さん」
そして……メテオドライブハンマーから発生した隕石が二階を丸ごと吹っ飛ばし、ラシアは滅茶苦茶おやっさんに怒られた。
ちなみに運良く誰もおらず、奇跡的に怪我人はいなかった。