ダード、ビエット、エリエス+三人の友人であろう冒険者が雪見茸を集めてくれたので、五十本近い数がラシアの手元にある。
「ギルドの方で値段聞いたら、焼いて食べたら美味しいとは言われたが、一つ1500セルぐらいだったから全部持って帰って来た。というかラシアに頼まれた物だしな」
「他の方々も適当に値段つけてくれて良いとの事ですよ」
「なぜそんなに安いか……セレットさん、錬金アイテムで氷水ってあります?」
たぶん前と似たようなパターンで錬金して作るアイテムとして無いのだ。セレットは思い出す様な仕草をするが、そんなアイテムは知らないとの事だ。
名前が違うかも知れないので持っている氷水をセレットに見せてみるが、普通の氷水との違いも分からないとの事だった。
「ラシアちゃん……これ瓶に氷と水が入っているだけよね?」
「どこからどう見てもそうですけど……触ったら分かりますよ。冷たくないので」
セレットとダード達はラシアが出したアイテムに触るが、氷が浮いているのに冷たくないので、何とも言えない表情になる。
「ラシアちゃん……私、こういう時どういう顔をすれば良いか分からないの」
「笑えばいいんじゃないですかね?」
錬金術師として冷たくない氷水が気になるようなので、ラシアはそれをセレットにあげた。セレットは少し深い皿にひっくり返して観察を始めた。
そんなセレットを放置してラシアは雪見茸の計算を始める。ゲームだと割と簡単に採れるが、街とかには売っていない。氷水を作ろうとするとそれなりの数がいるのだ。
ゲームでは8000~15000の価格で販売されていたので1500とかだと安すぎる。
「うーん。やっぱり一本10000セルぐらいが無難かな? 平均そんなもんだったし」
ラシアが値段を言うと三人は驚くが、買い叩く必要も無いしダンジョンまで行って取って来る事を考えるともっと高くても良いぐらいだ。
「クランのアイテムとして考えたら皆で使う物になるし、そんなに高くなくてもいいぞ?」
「結構な数がありますからね。私達はダードが最初言った様な値段でもいいですよ?」
「獄炎のダンジョンを踏破するなら全然足りないので、取りに行ってもらえるなら高い方がやる気も出るでしょうからね。この値段で良いですよ」
これだけ取ってまだ足りないのか、とダード達が驚くが、数日かけて踏破するとなるともう少し数があっても良いぐらいだ。
氷水は熱によるデバフを軽減し、火や炎によるダメージ(モンスターの攻撃、フィールドダメージ)も少し抑える。
支援職がいればデバフを軽減できるが、氷水が全く必要無いという事はない。この世界だと何があるか分からないので支援とアイテムの両方がある方がいいのだ。
そういう訳でダード達にお金を払い、ラシアは雪見茸をアイテムバッグに仕舞った。
「寒い所にキノコ取りに行っただけで想像以上に儲かってしまった……ラシア。そのキノコって取って来たらまたそれぐらいの値段で買い取ってもらえるのか?」
「全然いいですよ。私もですがクランで管理したら他のダンジョンでも使えますからね。砂漠とか熱線などなど」
分かったとダードが返事をする頃には三人の食事が出来ていた。三人は急に湧いたボーナスに喜び、何を買うかなど話しながら席へとついた。
そしてラシアは冷たくない氷をつついて悩んでいるセレットに、買い取った雪見茸を使い、錬金で氷水を作って欲しいと伝えた。
「それは喜んでやらせてもらうけど……ラシアちゃん氷が冷たくない」
「もう氷に似たゼリーか寒天で良いのでは?」
そう言われて少し悩んだ後に、セレットは色々と諦めた様でラシアと共にアイテムを販売している方に行き、錬金の準備を始めた。
「セレットさんが氷水を知らなかったので、たぶん登録されてないアイテムだと思うんです。セレットさんかお弟子さんの名前で登録してもらえますか?」
「それはいいけど、ラシアちゃんもうXランクだしラシアちゃんの名前で良いと思うわよー」
「それはそれで、今更なのでいいかなとー」
「ラシアちゃんがいいならいいんだけど、高級石鹸とか消臭玉とかで私も利益が出まくってるから少し考え所なのよねー」
そうなってくると、真似されても別に問題ないので登録せずに作ってもいいんじゃね? とラシアは思う。だが、そうもいかないのがややこしい所だ。
流石にセレットに負担をかけるのもあれなので、今回はラシアの名で登録する事になった。
そして錬金してもらうアイテムはもちろん『氷水』だ。
必要アイテムは
雪見茸×2
魔力水
液体関係を入れて錬金するとマジで成功しないが、流石はセレット。一発で成功させ、錬金釜の中には氷の浮いた液体ができていた。
「こういうのが好きで私は錬金術師になったんだけど……納得できるかどうかを聞かれたら納得できないのよね」
「さっき言った様にゼリーか寒天って思っておきましょう」
「ラシアちゃん。このアイテム登録する時は……クーラードリンクに名前変えていい?」
「それは絶対に駄目です」
錬金釜に入っている液体を瓶に移し、これで氷水の完成だ。
「ラシアちゃん。これって急ぐ? 急ぐなら続けて作るけど?」
「まだメンバーとかも考えないと駄目なのでゆっくりでいいですよ。私は獄炎のダンジョンぐらいでしか使いませんし」
「分かった。じゃあ練習がてらに弟子達にやらせるね。明日の夜にはある分は作れるからね」
分かりましたと返事をしてラシアは先ほど買い取った雪見茸をセレットに渡し、片付けを手伝い食堂へと戻った。
食堂へと戻ると、思った以上に時間が経っていた様でかなり人が減っていた。ダード達はグオンが借りている家へと戻り、ノアもティアとお風呂に入ったそうだ。
代わりにコアラがテーブルに座っておやっさんと世間話しながらご飯を食べていた。
「……なんかめっちゃ馴染んでる」
「キングさん。姫様に負けず劣らずの人気者だからね~。特に子供達からはね」
そういえば冒険者ギルドに行く時にコアラの形をしたクッキーを食べている子供を見かけたなーとラシアは思い出した。
そしてテーブルの上の片付け等が終わったリレッサも加わり、ラシア達はおやっさんとコアラキングの近くに座る。
「おお。ラシアではないか。ダンジョンの方はどうであった?」
「いやー、全然駄目すぎる。一、二階層であんな感じになったら本ちゃんの四階層からは無理だと思う」
なるほどなと笑うキングにもラシアは獄炎のダンジョンの事を伝える。ここには王女も、コアラとはいえ王様もいるので、悩んでいた「人の上に立つとはどういう事か」を尋ねた。
「まさに一人で行動していた弊害であるな」
「まさにおっしゃる通りな訳で……」
「うむ。ならばそこのリレッサ王女殿下に聞くのもよかろう。多分だが我も王女も似たような意見であるし、我は食事中だ」
確かにそう言われれば、おやっさんが作った色んな具が入った焼き飯っぽい何かを器用にスプーンですくって食べている。ラシアはリレッサに質問を投げようとするが、先に質問を投げられてしまった。
「ラシア。人の上に立つ者にとって、絶対に必要な物は何か分かりますか?」
その質問にラシアは考える……たぶん答えは力だろうと思う。少し野蛮ではあるが、暴力で解決できる事は多いし、誰かを守るにしても力が必要だからだ。
その事を伝えると、個人としては正解ではあるがラシアの言う人の上に立つ者としては不正解との事だ。
「国のあり方、王のあり方によっても変わりますが、私の中での正解はついてくる者達に希望を見せる事です。それさえできれば、他はあまり必要無いんですよ」
「うむ。我と似た様な意見であるな」
どんな事があってもこの人について行きさえすれば何とかなる。そういう希望を抱かせる事が必要なのだとか。逆にどれだけ強くても、そうした希望を抱かせられなければ人の上に立つ者では無いとの事だ。
「それが一番重要です。それだけ持っていれば力がある人、知識がある人を後から家臣に迎えたり雇ったりできますからね」
「なるほど……そんなもんなんですね」
「まーそういうのはあるわな。お前だって俺か姫様の下で働くってなったら姫様の方につくだろ? そういうもんだわな」
確かに顔見知り補正はあるかも知れないが……おやっさんとリレッサのどちらかの下で働くとなったら、リレッサの方が未来は明るい気もする。
「……中身一般人の私にはクランマスターとか今更ながら無理な気がしてきた」
「だから、上に立つ者は突き進むのみ。道が合っていようが間違っていようが進むしかない。迷う事もあるだろうが……迷ってる素振りを見せてはいけないのだぞ」
と、焼き飯を食べ終わったキングが堂々と語る。
「皆、ラシアを信じてついてきているのだからな。間違っても気にせず進め。相談する事は大事だが……その生き方を好んで皆がついてきているのである」
「……せっ責任が重大すぎる」
「いや。そんな事はない。王はついてきた者の責任までは取る必要は無い。その者がついていくという事を選んだのだ。間違っていたのなら引き返す事はいくらでもできる。自分で選んだ事の責任は自分で取らないとな!」
「信じてついてきてくれた人にそれもどうかと思うけど、それもそうか……」
「うむ。ラシアが道を間違えた時の責任は誰も取ってくれぬであろう? だからそれで良し」
「と、まぁキングはそう言ってるが、下につくにしてもボロ雑巾の様に扱われるか、花のように愛でられるかでは全然違ってくるけどな。その辺の目利きもできないなら冒険者なんてやめちまえってなってくるからな」
「姫様。良い感じにまとめてください」
「そうですね。ラシアのクランなのでラシア主体で考え、メンバーと相談しながら進めるのが良いでしょう」
「今のラシアちゃんのやってるクラン方針とあんまり変わらない感じね~」
「ほんとにそうですね。ただ方向が見えたので良かった感じですね」
その後は皆で楽しく食べたり飲んだりをし、次の日にラシアはクランメンバーを集め、次の目標は獄炎ダンジョンの踏破だと言う事を伝えた。