本日のラシアもゆっくり目である。王都は天使に襲撃されたが、聖銀鋼の鎧を見てもらった鍛冶屋は殆ど無事だった。今日から営業再開なので、昼を過ぎてからゆっくり行けば良いかという感じだ。ナットンと世間話をしながら朝食を食べている。
世間話の内容は水晶の泉にある研究所の事だ。
ガロニアは天使達の魂を別の容器に封印するとか言っていたので、ゲームでもそんな話があったなーと思ってナットンに話をしている所だ。
ラシアから話を聞き、ナットンが答える。
「あれの製造は私も手伝っていますから似ているのは間違いないかと」
「……やっぱりか。というか人前に出て大丈夫なのか?」
「コアラがクッキー作って公園で販売して文句言われない街なので大丈夫かと思います」
それもそうかとラシアは納得する。
王都には住んでいないので分からないが、このルインエルデは細かい事を気にしないタイプの街なのだ。ラシアは来た時からそう思っていた。
初めてこの街に来た時によく喧嘩があった。周りもそれを日常の事として受け止めていたというより、そもそも気にしていなかったんだろうなーと今更ながらにラシアは思う。
「それで、別の世界の技術を教えて大丈夫なの?」
「はい。ガロニアは私から見ても凄腕の科学者、ではなく錬金術師です。すぐに辿り着く技術ですから問題ありません」
なるほどと頷きながらラシアはナットンを見る。
ナットンは四角い箱が動いているだけに見えるが……こう見えてボルトルデの技術の粋を結集して作られたとかそんな設定だったはずだ。
確か中には人の魂が入っているので、ロボットなのに人っぽいのはその為だ。だからガロニア達と同じ様に魂とかそっちの分野では割と専門家だったりする。もちろん錬金術の知識もある。
「まー、悪事には加担しない様に」
「はい。たぶん大丈夫です。教えた後に使われたら私は知りませんので友が破壊してください」
「人はそれを無責任って呼ぶんだぞ」
「いいえ。違います。私は人を信用しているのです」
こういうやり取りもナットンらしくて良いとは思うのだが、疑問も出てくる。
天使達がダンジョンの外に出て強くなった様にこのナットンもゲーム以上に人っぽく喋るのだ。
というよりもダンジョンから出てきたものは全て枷が外れると言っても過言ではない。
キングもゲームでは街が埋まるほどのコアラを召喚する事はできなかったし、今はそれがなくてもアホほど強い。リレッサに関しても支援から攻撃まで幅広くこなす上に、表情も感情もとても豊かになっている。
ゲームの中の性格だとティーガーにボードゲームで負けて悔しがるなど想像できないのだ。
ただその辺は今更だし、戻った所で元に戻る訳でもなさそうなので気にしても仕方がないというのがラシアの本音だ。
良い事も悪い事もあるが今の所は良い所の方が多いのでそれで良し。
そしてラシアは朝食を食べ終え、食器などをおやっさんに渡した。聖銀鋼の鎧を修復してもらいに王都へ行くと伝えて宿を出た。
王都からこのルインエルデに流れて来た人も多く、冒険者ギルドへと向かう道にも人が増えている。
天使はいなくなってしまったが天使の国は存続している。まだ混乱が残っており、そこから人が流れて来ているのも一つの原因だとかなんとか。
リレッサが言うにはその内落ち着き始めるので、あまり気にしなくて大丈夫との事だ。
悪ささえしなければ人が多い方ができる事もあるし、ルインエルデも王都も人手不足なので良い事だ。そう思いながらラシアは冒険者ギルドのポータルを抜けて王都へとたどり着く。
王都の冒険者ギルドを抜けて外に出ると、まだ天使の襲撃の跡が色濃く残っており、騎士や聖騎士が総出で片づけの最中だ。
ただこの世界には魔法という便利な物がある。完全に建物が壊れていなければ魔法で修復できるので、元の世界に比べると街の復旧速度が大違いだ。
この辺りはラシアがしょっちゅう宿を壊して体感している事なので、本当によく分かる。
「建物が傾いたぐらいだと土魔法で地面を動かして元に戻せるのは本当に凄いよな~」
建物の壁も基本は土でできているので、柱が折れたりしても魔法で壁の土を動かしてから柱の交換なんかもできる。
あとは魔法の恩恵がかなり大きいので、元の世界だと一人では持てないだろうという角材を簡単に担いだりしている。少し危ないが一階に二人、二階に二人と分かれ、一、二の三で投げてキャッチしている事もザラにある。
魔法使いなんかは普通に建材を浮かして運んだりしている。高い所に運ぶクレーンなんかも必要ないので、本当に建築や修復が早いのだ。
ただ修復が早いのは建物の形が残っている場合だ。ゼレストニアと誰かさんが戦ってハンマーした辺りは建物が綺麗になくなり、若干クレーターになっている。誰の土地がどこまでなのかも分からないので、測量をして新たに建てる感じになる。
ラシアは測量をしているクレーターの横を心の中で謝りながら通り過ぎて行き、ようやく目的の鍛冶屋へとたどり着く。
前に来た時も思ったが繁盛している様で、相変わらず人が多くとても入りづらい。これも天使が攻めてきた影響で、冒険者達も王都の防衛に出ていたので仕方がないのだが……ラシアは心の中で天使に呪詛をつぶやいた。
ただ入らない事には鎧の修理もできないので頑張って入る。だが……超級ダンジョンを踏破したりとやらかしているので、こんな話が聞こえて来る。
「おい。白の騎士がいるぞ」
「あれが最近噂のラシアって奴か」
「獄炎のダンジョンも踏破したって聞いたぞ」
かなり居心地が悪い。
もう帰るか! とラシアが思っていると一人の店員がやってきた。奥へと案内される事になったのでほっと一息をつく。
そして前に聖銀鋼の鎧を見てもらった部屋に行くと、この店の親方が難しい顔をしていた。
「おう。よく来たな。鎧とおんなじ鉱石は手に入ったか?」
「忙しい所すみません……」
「ん? かまわんぞ。ボケ天使共のせいでクソほど忙しいが、騎士団と聖騎士の方からお前さんが来たら優先的にやってくれって言われてるしな。その上で天使の親玉も倒したって聞くし、後回しにする理由がねーな」
忙しい所にややこしい仕事を持ってきて申し訳ないと思うが、ありがたい事だ。ラシアは礼を言ってから前と同じ様に聖銀鋼の鎧を取り出して台の上に並べ、炎神フレディムからもらった聖銀鋼のインゴットを親方に手渡した。
「これはインゴットになってるが、この鎧とおんなじ材質の物が欲しかったら獄炎のダンジョンに行けば手に入るのか?」
「道中を調べましたが、それっぽいのはなかったので下りきってボスの炎神フレディムに頼めばもらえるかもしれません。そのインゴットはくれって言ったらくれたので」
「昔はモンスターは人の言葉を話さないのが常識だったが……天使もそうだがコアラも喋るんだろ? 俺の知らない常識が増えていくな」
「まー……コアラキングは例外かと。他のコアラは喋らないので」
そんな話をしながらもう一度鎧の状態を見てもらう。前より酷くなっている事に驚かれた後で修復が始まった。
「ある程度の時間はかかる。待ってるのも暇だろうから商品見てきてもいいし、外に出ててもいいぞ」
そんな事でもしようものなら外にいる冒険者に何を言われるか分からず、たまったものではない。何かの拍子に話しかけられたら困るので、ラシアは時間がかかろうが待っておくと伝えた。
「まーお前さんの相棒だしな。こっちは何もする気はねーが、武具から目を離さないのが正解だわな」
「そういう事です!」
嘘をついても誰も傷つかないのならそれで良し! とラシアは頷く。体感で二時間ぐらい待った後に聖銀鋼の鎧は元の姿を取り戻した。
「よしこれで完成だが……強化とかするならついでにやっとくぞ?」
確か修復すると強化した分は元に戻るという事だった。ラシアは強化に使うアイテムと強化に失敗しても装備が壊れないようにするアイテムを取り出し、ついでに聖銀鋼の鎧を+10まで強化してもらう事にした。
全てが終わり、+10になった聖銀鋼の鎧を身につけると、前より遙かに体に馴染み、本当に体の一部になったような気がした。
「ありがとうございました」
「おう。相変わらず凄まじい鎧だな。そういうのにお目にかかりたいから、是非ともまた来てくれ」
身につけていた聖銀鋼の鎧をアイテムバッグに仕舞いながら考える。ノアの装備やグオンが手に入れた獅子王の籠手の強化などもあるので、確実にまた来る事になる。ラシアは「また来ます」と言ってから今回の代金を払い、裏口から出て鍛冶屋を後にした。
そして道中のお菓子屋さんで頑張って会話してティアへのお土産などを購入し、無事に帰宅した。
宿に戻るとティアが食堂のテーブルを拭いたりしていた。ラシアが戻った事を喜び、声をかける。
「ラシアさん。おかえりー。鎧は直った?」
「直った直ったー。お土産買ってきたからそれ食べたら見せてあげる」
「先に見たい!」
そうリクエストされてはラシアも気持ちが良いものだ。「仕方ないなー」と言うと奥からおやっさんがやってきた。
「宿壊すなよ!」
「おやっさん……鎧着るだけで、宿が壊れる訳ないんすよ」
そう言ってラシアは勢いよく立ち上がる。
鎧も完璧に直って+10になり、天使とのいざこざも終わってテンションもアゲアゲだ。気合いも気力も十分な状態で、ラシアは某勇者王ばりに叫んだ。
「エンディングフュージョン!!」
叫ぶだけ叫んで普通に鎧を着ようと思っていたのだが……+10になった聖銀鋼の鎧はそれを許さない。
アイテムバッグから光があふれたと思ったら、聖銀鋼の鎧のパーツが生き物の様に飛び出した。
「ドゴン!」
「バゴン!」
辺りを飛び回って宿の天井や壁を気持ちよく突き破り、そして元の形に戻る様にラシアに装着された。
「ラシアさん格好いい! ……けど」
「ティアちゃん……それ以上は言わなくて大丈夫だからね」
そしてラシアはおやっさんに土下座した。