第219話 王都大戦
王都は戦火に包まれ建物は崩れ至る所から火が上がっている。原因はもちろん空を飛ぶ天使達だ。
だが一度は王都の兵力がその天使達を退けた。騎士団や聖騎士、冒険者といった戦える者達だ。ただどうして今回は退ける事ができなかったか? 理由は二つある。
一つは主神ゼレストニアが自ら戦場に赴いている事だ。その上、他の天使達と同じ様に強さの枷が外れている様でかなり強くなっている。
それでも王都の精鋭達なら闘えるはずだ。ここまで戦火が広がっているのにはもう一つの理由がある。
それは……天使達が血塗られた契約書のような、モンスターをランダムで出現させるアイテムを使用した事だ。
こういうアイテムの効果はラシアが知っているゲームの頃の説明と大きく変わっていない。
使用者のレベルに応じたモンスターが召喚されるというものだ。
その為、シエルオーテスといった戦女神が使うと並の冒険者や騎士達ではかなりキツいモンスターが召喚される事になる。
そして最悪な事に天使達が落とした国の中に魔物の呼び鈴があったのだ。それらを使って襲撃をかけた為に、王都の地上には様々なモンスターがあふれ、空では天使達が優位に立っている。
ただし呼ばれたモンスターが言う事など聞くはずは無い。人も襲うが天使も襲う。この戦場から逃げ出すものもいる。
ダンジョンよりも酷い戦いの場がこの王都に生まれているのだ。
ただこの状況には天使達にとっても都合の良い所が多い。天使達の目的は女神セレ・ロ・ネレを呼ぶ為に、ボスモンスター名鑑を手に入れる事だ。
その目的を果たす上で、王都が荒れ、様々な区画にモンスターが出現するのは好ましい。騎士団も聖騎士も天使達の目的は分かっているので貴族街に兵力を集中させているからだ。
他の区画は冒険者達に任せているが、任せきる事はできないので兵力が分散しているのが現状だ。
ただ天使達にとって都合の悪い事も多い。
並の騎士や聖騎士の攻撃が届かない様な上空には上がれない事だ。
主神ゼレストニアやシエルオーテスの防御魔法なら問題は無いが、遮蔽物の無いような上空に上がってしまうと、カグヤちゃんDXからまともに狙撃されるからだ。
満月の時の様に連射をしてくる訳では無いが……それでも他の戦女神なら蒸発する様な一撃を撃ってくる。
そして撃った後は即座に移動する為、天使達には射撃位置を特定できない。これが厄介すぎて完璧に制空権が取れていないのだ。
かといって建物より少し高いぐらいの位置を飛ぶと、騎士や冒険者の攻撃が届き始め、自分達が召喚したモンスターからも狙われる事になる。
この様な状況になっているので、王都は混乱が混乱を呼ぶ戦場と化している。
そして天使達に追い打ちをかけるようにラシア達の帰還だ。
天使側も一番警戒するのはラシアだ。その為に王都の冒険者ギルドは破壊済みで何処にも繋がっていない。
「やるやんけハニワ。これを見越してここに飛ばしたんか?」
そう言うティーガーは割と冷静だ。キングから王都に襲撃があったとは聞いていたが、それにしては落ち着いているというのが感想だ。
「まぁ今更慌ててもしゃーないしな。やけども何処が戦いの中心か知りたいな。おかんとかデゴット様にどんな感じか聞きたいしな」
「貴族街の方で煙が上がっているので、そちらに向かってみますか?」
全員が頷いたのでラシア達は貴族街へと向かう事になる。これだけそこら中で戦っている気配がするのだ。仮に間違っているとしても道中で戦っている騎士や聖騎士に加勢し現状を聞けば良いのだ。
街を走るラシア達が驚くのはやはり、天使達以外のモンスターがあふれている事だ。レベルに関しても六十五~八十といったモンスターがそこら中にいる。
「ラッ、ラシアさん。天使ってモンスター召喚できるの!?」
「いえ……聞いた事も無いのでたぶんアイテムによる召喚だと思いますよ」
この辺は前に自分自身が言っていた事なのでよく分かる。国を攻撃したいなら手っ取り早いのは中心でモンスターを召喚するアイテムを使う事だ。
これはゲームでもテロとか言われてよくあった。寝る前に街中で露店を開いて寝ていたら、夜中にモンスター召喚系のアイテムを連打されて、朝起きたら死んでるという奴だ。
昔は街中でもデスペナ(死んだら経験値が減るやつ)があったのでセカンドキャラでお店を開くのが基本だったりする。
そんな時にラシアが思っていたのは、ゲームだからこれで済んでいるが現実の街中でモンスターを召喚されたらもっと凄い事になるよな、という事だ。
そんな事を考えながら進んでいると、近くで戦っている騎士達を発見する。
苦戦はしていない様だったが、手間取っているように思えたのでラシアとティーガーが即座に接近し、そのまま敵を殲滅した。
あまりの出来事に騎士達が固まってしまったのでティーガーが声をかけるとようやく我に返った。
「ご助力、ありがとうございます!」
「全然かまへんで。ほんでおかんとデゴット様あたりがおる場所を教えて欲しいんやけど、現状はどんな感じなん?」
「はい。デゴット様は貴族街に仮の参謀本部を作り、そこでの指揮を任せて戦闘に参加していると聞きました。ロディー様も竜に乗り最前線で戦っていると聞きます。天使側の情報としては私達は見ておりませんがゼレストニアが出現しているとの事です」
「……天使側も総力戦って感じか。おかんはともかくデゴット様が出てるって事はそろそろ決着つける感じやな」
「そこまでは分かりませんが、今の様に王都にはモンスターが大量に出現しています。我々の様に各地に散って対応している者もいる為、戦力を集中させられないのです」
「その辺は大丈夫やな! 獄炎ダンジョンを踏破したウチらがおるしな。そこにおるのは白の騎士様やしな」
ティーガーの一言におぉーと歓声が上がるが、ラシア的には恥ずかしいのでやめて欲しい。士気を上げる為なのも分かるのだが……
そしてリレッサに頼み、怪我人を回復させてから騎士達と別れ、貴族街へと急いだ。
貴族街に近づくと天使達が増え、戦闘が激化しているのがよく分かる。
ラシアがモンスターを倒し、ティーガーが現状を聞き、リレッサが傷を癒やし、ようやく目的地である仮の参謀本部へとたどり着く。
そこにロディーもデゴットもいなかったが、ティーガーは自分より立場が上の者がいたので敬礼と挨拶をして中へと入っていった。
「ほんで現状はどんな感じです?」
「天使が鬱陶しいぐらいで、街への被害の規模を考えると兵士への被害は無いに等しい。天使、いや、戦女神やゼレストニア辺りが強者なだけで並の天使なら騎士、聖騎士の上位勢がいれば問題ない」
天使達は倒しても復活してまた襲ってくるが、その対策はあるとの事だ。そんなに数は無いが、魂を一時的に持ち運べる物を錬金術師のガロニアが完成させたという。
「ただ本当に一時的だから倒したら即座に封印し、ゲートポータルを開いた後に水晶の泉にある研究所に行く必要はある」
「あいつらまたそんなもん作ってたんか……」
「フェリスロステ女王陛下が来られた時にヒントをもらって作ったとかなんとか言ってたな」
「まぁ錬金術師も悪い奴やけど悪人ではないしまぁええか。こっちはどう動いたらええんです?」
「超級ダンジョンに行ってたと聞いているから、休んでもらいたい所だが……そんな場合では無いからな」
そう言って手の平より少し大きな水晶の様な物をティーガーにいくつか渡した。
それはラシア達の帰還に備えてデゴットから預かっていた物だった。
「使い方としては簡単だ。倒した直後にかざすだけで、魂が勝手に引き寄せられるという話だ。その青い水晶が赤に変わったら中に魂があるとの事だ」
「なるほどって事は……ラシの相手は確実にゼレストニアやな」
ああ、と頷いてからこの参謀本部を任されている騎士はラシアに丁寧に頭を下げた。
「ラシア殿。戻ってきたばかりの所に頼むのは大変心苦しく感じるが、王都は今やこんな状況でありますゆえ、申し訳ないがご助力をお願いします」
流石にラシアもこんな状況になっている王都を見捨てておけるはずもないので力強く頷いた。
その騎士はリレッサやキング達にも丁寧に頭を下げて「この都市をお願いします」と言った。
そして全員がアイテムを受け取り外に出る。
「ほんでどう動く? 全員でゼレストニアの所行く方がええんやろうけど……シエルオーテスみたいな戦女神もバラついてそうやし、その辺も倒したい所やな。モンスターの問題もあるやろうしな」
ゼレストニアの相手はラシアで確定だ。ロディーやデゴットでもたぶん倒せるが、もしもの事を考えるとラシアに任せるのが一番早い。いくら強くなったと言っても獄炎で戦ったジェネシスライオンマンに比べれば遙かに弱い。
騎士や聖騎士達への援護も必要となると……分かれて行動するという選択肢もある。
「やはり分かれた方が問題ないでしょう。ラシアとティーガーでロディーやデゴットのいる最前線へ。私、ノア、グオン、キングで天使とモンスターの討伐と戦闘中の兵士の援護に回るのが無難でしょう」
「ウチは飛んどるから索敵とかその辺やろうと思うけど、ラシの回復とかいらんのか?」
「支援はかけますが、私の魔法でできる事はラシアのアイテムでもできますからね」
その通りなのでラシアは頷く。ゼレストニアとの戦いだけなら、まとまって行く方が確かに良いのだが、倒した後で天使がどうなるかは不明なのだ。
街の事を考えるなら分かれて戦った方がいい。
「分かりました。姫様もお気をつけて」
「ええ。ラシアも気をつけて。勝ちは決まっていますが余計な怪我などはしないように」
「ラシアさんも気をつけてね!」
ラシアが頷くとキングも考えがあった様で大きく笑った。
「うむ。ローウェンテニアの王女殿下がここまで言うのならこちらの勝ちは確定であろうな。だが……こちらもかつて天使に煮え湯を飲まされているのでな! 勝つのなら圧勝と行こうではないか!」
その大きな声に皆が「何事!?」と言った瞬間、キングはマントをはためかせた。すると数え切れない程の魔法陣が地面に浮かび上がった。
「いくぞ! 家臣達よ! 見よ! これが我の軍勢である!」
その掛け声と共に大量のコアラ系モンスターが召喚され、そこにいた者達の視界はコアラで埋まった。