ロマン職は異世界から帰りたい   作:庶民ザウルス三世

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第212話 命よりプライド

 ラシア達が戦闘音のする場所に向かうと、そこは下に深くなっていて見下ろせるような場所だった。

 

 装備を見る限り聖騎士が主体で、冒険者との合同パーティーだろうと思うが、十五人ほどが入り乱れて戦っているので少し分かりづらい。

 

 彼らのお相手はマグマネキ。でっかい蟹だ。超級に出てくるモンスターなので弱いことはない。

 

 溶岩にも耐えるほどの分厚い甲羅に覆われ、体の半分もあろうかと思われる大きなハサミが特徴のモンスターだ。

 

 確か設定では口から出ている泡には爆発する物質が含まれていて、それをハサミに塗り込んでいるので触れると爆発する。

 

 今も大きなハサミで薙ぎ払うと地面と接触した部分が爆発し、ラシアがたまにやっているように敵に向かって小石や割れた岩などを吹き飛ばした。

 

 防御力が高く攻撃が遅いタイプだが、気をつけさえすればレベルが低い者でも狩れるとかいう親切設計ではない。

 

 こいつはシエルオーテスよりも固い上に、HPが減ってくると自分が有利になるようにマグマを呼び、今まで溶岩がなかったところを溶岩のエリアにしてダメージエリアを作る。

 

 そしてそのマグマに浸かって熱を奪い、自分の力に変える。さらに冷え固まった溶岩を身にまとって鎧を作り、防御力を上げるのだ。

 

 あと一番気をつけるのが、あのでっかいハサミだ。攻撃力が高いのもあるが……武具破壊の能力を持っているので、挟まれると剣であろうが盾であろうが問答無用で破壊される。

 

 ちなみに実装初日はバグで課金装備まで破壊したので、ゲーム内で唯一、巻き戻し措置を行ったモンスターでもある。

 

「ラシアさん。あの蟹ってさっき戦った火竜より強いんだよね?」

 

「全然強いですよ。火力、防御力ともに蟹の方が上ですね。並の攻撃じゃ通りませんし」

 

「……竜より蟹の方が強いのが納得いかない」

 

 ノアの一言に全員が今更それを言う? という感じでキングの方を見る。

 

「はっはっは! みなの言いたいことはよく分かるが、一斉に見られると恥ずかしいではないか」

 

 そう言って豪快に笑うコアラが、その辺にいるモンスターよりも圧倒的に強いのだから、そういうのは気にしては駄目なのだ。

 

「そうだった……というかキングさん、自分の屋台持ってクッキー売ってるからモンスターって気がしない……リレッサ教えて、モンスターってなに?」

 

「そうですねー。言葉を話せて意思疎通ができるのなら、獣人扱いで良いのではないでしょうか? キングを数える時は一人で数えて、一匹とは言わないでしょう?」

 

「な、なるほど……」

 

 そんな話をしているノア達には少し休憩してもらって、ラシアとティーガーは割と真剣に戦いを見ていた。

 

「ここまで来れるってことは、溶岩の対策があるってことやねんけど、連中どうやってここまで来たんや? 流石に聖職者の軽減だけやったら魔力とか持たんやろ」

 

 ゲーム的には全然持つが、この世界だとかなりキツい。回復、バフ、飛行まで支援職一人にやらせるとなると、魔力が持たない。戦っているパーティーに支援はぱっと見た感じ二人はいるが、それでもたぶん足りない。

 

 そうなってくると、数人いる魔法職の方で対策しているはずだが……スキルポイント的にも使い勝手的にもオススメできない方法で熱を無効化しているはずなのだ。

 

 コキュートスフィールドという、氷系魔法使いでも滅多に取らない魔法がある。

 

 この場所のような熱によるフィールドダメージを無効化することができ、氷魔法のダメージを大幅に上昇させるが、水魔法と炎魔法が使えなくなる。水は凍り、火は消えるからだ。

 

 その魔法の何が駄目かというと……味方にも凍結が発生するということだ。常に凍結する可能性が生まれる。これだけは無効化系の装備でも無効化できないので、無理して取るような魔法でもない。

 

「なんかそれっぽいな」

 

「と、思うんですけどね」

 

 ラシアの考えていた通りで、前衛の男に凍結が発生し、マグマネキの攻撃をまともに食らって吹っ飛ばされた。ただし凍結で地面と足がくっついていたので、膝から下だけがその場に残り、体が吹っ飛ばされた感じになる。

 

「た、助けに行って大丈夫です!?」

 

「せやな。行っとこか。顔なじみの聖騎士もおるしな。というか前のラシやったら気にせず行ってたと思うけど、かなり毒されてるなー」

 

 うぐっと言葉に詰まるが仕方がない。それが良いとか悪いとかではなく、気に入らない奴に助けてもらうなら死んだ方がいいと本気で思って行動する者達もいるからだ。

 

 命よりプライド。

 

 言葉にすれば馬鹿馬鹿しいが、価値観の違いなのだ。

 

 そしてティーガーが下で戦っているメンバーに大きな声で声をかける。「支援はいるか!」だ。

 

 やはり劣勢のようで、下のパーティーからは大きな声で「頼む!」と返ってきた。

 

 確認が取れるならまだ余裕はあると思うが……この辺は本当に難しいな、というのがラシアの感想だ。ただまぁ、死ななくて済むならそれで良いと思う。

 

「ハンマァーーマグナム!」

 

 赤と青が美しいイレイザーハンマーが高速で回転し、マグマネキに向かって飛んでいく。そして凄まじい衝突音と共にその巨体を吹き飛ばし、戦っていたパーティーと距離を取らせる。

 

「私とティーガーさんで先に行きます。リレッサは怪我人の治療をお願いします」

 

 戻ってきたイレイザーハンマーを掴みラシアが先行し、ティーガーが虹竜と空を飛び後ろに続いた。

 

 初手はラシアの攻撃だったので、次はマグマネキの攻撃となる。大きなハサミを上に振り上げると、それに呼応するように近くの溶岩のかさが増していき、今まで土だった場所が溶岩に埋まっていく。

 

 だがその辺りはラシアも下見で試していた。常に川のように流れている溶岩なら無理だが、ラシアの持っているハンマーで凍らせることが可能だ。

 

 イレイザーハンマーの青い方で叩きつけると、一瞬で凍り付き氷のフィールドが生成される。

 

 ただし周りの熱もあるので、生成されたフィールドの持続時間もかなり短くなる。

 

(ゲームであった得手不得手の属性とかも場所によったら変化してそう……今の感じだと打ち消し合ってるから互いに大ダメージ入りそうだし)

 

 その辺りもよく分からないが……ここまで進んで来た感じで、とりあえず火には水が効くので問題なしと考え、目の前のモンスターに集中する。

 

 ……

 

 …………

 

 やはり固いだけあって倒すには時間がかかった。戦闘中に後ろから他のモンスターが乱入するということもあったが、グオンとキングが支援組を守っていたので、ラシアとティーガーは戦いに集中することができた。

 

 魔石やアイテムなどを回収し、レアアイテムの蟹のハサミが出なかったなーと考えていると、先ほどのパーティーが集まってきてラシア達に礼を言った。

 

「助かった。礼を言う」

 

 文句を言われたらどうしようかと思ったが、そういうこともなかったので少しほっとする。先ほどの膝から下が無くなった者も、リレッサの魔法で完全に回復している。

 

 さて、これからどうしようかと考えていると、そのパーティーにいた聖騎士達がティーガーと知り合いだったようで話を始めた。

 

「ティーガーかよ。竜に乗ってる時点でそうかと思ってたが……」

 

「そやで。というか国で竜に乗ってるのって三人しかおらんやろ。ほんで自分ら第二王女の陣営か?」

 

「そうだけどそうでもない感じだな。こいつらと知り合いで、手助けで来てる感じだ」

 

 その辺りを詳しく聞くと、このメンバーが所属している貴族様が第二王女の陣営で、そこからの命令で獄炎のダンジョンの踏破に来ているとのことだ。

 

 それでここにいる騎士とか聖騎士は顔見知りでもあるが、食事会のことやカオスドラゴンの襲撃もあり、これ以上優秀な冒険者が減るのはいただけないと、お手伝いに来ているのだそうだ。

 

「まー俺としては、上が変わってもやることそんなに変わらんからなー。第二王女でもアトラスでもどっちでもいいって感じだな」

 

「騎士と聖騎士に命令できるのって基本、おかんかデゴット様だけやしな。今は国王もおらんしな」

 

「一回戻った時に噂程度に聞いたが、ラシア様がいるってことは踏破目的か?」

 

 ラシアが「様ってなに!?」と思っている間に、ティーガーがそうだと答えた。

 

「それで? 自分らは踏破できそうなん?」

 

「……こいつらには悪いが、無理だな」

 

 実力とか知識の前に、単純な火力が足りないだけという話だ。他のモンスターなら培ってきた物でなんとかできるが、今のようにただ単純に固いモンスターが一番キツい。この世界の人達が培ってきた、足りない部分を連携などで補うやり方が通らないからだ。

 

 この階層まで来られたのならマグマネキとボス以外ならなんとかなりそうな気がするが、どの職でもいいがラシアのように攻撃に特化した職がいないと踏破は無理だろう。

 

「無理なのは分かっているが、こいつらも命令で来てるし、俺達も死なせたくないってのはあるからな。帰還はできないって感じだ」

 

 ラシア的には死んだら終わりなので、無理なら帰れよ……と思うが、そうもいかないのがややこしいところらしい。この冒険者達も雇われとはいえ、その貴族には恩もある。

 

 無理だから帰れ、はい、そうですねとはならないのだ。

 

 かと言ってこのまま進んでも、またマグマネキが出れば同じことになるし、後で帰還石で帰ることになっても全員が無事とは言いがたいからだ。

 

「うーん。流石に騎士も聖騎士も冒険者も死地に向かうのはいただけんなー。さてどうやって帰らせるかやな」

 

 ティーガーの言葉に冒険者達は何も言わない。確かに言っていることは正しいが、それでも進まないと駄目だからだ。

 

 こういう考えだから、終わってるなとラシアは思う。技術の継承ができないから、いつまでもスキルなどが弱いのだ。

 

 ほんの少しの知識でも、0から1を作るのと、すでにある1を長い時間をかけて積み上げていくのでは、長い目で見ればとても大きな差が出る。

 

 人類の進化でもそれは証明されているからだ。

 

 だからこの人達は帰らせないといけない。

 

「ティーガーさん。こういう時ってどうやったら強制的に帰らせられます?」

 

「せやなー。戦闘不能が一番手っ取り早いな。ウチらは形的にはアトラス様陣営やしなー……うん?」

 

 そう言って何か思いついたようで、ラシアと冒険者のパーティーを交互に何度も見比べる。

 

 そして……

 

「なるほど! 流石はラシやな! という訳でお前ら全員しばいて送り返すけどええな!」

 

「ええことないですが!?」

 

 ラシアの突っ込みが洞窟内に響き渡った。

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