久しぶりにクランメンバー全員と狩りができてラシアは嬉しい反面、超級ダンジョンに行ったりしているので申し訳なくも思う。ただ、遭難組にしてもグオン組にしても時間があれば狩りに行ったりしているので全員がちゃんと強くなっている。
次にラシアが挑む超級ダンジョンは天風だが、その次は他国に行って絶冬に行こうかと考えているので、その準備だ。
簡単に言えばめっちゃ寒いので、体を温めるアイテムを集めているという感じだ。
氷水の時の様にダンジョンに生えているアイテムを集めるのではなく、モンスターを倒して材料を集めるタイプなので、新しい魔法を覚えたノアと新装備のグオンにはちょうど良いのだ。
集めるアイテムは火炎茸。名前だけ見ると元の世界にあった毒キノコとよく似ているが、こっちは素手で触っても大丈夫だし、ビエット曰く焼いて食べると美味しいらしい。
ラシアは子供の頃に祖父から「安全なキノコを食べたい時はスーパーで買え」と教えてもらったので、野生のキノコを食べるのは結構抵抗があったりもする。しかもここは異世界だからだ。
本日はダンジョンを踏破する訳でもないので、グオンがリーダーをしたりノアがリーダーをしたりと、普段やらない事もやってもらっている。ラシアは一番後方で見ている。
全員が強くなっているが、ずば抜けて目につくのはやはりノアだ。
炎神フレディムに教えてもらったコスモフィールドとコスモインフィルノの性能がエグすぎる。
あの魔法は本来、対魔法職用に作られた魔法なので、魔法職が使うとかなりの脅威になる。
今も戦いが始まると無双状態になっている。
「ははははっ! 私の魔法で燃えるがいい!」
と、絶賛調子に乗っているが、魔法の説明をした時に危険性はちゃんと理解した様子だったのでその辺は信頼している。ただラシアを悩ませているのは、モンスターの技も覚えられるんじゃね? って事だ。
前にパルサーと話している時に人とモンスターの違いは無いみたいな事を言っていた。コアラが公園でクッキー売っているし、違うのは見た目だけで、もしかしたら魂みたいなややこしい物は全部同じかもしれない。
で、人がスキルを覚えるには技を見てその名前を言う必要がある。だが基本的にモンスターは言葉を話さないので、人はその技を覚えられなかったのではないかと思う。
ラシアはスキルを覚えきっているはずなので、余裕はない。誰かに手伝ってもらいたいと悩んでいるとダードがやってきて「俺で良かったら手伝う」と言ってくれたので、お言葉に甘える事にした。
たぶん無理だろうと思うがそれも一つの実験だ。
ラシアがモンスターを探していると、ちょうど子供くらいの大きさのキノコに手と足が生え、剣と盾を持ったモンスターが現れた。
名前はそのまんまキノコの剣士。こいつは宿り木の一撃というモンスター固有のスキルを持っている。
格好いい名前がついているけどキノコであって木じゃなくね? とは思うが……食らうと頭からキノコが生えてデバフを受ける、そんなスキルだ。
流石にメンバーに「攻撃くらって」とは言えないので、ラシアは盾をアイテムバッグから取り出してキノコの剣士の攻撃を受ける。
そして何度か攻撃を受けていると、キノコの剣士が軽く光った後に重い攻撃が飛んできた。ラシアがそれを受けるとポンッと頭に漫画で見るようなカラフルなキノコが生えてきた。
先にキノコの剣士を倒すが……熱がある時みたいな感じで体がダルくなる。
「ラシア。頭にキノコ生えてるけど大丈夫か?」
「体がダルくなりましたが、治療するアイテムがあるので大丈夫です」
そう言って大体の状態異常を治す万能薬をアイテムバッグから取り出し、それを飲む。するとラシアの頭に生えていたキノコはポトッと下に落ち、体のだるさもすっかり治った。
そして都合良く別のモンスターが現れたので、ダードに宿り木の一撃を使ってもらうと……とんでもない事になった。
ダードの攻撃を受けたモンスターの頭に、ラシアの頭に生えた様なキノコが生えたのだ。
「おお! モンスターの技も覚えられるんだな!」
「……ただモンスターの技なので、あまり人前で使うと変にいちゃもんつけられたりするかも知れません。余所では使わない方がいいかも知れません」
「分かった。モンスターとか思われても嫌だしな」
「LLLのキノコ剣士の誕生か」
「ダードに二つ名がつくならキノコのダードか」
「チ○コが二つ名とか恥ずかしくて身内でも言えねーな」
「おい! こらそんな恥ずかしい二つ名はやめろ!」
等とクランメンバーで盛り上がっているが……ラシアの内心はそれどころでは無く冷や汗が出まくりだ。
ラシアは元の世界では暇な時に設定資料集とかを読んでいたので、モンスター固有のスキルも全部では無いが危険な物はよく覚えている。モンスターのスキルも人間が覚えられるという事は、そうした危険な技まで使えてしまうという事だ。
プレイヤーは即死系の魔法を覚える事はないがモンスターはもちろん持っている。……いくら確率が低くても百人の魔法使いが即死魔法を唱えれば、その内の一発が成功するだけで死ぬ。
モンスターのスキルを覚えられるという事は戦争になった時にそんな戦術も採れるのだ。
現状、その事を知っているのはここにいるクランメンバーだけ。
ラシアがそう思っているとノアが静かに近づいてきた。
「ラシアさん……語彙力なくて申し訳ないんだけどヤバくない?」
「はい。超絶ヤバいです……ただ現状ならキノコ生えるぐらいなので、メンバーには『絶対に言うな』ぐらいでいいと思いますけどね」
そう言ってグオンの方を見ると、伝わっていたようでダードに再度忠告していた。今度はラシアの元にエリエスがやってきて、ノアとおんなじ様な事を言っていた。
冒険者やってる魔法職はこの辺の危機管理が本当に凄いなーとラシアは思う。戦いになってその辺をミスるとほぼ即死なので、鍛えられる面もあると思うのだが……
「ノアさんもエリエスさんもガチ目に他言無用でお願いします。エリエスさんはダードさんが使いそうになったら注意してください」
「わッ、分かりました」
ただ名前も分からないとスキルは覚えられないので、その辺はラシアさえ黙っていれば大丈夫なのだが、もしもという時の保険だ。
で、ノアもグオンも気づいていないので言わないが……逆も十分にありえる。
モンスターも人のスキルを覚えられるかも知れないのだ。
ラシアはキングやフェリスロステの前で色々なスキルを使っている。ラシアが使っているようなスキルをキングが使い始めたら、どうなるかはとても簡単に想像できる。
キングで無くてもその家臣であるコアラ達が使ったらと考えると本当に頭が痛くなる案件だ。
だけど、これに関してはキングにもフェリスロステにも相談できない。なぜなら気がついていない可能性もあるからだ。
二人の事は友人と言っても良いが、向こうがどう思っているかは分からない。だから信用はしているが、心を許すとなると少し違ってくると思う。
二人は友であると同時に王でもある。時には同族を優先する選択をするだろう。
というか、そうでなくても人見知りの冒険者が面白い事を言っていたらとりあえず試して見るのが二人なのだ。だから相談できないのだ。
「頭が痛い……」
「ラシアさん。大丈夫? キノコのせいだね」
「まさにキノコのせいですね。おのれ秋の味覚め。食べてないけど……」
「ラシアさん。後で塩でも振って食べて見ますか? いっぱい火炎茸取れてますし」
「余計に頭痛くなりそうなのでやめときます」
戻ったらおやっさんかリレッサに相談しようとラシアが思っている頃……ティーガーとパルサーはラシアに伝わればさらに頭が痛くなる事をやっていた。
二人の前には騎士団と聖騎士の精鋭が百人近く集まっている。
そんな中で二人は見渡すように前に立ち、ティーガーが代表して大きな声を上げた。
「ここに来とるという事はウチみたいにドラゴンに乗りたい奴ばかりやと思うから余計な事は言わん! 今から全員で殴り合って残った三十人が新設される竜騎兵団に入れると思っとけ!」
大きな歓声が上がった後に一人の騎士がティーガーに質問する。
「全員で殴り合うのは分かったが、ティーガーとパルサーも参加するのはどういう意味があるんだ?」
その問いかけには隣にいたパルサーが答える。
「天使の襲撃では私も実力不足が否めなかった。だから私達の訓練という事もある。それと……私とティーガー程度に負ける者が新設される兵団でやって行けるとは思わないのでな。ふるいにかける意味もある」
「ウチとパルサーが一組で適当に襲いかかるさかいに、気絶でもしようものなら問答無用で落とすんでよろしゅう頼んま!」
「まー確かに、お前等程度に負けるなら話にならんからなー」
パルサーが「そういう事だ」と言おうとしたタイミングで、虹竜が吐いたブレスが着弾した。
ただし……ここにいるのはマジで精鋭だ。今の不意打ちも「埃が舞うからやめろ」ぐらいで済ませられる者達だ。
ラシアが獄炎のダンジョンで出会った騎士や聖騎士もいる。
「という感じで攻撃するから騎士団と聖騎士の皆さんは気を抜かんように! ちなみに三十人が決まったら、ラシが『天風のダンジョンの踏破に同行してもいい』みたいな事は言っていた(言ってない)ので頑張るように!」
大きな歓声が上がった後に騎士団の訓練場では戦いが始まった。
そこでパルサーは「ラシアがそんな事言っていたか?」とティーガーに尋ねる。
「そうやで? ウチとパルサーで決めた後にちゃんと竜との適性があるかをラシが見てくれるって事やから、あそこで天風に行くって言うとったんやで」
「なるほどな。と言う事は後でラシアも適性をみるのか?」
「そやろな。強さはウチらが最終ラインで最終的な合格ラインはラシがみるはずやで、だから天風とか連れて行ってみるんかもな? まぁ読み切れん所もあるけどな。という訳でその期待に応える様に頑張ろか!」
「ああ!」
そしてこの竜騎兵団の入団テストは、騎士団と聖騎士の長い歴史の中で最も過酷なものと言われる様になる。