第203話 新たなダンジョン
昼前に目覚め、眠い目を擦りながらラシアは考える。次に向かうダンジョンは獄炎のダンジョンなのだが……メンバーをどうするかだ。
読んで字のごとく、獄炎というぐらいなので当然熱い。それだけならいいのだが、超級ダンジョンの中で最もモンスターのレベルが高いのが獄炎なのだ。
深淵のダンジョンに行くには大きな魔石が幾つもいる。
聖銀鋼の鎧を修理するための鉱石も、獄炎のボスモンスターがいる付近で見たような記憶がある。そこまで行ったのなら、ついでにボスも倒して魔石とドロップアイテムを狙いたいが……モンスターが強いのだ。
獄炎ダンジョンは全十三階層。地星みたいにだだっ広いジャングルを進むわけではないので……パーティーで行くなら熱対策のアイテムとかがめっちゃいる。まぁアイテムバッグがあるので、この辺は大丈夫だが。
ラシア的にも、超級ダンジョンは地星の方が狩り場も混まず、フィールドダメージもないので楽だ。そこによく行っていたため、他の超級は少し難しく感じるのだ。
何をするにしても対策が必要だからだ。その代わり、換金アイテムである鉱石の類いはめっちゃ落ちるので、美味しいと言えば美味しいのだが……
そんなことを考えながら一階に降りてくると、おやっさんが新聞みたいな情報誌を読み、ティアが蟻に命令を出して宿の掃除をしていた。
二人と挨拶を交わしてから、ラシアは朝食を頼んだ。
「ラシアさんは今日もゆっくりするの?」
「鎧の修理もあるからダンジョンに潜りたいけど……どうしようかなーって感じ。流石に超級を一人で踏破するのは無理だからねー」
「そっかー」
そんな話をしていると、ティアに使役されている蟻も店の仕事に慣れたのか、頭の上に飲み物を置いてラシアの元まで運んでくる。
もう一匹は立ち上がって別のテーブルを拭いているのだから……中々にシュールだ。
そして朝食ができあがったので、三人で世間話をしながら食べ、ラシアは本日の予定を決めた。
とりあえず……超級ダンジョンの獄炎を見に行く。これだ。一階層は溶岩が大量に流れているダメージフィールドで、そこを抜けないと二階層へと降りることはできない。
二階層から洞窟となるので、とりあえず一階層を越えられるか見ておかないと話にならないのだ。
「というわけで……本日の予定は、獄炎のダンジョンの下見に行ってきます」
「お前はな……超級ダンジョンに行くのに、ちょっと買い物に行く的な感じを醸し出すのはやめろ」
「そんなこと言われましても、仕方ないですやん」
「ラシアさん、気をつけてね!」
心配してくれるおやっさんとティアに感謝しながら朝食を食べ終え、ラシアは部屋へと戻り準備をする。
いい加減……アイテムバッグの整理もしないと駄目だが、忙しいのでその内だ。
応急処置済みの聖銀鋼の鎧に身を包み、今回はプラティディオンハンマーではなく、+10になって輝くメテオドライブハンマーを背負って出発だ。
そしてちょうど宿から出ようとしたタイミングで、ダード、ビエット、エリエスの三人組が帰ってきた。
「あれ? ラシア、何処か行くのか?」
「はい。ちょっと獄炎を見てこようかと。行きます?」
「ラシアさん。獄炎って超級ダンジョンですからね……僕達が行けるはずもないので」
「それでフル装備なんですね」
獄炎は地星のように、一つのフィールドに全てのモンスターがいるわけではない。フィールドダメージはあるが、他と同じように下の階層へ降りるほどモンスターが強くなっていく。
一階層、二階層ぐらいなら、出てくるモンスターはレベル六十後半から七十程度。ダード達には勧められないが、絶対に行けないほどではないのだ。
「ラシアは暇な時は部屋から出ないからなー。何処か美味しい狩り場に一緒に行くか、教えてもらおうと思ったが、どこかあるか?」
前だったらついてくるとか言っていたと思うが、この三人も冒険者としてちゃんと強くなってるなーとラシアは思う。レベルとかは置いておいて、冒険者としての経験だけなら自分より上じゃないかなと思いながら、三人に合った場所を考える。
「皆さんもそろそろフィールドの対策とか考えた方がいいと思うので、それに採取も兼ねて、雪原のダンジョンでどうですか?」
「聞いたことはあるけど、どんな感じなんだ?」
雪原のダンジョンは全八階層の中級ダンジョンだ。フィールド特性によるダメージはないが、対策をしていないと凍傷などの状態異常にかかる。また、そうしたデバフがあることから、モンスターのステータスが少し弱めに設定されているのが特徴だ。
また、獄炎ダンジョンのような炎のフィールドダメージを軽減する消耗品の製作素材も入手できるので、金策もバッチリだ。
「一階層なら雪が盛り上がってる木の下に、雪見茸ってキノコが生えてるので、それを取ってきてもらえたら私が買い取りますよ」
「分かった。じゃーそこに行ってみるか。ちょっと狩り場に悩んでいたからな。ささっと準備してくる!」
そう言ってダードとビエットの男性陣が先に行ってしまったので、ラシアは残ったエリエスに持っていくアイテムの説明をする。
「そこまでモンスターは強くないですが、氷結と凍傷を無効にする消耗品を渡しておきますので、向こうに着いたら飲んでください」
「ありがとうございます! モンスターの強さとかって大丈夫ですか?」
「今から行って夜に帰ってくることを考えると、時間的に二階層が限界です。氷結に注意すれば大丈夫ですよ。三階層に降りてもモンスターの強さは問題ないですが、安全に狩るなら二階層までが無難ですね」
「分かりました!」
ラシアはエリエスに氷結と凍傷を無効にする消耗品を渡し、ダード用として武器に火属性を付与するスクロールも預けた。
そしてエリエスとおやっさんに行ってくると伝え、冒険者ギルドへと向かう。
エリエス達のこともあるので、クランなんて作らず、好きにやっていた方が楽だったなーとは本当に思う。
レベルがあるのかないのかは分からないが、ラシアが行くようなダンジョンにダード達を連れて行くのは無理だし、いつまで経ってもこの辺は難しい。
ただ、その辺はグオンやノアがサポートし、三人に色々教えてくれているので本当に助かっている。
ラシア自身、人の上に立って誰かを率いるような人物ではないので……何とも難しい話だ。
(人の上に立つか……宿には王女と王様がいるから、帰ったら相談してみるか)
そんなことを考えながら冒険者ギルドへ向かう途中、ラシアはコアラの形をしたクッキーを食べている親子を見かけた。
そして冒険者ギルドに辿り着くと……びっくりするぐらい人が多い。
フェリスロステが国に頼まれてポータルをいじり、中級ダンジョンに入れるようになったので、冒険者がどえらい増えているのだ。
普段ならこのまま回れ右して帰るのだが……今のラシアは超級ダンジョンに行くためのフル装備。その姿を見た人達が左右に避け、いつもの受付嬢さんがいる受付まで人波がパッカーと割れて道ができるのだ。
軽装やメイド服の時も問答無用でこれぐらい人に離れてほしいと思うが、何だか申し訳ないので、軽く頭を下げつつ受付へと向かい挨拶を交わした。
「ラシアさん。あまり初心者や初級・中級の冒険者を威嚇するのはやめてくださいね」
「してませんけどね!?」
「まぁ、それは冗談ですが、本日は?」
「冗談に聞こえない……獄炎の様子を見に行くので、その手続きをお願いします」
そう言うと、おやっさんと同じような顔をするので、その顔をやめろと言いたくなるが……受付嬢の反応は何も間違っていないのだから仕方がないと思うのだ。
「ラシアさんだからいいんですが……初心者や初級者が集まる中で、超級ダンジョンの手続きをするのもどうかと……しかも雰囲気的に初級ダンジョンへ行くノリですし」
「そんなこと言われましても、超級ダンジョンに行く冒険者とか見たことないですし、どんなノリなんですか?」
受付嬢が言うには、十人以上の高ランクメンバーが集まって入念に準備し、周りの冒険者やギルドの者達の応援を受けて向かうのが超級ダンジョンなのだそうだ。
「まさに、そんなこと言われても私にどうしろと言うヤツですね。今回は踏破じゃなくて下見なので、全然大丈夫ですよ」
受付嬢には何が大丈夫なのか全く理解できないが、行く本人がそう言うのならそういうことなのだろうと、色々と諦めて手続きを済ませた。
「これで手続きは終わりましたので、お気をつけて」
「ありがとうございます。久しぶりに行くので、面白い物が取れたらお土産に持って帰ってきますね」
そう言ってラシアはポータルに向かって歩いていったので、受付嬢はどうしてピクニック気分なのかと軽くため息をつく。
そしてそんなことをやっている間に、ラシアのクランメンバーである三人が冒険者ギルドへとやってきて、知り合いの冒険者と話しているのが見えた。
LLLは冒険者を加入させないことで有名なので、あの三人がLLLにいるのは本当に幸運だと思っていると、その三人の話し声が聞こえた。
「おい、ダード。お前の所のクランマスター、さっきフル装備で見たが、何処か行くのか?」
「何か、獄炎とかいうダンジョンに行くって言ってたな」
「獄炎って言えば、超級ダンジョンじゃねーか!」
「何か下見って言ってたぞ。次に攻略するダンジョンじゃねーかな。俺達はそれのお手伝いで素材集めだ」
「お前の所のクランはいーよなー。クランマスター、美人で強いしなー」
「俺もそう思う」
「ぐっ……世の中は不条理だ。というか、お前等どこか行くのか? 狩り場に悩んでるから、ついていっていいか?」
「別にいいけど、寒い所にキノコを取りに行ったりするだけだぞ。金にはなるって言ってたけどな」
「じゃー行く。金はいくらでも欲しい」
スキルやクラン独自の知識もあるので、普通は他の冒険者とあまり狩りに行かないものなのだが……ラシアが気にしないうえ、それがクランの方針にもなっているので、LLLのメンバーは割と他のクランと狩りに行ってたりする。
あのクランマスターにしてこのメンバーありだなと、受付嬢は少しおかしくなって笑ってしまう。
そんな話が交わされている頃、ラシアは王都のポータルを抜けて獄炎に辿り着いていた。