ロマン職は異世界から帰りたい   作:庶民ザウルス三世

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第216話 炎の獣

 ゲームの時ならパーティーで戦えばジェネシスライオンマンは楽に倒せると、掲示板とか攻略サイトによく書かれていた。ラシアはそれを覚えているが……はっきり言ってそんな事は嘘だ。

 

 今、戦っているジェネシスライオンマンは本当に強い。

 

 確かにラシア自身は仲間を巻き込んでしまうため、スキルを使った範囲攻撃は使いづらい。だがそれでも、食事系アイテムによるバフ、リレッサの支援魔法によるバフ、ティーガーやグオンによるドラゴンナイトのバフ。

 

 パーティーで戦うメリットが全て、前衛で戦うラシアとキングには乗っている。それでもジェネシスライオンマンは二人とまともに殴り合っている。

 

「いやー強い。流石は獣の神と言うだけの事はある。大いに結構!」

 

 ご機嫌なキングが杖を振りかぶり殴ると、ジェネシスライオンマンは簡単にそれを片手で受ける。

 

 ただ並の一撃ではないので、凄まじい衝撃と共に地面が陥没する。

 

 そんな状態でも殆どダメージが無いのか、すぐに動いてキングに拳を叩き込み、弾き飛ばす。

 

 ラシアが驚くのはキングの戦い方だ。

 

 ゲームならモンスターがスキルを使えても職業のような物は存在しない。白ナマズは除く。

 

 だが戦い方というかスキルを見ていると魔法剣士の戦い方に近いのだ。距離を取れば魔法を使い、詰めれば杖で物理的に殴る。そんな戦い方だ。

 

 ただしプレイヤーと違うのは、キングもボスモンスターというだけあって異常に強いことだ。

 

 杖で殴って防御させた所に無詠唱の魔法をぶちかますとか普通にやっている。

 

 ゲームのコアラキングなら何度も倒した事はあるが……今のキングをラシアが倒せるかとなると少し難しい所だった。

 

 そんな事を考えながらラシアは、ジェネシスライオンマンがキングを攻撃してできてしまった隙に接近し、イレイザーハンマーの青い方で力の限り殴る。

 

 まともに腹に入り、ジェネシスライオンマンは氷漬けになる。だがここで攻撃をやめる事はない。

 

 すぐにラシアはハンマーを反転させ赤い方で殴る。すると凍っていたジェネシスライオンマンは一瞬で炎に包まれながら壁に叩きつけられた。

 

「キング。大丈夫?」

 

「うむ。我とラシアとやり合えるのであるからな。実に面白い」

 

 今ので終わっていないのは誰もが分かっているので、リレッサはラシアとキングに支援を送り、その傷を癒やした。

 

 怪我をしているのは攻撃を受けたキングだけだと思うが……そうでもない。ラシアの聖銀鋼の鎧は応急処置を施しただけだからだ。

 

 ジェネシスライオンマンがまとっている熱がまともに抜けてきて、近寄るだけで体が焼けるのだ。

 

 だけど支援やアイテムのお陰で軽減が効いているのでなんとかなっている。

 

 この戦いに他のモンスターが乱入してきそうな気配はない。戦っているこのエリアでは全く見ないのだ。

 

 そのため、グオンもティーガーも前衛ではなくラシア達の後方からブレスを撃っている。

 

 ノアに関しては本当にダメージが出せないので、リレッサの支援をしながら全体を見られる位置にいてもらっている。何か変わった事が起きても、戦っているとすぐに気がつかない事が多いからだ。

 

「エレメントブレス!」「ストーンブレス!」

 

 ティーガーとグオンからブレスが次々と撃ち込まれるが、ジェネシスライオンマンは問題が無いように立ち上がる。

 

 この強者にラシアはふぅっと息を吐き出す。戦いになってしまうとアイテムが使用できない。だから短期での戦いが望まれるが……目の前のボスにはもう一つの特殊能力がある。それが召喚系魔法の無効化だ。

 

 これがあるのでリレッサは天使を召喚できず、キングは仲間を召喚できないのだ。キングに関しては、本人が前衛をやれるので問題ないが、リレッサは攻撃に参加できず、支援だけになってしまう。これが厄介極まりないのだ。

 

 ただ、リレッサが天使を召喚できても、支援に徹してもらわなければならない程にモンスターの攻撃が激しい。ターゲットが移ったりしたら支援職のリレッサでは厳しいので、今の状況が正解かと思う。

 

 アイテムは使用不可なのに装備はアイテムバッグから取り出せるのだから、その辺はいい加減だよなと思いラシアはため息をつき、そして……

 

「ディスラクシオンツール!」

 

 ラシアの前に小さく光るハンマーが現れ、発光と同時に分解され、イレイザーハンマーに張り付いてそれを強化する。

 

「キング。少し攻撃力が上がってるから気をつけて」

 

「了解した。その小さなハンマーも懐かしい」

 

 昔戦った時の事をどういうふうに覚えているのかは、とても気になるが今はそれどころではないのでラシアは戦いに集中する。

 

「コキュートスヘル!」

 

 ラシアが掛け声と共に地面を叩くと、一瞬で辺りに永久氷域のフィールドが展開される。

 

 今までなら溶け始めたが、ディスラクシオンツールでイレイザーハンマーが強化され、その力も増している。

 

 その冷たさは異常で、ジェネシスライオンマンも氷漬けとなり、行動を制限される。

 

 ラシアは即座に接近し、即座にプラティディオンハンマーに持ち替え、ギガンテックハンド、コル・クール・パルを使用し、凍り付いたジェネシスライオンマンに攻撃を叩き込もうとする。

 

「うおぉぉぉぉぉ!」

 

 叫び声と共にラシアがプラティディオンハンマーを振り下ろすが、氷が割れ、ジェネシスライオンマンが拳を叩きつけてラシアの攻撃を受け止めた。

 

 凄まじい爆発が発生し、全ての氷が吹き飛び、地面に亀裂が入り、仲間達は簡単に吹き飛ばされた。

 

 ラシアの攻撃を受けているジェネシスライオンマンは圧倒的なパワーで押し返しているようにも見える。

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 ラシアが叫び、プラティディオンハンマーを押し込もうとするが……ピシッと音が聞こえた。

 

 まともに負荷がかかったのか、聖銀鋼の鎧にまたヒビが入った後に、負荷のかかった右手部分は音を立てて壊れてしまった。

 

 そして鎧の無い部分は熱に焼かれ、その痛みでラシアの攻撃が少し緩んでしまった。

 

 ボスモンスターがその瞬間を逃すはずはない。

 

 攻撃を受けていた手とは反対の手で、ラシアの肘から先の腕を簡単に切り落とした。プラティディオンハンマーはズドンと地面に落ちてめり込んだ。

 

「ぐっ!?」

 

 あまりの痛みにラシアが怯むと、追撃とばかりにジェネシスライオンマンがラシアの前にいた。

 

 これ死んだか? と思ったラシアは、獅子の顔をしたモンスターと目が合った。

 

 ……だけど今のラシアは一人では無い。

 

 ラシアとジェネシスライオンマンの間にグオンのアースシールドが展開され、キングの攻撃とティーガーの攻撃がジェネシスライオンマンに直撃し、吹き飛ばした。

 

 その間にノアがラシアを引っ張ってリレッサの元に連れて行く。

 

「ラシアさん大丈夫!?」

 

「痛いですけど大丈夫です」

 

 痛いのは痛いが……元の世界のように我慢できない痛みでは無い。レベルが上がるという事は痛みに対する耐性も上がっているのかなと考えていると、リレッサもラシアを心配しながら回復魔法を唱えた。

 

 流石は最上位の回復魔法だけあって、なくなっていた肘から先は一瞬で回復した。

 

 細胞分裂とかって回復魔法でどうなるの? と考えられるぐらいには余裕ができているので、何か凄いなと思いラシアは二人に礼を言った。

 

「その調子なら大丈夫だと思いますが、無理だと思ったら撤退も視野に入れておいてくださいね」

 

「はい。大丈夫ですよ。流石に無傷とはいかないでしょうからね」

 

 そう言ってラシアは立ち上がった。リレッサとノアと共に、吹き飛ばされたジェネシスライオンマンの方を見ると、ラシアの攻撃を受けた手は骨が露出し、炎のような鬣も削れていた。

 

 確かに強いが、こちらも強いのだ。

 

 同レベル帯の者同士がワンサイドの戦いになるような事は無い。

 

 それに今のラシアには仲間がいる。昔のように一人で黙々とゲームをしている訳ではないのだ。

 

「ラシアさん? なんで笑ってるの?」

 

「いえ、少し昔の事を思い出しまして……何かこう楽しくなってきたというかなんというか……」

 

「え? こうモンスターを見れば問答無用で襲いかかっていた頃のラシアですか?」

 

「違いますけどね!?」

 

 そして再度、リレッサに支援をかけてもらいラシアは言った。

 

「倒して来ます」

 

「分かりました。無茶だけはしないでくださいね」

 

 ラシアは頷き、先ほどしまったイレイザーハンマーを取り出し、ジェネシスライオンマンを抑えてくれているティーガー達の所へと向かった。

 

「前にも言った事あるけど……ラシアさんってあんまり笑わないからたまに笑うと戦闘中でもドキッとするよね」

 

「もの凄く分かります。ただ……私のラシアですけどね?」

 

「違います。リレッサとラシアさんは姫と騎士。私とラシアさんは恋人です」

 

「はい? いつ何処で誰が認めましたか?」

 

「もちろん妖精の国で、女王陛下のフェリスロステ様に聞いてもらえればと思います!」

 

 そんな感じで後ろが騒がしくなった所でラシアはティーガー達に合流した。

 

「ラシ。大丈夫け?」

 

「はい。やっぱりこう支援というか……仲間がいると違いますね。本当にありがたい」

 

「せやろ。ムカつく奴も多いけどな。人ってええもんやで。それだけでも今回来た甲斐がありそうやな。それで……どうする?」

 

「はい。そろそろ決めようと思うので私がボスを弾き飛ばしたら一旦離れてください」

 

 ティーガーが返事をし、戦っているグオンとキングが軽く手を上げた。ラシアは頷いてから、もう一度ディスラクシオンツールを使用し、イレイザーハンマーを強化する。

 

 そして隙を見て強化されたイレイザーハンマーでジェネシスライオンマンにコキュートスヘルを直接叩き込む。

 

 その攻撃でジェネシスライオンマンは先ほどと同じように氷漬けとなる。

 

 ただ先ほどとは違い、ダメージが通っている。攻撃により弱っているようで、動く気配は無かった。

 

「アカシックコンタクト!」

 

 球体の魔法陣が現れ、シンメトリカルなハンマーを包み込む。

 

 そして今はジェネシスライオンマンも含めて全てが凍り付いている。だから、その間はアイテムも使える。

 

 ラシアは白紙のスクロールを取り出した。

 

「ダブルマジック! ギガンテックハンド!」

 

 ラシアの両手が巨人のように太くなる。

 

「行きますよ。ラシア・ラ・シーラ」(幻聴)

 

「これで決めるのです! セーフティーアンロック」(幻聴)

 

「おう! セーフティーアンロック!」

 

 その掛け声と共にイレイザーハンマーは、右手には青、左手には赤の巨大なハンマーに分離する。

 

「コル・クール・パル!」

 

 分離した二つのハンマーの先には二本の透明な杭が現れ、その両方がジェネシスライオンマンの方を向いている。

 

 そのタイミングでジェネシスライオンマンの氷が砕けて動けるようになり、二本の杭を掴み押し返そうとする。

 

「もう遅い! イレイザープレッシャーーー!」

 

 二つに分かれたハンマーが一つに戻ろうとし、その間には凄まじい魔力による圧力が発生する。

 

 青と赤のハンマーの間で空間が湾曲し、ジェネシスライオンマンは空間ごと押し潰されるように圧縮される。

 

 だが相手は最強クラスのボスモンスター。このまま終わる訳もない。燃え上がる炎が剥き出しになっているラシアの腕を焼く。

 

 だが、今のラシアはそれでは止まらない。

 

 命を圧縮するようにジェネシスライオンマンは小さくなっていく。ラシアの腕は炭のように黒くなり感覚は無い。

 

「セーフティーロック!」(幻聴)

 

「セーフティーロック!」

 

 ドゴォン!

 

 青と赤の二つのハンマーは、一つのシンメトリカルなハンマーへと戻り……ジェネシスライオンマンは光の粒子となって消えた。

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