本日のラシアは獄炎ダンジョンの踏破に向けて、メンバー選出で悩んでいた。ラシア、リレッサ、グオンは確定で、ノアが少し悩みどころなのだ。
ノアは炎をメインで使うので攻撃がまともに通らない。だけどモンスターの攻撃もノアにはまともに通らない。お互いに火属性がメインだからだ。
足手まといにはならないが、危険なところに無理に連れて行くのもなーという話だ。ただしメリットはある。
火属性の魔法使いなら覚えたいような火の魔法をモンスターが使ってくるので、ノアが覚えられるのだ。
だから今後の戦力強化を考えても、連れて行くのが正解だとは思う。
遭難組やグオン組のメンバーは申し訳ないけども、お留守番という形だ。ロディーに声はかけてあるので騎士や聖騎士の訓練に参加してもいいし、他の冒険者と狩りに行ってもいい。
その辺はお任せだ。決して放置している訳ではないが、死地には連れて行けないのだ。
それでノアを連れて行くにしても四人となり、現状は火力が足りないという問題がある。ゲームならラシアだけでも踏破可能だが、いつも言っているポーション連打が使用不可なので、この世界では一人で踏破することはたぶんできないだろうなといった感じだ。
実際に地星でもキングに助けてもらわなかったら死んでいたはずだ。
そうなってくると、パルサー、ティーガー、最近見ないフウコウ、お兄さんお姉さんズがいればという話になってくる。
が、フウコウは少し前に行った研究所の方へお手伝いに行っているし、お兄さんお姉さんズはアトラスさんが第二王子なので、ダンジョンなんか行っている場合ではない。他の三人も同じだ。
そうなってくると、パルサーとティーガーには来てもらいたい。
と考えていると宿のドアが開き、珍しい組み合わせでデゴットとティーガーがやってきた。
何事かなーと思っていると、ちょうどいい所にいたとデゴットに言われたので、ラシアに用があることが分かった。
「ラシア。お前……パルサーいるか?」
「はい? そんな物みたいに……というか、どういう『いる』ですか?」
「それはもちろん結婚相手としてだ」
言っている意味が分からなかったので、デゴットの隣にいるティーガーを見ると、『安心して欲しい。ウチにも分からん』と顔に書いてあった。
「その、いるともいらないとも言えないことを言うのをやめてもらっていいですか? どうしてそんな話になったんです?」
「いや、あれだけの物をもらっておいて、騎士団としても聖騎士としても何も返せる物がないと分かってな」
なんのこっちゃと思いラシアが詳しく聞くと、カグヤちゃんDXのことらしい。名前はカグヤになったとかなんとか。
夜になると本領発揮で、高台に立たせておけば数キロ先まで見渡せる目があり、矢の命中率、火力共に凄まじいものがある。カグヤの主人に相談したが、このモンスターをテイムできるアイテムをタダ同然はおかしくね? となったそうだ。
超級のモンスターは対策してないと一方的にやられるぐらいには強いので、そんな物だろうとは思う。そこでどうしてパルサーの話になったのかと尋ねると、返せる物がないとのことで、そうなったとかなんとか。
「あんなもんをタダ同然の値段で渡すんだから金とかいらんだろ? そうなってくるとパルサーぐらいしかいないしな」
それで「じゃあ……もらいます」と言える人がいるのなら、本気で見てみたい。
そう思いながらティーガーの目を見て、助けて欲しいと目で訴えると伝わったようで、小さく頷いた。
「やけど、デゴット様。それやるんやったら……リレッサ王女殿下と一戦やらかすことは考えとかんとあかんで」
何故そうなるのかとラシアが思っている間に、ティーガーによる説得? が始まった。
そんなに時間はかからずデゴットも説得されたが、話は変な方向へ向かっていった。
「はぁ……昔はパルサーもちゃんと令嬢だったんだがなー」
「今も令嬢では?」
「令嬢は騎士団の狂犬とか青豹とか言われんぞ」
「食人令嬢とか掘削令嬢とかおるから……時代の流れやと思うねんけど、確かに昔のパルサーは可愛かったで。髪も長かったしな」
「そうなんですか?」
「せやで。ウチがラシの一つ上ぐらいで、パルはウチの二つ下ぐらいになるから、学年的にはラシの一つ下になるねんけど、昔はウチのことをお姉ちゃんお姉ちゃん言うて、後ろにようついてきてたんやで? 六歳とかそれぐらいのときかな?」
「そんなこともあったなー」
「今なんかウチが聖騎士でパルが騎士団やろ? なんかライバルみたいな感じを醸し出すようになってもーとるけどな。時の流れは残酷やなー」
「という訳で……このまま行くとずっと独り身のような気がするからラシアがもらってくれ。その上で我が家と騎士団を継いでくれ。少しは手伝うから」
確実におかしな事になりそうだったので、ラシアは一時間ぐらいかけてなんとかデゴットを説得し、今まで通り困ったら助けてもらう方向で決まった。
そんなことになっているとはつゆ知らず、思い人との結婚話を勝手に進められそうになっているパルサーは、ルインエルデの郊外にある研究所でフウコウとお茶を飲んでいた。
「……くしゅん!」
ちょうど飲もうとしたタイミングでくしゃみが発動し、あっつあつの紅茶がフウコウの顔面に飛び散った。
「あっつ! 熱々あついにゃ! おみゃー! なにするにゃ!」
「す、すまん! 急にくしゃみが……」
「横向いてしろにゃ!」
パルサーが研究所にいる理由だが、数人の騎士団員を連れての調査と監査だ。定期的に調べに来ないと、真面目に碌なことをしないのが錬金術師だからだ。
とはいえ、フウコウが常識人で監査に協力的なので、パルサー達も割とやりやすい。
「ラシア達がまた超級ダンジョンに行くって言うからワッチも行きたいけどにゃ、こっちも忙しくてなかなか行けないにゃ」
「私もそうだな。騎士団としての仕事があるが……行けるなら行きたいな」
「ラシアが全く気にしてないからあれにゃけども、ワッチ達はこの国初の超級ダンジョンを踏破したパーティーにゃ」
「他国とはいえ超級だからな。国が平時ならパレードがあってもおかしくはないな。まぁ、本人は出ないだろうが……」
「それはあるにゃー」
二人がまたラシア達とダンジョンに行きたいなーと思っている頃、ラシアはデゴットから許可をもらい、ティーガーも獄炎のダンジョンに行くこととなった。
そしてその夜、これで五人となったので、あと二人ぐらいいれば余力を持てるかなと、夕食を食べながらキングにそんな話をしていると……面白そうなので自分も行くと言い出した。
「……来てくれるのはありがたいけど、この場合の手続きってどうなるんだ? 冒険者として再登録?」
「楽にいくのであれば……ティア嬢のあれと同じように、使役するモンスターとしての仮登録の方が楽であろうな。一時的に都市から都市へモンスターを移動させる時に使うものがあるのでな」
「えっ……そんなんあるの? というかキングは何故知っているか……」
「ラシアは一つ覚えておいた方がいいぞ。法とは知っている者の味方である。まぁ、権力者の前には意味がないこともあるがな」
「コアラに法を説かれるとは……というか、なんでまた行く気になったの?」
そう尋ねると、大昔に炎よりさらに熱い地に獣の神がいると聞いたことがあったので、それが本当なのか一度会ってみたいとのことだった。
その話を聞いたラシアの反応は、『確かにそんなモンスターはいる』だった。ゲームの設定だと獣の王は何故かコアラキングになっている。Mr.フェンリルとかカーツ首領とかも一応はその種族の王にはなるが、動物の王はコアラキング。何度も言うが何故かは知らない。
そしてその王様種の上には、神様という設定のさらに強い魔神種がいる。それが獄炎ダンジョンの時間湧きボスであるジェネシスライオンマンだ。
たぶんキングが言っている獣の神は、ジェネシスライオンマンのことだと思う。ダンジョンのボスは炎神フレディムだからだ。
「話にはよく聞いていたので、どういう者かというのが気になってな」
「なるほど。まーこちらとしてもキングがいた方が安全だからありがたい。てか、公園で人気のクッキー屋さんになってるのにいいの?」
「それは大丈夫であるな。家臣の者達も作れるようになっているしな。妖精の国でも販売する話も出ている」
なんか行動力が凄まじいなとラシアは思う。まぁ、王族ってそんな者達のことを言うのだろう。そう考えると、リレッサもなんかやってるんじゃね? とふと思った。
「まぁ危ないことしてなかったらいいか……じゃあ悪いけど、よろしくお願い」
「うむ。こちらこそよろしく頼む」
そして次の日を迎え、ラシア達は王都でティーガーと合流し、獄炎のダンジョンへと再突入した。