ラシアは獄炎のダンジョンに辿り着いたが……真っ先に浮かんだのは「熱い」という感想だ。
炎天下に置いてあった自動車へ乗り込んだ時以上に熱いので……終わっている熱さだ。
まだフィールドダメージすらない入り口でこのレベルなので、こんな所を進んでいくのは無理じゃね? と思うが、それを含めての下見だ。
ラシアはアイテムバッグを漁り、フィールドによるデバフを軽減するアイテムを取り出す。その名も氷水。
パッと見た感じ、氷の入った水なので馬鹿にしてるのかと思うが……こんなクソ熱い狩り場で狩りをすると、モンスターに与えるダメージが落ちて、こちらが食らうダメージが増加するデバフがかかるのだ。砂漠にあるダンジョンとかもそう。
そういうデバフを軽減するためのアイテムが、この氷水。逆に寒い所で使うのが甘酒だ。
ラシアがその氷水を飲み干すと、一気に体が冷え、それまで感じていた熱さが消えた。かき始めていた汗も止まり始める。
「……なんかエナジードリンクより体に悪そう! 致死量は何本だ!?」
ちょっと初級ダンジョンに行ってマウスマンとかを捕まえ、十本ぐらい一気に飲ませて試したい。だが、それでマウスマンが死んだら、自分も怖くて二度と飲めなくなると思うので……気にしたら駄目なのだろうと思い、先へ進む。
とはいえ、そう簡単に進めないのが超級だ。そこら中にマグマが流れていて普通に危険だ。
ゲームなら回復アイテム連打で無理矢理通れたりもするが……いらないアイテムを目の前の溶岩に投げると普通に火がつくし、手を近づけるとちゃんと熱い。
こういう所を無傷で抜けるには、アクセサリーのフライングブーツがいる。だが、熱で駄目になりそうなので、ラシアは白紙のスクロールを使い、空を飛べるようになるスカイハイを使用して宙に浮かぶ。
ゲームでは何とも思わなかったが……溶岩の上を飛ぶとかマジで恐ろしい。途中で切れたら確実に死ぬからだ。
そもそも、こっちの世界でも元の世界でも一般人は空を飛ばないので、スカイハイで飛んでも何ともおぼつかないのだ。狂化した時はなんか格好良く飛べたが……今は無理だ。
獄炎ダンジョンの一階層は溶岩ばかりで、モンスターがほとんどいないため、ゲームでは戦闘になることが少ない。
このダンジョンに出てくるモンスターは、マグマスライム、ライオンマン、サルマンダー、マグマ、ランチャータートル、火竜などなど。基本的に動物系が多いのが特徴だ。
マグマはこのままだと分かりにくいが、漢字にすると魔熊だ。こいつは進化系も名前が分かりにくい。マグマ(魔熊)→マグママグマ(溶岩魔熊)→マグママママグマ(溶岩母魔熊)になる。
これらは踏破を目指すなら、いずれも戦うことになるモンスターだ。
獄炎ダンジョンは火山地帯にあり、溶岩が大量に流れている。ただ、川にある中州のように所々に戦える場所がある。
ゲームだと浮いたまま溶岩の上でも戦えるが……現実でそれをやると、ドロップアイテムは溶岩の中に落ちるわ、足下は熱いわで戦闘は無理なのだ。
今も飛んでいると、こちらに気づいたマグマスライムやランチャータートルが溶岩の中から顔を出し、ラシアに攻撃を仕掛けてくる。
溶岩の中で生きられるとかどういう構造してるんだと思うが、怪獣王さんを全否定することになってしまうので、ラシアは気にせず先へ進む。
ちなみに、地面に立っている時のように躱すのはほぼ不可能だ。飛ぶのに慣れていないからだ。
(超級ダンジョンの天風に行く時は、飛び方を練習した方がいいかもしれない……それと、ダードさん達を連れてこなくて正解だなー。たぶん良い的になる)
そしてようやくラシアは、目的としていた一階層で最も広い足場へと辿り着いた。
ここからなら少し飛ぶだけで二階層へ降りられる。まずはここで狩りをしながら下見だ。二階層からは洞窟になるため、余裕があったら少し見てみたい。
獄炎のダンジョンは溶岩地帯というだけあって、火属性や炎属性のモンスターばかりだ。なのでラシアが持つイレイザーハンマーの青い方で殴れば大ダメージが入る。
だが、今持っているのは隕石が降ってくるメテオドライブハンマーだ。
何がしたいかというと、性能実験もあるが……ストレス発散を兼ねた遊びでもある。
確かめたいのは、落ちてくる隕石で自分もダメージを受けるのかどうかだ。
ラシアはアイテムバッグに手を突っ込み、幾つかのアイテムを取り出す。ここには熱さがあるだけで、混乱の状態異常を使ってくるモンスターもいない。
まずはラッキータルトを食べて運を上げる。これは前に作ったもので、運を大幅に上げる効果がある。
ゲームでいうところの運には、クリティカル率を上昇させ、モンスターの攻撃を外れやすくする効果がある。後はメテオドライブハンマーのような、追加攻撃の発生率を上げる効果もある。
それを食べた後、攻撃速度上昇効果のあるポーションを取り出して飲む。
このポーションは攻撃速度を大幅に上昇させるが、クリティカルダメージが落ちるデメリットがある。
後は一つ空いたアクセサリー枠に、運が上昇するアクセサリーをつけて完成だ。
ラシアの戦闘スタイルは一撃に重きを置くタイプなので、基本的に攻撃速度を上げることはしないが……せっかくメテオドライブハンマーが+10なので、どうしても遊びたい。
「空振りでも魔法が発生するのは宿でも体験済み」
そう言ってメテオドライブハンマーを振ると、攻撃速度を上げまくっているので、ハンマーがめっちゃ軽く感じられ、振りも鋭くなっている。
ヒュン! ひゅん! ブォン! ブォン!
風を切る音が変わったかと思うと、空に魔法陣が二つ現れた。そこから真っ赤な岩が二つ落ち、地面に衝突して爆散した。
割と近くに落ちたが……衝撃はラシアの体に伝わったものの、ダメージはない。
「さてと……モンスター! 出てこいやーー!」
近くにいたのはランチャータートル。こいつが餌食だ。動きは遅いが火力が高く、硬いのが特徴で、ラシアの攻撃にも数発なら耐える……今回は運が悪い。
今のラシアは攻撃速度と運がやたらと上がっている。ただの+10メテオドライブハンマーなら隕石の発生率は10%程度か少し上だが……今は数値にして25%ぐらいまで上がっている。
四発に一度は落ちるうえに攻撃速度が上昇しているので、ハンマーも速く振れる。体感ではとんでもない数の隕石が落ちて、お祭り騒ぎになる。
……ロマン職にも色んな形がある。ラシアのように一撃へ重きを置く者もいれば、一秒間にどれだけ殴れるかへ挑戦する者もいる。
さらに、今のラシアのように、殴ると魔法が発生する武器を装備して高速で殴り、常に魔法をオートで発生させるロマン職もいる。
だからこんなことをやっていると、ラシアは我を忘れて楽しんでしまう。
「た、楽しい! 殴り魔法職は序盤がキツすぎて諦めたけど、楽し過ぎる!」
襲ってくるモンスターもドン引きするぐらい隕石が降ってくる。その辺の地形が簡単に変わり、ラシアの笑い声もモンスターの断末魔も、隕石の着弾音に消されていった。
……
…………
色んな物を吹っ飛ばして更地にし、どれが何のモンスターだったのかも分からないほど倒しまくっていると、ようやく二階層へと降りる入り口が見つかった。
少し意外だったのは、その入り口の近くに人がいたであろう痕跡が残っていたことだ。どうやら、高ランクのパーティーが超級ダンジョンに挑んでいるらしい。
「モンスターはゆっくり強くなっていくけど、四階層ぐらいまでだったら上級の上澄みと同じだから、XとかZでも対策さえしてれば行けるか。デゴットさんとかロディーなら、もっと下れるだろうし」
よく溶岩地帯を抜けたなーと思うが、デゴットもフライングブーツのことを知っていた。高ランクなら入ってくるお金もえげつないので、それぐらいなら問題なく購入できるか。ラシアはそう考えながら、冷えて固まったであろう溶岩の斜面を下っていく。
一階層では気持ち良いぐらいにフィーバーしたが、二階層からはちゃんと調査だ。熱さ対策の氷水は、効果が切れそうになると汗が噴き出し始める。ゲームとかなら数分という感じだったが、一時間は持っているような気がする。
魔法のスカイハイも高度が落ちてくるので分かりやすい。急に効果が切れるわけではないので本当にありがたい。
二階層もそこら中に溶岩が流れているが、ルートさえ覚えていれば飛んだりしなくても行ける。
少し試したいこともあるので、ラシアはメテオドライブハンマーから赤と青のイレイザーハンマーに持ち替える。
イレイザーハンマーの青い方でスキルを使って地面を殴ると、氷結のフィールドが生成される。試したいのは、これで溶岩を殴ったら歩けるようになるのかということだ。
とりあえず物は試しとばかりに、近くを流れている溶岩を殴る。一面が氷のフィールドに包まれ、目の前の絵面が酷いことにはなるが……無事に溶岩は一瞬で触れられる程度まで冷やされた。
ただ、新たに水のように流れてくる溶岩は固まっていないので、固まった部分もすぐに飲み込まれ、通行不能となる。
「なるほど。流れていない所だったら……イレイザーハンマーで固めて通れそう。というか、こんな熱い所で急に冷やしたりして、体に悪影響とかないのかな?」
体の調子がおかしくならないかと心配しながら進んでいくと……二足歩行の恐竜のような赤い竜が現れた。
火竜だ。
そしてラシアとの戦闘が始まった。