ラシアはゼレストニアと相対している。
考える事は本当に多い。天使達は異世界からの侵略者だ。その上でこのゼレストニア達は先兵であり斥候の様な立ち位置であったはずだ。
だから住みやすい世界があればその世界と元の世界を繋ぎ、新しい兵達を送り込んでくるとかいう、現地の人達からしたら迷惑極まりない存在だったはずだ。
無限ではないが別の星から大量の兵士が送られて来るとなると勝ち目などない。ゲームの設定でもこいつら天使のせいで戦争が長期化し滅んだ種族は本当に多い。
ではこの世界ではどうなるのだろうとラシアは考えた。答えはフェリスロステとガロニアが言っていた事から、たぶんだが推測できる。
ゼレストニアも新しい天使は呼び出している。だが、この世界のルールが適用されレベル1の天使が生まれているだけなのだ。
フェリスロステもレベル1の妖精が生まれたと言っていた。別の世界から来た天使も、その点は同じなのだろう。
シエルオーテスが国を滅ぼした時に召喚した天使達はダンジョンにいた者達だ。天城のダンジョンに誰もいなかったのはそういう事だ。
異世界から天使達が元の強さで来たのなら、王都の騎士や聖騎士はもっと苦戦を強いられるはずだ。一つの星からほぼ無限に兵士が供給される訳だからだ。
それができず、来たとしても弱いからゼレストニアが痺れを切らして出てきたのだ。
女神セレ・ロ・ネレを呼び出そうとしているのも単純に兵力の不足だろうとラシアは思う。
その辺はどういう意図なのか不明だが、ボスモンスター名鑑を奪われて呼び出されでもしたら、人にとって碌な事にはならない。
だから、ここで倒すという選択肢しかないのだ。
「ここまで来て考え事かね?」
「お互いに別の世界の住人ですからね。話し合いで事が済むのならと思いますが……あなた方天使は危険過ぎるしやり過ぎた。ここで排除させて頂こうかと」
「人と天使は分かり合えんよ。棲み分けならできるかもしれないがね」
「この世界にはモンスターもいるので人に危害を及ぼす生き物はそれだけで十分でしょう。天使もモンスターも似たような物なので」
「それは……人も同じであろうに」
ゼレストニアもラシアに勝てない事は分かっている。その上で過去にした提案をもう一度持ちかける。
「ここで見逃してくれるというのなら私の力でお前を元の世界に戻せるが?」
ラシアはすぐに首を振って拒否する。
「元の世界に帰れるかも知れない方法は見つけましたし、それで駄目なら諦めます。そして……今まで天使がやってきた事を考えれば、どうして信用してもらえると思っているのですか?」
「確かにそうだな。信用できる要素など全くない」
仮に本当に帰れたとしても、こんな危険な者達を野放しにしておく事はできないのだ。
「お前さえいなければなんとかなりそうなものなのだがな……」
「それはこの世界の人達を舐めすぎかと。私がいなくてもこの世界の人達は強いので割となんとかしますよ」
それだけは自信を持って言える。
そしてこれ以上はもう話しても仕方がないとラシアは覚悟を決めて黒いプラティディオンハンマー(ブラクリオンハンマー)に力を込めた。
ラシアとゼレストニアの間から音が消える。
先に動いたのはゼレストニアだった。魔法を放ちラシアを空から狙うがラシアは簡単にそれを避け、黒いハンマーを力の限り叩きつける。
凄まじい衝撃音が発生し、ゼレストニアは地面に叩きつけられた。隕石が衝突したかの様にクレーターができ、地面は陥没する。
「ごほっ」
そしてラシアはとどめの一撃として再度ハンマーを振り上げた。
天使達にももっと他の選択肢はあっただろうが……この結果は天使達自身が選んだものだ。ラシアは最後にそう思い、黒い大きなハンマーを力の限り振り下ろした。
何の抵抗もなくそれは振り下ろされ、闇が光を呑み込む様にゼレストニアは簡単に消滅し、近くの家も簡単に消えた。
そしてラシアは大きく息を吐き出した後に、水晶を取り出して掲げた。青い水晶はすぐに赤へと変わった。
「さてと次は研究所に行かないとな……」
そうつぶやいたタイミングでティーガーが虹竜に乗り、レクトアを連れてやってきた。
「その感じやと無事そうやな!」
「ラシア様。大丈夫ですか?」
「はい。大丈夫です。レクトアさんはどうしてここに?」
「もちろん、ラシアが怪我しとったらあかんのと、無駄に金使わんでええように連れてきてん」
ラシアがなるほどと思っていると、レクトアがすぐにゲートポータルを開いてくれた。
「ノアさんもリレッサ様ももう向こうに向かったとの事なのでラシア様もどうぞ」
「分かりました」
レクトアにはまだここで怪我人の治療や残った天使達の討伐が残っているとの事なので、ラシアとティーガーはポータルに入っていく。
ポータルを抜けた先は研究所の入り口で、そこにはフウコウが待っていてくれた。
「ラシアが苦戦するとは思ってにゃいけども……無事そうで何よりにゃ~」
「なんかあれやな。フウコウがそこにおると、なんかやらかして天使が復活しそうで嫌やな!」
「ティーガーは本当に失礼な奴にゃ! そんな事無いってラシアも言ってやるにゃ!」
……実は少しだけラシアも思っていたので、苦笑いする事しかできないのだ。
そしてフウコウに続いて中に入って行くと、リレッサとノアもいた。二人の無事を確認しほっとしていると、数人の錬金術師がやってきたので、ラシア達は魂を封印した水晶をその錬金術師達に渡した。
「皆様が倒されたので、見るというのならついてきてもらって大丈夫です。魂を別の入れ物に入れて封印するだけなので、面白い物は無いですけど……どうしますか?」
全員がどういう物に封印するかとても気になるのでついて行こうとすると、フウコウから待ったがかかった。
「わっちは錬金できないけども錬金術師だから言っておくにゃ。気になるぐらいなら見ない方がいいにゃ。ぶっちゃけ法に触れてない外法だから見ない方がいいにゃ」
「あかん。突っ込み所が多すぎてどう突っ込んでええか分からん」
「見ても見なくても明日はやってくるから見ない方がいいにゃ」
フウコウがそう言うと錬金術師達全員が頷いた。こう言われると逆に気になる。
「卵を開けたら雛になりかけの何かが出てきたという感じなので……そういうのに耐性がないならやめておいた方が良いかと。そこの猫怪人が言うような外法ではありませんよ?」
「お前等まで猫怪人っていうのやめろにゃ!」
全員が今言われたそれを想像してテンションが下がったので、見学はやめておく方向になり、封印が終わるまで外で待機しておく事になった。
ラシア達と別れ、フウコウや他の錬金術師達は預かった水晶を研究所の奥にいるガロニアの元へと持っていく。
シエルオーテスや他の戦女神はもうパルサーやロディーに倒されて封印済みだ。
「さてと、これで聞いていた戦女神とかいう天使達も全部だね」
「そうにゃ。ラシアもゼレストニアを倒したってここに入れたって言ってたにゃ」
「あふれてる魔力を見るとそんな感じだね。流石は白騎士だね」
そう言ってからガロニアは丁寧にその水晶を手に取り、魔法陣の描かれた台座に乗せる。何かでできた球体が液体の中に入っており、そこにも同じ魔法陣が描かれていた。
これが……ガロニア達、錬金術師が積み上げてきた魂の完全な封印方法だ。
この球体はロワンテが作り上げた白ナマズの技術を流用し、フェリスロステからヒントを聞き新たに作り上げた……生き物だ。
目も無く手足もなく臓器もなく脳もない。生命と言えるかは怪しい。
だが……この培養液に入れている間は生きている。
これに天使の魂を入れるとどうなるか?
体には体の記憶があり魂には魂の記憶がある。その為にこの球体に天使の魂を入れると、元の記憶は薄まり混ざり合う。
そうして……何もできない生き物が生まれてしまう。
そしてそれは人が白ナマズになった時と同じだ。
死んでも元に戻る事はない。
これが魂を本体とする生き物を倒す方法だ。相手が持っているルールがあるのなら、それをこの世界のルールと混ぜてしまえば良い。
これもロワンテの体にマウスマンの魂を入れた事で分かった事だ。その子も少しずつだが言葉を覚え、体の変化も落ち着き始め、世界に根付き始めたのだ。
「まともにやってりゃ……自分がやってた研究がこんな事に繋がって、後世に名前を残せただろうに」
誰に言ったわけでもないが……ガロニアはそうつぶやいた後に装置を起動させた。赤い水晶は青へと戻り、培養液が少し光った後に球体が少し動き始めた。
「この魂が入ってすぐの状態は何度見ても気持ち悪いにゃ……」
「入ってすぐは魂の方が持ってる記憶が多いから仕方ないね。後は混ざって消えるだけ」
そう言ってガロニアが違う方向を向くと、そこには球体から羽の生えた物があった。
なぜラシア達が再度天城のダンジョンに行った時に誰もいなかったのか? 大公が残ったボスモンスター名鑑を何に使用したか……
その答えは目の前にある。
この羽の生えた塊の正体は女神セレ・ロ・ネレだ。
この装置が完成し、死刑囚やモンスターで実験した後に、王都の精鋭、デゴットや大公直属の暗部を集結させ、セレ・ロ・ネレを撃破し封印したのだ。
その結果がこれになる。
この培養液から出せば数時間で死亡する。
中にいる間は生きている。目も見えず、何も考える事も動く事もできないまま。
「一方的に害になる生き物の末路はこうなるんだよ。モンスターが危険と言っても魔石があるから人には必要だ。天使達は人には必要ないんだよ」
まだ少し意識がある元ゼレストニアは、言葉を話せずにもがいていた。ガロニアはそれを見ながらそうつぶやいた。
そして動きが止まったのを見てから、仕事が終わった様に背伸びをした。
「これで終わりかにゃ?」
「当分は大丈夫だけど、魂と肉体が一つになるまではもう少し時間がかかるからね。このまま放置して、この部屋も封印だね。もう出られる事はないよ。白ナマズが人に戻れないのと同じだからね」
ガロニアとフウコウはその言葉でかつての弟子と仲間を思い出すが、二人とも言葉には出さなかった。
「まぁこれで良かったにゃ。ラシア達に言ってくるにゃ」
「私も久しぶりに戻ろうかね。ここ数ヶ月ずっとここだよ」
「そういえばにゃ? 魂を封印する水晶はどうやって思いついたにゃ? 最近そんな研究してなかったにゃ?」
「ん? 自慢の弟子の娘が魂を守る王冠を持ってたから、忍び込んで何度も見て覚えた」
「……錬金術師のくせにやってる事はこそ泥にゃ」
「盗んでないから泥棒じゃないよ!」
……
…………
そしてラシア達が待っていると、フウコウとガロニアが出てきて無事に封印が終わったと告げた。全員がほっと息を吐き出した。
これで天使達との戦いも終わりが見えてきたので、王都に残る天使やモンスター達を倒す為にラシア達は王都に戻った。だが、こちらもキングや騎士、聖騎士達のお陰で全ての天使とモンスターが駆逐され、ようやく決着を迎えた。