「いやー。実に面白い! この世界に来て少しは変わったかと思ったが、心の奥にある物まではそうそう変わる物ではないな」
そう言って爆笑しているのは、もちろんコアラの王様、キングだ。笑っている理由はもちろんラシアにある。
キングは獣の神であるジェネシスライオンマンと話がしたいと言ってついてきたのだが、ラシアが塵一つ残さずに倒してしまったので会話などできるはずが無いのだ。
ただジェネシスライオンマンは本当に強敵だったので、加減などできるはずもない。それはキングも分かっているので、ラシアをからかって遊んでいる感じだ。
「倒せて良かったけど……倒してしまって申し訳ない」
「なに、構わんよ。何かあっても人間、いやラシアと揉めるのは避けた方が良いと改めて分かっただけでも、来た甲斐があると言うもの。流石に我でもあそこまではできぬのであるからな」
「まぁ……時間湧きじゃなくて月齢の王なので、そのうち復活すると思います。その時に話を聞きに行きましょう。もちろんお付き合いしますので」
「うむ。その時はよろしく頼む」
ゲームや漫画ではないので今回勝てたから次回も勝てるという事は無い。それでも次回来る時は聖銀鋼の鎧も直っているはずなので、今よりは楽に戦えるだろうとラシアは思う。
炭化した右腕もリレッサの回復魔法によって完全に回復したが……ラシアだけは少し暗い。
最近よくある事だが……苦労して倒したボスモンスターのドロップアイテムが魔石だけというのはマジで心に来る物がある。
「ラシア。まだ何処か痛むのですか?」
「いえ……大変だったのに、ドロップアイテムが魔石だけというこの悲しさが私を包んでいてですね……」
「姐さん。よくある事ですから元気出してくだせー」
「皆が無事だったから良かったかな?」
「皆さんが無事だったのが一番良いことは間違い無いんですけど……間違いはないんですけど、ボスのドロップだけで考えたら心の赤字かなと」
「この魔石だけでも貴族とかが集まるオークションにかけたらとんでもない値段になるけどな~。熊とか蟹のドロップもあるしな」
「ティーガーちゃんよ……人間の欲望に底はないんやで?」
「ラシちゃん。ほんまか。でもでーへんかったもんはしゃーないな」
獅子の鬣、勇者の証。ゲームではとても高額でラシアですら持っていないアイテムを少しは期待していたが……とラシアはけっこう凹んだ。
ラシアの元気が出るまでは休憩という事になった。その間にティーガーが聖銀鋼の鎧の右腕部分を回収してくれた。ラシアの腕が切り落とされた時に落ちてしまった部分だ。
そして休憩も終わり、ラシアは回収してきてもらった鎧の壊れていない部分だけを身につけて先に進む。
ジェネシスライオンマンはキングが会話してみたいと言っていただけであって、このダンジョンのボスではない。無視して進める存在なので放置しても良いのだ。
だから踏破となると最下層にいる炎神フレディムを倒す必要がある。体力的には問題はないが……皆には言えないものの、先ほど以上に大変な戦いになる事は間違い無い。
もうラシアの聖銀鋼の鎧の右手の部分は壊れている。アイテムやリレッサの支援で熱はかなり軽減されているが……体の他の部分と比べても明らかに熱が伝わって来るのだ。
たぶんだが……戦うとまた右腕が燃えて炭になる。この体のお陰で我慢はできるが……痛いのはちゃんと痛いし、自分の腕がちぎれたり燃えたりするのは気持ちの良い物では無いのだ。
(うーん……どうせモンスターだし。開幕と同時に最大火力をぶち込むのもありなんだよなー)
ただこの辺はゲームとの違いがまともに出ている。
ウル○ラマンがいきなりスペ○ウム光線を撃たない理由と、たぶん同じだ。撃ったところで相手が元気なので当たらないし、無駄にエネルギーを消費するだけなのだ。
先ほどのジェネシスライオンマンもまさにそれ。初っ端からイレイザープレッシャーみたいな大技を放っても当たらない。躱すからだ。
ゲームならそんな事はないがこの世界は現実だ。
そんな事を考えながら進んで行くと……少し不思議な事が起こっている。
襲ってくるモンスターがいないのだ。マグマネキにしてもこちらを発見すると襲って来るモンスターだが、今はこちらを見つけると溶岩の中に隠れていく。
マグママママグマやサルマンダーといったモンスター達もそうだ。何処かへ行ってしまう。
ゲームならそんな事はあり得ない。それだけに不思議なのだ。
「うむ。皆、ローウェンテニアの死神様に恐れをなしておるのだろうな」
「せやな。塵一つ残さず消滅させたからなー。誰もあんな死に方したないやろ」
「うむ。まさにその通りであるな」
そんな会話をキングとティーガーがすると、ラシア以外の全員が頷くが……ラシアとしては、その辺もどうなのかなーという所だ。
キングやフェリスロステのように意思があるモンスターやNPCなら怖いと感じるのは分かる。本能で生きているモンスターなら戦いに行けば負けるというのも分かるだろう。
それだったら今までラシアに襲ってきていたモンスターはどうなんだ? という話だ。
マウスマンならラシアに勝つのは不可能だ。それでも気にせず襲って来る。
モンスターにも恐怖という物はあるが、その感じ方は種族によって違うのではないか。これはなんとなくラシアが思っている事の一つだ。
その上で、ジェネシスライオンマンを倒してから襲って来ないモンスター達は、恐怖とはまた違う理由で襲って来ないという事だ。たぶん。
そしてモンスターが襲って来ないまま先に進み、聖銀鋼も見つからないままボス部屋の入り口までたどり着いた。
ゲームではこの中で聖銀鋼を見た記憶がある。ここで無かったら他のダンジョンを周回し素材を集め、新しい鎧を作るしか無いなとラシアは考える。そんな事を考えながら入念に準備を整え、ボスがいる最後の階層へと突入した。
中に入ると他のフロアのような暑さはなく、流れているマグマの音だけがするとても静かな場所だった。
そしてその中央には炎神フレディムがいる。見た目はゲームと同じで土偶のような姿をして、体の所々から炎が噴き出し太陽のように明るく発光している。
この階層に降りてきた時点で強敵に出会った時のような圧力が体にかかる。それでもラシアはゲームでフレディムをソロで倒した事がある。
ジェネシスライオンマンが物理ならフレディムは魔法だ。こいつが使う魔法にはエグい物が大量にあるが、いくらボスとはいえ魔法が得意な者は物理攻撃に弱いものだ。
だから鎧の破損による体へのダメージは気になるが、それでもなんとかなるはずだと思いラシアはハンマーを構える。
すると炎神フレディムの土偶のような目がゆっくりと開かれた。
「よく来たな。異界の民よ。まさか私が力を与えた眷属が負けようとはな。お前達の戦いは見させてもらった。約束通りに聞きたい事があるのなら答えよう。もちろん戦うというのなら全力で相手をしよう」
ナットンが喋って、シエルオーテス達も喋って、隣にいるコアラが喋るのだ。神と名のつく土偶が喋っても不思議ではないとラシアは思うのだが、ノアはそうではなくとても驚いた。
「ラッラシアさん!? ハニワが喋ってる!」
「誰が埴輪だ! 土偶だ!」
「ごっごめんなさい!」
「うむ。素直で大変よろしい。お前の謝罪を受けよう」
なんて事を初手でやられたので、全員がこの感じでは戦闘にならないなと肩の力を抜いた。
ちなみに余談だが……ダンジョンによっては土偶のモンスターも埴輪のモンスターも出てくる。女の子モンスターにはハニワちゃんという無口っ子がいるので、土偶より埴輪陣営の方が人気があったりもする。
「さてとこれからどうするかやな? キングが話聞きたいんはええけども、一回、気抜けてもうたら戦うのしんどいしな」
「……それはありますね」
ただ、もし戦っても勝てるのか? というような気味の悪さをラシアは感じている。
そしてフレディムは、質問は一人につき一つだと言った。それ以上聞きたい事がある場合は戦って聞けとの事だ。
「ただし、私が真面目に答えるとは思わないことだな」
そしてキングが前に出る。
「では一つ聞きたい、炎の神よ。我らがいた世界は外の世界ではダンジョンと呼ばれるが、どうしてここまで歪であるか。歳は取らず時間の概念すら存在しない。そのような世界があって良い物なのか」
「ふむ。獣の身でありながらよくぞ気づいたという所ではある。が、逆に考える事も覚えた方がよい。自分達がいた世界が正常であり、外の世界が歪であるという可能性もあるのだ」
「……」
「だが、お前が言う事も正しい。どうしてそれに気づけたか? 外の世界の者に出会いお前の存在が固定されたからだ。見えていない世界や今までの記憶。その全てが正しいという保証は誰にもできない」
「それは確かにそうであるな……ではもう一つ聞きたい。ダンジョンとはなんであるか? 質問は一つと言われたが、神だと言うのだからもう一つぐらいサービスしてくれても問題あるまい」
「そうだな。記憶の欠片とだけ答えておこう。全てを知った所で意味はない」
その答えで納得できたのかはキングにしか分からなかった。だがジェネシスライオンマンに聞こうとしていた事は聞けたので、キングはフレディムに礼を言って下がった。
「もう一つ。サービスで答えるのなら、この世界から外へ出られた幸運を大事にする事だ」
「うむ。それに関しては良き友にも恵まれたのでな。ダンジョンに神がいるのなら感謝を送ろう」
「盛大に感謝したまえ」
自分の事を言っているのかは分からないが……炎神フレディムは確かに魔神種という種族になるので、神様の系列と言えばそうなのかもしれない。
元の世界でもジョニデに似てるって女子高生に言われて喜ぶ神の子もいるぐらいだから、神様って言ってもそんなものかなーというのがラシアの感想だ。
そして皆が何を質問しようかと悩んでいる中で、次に質問を投げかけたのはリレッサだった。