本日は満月で外はかなり明るい。騎士団のテイマーの男は仲間と使役できるようになったカグヤを連れて高台に上がり、見張りをしている。
「そもそもテイマー系の職はあんまり見ないから知らなかったが……高レベルモンスターってテイムできたんだな」
「ウチの家系はテイマーの系統だから、話では聞いたことはあったけど……本当にテイムできるとは思わなかったなー」
隣で静かにしているカグヤを見ながらテイマーはそう言い、二人の話は続く。
彼が修行時代に習ったのは、高レベルになるほどモンスターとしての本能が強くなり、使役することはできないというものだった。
ただ、実家がテイマーの家系なので、大昔は凄いモンスターがいたとは祖父に聞いたことがあった。自分が見た訳でもないので、誇張されて伝わっているのだと思っていた。
それが見事に覆された感じだ。自分の隣で遠くを見ているカグヤは、一体で、距離さえあれば騎士団を壊滅させられるほど強い。
デゴットがラシアと話している時にカグヤの捕獲に死者は出なかったと言ったが……防御魔法が間に合ったとはいえ、下半身が吹っ飛んだり四肢が欠損した者は多く出た。
自分も巻き込まれたクチだ。レクトア様がリレッサ王女殿下を呼びに行ってくれなかったらと思うと……。
「あと、ラシア様が言っていたのは、ボスとか月齢の王は無理だけど、それ以外のモンスターは全部テイムできるって話だったな」
「ほー……というか、あの方の場合は嘘か本当か分からんな。俺達みたいな一般騎士には基本できないからな」
「それはある。新人研修のついでにアトラス様、ヘッジ様、ラオメ様、レクトア様の四人をまとめてしばいてたしな。人がまとめて吹っ飛ぶところってドラゴンとの戦闘以外で初めて見たわ」
「俺は蟻の巣ダンジョンの調査に行ったけど、ダンジョンが削れて更地になってたな。どうやったらあんなことができるのかは全く想像がつかんなー」
騎士団や聖騎士達のラシアへの評価は、とりあえず無茶苦茶強い人物ということで落ち着いている。
実際のところ、騎士団のデゴットや聖騎士長のロディーは、二人で行っても勝てないから変に絡むなよとよく言っている。
なので騎士団や聖騎士達がラシア関係に絡みに行かないのは、そういうことなのだ。
聖騎士に関してはもっと酷く、ロディーがラシアの知らないところで、ローウェンテニアの死神と呼ばれていた頃の話をしているので、びびってるのもある。
それこそ別個体ではあるが、カグヤちゃんDXを倒す時はポーション片手にダメージを食らいつつ殴り殺したとか、敵と認識したら溶岩の上だろうが毒沼の上だろうが、とりあえず回復薬を持ってあの巨大なハンマーで殴りに行くのがラシアなのだとか、ロディーは聞かれれば答えているのだ。
「超級ダンジョンの踏破までやってるからなー。凄いよな」
「ほんとだな。だけどその辺ってどうなんだ? 騎士団とか聖騎士の精鋭集めたら踏破できないのか?」
「できるだろうが……死者が一人も出ないとかはまず無理だな。リレッサ王女殿下がいないと欠損が治らないからな。メリットよりもデメリットの方がデカすぎるから行かないだろ。そもそもラシア様みたいに知識がないと行けん」
「確かに……今、獄炎に行ってるって話だけど、どうやってあんなクソ熱いところ進むんだろうな。魔法で軽減はできるが、ずっと魔力が続く訳でもないしな」
テイムに関してもテイマーの騎士より明らかによく知っているので、色々と教えてもらいたいところではあるが……一般的な騎士である自分ではラシアと話す機会がないのだ。
余程のことがあれば今回のようにデゴットから聞いてもらえると思うのだが……。
そんなことを考えていると、一緒に見張りをしている騎士が自分もテイマーになろうかと言い出した。
「なろうかなー、じゃあ、なってくださいとはならないからな」
「いや……こう、男としては一緒にお風呂とか入りたいやん?」
自分も男なので言いたいことはよく分かる……基本的に女の子モンスターは美人か可愛い子しかいない。
あと、モンスターは言葉を話さないが、テイマーになると伝わるようになる。
なんというか、言葉というより形みたいなものが脳に直接語りかけてくる感じで、なんとなくだが伝わるようになるのだ。
今はもう死んでしまったが、初めてテイムした兎のモンスターとは仲が良かったので、その感覚はよく覚えている。
今のカグヤはまだテイムしたばかりで信頼関係ができていないので、話さなければ伝わらない感じだ。
だから隣のカグヤがずっと同じ方向を見ているのがどうしてかは分からない。
そしてテイマーの騎士がカグヤの横顔に心奪われていると、頭に声が届いた。
(敵、来た……撃つ)
テイマーが、はぁ? となっているとカグヤは背から弓を取り出す。その弓は生き物のように動き形を変え、弓というよりはバリスタに似た何かに形を変えた。
月の光を掴むようにカグヤが月の光に触れると一本の矢が現れ、それを掴み弓を引く。
辺り一帯の魔力が急に上昇し始めるのが騎士達には分かる。
カグヤちゃんDXのサテライトアローは、月面に基地があってエネルギーが送信されてくる訳ではない。
月の輝きによって増幅された魔力が空へと集められ、そこからカグヤへと降り注ぐ。それが月から糸が降りてくるように見えるのだ。
新月の時には撃てないが、少しでも月が出ていれば魔力を溜める時間はかかるが撃てる。
そして今日は満月だ。
全てのモンスターが全力を出せるのがこの時だ。
「ちょっと待ってくれ!」
テイマーの男を無視して、増幅された魔力がそこら中から空へと上がっていく。小さな蛍が空へと上がっていくようにも見える。
それが一カ所に集まり……ゆっくりとカグヤめがけて月から糸が降りてくる。
圧縮された膨大な魔力がカグヤにたどり着くと、カグヤを中心に波紋のように可視化された魔力が揺れ動いた。
そしてさらに魔力が流れ込み、カグヤを中心に光があふれ、そこだけ昼にでもなったかのように明るい。
そして余剰魔力がカグヤから鱗粉のように噴射され、何がどうなっているのか騎士達がパニくっているところで、カグヤが向いていた方向に月の矢というビームが発射された。
カグヤから発射された光が通るところは一瞬だが昼のように明るい。驚くテイマー達も、光が通り過ぎた空に何かを見つけた。
「おい。今、空に何かいたな?」
「ああ……俺にも見えた」
急に発射したカグヤにびびっていたが、それでも訓練された精鋭だ。二人が見逃すはずはない。
と思っていると隣のカグヤがほぼ同じ方向に向かってもう一発ぶっ放したので、次は確実に見えた。
夜の空に天使達がいたのだ。
その攻撃に驚いた他の騎士達が高台の下に集まってきた。
「どうした!」
その声に二人の見張りは応えた。天使達がこちらに向かっていると。
それを聞いた騎士達が慌てて伝令を流したところで、カグヤは三発目の射撃に入る。
その三発でかなりの数の天使を減らせたが……想像以上に天使の数が多く、またカグヤがチャージに入った。
「そんなに連発して大丈夫なのか?」
心配して声をかけると、(問題ない)と頭に声が聞こえた。
そしてそれが陽動と言わんばかりに、王都でも動きがあった。
「いくらギルドのポータルを封印しても、ゲートポータルが使えれば意味はない。まぁ流石に、高レベルモンスターを使役しているとは思わなかったがな」
そう呟くのは巨大な盾を持ったモンスターであり、天使達を指揮するシエルオーテスだ。
ゲートポータルを通って幾匹ものモンスター達が王都へと現れる。その上で、人に化けて王都に潜っていた天使達も姿を現した。
「目的はボスモンスター名鑑だ。アホみたいな名だがしっかり探せよ。ゼレストニア様は降臨された。次はセレ・ロ・ネレ様を呼ぶ」
「流石にそれはできん相談やなー」
明るい声とは裏腹にシエルオーテスにかかる圧が変わった瞬間、炎が辺りを包み、近くにいた天使達は一瞬で炭化した。
その声に聞き覚えがあったシエルオーテスは、声がする方向に向かって話しかける。
「ローウェンテニアの死神に神童と続き、赤虎か……同窓会でも開くつもりか?」
「ちょっと仲悪かったくらいやったら、過去のことは忘れて飲みに行こかってなるんやけどなー。流石にお前等とは無理やな。娘も世話になったって話やしな」
くっくっくと笑うシエルオーテスが見る先には、炎より赤い隻眼の竜に乗ったロディーがいた。
「噂では……聖騎士長をやっているらしいな。部下を信じて任せるのはどうだ?」
「それは無理やな。ラシア隊長から部下に言うことを聞かせたかったら殴るか自分で動けって習ったからな」
「なるほどな。ならば仕方ない。お相手願おう」
「ええやんけ。きっちり相手したるわ」
そしてその場でロディーとシエルオーテスがぶつかり合い、戦闘が始まった。
……
…………
王都が襲撃に遭っているとはつゆ知らず、ラシア達も順調に進んでいたが、ダンジョンの奥から、モンスター同士の争いとは違う戦闘音が届いた。