王都にいた全ての者は言葉を失っている。
コアラの波が王都に召喚された大量の魔物達を文字通り押し流しているからだ。
その軍勢の数は凄まじく、地面を埋め尽くしている。しかもただの有象無象であるならば脅威ではないが、全てのコアラが戦士であり精鋭だ。
その流れに巻き込まれようものなら濁流にでも呑まれるかの様に何も残らない。
「はっはっは! 見よ我が軍勢を! 我が戦士達を! 進め我が友よ! モンスターを、天使達を蹂躙するのだ!」
ゾウ並みに大きなコアラの背に乗ったキングと共に、軍勢が王都を進みゆく。戦っている者には援護をし、怪我人がいればその傷を癒やす。
キングとフェリスロステが持っている記憶には天使に対する憎悪に近い感情がある。
ゲームの世界での設定なのか、本当にあった事なのかは不明だが、人と天使の戦いは終わりの見えない千年にも及ぶ戦いだった。
戦いが始まった当初は様々な種族がいた。アバターとしてエルフやドワーフも選べるが、それらは長い戦争によってほぼ絶滅した種族となっている。
そして長く続いていく戦いの中で、人、動物、妖精が残り形だけだが同盟を組む事になった。
負けたら終わり。
世界は天使に征服され、天使達が住みやすい様に作り替えられてしまうからだ。
そんな戦いの事をキングは覚えている。家臣を殺され友を殺された事もだ。
キングも王であるが故に分かる事はある。天使達とは分かり合えない。生き物としての考え方が違うのだ。
滅ぼすか滅ぼされるか。それ以外の選択肢はない。
言葉を話すからと言って通じるものではない。いくら自分達がユーカリの葉は美味しいと言っても、人には理解できないのと同じなのだ。
だからこの新しい世界でも天使達を野放しにする事はできない。
そんなキングにも不可解な事はある。それはこの世界ではなく自分の記憶である。戦争の最中でこじれに拗れ人間達と取り返しのつかない所までいった事があった。
その時にローウェンテニアの死神が派遣され……軍勢ごと葬られたのが最期の記憶として残っている。だが、また記憶を持ったままこの世に生を受けている。
それが本当に不可解だった。どのタイミングで生き返ったかまでは覚えていないが、見慣れた森の中で生活していた事は覚えている。
そして、仲間を連れたローウェンテニアの死神と出会った時に、自分が倒された事を思い出した。
不思議では済まない話だが……不思議だとキングは思う。
(コアラキングが喋ってる!?)
「あの時のローウェンテニアの死神の顔はなかなかに傑作であったな。この世界が夢であっても何であっても我は進むのみ! 皆の者! 蹂躙せよ!」
まだ分からない事は多いが天使は敵。それだけは分かっているのでキングはこの世界が元の世界の様にならない為に声を張り上げた。
……
…………
キングが蹂躙している頃、ノアとリレッサはタッグを組み、空を飛ぶ天使達のお相手だ。
「キングさんが張り切ってる……というかリレッサ。私と一緒で良かったの?」
そう言うノアにリレッサは頷く。
皆が心配するのはよく分かるのだが、ラシアの場合は性能がピーキーすぎるので皆がいると全力を出せないのだ。
その為に機動力がありすぐに離れられるティーガーがいる。グオンも灰竜に乗って空を飛び、情報の伝達に当たっている。
「任せられるから任せたという話です。……というかノアの方が心配だからこちらにいるというのも忘れては駄目ですよ」
「言いたい事は分かるけど、私には任せられないっていう様に聞こえる!」
「自力で空を飛んでから言ってください」
「ごふっ……」
ノアは空を飛ぶスキルを知らず、取ってもいない。飛べないのは仕方がないのだが、リレッサの中でノアへの評価はかなり高い。
何度かノアの戦いを見たが、ローウェンテニアの騎士の様に洗練された強さではない。それでも磨けば光る物は確実に持っている。
グオンにしてもそうだが、自分やラシアがいるからといって、さっきまで行っていた獄炎のダンジョンを踏破するまでついて行けるものでは無いのだ。
だからリレッサの中でノアへの評価は高い。もしも自分に何かがあった時にラシアを任せられる程には……。
「まぁ任せるつもりもないですが」
「どんどん任せて!」
そんな話をしている内に、戦女神と天使達から二人の元に魔法による攻撃が飛んで来る。
ガッキィン!
飛んできた魔法はリレッサの防御魔法によって簡単に防がれた。ノアは驚き、リレッサは攻撃してきた相手の方を見る。
するとそこには複数の天使を連れた生の戦女神ライフィルシエステと魔の戦女神レイテルパシオンがいた。
「さて、この前はー不意を突かれて負けてしまったけども~。今回はどうかな~。お姫様」
「前回の様にはいかないぞ?」
ノアが構え、リレッサがため息をつく。
「前回の反省を生かすというのなら、迂闊には前に出ない事ですね。いくら自分達が強くなっていると言っても……こちらの底が見えた訳ではないでしょう?」
リレッサの話にライフィルシエステは笑いながら答える。
「そうかもしれないけど~。何? 前に言った事根に持ってるの? うっけるー。ローウェンテニアの姫様って案外、器が小さいんだねっ!」
「そうですね。多くは入りませんが小さい方が持ち運びやすいので小さくて良いのです」
「へー何でもいいけどね。前回の借りはここで返させてもらうけどね」
リレッサが笑って言った。
「無理ですけどね」
その瞬間、前回と同じ様にリレッサの魔法によってライフィルシエステの背後に天使が召喚され、そのまま斬りかかる。
だが、ライフィルシエステはそれを読んでいた様にその攻撃を受け止めた。
「前と同じ攻撃が効くわけないじゃん。私の事バカにしてる?」
「いいえ。馬鹿だとは思っていますので、馬鹿にしてる訳ではありませんよ? というか……どうして一撃防いだだけで攻撃が終わると思っているのですか?」
「え?」
リレッサが召喚していた天使は一体ではなく複数体だ。姿を消していたのでライフィルシエステが気づかなかっただけの話だ。
召喚された他の天使の攻撃によって、ライフィルシエステは声を出す暇もなくその体に剣を突き立てられ絶命した。
そしてそのタイミングでリレッサが魂を一時的に封印する水晶を取り出すと、その色が綺麗な青から赤へと変わっていった。
「なるほど……こういう事ですか」
「じゃあ! もう一体は私の番だね! 獄炎のダンジョンで活躍できなかったからここが見せ場!」
リレッサは一時的な封印だと聞いていたので、さっさと倒して研究所に持っていく方がいいとは思う。だが、この程度の相手に手こずる様ならノアの評価を改める必要がある。そう考えて任せる事にした。
「時間もないですから、苦戦する様なら私が倒しますよ」
「任せて! ハニワにもらった力でパワーアップしたグレートノア様の出番だぜい」
「土偶ですよ。間違うのは力をもらった相手に失礼なのでは?」
「土偶とハニワの違いが分からない!」
「時代が違う、特徴が違う、役割が違う。違う違うの三拍子なので結構違いますよ」
ノアが流石はリレッサと思ったタイミングで、残ったレイテルパシオンの魔法が飛来するが、リレッサの防御に簡単に阻まれる。
「ここまでこけにされるとは思っていなかったよ」
「こけにしているつもりはありませんが……相手にならないと言っています。ローウェンテニアならまだしもこの世界では貴方達はそこまで脅威ではありません。この世界を舐めすぎなんですよ」
そしてそのタイミングで魔力が増幅したノアが呪文を唱える。
ノアがフレディムからもらった魔法は二つ。
「コスモフィールド展開!」
ノアを中心にリレッサとレイテルパシオンを、向こうが透けて見える半透明の空間に閉じ込める。
「これは……なっ、なんだ? まっ、魔力が奪われていくだと?」
ゲームではジェネシスライオンマンが物理特化なのに対し、ハニワではなく炎神フレディムは魔法特化となる。
ノアが使ったこのコスモフィールドが凶悪で、フィールド内にいる間は強制的に魔力を奪い、使用者の魔力を回復させる。
「まっ、魔力が回復してる」
「私の魔力も回復していますね」
「リレッサの魔力も奪われたらどうしようかと思ったけど大丈夫そうで良かった!」
「……知らなかったんですか?」
「だって使い方は分かったけど、ここまで効果があるとは思わなかったからとりあえず使ってから考えようかと……」
リレッサは大きくため息をつくが、コスモフィールドの効果は絶大だ。フィールド内にいるレイテルパシオンは急激に魔力を奪われ、とても苦しそうにしていた。
「……これ以上時間をかける必要もありませんね。ノア。もう倒してしまいなさい」
ノアは頷いた後に、教えてもらったもう一つの魔法を唱える。
「コスモインフィルノ!」
小さな白い炎がノアの手の平に生まれた後にレイテルパシオンに向かって飛んでいき直撃する。
大きな爆発もなく何かが燃えたという事もなく、失敗かと思われた瞬間にレイテルパシオンは急激に苦しみだした。目や口から火があふれ出し、一瞬で白い炎に呑まれて消えていった。
コスモインフィルノの効果は、攻撃を食らった者の体内の魔力に引火させるというものだ。
ゲームでいえば、まずMPにダメージを与え、MPがなくなった後はHPにダメージを与える系統の魔法である。
その上で超級ダンジョンのボスが使用する魔法になるので、そんな優しい魔法には仕上がっていないのだ。
そしてそれはもちろんプレイヤーが覚える事ができない魔法だ。
「……後でラシアさんにちゃんと使い方聞いておこう」
使った本人もなんか絶対に危ない魔法だという事が分かったので、少しテンションが下がったノアは水晶を取り出し、レイテルパシオンの魂を封印した。
そして封印がどれだけ持つのかは分からないので、後の事は下にいる兵士達に任せ、二人は研究所へと転移した。
二人が研究所へとたどり着く頃、ラシアもゼレストニアとの戦いに入り、決着へと向かっていった。
ラシアが全力を出せれば問題のない相手の為、ティーガーが虹竜で空を飛び、周りにいた者達を避難させたのだ。
天使達の厄介さは……人に紛れ、何度も復活できる事だ。超級ダンジョンに出てくるモンスターの様に純粋に火力が高いわけではない。
その上で全ての天使は聖属性であり、ラシアには黒ラシアから受け継いだ闇属性の黒いプラティディオンハンマーがある。
いくらゼレストニアと言ってもラシアの相手にはなり得ないのだ。
「ブラクリオンハンマァァァー!」
これで決着と言わんばかりにラシアは黒く輝くハンマーを構え叫んだ。