ラシア達は天城のダンジョンにたどり着き、内部を調査した。しかし……ゼレストニアの姿はどこにもなかった。
「まー、それはそうかって感じやけど、おらんって分かったことだけでも十分な収穫やな」
ティーガーの言う通りだ。これでボスモンスター名鑑によって召喚されたモンスターは、元のダンジョンから消えることが分かった。
ゲームでは、そんなことをすれば他のプレイヤーが挑めなくなるので消えることはない。しかし、この世界では本当に消えている。
「あとは倒したらどうなるかですよね。こっちに戻ってくるのか、ダンジョンの外で復活するのか……」
「その時に記憶を持ったまま復活するのか、リセットされるのかも気になるところですね」
ラシアとリレッサからすれば十分に倒せる相手だ。それでも騎士団や冒険者にとって脅威となるモンスターがダンジョンから出てきたというのは、本当に頭が痛くなる話だった。
ゲームとは違い、どんな影響が出てくるか分からないからだ。
ゼレストニア達のような天使は、別の世界からの侵略者という設定だ。それがそのまま生かされているのなら、この世界と別の世界がつながることも十分にあり得る。
ラシア自身が別の世界から来ているからだ。
ラシアとリレッサの表情は暗いが、逆にティーガーだけは明るい表情でうんうんと頷いていた。
「あとは、まー……どないでもなりそうやな」
「ティーガーさん。何か秘策があるんですか?」
「ん? 秘策はないけど対策はあるな。あとは潰すだけやな。やり合う時は声かけるから手伝ってな」
「それは行きますけども……」
「ほんなら、ちょっと観光して帰ろか。気になることも多いしな」
ティーガーがこれほど落ち着いている理由は、天使系のモンスターが一体も残っていないことだ。戦女神が外へ出たことは知っていたので、その姿がないのは分かっていた。しかし、ほかの天使まで一匹もいないのは意外だった。
ダンジョンにいた天使は全て召喚されたのだと思うが……今は天使ではない鳥系のモンスターがちょこちょこ飛んでいるだけだ。そのため、風の音と、同行した騎士や聖騎士の足音ぐらいしか聞こえない静かな城になっている。
それ以外にも気になることがあった。ラシア達が今いるのは、本来ならゼレストニアがいる場所だ。
つまり、ここはボス部屋ということになる。
ここでボスが倒されたのなら、ダンジョンから帰るための帰還用ポータルが出現するはずだ。しかしゼレストニアがいないので、そのポータルも出現していない。
この辺りはバグみたいなものかなーとラシアは思うが、それも今のところは謎だ。
まぁ帰る方法はいくつもあるので、その辺りは問題ないのだが……
……
…………
それから天城のダンジョンを全員でくまなく調べたが、天使系のモンスターは全くおらず、一度も戦闘になることはなかった。
ラシアは、NPCだったロディーがいなくなった後のダンジョンの入り口を思い出した。
ダンジョンにモンスターがいないのなら、わざわざ訪れる必要もない。これがダンジョンの死なのかなーと、ラシアはなんとも言えない気持ちになる。
使えそうな武具はいくつも見つかったので、それらは騎士団と聖騎士が回収して撤退することになった。
「使える鎧でもあればなーと思ったけど、性能的に無理そうだから仕方がないか」
「ラシのその辺りも弱点やな。防具とかつよても、なんかで壊れたら替えが利かへんもんな」
「ほんとそれなんですよ」
そんな話をしながら、ここへ来た者達が全員集まったところで、ティーガーが帰還石を使用して王都の冒険者ギルドへ帰還した。
「さてと……お疲れ様なんやけど、精算とかどうする? 天城のダンジョンでは戦ってないけど、鯨の上で戦ったからちょっとは金になるしな」
それはそうなのだが、今回はそこそこの人数で向かったうえ、天城のダンジョンでは戦闘になっていない。分配すれば一人当たりの金額は微々たるものになる。
それではティーガーの精算作業が大変になるだけなので、ラシアは依頼料こそきちんともらうが、それ以外の精算は要らないと断った。
「今度、ご飯でも奢ってもらえればいいですよ」
「分かった。ほんだら、また誘うから二人で行こか!」
そこでリレッサがティーガーの頬をつまみ「三人で行きましょう」と付け加えた。
そしてこれで解散かなーと思っていると、一人の騎士がラシア達のもとへやってきた。ぱっと見た感じでは、なんだか偉い人っぽい。
デゴットが緋闇のダンジョンから戻ってきており、天城のダンジョンについて話を聞きたいとのことで、少し時間をもらえないかと頼まれた。
ラシア達も、このまま帰ったところで、あとはご飯を食べて道具の手入れをし、ゆっくりしてから寝るだけだ。「分かりました」と伝え、騎士団の方へ向かった。
騎士団へ着くと、すぐにデゴット達がいる部屋へ案内された。しかし部屋に近づくにつれて、肌に触れる圧のようなものが増している気がした。
そしてティーガーが扉をノックして中へ入ると、その理由が分かった。
デゴット達の近くに、うさ耳の生えた黒髪ロングの和風美人……カグヤちゃんDXがいたからだ。レベルにして九十台の女の子モンスター。
それは肌に当たる圧力も違うよねって話だ。
ラシアがリレッサを守るように少し位置を変えると、デゴットが笑いながら説明を始めた。
最初はきちんとラビットマンバリスタをテイムしに行ったらしい。しかし現地へ行くと、ちょうどカグヤちゃんDXがいた。そこでラシアにもらったアイテムを使い、部下にテイムさせたところ成功したとのことだ。
「失敗したらどうするつもりだったのかは、聞かない方がいい気がしてきた」
「それはもちろん、国の金でラシアからもう一個売ってもらう予定だったな。それで捕まえた直後は大丈夫だったんだが、こんな感じで少しぴりついてるというか、不機嫌なのは分かるか? 急に意思疎通ができなくなったらしい」
そこはテイマー本人に聞いてほしいとラシアは思う。自分の職業は剣士系であり、テイマー職ではないからだ。
ただまぁ、ラシアにも分かる範囲のことではある。ゲームでは仲間になったばかりのモンスターはすぐに空腹状態となり、言うことを聞かなくなる。そしてモンスターのレベルに応じて、必要となる餌も変わってくるのだ。
レベル八十以上の高レベルモンスターになってくると、『人より高価な魔物ご飯』などを作るか、課金アイテムの『超高級モンスターフード』が必要になってくる。
テイマー職はカグヤちゃんDXなどをテイムして使役できるので、マジで強い。しかし餌を与えたり世話をしたりするのがかなり大変で、その大変さからテイマー職を選ばない人も多い。
ラシアはテイマー関係のアイテムを全く持っていない。ただ、この世界へ来る前に課金アイテムの超高級モンスターフードを持っていた気がしたので、アイテムバッグの中を探してみる。
「ラシアは、いい加減アイテムバッグの中を整理した方が良いですよ」
「その内やりますよ?」
「やらん奴の常套句やなー」
一つだけ見つかったので、ラシアはそれを取り出してデゴットへ渡した。受け取ったデゴットは、超高級モンスターフードをテイマーであろう部下へと手渡した。
それをカグヤちゃんDXに差し出すと、やはりお腹が減っていたようでガツガツと食べ始めた。
テイマーから「ありがとうございます」と礼を言われながら、ラシアは考える。
ゲームなら課金アイテムを使おうが、職のレベルに合っていないモンスターは仲間にできない。それなのに目の前にはカグヤちゃんDXがいる。
それが課金アイテムのお陰なのか。それとも職の垣根なくスキルを覚えられるこの世界では、確率こそ低くても全てのモンスターをテイムできるのか。その辺りは分からない。
それならばラシアでも、もしかするとモンスターをテイムできるかもしれない。ただし仲間にしたモンスターを強化するスキルはテイマーにしか使えないので、なかなか難しい話だ。
「後でこいつに請求するから値段を教えてくれ。それと、こんなふうに高レベルのモンスターをテイムした時の注意点ってあるか?」
「一度テイムすると、テイマーが死ぬまで使役関係が続くと聞きました。とりあえずご飯が一番重要で、一番大変だとも聞きますね。カグヤちゃんDXって、超級に出てくるモンスターなのでマジで強いですからね」
「それは身をもって経験した。倒し方は教えてもらったが、ポータルキャッチでこちらに引き寄せた時は……死人こそ出なかったが、怪我人多数だったしな」
騎士団も聖騎士も弱いとは全く思わないが……マジで女の子型モンスターは強いので、それはそうだろうなーとラシアは思う。
課金アイテムをこの世界の値段で考えた場合、いくらになるかは分からない。そのため、とりあえず貴重な物だとだけ伝えて百万セルほど請求した。さらに、錬金で作れる『超高級モンスターフード』の作り方も教えておいた。
ラシアの方で作って売っても良いのだが……そんな暇はない。そもそもテイマーをあまり見かけないので、売り出したところで売れないのだ。
「騎士団が強化されたのは良いが……いつも迷惑かけてすまんな」
「いえ。こちらも相当迷惑をかけていますので、騎士団の皆さんには住みよい街作りをしてもらえればと」
「そこは大丈夫だな。こいつの加入で、課題だった遠距離攻撃はほぼ解決したからな」
デゴットはカグヤちゃんDXを見ながら笑うが……実際その通りなのだ。
それから少し話した後、国の動きについても聞いた。しばらくはこの国も王位継承で忙しく、大きな動きはないらしい。そのため余計なことは気にせず、獄炎のダンジョンを踏破してこいと言われた。
騎士団員のテイマーからもう一度礼を言われ、ラシア達は部屋を後にする。
「テイマー職ってあんまり見んけど、ウチとかラシあたりの職まで上がったら、やっぱり強いんか?」
「その辺まで来ると弱い職はいませんよ。準戦闘職とは少し毛色が違いますけどね」
ゲームでは得手不得手はあっても、最終的には大体似たような強さになる。スキルなどがまだ実装されていないため不遇になっている職はあっても、純粋な強さの面で不遇な職はない。そんなものがあったら、ただの調整ミスか運営が仕事をしていないだけだ。
だからテイマーも普通に強い。さらに『限界解放』という名前のスキルがある。取得するのは大変だが、モンスターの成長限界を引き上げられるスキルだ。スキルを10まで取得すると、モンスターのレベル上限を10ほど引き上げられ、新たなスキルも覚える。
これが特に女の子モンスターと相性が良く、薄着になったり露出が増えたりするので人気だ。
「ラシア……」
「姫様……冗談ですからね」
冗談と言ったが、割と本当の話だ。『限界解放』は先ほどのカグヤちゃんDXとも相性が良く、仲間にしてスキルを取り、カグヤちゃんDX+10になると『ウサビット』というスキルを覚える。
これが超強力で、セーラー服を着たショートヘアのカグヤちゃんがカグヤちゃんDXから大量に召喚され、一斉に魔法をぶっぱするのだ。
だから割とテイマー職もロマンなのだ。ちなみにレベル上げが超絶しんどいので、やらない人の方が多い。社会人にはマジで無理なレベルだったりする。
そんな話をしながら城を出ると、ティーガーに夕食へ誘われた。ラシアもロディーの意見を聞きたかったので、本日はティーガーの家で夕食をごちそうしてもらうことになった。
それから数日が経ち、騎士団がテイムしたカグヤちゃんDXも問題なく使役できていると分かった。そこでラシアは、獄炎のダンジョンの踏破に向けて本格的に動き出した。