前に出たリレッサがフレディムに質問を投げる。それは小さな疑問だが、昔から外の世界があったのに、どうして今になって急にモンスター達が外へ出始めたのかという事だ。
人に連れ出された事もあった。召喚された事もあった。
だが、フェリスロステやキング、それこそ天使もだが知恵のある魔物ならば、すぐにそこの世界の歪さを理解し外へ出ようと思うはずだ。
偶然が重なっただけというのならそれで話は終わってしまうが、もし答えがあるのなら知りたいというのがリレッサの質問だ。
「何でもかんでも理由をつけて知りたがろうとするのは、人間の悪い所だな。理由があるのかもしれないし無いのかもしれない」
そう言ってからフレディムは話を続ける。自分は一応は力があるために神などと呼ばれる事はあるが、世界を作ったような神では無いという。
だから全ての事を知っている訳ではないが、壊れる直前かあふれる直前と考えれば説明がつくと答えた。
「水を一滴ずつでもコップに溜めていけば、いつかはあふれるだろう? 器が壊れれば、それまで溜まっていた物が一気に出てくる。何かきっかけはあったのかもしれないが、そういう時はそんな物だ」
「なるほど……」
「その原因はお前がダンジョンから出てきた事かもしれないし、そこのコアラが出てきた事かもしれない。もしかしたら全く関係ないかもしれないし、外の人間が原因かもしれない。何が最後の一滴になったのか気にした所で、あふれた水が戻る訳ではないだろう?」
「分かりました。ありがとうございます」
「うむ。素直でよろしい。ただ私が思うのは……この世界、ダンジョンを一つの生き物として考えるなら……外の世界と一つになろうとしているのかもしれないな。知らんけど」
よほど気になるのなら他のダンジョンにいる魔神種に聞いてみるのも面白いだろうとフレディムはリレッサに告げた。次は誰だと尋ねるとノアが手を上げた。
「私は質問というより力が欲しいです!」
「そうそれ! そういうの好き! ここに来る奴は基本的に強さの発展途上じゃなくて、そこの死神みたいにできあがってる奴ばかりで、力が欲しいとか言わないからつまらん」
この俗世にまみれた土偶は、とラシアは思う。嘘か本当かは分からないが……質問に答えてくれるならそれで良いのかなーとも思う。
「と言っても今着てるローブを超えるような物は持ってないから、適当に私が得意とする魔法の詰め合わせでいいか?」
それでお願いしますとノアが元気よく返事をすると、フレディムの手から小さな炎の塊が現れノアの元へと飛んでいった。
そしてノアがそれに手を触れると小さく光った後に、小さな炎はノアの中へと消えていった。
「すっすごい! こうなんか心の中に魔法が増えてる!」
「取説込みで送っておいたから、次回の戦闘で試してくれたまえ」
ノアがありがとうございますと礼を言い、次はグオンの番だ。グオンも特に聞きたい事は無いようで、できればノアと同じ物か、他に何かが欲しいと告げた。
「そうそう。そういうのがいい。理由を聞いたからって答えが変わる物ではないからな。せっかくなんだし手元に残る物が欲しいよな」
フレディムは三つのアイテムを取り出した。一つはライオンの鬣を模した獅子の鬣。もう一つは小さなペンダントだが、中心に太陽を埋め込んだかのように輝く勇気の証。最後の一つは獅子の顔が描かれたガントレットだ。
そのアイテムを見た途端にラシアは吹き出しそうになる。
「この中から一つならやろう。男にはサービスせんから我慢しろ」
どれも価値のある物だという事はグオンにも分かるが、どういう物かまでは分かっていなかった。そこでラシアに相談しようとすると……問答無用で肩を掴まれ、ガントレットだと言われた。
「他も高いけど、何がなんでもあのガントレット。これはクランマスターの命令。おk?」
「わっわかりやした」
グオンがフレディムからそのガントレットを受け取ると、まるで生き物のように腕に装備された。
グオンが手に入れた物は、獅子王の籠手。
無課金でも手に入る最強クラスの性能を持つ防具だ。作るためにはジェネシスライオンマンと炎神フレディムのドロップアイテムが複数個いる。だからその二体のモンスターを複数回倒す必要があるのだ。
その上で能力的にもグオンにぴったりという代物だ。
攻撃の際には防御力を攻撃力に上乗せし、防御の際には攻撃力を防御力に上乗せする。さらに全ての属性に二割の耐性を持つのが、神器、獅子王の籠手だ。
「大事に使えよ! 神器だぞ神器」
「あっありがとうございました。姐さんの鎧壊れてますし代わりに装備しますか?」
「いや……その装備の能力的に私よりグオンさんやティーガーさん向けですし、グオンさんが頂いたものなので、グオンさん宅の家宝にしてもらえればと」
ラシアが装備しても恩恵はあるが……ラシアの防御力は本当に低いので、それが攻撃に乗ったとしてもたかが知れている。クランの事を考えるとどう考えてもグオンが装備するのが一番合っている。
獅子王の籠手の価値を知っているのでラシアも一緒に礼を言った。質問していないのはラシアとティーガーだけになった。
「ウチはもうちょい考えてから聞くさかいにラシが先に聞いてええで」
分かりましたとラシアは返事をした。
ラシアの聞きたい事は……本当に多い。元の世界に帰る方法があるのか、ダンジョンとゲームの中はどうして酷似しているのか等だ。
だが聞く事は……鎧の修復に使える聖銀鋼の事だ。
鎧を修理してしまわないと話にならないからだ。聞きたい事があるならば戦って聞けとなったとしても、全力を出すための土台は整えておく必要がある。
天使達の事ももちろんある。他に挑むべき超級ダンジョンはまだあり、深淵のダンジョンも見えてきたのだ。
だからここで迷ったら駄目なのだ。
「私の今着ている鎧は聖銀鋼という物でできています。これを修理するには同じ金属が必要と言われました。それはこのダンジョンにあったと思いますが、ありますか?」
「あるにはあるが……お前には一番聞きたい事があるだろう。それでいいのか?」
「はい。何をするにしても体が資本ですから。それで大丈夫です」
分かったと返事をし、フレディムはどこからともなくラシアの聖銀鋼の鎧と同じ色をしたインゴットをいくつか取り出して渡した。
「それだけあったら修理できるだろう」
「ありがとうございます」
「他になんかくれと言うか、殴って『よこせ』と迫るかと思ったが……そうでもないのだな」
「何処の賊ですか……ノアさんは魔法をもらって、グオンさんには獅子王の籠手ですからね。流石にこれ以上は望めませんよ」
「うむ。ならばそれでいい。色々と変わってしまったと思ったが……存外にそうでもないという事か」
こういう思わせぶりな事を言う奴は基本答えないか適当な事を言っているだけなのが相場だ。悩むだけなら聞かない方がいい。迷うだけだから。
最後はティーガーの番となるのでフレディムはそちらを向き、何が聞きたいかを尋ねた。
ティーガーは少し悩んだ後に……質問を投げた。
その質問は自分のためではなくラシアに関する物で、ラシアが元の世界に帰れるか? という物だった。
ラシアが驚き、ティーガーに理由を尋ねると欲しい物も無いしええねんとの事だった。
ティーガーの質問にフレディムは他の者達の時とは違い、長く考えた後に答えたが、それは曖昧な物だった。
「ラシアが心から望めばこの世の全てに否定されても帰れる可能性はある。だがこの世の全てが肯定しても、ラシアが無理だと思えば帰る事はできない。それが答えだ」
その答えにティーガーは少し考えた後に文句を言った。
「世の中の全ての事がだいたいそれやんけ! 自分真面目に答える気ないやろ!」
「魔神が適当な事を言って悪いか。そもそも勝手に神とか言い出したのは人間で勝手に神格化したのも人間だ」
「せやけど神ってつくんやったらもう少しちゃんと答えてもええんちゃうか?!」
「天使を引き連れて人間襲ってる主神ゼストニオンよりはマシだ。あれも勝手に人間がそれっぽいから天使とか神とかつけたものだしな」
「……それ言われたら何も言い返せんわ。ラシごめんやで。もう少し役に立つ事を聞いたらよかったな」
「いっいえ。私のために聞いてくれただけでも十分にありがたい事ですから」
「ラシはホンマにええ奴やなー。埴輪も見習ったほうがええで?」
「土偶だ土偶!」
「すまんハニー。間違えてん。許してハニワ!」
二人の間に火花が散った後に喧嘩が始まったので……ラシアはよほどの時は止めるつもりで、ここまでの事を整理しながら帰還の準備を始めた。
そして一分も経たないうちにフレディムの勝利が決まった。
「ぐふっ……腐った陶器みたいな顔をしとるクセにやたら強いやんけ」
「崇めよ! 称えよ! 土偶を! お前も人間にしてはなかなかやる。強くなる気があるのなら迷わずに突き進め。それが秘訣だ。そこの死神みたいに敵を殺せば強くなる」
「あのですね……」
そしてフレディムは久方ぶりに人と話ができて面白かったと言い、これからどうするのかと尋ねた。
戦うのなら喜んで相手になると言われたが……ここまで話をしていると流石に情も移り戦いにくい。だからラシアはこのまま帰ると答えた。
「うむ。ならば外の世界につながる道は開いてやろう」
「ありがとうございます。なんですけど……これで踏破になるのかな?」
「むっ難しい。どうなんだろ?」
「ええんとちゃうか? ボスモンスターが認めてアイテムもくれたんやし、このダンジョンの最下層も見てボスも月齢の王も分かったんやし、情報的な価値も十分やしな」
確かにそう言われればそんな気もするし、ジェネシスライオンマンの魔石もあるので深淵のダンジョンに使う魔石も問題無し。
後はギルドで相談する事になるので、ここでやる事は本当に終わったのだ。
それがフレディムにも分かったようで、王都へと繋がるゲートを開いてくれた。
何かがあった時のために先にキングが入り、グオン、ノア、リレッサ、ティーガーと続き最後にラシアとなった。
そしてそこでふと疑問に思った事を尋ねた。
「自分でポータルを繋げられるのに出ないんですか?」
「シンキングタイムは終わりだが……気になる事は多いだろう、異界の者よ。答えはお前達がダンジョンと呼ぶこの世界の方が居心地が良いからだ。歪な器があったとしたら歪な物を入れるのに適しているだろう? そういう事だ」
「……私の魂は別の世界から流れ着きました。しかもこのダンジョンと呼ばれる世界も知っています。それが本当にどういう訳か……」
「知ってはいるが……私はそこまで詳しくはない。他の魔神と呼ばれる者達に会って聞くのが良いだろう。世界に関してはお前は知っていると言ったが……似ているだけの物かもしれないぞ? それに天使達が世界を渡ったのだ。人の魂程度なら偶然渡ったとしてもおかしくはない」
「……それもそうですね」
「偶然得た命をどう扱うかは……お前次第だが、その生き方に安らぎがある事を祈っておこう」
その答えに思う事があったのかラシアは少し考える。
ただこれ以上、先に戻った仲間達を待たせるのは良くないのでラシアはフレディムに礼を言ってポータルの中へと消えた。
「私に勝った事もある強者だ。願わくば、その新たな命が穏やかであるように。そう祈っているよ」
フレディムがそう言うと繋がっていたゲートは閉じた。
そしてそれと同時にラシアはポータルを抜け、王都の公園に出た。先に戻った仲間は全員が待ってくれていたが……王都からは幾つもの火の手が上がり、空には天使達が飛んでいた。
これでこの章は終わりになります。
ちょっと疲れたので今週の投稿はお休みします。来週には復活するかも? 気長にお待ちください。