ロマン職は異世界から帰りたい   作:庶民ザウルス三世

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第222話 戦い終わって

 天使達との戦いが終わり数日が過ぎた頃、ティーガーはデルパロア大公の家にやって来た。

 

 庭に相棒の虹竜を留めさせてもらい、大公がいる書斎へと向かう。

 

 妹の顔を先に見ても良いのだが……ムカつく顔なのは変わらないだろうから、先に大公の元へと向かった。

 

 綺麗な屋敷の中を歩いて行くが……窓から見える景色には先の天使との戦いの跡が色濃く残っている。

 

 庭は陥没し石柱などは砕け、見事な花園も燃えてしまっていた。

 

 ただこういう見て楽しむ系の物は大公の趣味ではなく先代や先々代が残した物なので、本人は壊れたままでも良いらしい。

 

 ただ直すというのなら金は出すとの事なので、使用人達が人を雇って片づけを進めているのが目に入る。

 

 ようやく目的の部屋の前まで来るとティーガーはノックをした。

 

「大公おるけー?」

 

 返事を待たずして中に入ると、先に来ていた客が大公と一緒にお茶を飲んでいた。

 

 傍から見ればティーガーの行動は失礼極まりないが、誰が来ているか知っている上に、大公から呼ばれて来たのでこんな感じなのだ。

 

「お? 隣の国の極悪スパイもおるやんけ」

 

「ティーガーさん。分かっていませんね。極悪人でも国のトップになれるという事を皆に身をもって教えているんですよ?」

 

「いや、スパイが気づかれたらあかんやろ」

 

「それもそうですね」

 

 そう言って男は笑い、紅茶を口に含んだ。

 

 ティーガーと親しげに話しているのは天使と共にこの王都を出て他国を滅ぼし、その国の王になった者だった。

 

 ここにいるその男は偽者ではなく本物で、昔から大公の下で働く者だ。

 

 どうして天使達の行動がほぼ筒抜けだったのか? それはもちろんこの男が秘密裏に伝えていたからだ。

 

 元より王都の宗教関係は怪しい動きが多かった。だからデルパロア家は先代の頃から長い時間をかけて教会の信用を得て、部下を送り込みそのトップへの地位を得た。

 

 そこへ天使の出現だ。

 

 教会関係の邪魔な者を排除し、戦いを起こそうとしていた隣国を潰すし、ついでに天使も潰す。

 

 蒔いた種が上手く実り、収穫した結果が今回の事だ。

 

 多少は王都に被害が出たが、王都にいた反乱分子は潰れ、天使もいなくなり、隣国も生まれ変わった。

 

「これ以上ない結果だな」

 

「王都への被害はけっこう酷いけどな!」

 

「まぁ被害と言っても建物とかですし、民が減らない限りはなんとでもなりますよ」

 

 そう言って大公の部下の男はティーガーの分の紅茶を淹れ始める。

 

「あんがとさん。というか国王みたいな事言うやんけ」

 

「普通に国王ですからね」

 

「……そやったわ。普通に王様やったわ。その辺ってどうするん?」

 

「そのまま残す」

 

 せっかくある物を潰す事はない。一時的に天使の国になっていたとはいえ、そこに住む人は多い。

 

 仮に国を潰したとして、そこに住む人達が他国に渡り始めれば食料など様々な問題が出てくる。この王都にもかなりの人数がいる。余裕はあるが、これから冬が近づくにつれて問題を抱える事になる。

 

 ならば無理に潰す必要はない。トップが大公の部下であるのなら好きなようにできるからだ。

 

「今日、私が来たのはその辺りの話がメインになりますね。天使の国はこのまま宗教国家として存続。その辺にいる危ない宗教連中を押し込んでおく国家にしておこうかと。急に国を潰して人がこちらに流れてきても面倒ですからね」

 

「なるほどなー。こっちに迷惑かからんだら何でもええか。でも天使の国って事やけど、全部封印されたと思うけど大丈夫なん? なんか崇める物とかそういうシンボル的なのいるんとちゃうんか?」

 

 そんな物は後からゼレストニアの像でも作ればいいのだが……実はある。

 

 天使達、いやゼレストニアが人を生け贄にして新しい天使を呼ぼうとした時に生まれた命がある。呼び出そうとしていたのはダンジョンにいる天使ではなく、別の世界の天使だ。

 

 天使なのか人なのかは分からないが……翼を持った赤子が現れたとの事だ。

 

 何度やってもそうした赤子が生まれた為に、羽を持った子が百人近くいるとの事だった。

 

「その赤子達を上手く使ってまとめて行こうかなという感じですね。話題性はバッチリなので」

 

「それって別の世界のモンスターとはちゃうんか?」

 

「こちらでも調べましたが……そもそも天使達も人間と構造は似たような物ですからね。混ざってただ羽の生えた人になったのかもしれませんよ?」

 

「って事は後は考え方だけか。育ってからどうなるか見物やな。子育てとかどうすんの?」

 

「その辺は孤児院上がりの信者も多いので私が関わらなくても大丈夫ですよ」

 

 なるほどなーとティーガーは頷き、紅茶を飲む。

 

 願わくばその羽が生えた子供達が大きくなっても、自分達人間と戦う事にはならないように。ティーガーはそう願っていた。

 

 そして少し話題が変わり、この国の新しい国王の話になる。

 

 王女の陣営が辞退し正式にアトラスが国王になるとの事だ。そこに関してはティーガーも賛成だが、不安は残る。

 

 アトラスが無能とかではないが、貴族社会から離れ長らく騎士として生きてきたのだ。そんな者が大公みたいな魑魅魍魎がいる世界でやって行けるのかという話だ。

 

「本人は自分がそういう役者ではないと分かっているからな。時間をかけて王政を変えていくそうだ。ルインエルデの様に選挙で選ぶ形にしたいとの事だ」

 

「妖精とかコアラとかもおるし、この国も変わっていかなあかんわなー。というか王女の陣営もえらい簡単に諦めたな」

 

「その辺はアトラス側に私や騎士団が付いていたのも大きいが、ラシアがダンジョンから追い返した事が最大の理由だ」

 

 そう大公が言ったのでティーガーは少し考えてから納得した。

 

「なるほどなー。あっこで送り返したからって感じか。流石はラシやな」

 

 隣で茶菓子を食べている国王が「どういう事ですか?」と聞いたので、ティーガーは「ホンマに自分王様か?」と笑って簡単に説明する。

 

 王女の陣営側もアトラスに勝てない事はほぼ分かっていた。だが振り上げた剣は簡単に下ろす事はできない。

 

 その上でチャンスが生まれるとしたら、獄炎のダンジョンの踏破という実績を得た時だった。だが、その機会もラシアが同じ場所に現れた事で消える事になった。

 

 そしてそこに天使の襲来が重なった。自分達を守る兵力は残してあるが……それでも国を守る為の兵力はない。

 

 だから国の危機に力を貸さない役立たずという烙印を押されそうになっていた。

 

 だが……ラシアが獄炎のダンジョンから精鋭達を送り返した事で、王女の陣営も彼らを王都の戦いに送り込めるようになった。それによって面子を保つ事ができたのだ。

 

 確かにアトラス陣営と王女の陣営は揉める事にはなったが、それでもお互いが国の為に天使達と戦ったという形はできた。

 

 ここで余程の馬鹿ではない限りは退く事を選ぶ。退いても損はないのだから。

 

 ティーガーはその場を見ていないが、王女の陣営側はこう言ったはずだ。

 

 王都で共に戦わせてもらいそちらの陣営の強さは見せてもらった。こちらが力不足とまでは言わないが、新しい王にはそちらが相応しいだろう。

 

「みたいな事を言っとけば退けるしお互いに角も立たんしな~」

 

「天使に襲撃されるという事件はあったが……負ける戦いに無謀に挑む馬鹿ではないと分かったのは、こちらにとってもメリットだったな。だがティーガーが言う様にラシアが本当にそこまで考えていたのかは知らないがな」

 

「はー……流石は噂の白の騎士様という事ですね」

 

「そういう事やから自分も国王やからって好きにやってたらハンマーされんで」

 

 「肝に銘じます」と国王が笑い、もう少しだけ話は続いた。そしてティーガーも聞きたい事を聞けたので、後の事は大公達に任せてエリゼの様子を見に行く事にした。

 

 ……

 

 ティーガーがエリゼの部屋に向かっている頃、エリゼは宝石の様に光る球を眺めていた。濃い青というより黒に近い色をしている。

 

 誰にも言っていないが、それはエリゼが瀕死のシエルオーテスからもらった物だった。

 

 天使達が王都に襲撃をかけた最後の日、デルパロア家の広い庭でパルサーとシエルオーテスの激闘が始まった。

 

 大公が屋敷に残っていたので、父親を放っておいて避難するのもどうかとエリゼは思っていた。そうして屋敷に留まっていたところへ襲撃があった。

 

 もう治療済みだが、あの騎士団の狂犬と呼ばれるパルサーが片足を失う程の戦いだった。

 

 吹き飛ばされたシエルオーテスは壁に激突し、それを突き破ってエリゼが使っていた部屋に飛び込んできた。

 

 エリゼはその時の事をよく覚えている。驚き怯える自分にシエルオーテスが話しかけてきたのだ。

 

「……あの時の娘か」

 

 羽は綻び、立派な盾には大きな穴が開き、鎧も傷んでいる。

 

「シエルオーテス様……貴方が王都に攻め込んだ天使だったのですね」

 

「ああ。そうだな……人間が嫌いなのでな。滅ぼしてやろうと思ってな」

 

 そう言って盾を杖代わりにゆっくりと立ち上がろうとする。

 

 その姿を見てエリゼはシエルオーテスがそこまで悪意のある者とは思えず、近寄り立ち上がる手助けをした。

 

 そんな行動をした自分にエリゼは驚くが、シエルオーテスはそれ以上に驚いた後に笑った。

 

「私はここで死ぬ。二度世話になった礼だ」

 

 そう言ってシエルオーテスは懐から黒い宝玉をエリゼに投げて渡した。

 

「これは?」

 

「お前が世界を呪う事があれば使え。この世界には強者が多い。滅ぼす事はできないが……誰かに不幸を与える事はできるだろうよ」

 

 そんな物はいらない。

 

 と、言えるほどエリゼは強くはなかった。幼少の頃に命を狙われた時にできた傷は今では治っている。だが、その傷のせいでこの世界が嫌いだったのだ。

 

 死を望んだ事はなくても誰かの不幸を祈った事は多い。そんなエリゼだからそれを手放す事はできなかった。

 

「わっ、私は」

 

「言わなくてもいい。使う使わないを選ぶのは自分だ。では……地獄というものがあるのならそこで会おう」

 

 そう言って壁に開いた穴からシエルオーテスは飛び出し、それが彼女の最期の言葉になった。

 

 ……

 

 エリゼはもらった宝玉を見ながら、そんな事を思い出していた。

 

「使い方も分からないのにどーしろって言うのよ……」

 

 そう文句を言っているとノックも無しに勢いよく扉が開け放たれた。

 

「お嬢! 屋敷が襲撃されたって聞いたけど生きとるか!?」

 

 エリゼはもらった球を落としそうになるが慌ててキャッチした。机の引き出しに仕舞い、文句を言う。

 

「ティーガー!! ノックぐらいしてちょうだい!」

 

「ちゃんとしたで!」

 

 深く考えすぎていたせいでノックが聞こえなかったのか。エリゼがそう思っていると、ティーガーは続けて「嘘やけどな!」と元気よく言った。エリゼはこめかみに血管が浮かぶのを感じた。

 

「ほんでなんか宝石みたいなの見とったけど男からの贈りもんか?」

 

 聖騎士だけあってこういう所は本当によく見ているなと感心するが、シエルオーテスからもらったとも言いにくいので違うとだけ答えておいた。

 

「まー……お嬢は昔からモテへんもんなー。傷も綺麗に治ったからモテてもええと思うけど……性格悪いもんな!」

 

「メニス! この馬鹿をつまみ出しなさい!!」

 

「メニメニは外で掃除しとったで! そんな事言わんとお姉ちゃんと仲良うしようや!」

 

「あなたみたいな姉とかいらないわよ!」

 

 そんなやり取りが続く間にも、エリゼが机の中に仕舞った黒い宝玉は不気味な光をわずかに強めていた。

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