「そういう訳でして、ラシア隊長。なんか良い方法ないです?」
ロディーの相談事は簡単に言えば、天使みたいに空を飛んで襲って来る軍に対処する何か良い方法はないか? というものだ。
バスタースワローみたいに空を飛び、個々が強いだけのモンスターなら、弓職の上位職でなんとかなるが……今回の様に軍隊で来られるとかなりキツくなる。
弓職はマジで強いが、モンスター相手だからこそ強さを発揮できるという面もある。
フウコウが教えてもらった矢よけの踊りのようなスキルを使われると、矢による攻撃は無効化されてしまう。
ゲームなら矢を無効化されると弓職は何もできないが、この世界だと殴ったり蹴ったりはできるが……流石に空には届かないのだ。
そうなってくると次に候補に挙がるのが魔法職だが……魔法職も魔法職で魔法反射や詠唱時間延長みたいな対策があり、その種類は弓職以上に多い。
そうなるとどうしても空を飛んでいるというだけで軍としては強くなる。
「もう。あれやな! ラシにアイテム売ってもうて、カグヤちゃんDXいっぱいテイムしてそこら中に配置しようや」
「無理やな! 隊長に教えてもろた素材でカグヤの飯代とか計算したけど、採りに行くからまだ安うつくけど年単位で計算したら、指揮官数人分のお給金が簡単に飛ぶで」
テイマー職もロマン職だが、不遇でもある。まずめっちゃ金がかかる。さらにテイムしたモンスターのレベルがプレイヤーのレベルを超えていると、プレイヤーには経験値が入らなくなる。そのせいでレベル上げが大変な事になるのだ。
だから不用意に強いモンスターを使うとプレイヤーのレベルが上がらないという事が普通に起きる。
話は逸れたが、モンスターを大量配置というのもオススメできない。カグヤちゃんDXを含めてテイムしたモンスターは非常に強力だが、対策方法は本当に多い。
あと今回の様な乱戦でテイマーが流れ矢に当たったり不意の事故に遭ったりして、モンスターより先に死んでしまったらどうなるかも分からないからだ。
そうなって来ると……人を空に上げるのが一番手っ取り早い。
「やっぱりそうですよねー。ローウェンテニア時代みたいに竜騎兵団作るのが一番現実味ありますよね」
「でもあれやろ? 竜の巣行かなあかんし、そもそも竜酔いの酒ってラシしか知らんし、作り方知らんやつの方が多いから無理ちゃうん? 他にも竜に乗れる所あるん?」
「私の記憶では無いですね。というかロディーとデゴットさんには作り方教えてあるので勝手に作ってもらって大丈夫ですよ」
「流石にそれは駄目だな」
「私的には全然良いですけどね」
やはり知識としての価値の大きさが問題になってくるという事だ。ラシアは特に見返りなど求めないかも知れないが、受け取った方はもらった物に対して何も返せなくなる。
お金に換算したとしてもいくらの価値になるかも分からない。それに一方的な関係はいつかは破綻するという事だ。
そしてもう一つ気をつけないといけないのが、軍が強化されるという事だ。
国を守る為の防衛の強化と聞けば聞こえはいい。
だが、今は良くても時代が変わり他国に攻め込むとなったら? 空を飛べる軍なら、天使達が国を滅ぼしたのと同じ事ができてしまうという事になる。
それが自分達が生きている間に起こったとして、気にせずのうのうと生きていけるのか? という話になってくる。
「ティーガーはまぁええか。ノリで暮らしてそうだが。そうなった時に私やラシアが罪悪感を抱えたまま生きていけるのかと思ってな」
「ウチはそこまで悪人ちゃうわ! かと言って軍の強化は必須やで? キングみたいなのが出てきたら、今やとホンマにどうしようもないからなー」
キングがコアラだから笑って済ませられているが……レベル100クラスのモンスターはたぶん似たような事は平気でやってくる。
フェリスロステも他国に侵略など興味が無いし、妖精のサイズが小さいのでそこまで領土を必要としない。
だけど、もし戦うとなったらと考えると……
「そんな感じで騎士団と聖騎士の若い連中の意見を見てもこんな感じになるわけで、ラシア隊長。なんかええ感じの方法ないです?」
中身が一般人の自分にどうしろというのかとは思うが、今の状況を維持したいのであればラシア的には戦力強化かなーと思う。
確かに自分は帰る人間ではあるが、未来の人達が戦争を起こさないかもしれない。国と国の規模で見るから物事が大きく感じられるが、騎士と冒険者の関係で考えると少し分かりやすい。
騎士や聖騎士より冒険者が強くなってしまったら、立場が逆転し色々と崩壊する。
だからイタチごっこにはなるだろうが、守る方が強くないと話にならない事はある。ラシアはそう自分の考えを伝えた。
「キングはともかくフェリロスはラシがおるから大人しくしてるのはありそうやしなー」
「他国の女王陛下を略すな。だが……ラシアの言う事ももっともではあるな。抑止力は必要だからな」
そう言って悩むロディーに、ティーガーとパルサーも加わった。
ティーガーは戦力の強化派だが、パルサーの言う事も分かる。
パルサーは保守派だがティーガーの言う事も分かるという感じだ。
「もういっそのことティーガーさんとパルサーさんに人選を任せてみては? 最終的な決定権はロディーやデゴットさんにあるでしょうけども、パルサーにしても自分で決めた事なら納得いくでしょうし、ティーガーさんにしても変な人を選ぶと大変な事になるのは分かるでしょうし」
ティーガーもパルサーも「私達が選ぶのか?」となるが、ロディーは少し悩んだ後に「それはありやな」と頷いた。
パルサーやティーガーが将来、騎士団長や聖騎士長になれるかは分からない。それでも、現時点の強さで考えても騎士団や聖騎士の中でも人を使う立ち位置にはなると思う。
その事を考えると、今のような答えのない事を選ぶ事は一つの勉強になるのでは無いかと思う。
失敗して変な人に力がいっても今の騎士団や聖騎士なら問題になる前に潰せると思うからだ。
「それは良くても、ラシへの報酬はどうすんや? 何もなしが一番あかんやろ?」
「それはロディーが責任を持って深淵のダンジョンの情報を持ってくるという事でどうでしょう? 私は見つかっていない説は信じていないので、隠していると思っているんです。どうしてそうなってるのか知りたいなと」
「だが、本当に見つかっていない時はどうするんだ?」
「それならそれで一つの答えですからね。その情報と騎乗竜の知識を交換するという事でどうでしょう?」
ロディーはもう一度悩んだ後に、心を決めた様だった。
「よし。ほんだら。ラシア隊長への情報はウチが責任を持って探して来ます。ティーガーとパルサーは後でデゴットとかその他諸々と話し合うけども、人選は自分ら二人に任せる。それでええか?」
その質問にティーガーもパルサーも力強く頷いた。
「特にティーガーに関してはもう竜に乗っとる。騎士とか聖騎士に教える事にもなるさかいに、新人がやった事の評価が全部自分に返ってくると思っとかなあかんで」
「おう。任しとき」
話は決まっていき、グオンも竜に乗っているので、竜に乗るとはどういうものかについて冒険者としての意見も聞きたいとの事だった。その内に連絡するとロディーはラシアに伝え、協力を頼んだ。
少なくとも百人の兵団にしたいとの事だが、この国では初めての取り組みという事で、まずは三十人規模の竜騎兵団を作るとの事だ。
竜騎兵団の隊長を誰に任せるかまでは決まっていないが、話はトントン拍子に進み、ロディーの悩みにもひとまずの答えが出た様に思えた。
そしてそのままロディーの家で夕食に呼ばれる事になり、パルサーも一緒に食べる事になった。
その食事の席でパルサーはラシアに質問する。
「そういえば、次はどの超級に挑むとかは決まっているのか?」
深淵は置いとくとして、地星と獄炎は踏破した。絶冬に行っても良いのだが、この国からは繋がっていないし、フェリスロステも国の管理などでやる事があるだろうから、ポータルを繋いでもらうのも気が引ける。
そうなってくると天風か聖陽になるが……行くのなら天風になるだろうと話した。
「姫様の支援で空を飛べますから、そこに行ってみようかと。ただ先にクランメンバーの強化などもあるので行くにしても少し先かなーと」
「なるほどな。時間が合えば私も行ってみたいので一度誘ってくれ」
「ええ是非。高難度ですが、ティーガーさんも竜に乗っているので戦いやすいですし、是非行きましょう」
「おう。ええな! しっかり準備しとくわ! 任しとき!」
楽しい夕食の時間は過ぎていった。
それから数日が経ち、ノアがフレディムから教えてもらった魔法の説明をしたり、遭難組やグオン組の強化を図ったりする為に、ラシア達は上級ダンジョンに足を踏み入れていた。
そしてそれと時間を同じくしてティーガーとパルサーによる人選が始まった。