ラシア達はダンジョンから無事に帰還し、今はもう夜になっている。
宿の食堂は酒場みたいな事はやってないので、時間が来たらおやっさんは飯を作らなくなる。
ただ食堂は使えるので、酒とか買ってきて飲み食いする奴は勝手にしろ、食ったら片づけろという方針だ。
ラシアは飲むと大変な事になるので飲まないが、グオンとかダードは食べ足りない飲み足りないとなると余所の酒場に行ったりもしている。
で、本日のラシアはダンジョンでの発見が気になっている。モンスターも人間のスキルを覚えられるんじゃね? って事でモヤモヤして寝るに寝られない状態だ。
ちなみに寝付きの良いリレッサは、二段ベッドの上でもう気持ちよさそうに寝ている。
こう寝ているだけで絵になるのは反則じゃね? と思うが、少し布団を直してあげてから起こさない様にラシアは一階へと降りた。
一階へ降りると片づけが終わったおやっさんとセレットが晩酌していたのでラシアも混ぜてもらう事にした。
「いらっしゃーい。ラシアちゃんも飲む?」
「おい。セレット。こいつに酒飲ますと絶対にまた宿壊すから飲ますな」
「おやっさん。人がしょっちゅう宿壊してるみたいな言い方しなくても……」
「いや、壊してるだろうが。何回目だ?」
「……二回ぐらい?」
「よし。お前もう宿から出ろ」
「嘘です! おやっさんすんまそん!」
二人のやりとりを見てセレットがクスクスと笑う。
そしてラシアはおやっさんが作ってくれた軽食をつつきながらダンジョンで発見した事を告げた。
ただ二人の反応は、深刻な事は深刻だがラシアが思っている程ではないという感じだった。
「確かに危険だとは思うが……お前が黙っとけばたぶん問題ないぞ。今までそうだったなら、これからもそうだって事は多いしな」
「おやっさんよ……それは適当すぎん?」
「そもそも全員がお前みたいにスキルに詳しい訳じゃないから、その上にモンスターのスキルまでってなると手が回らんだろ」
おやっさんの言う事にラシアもそれはそうかと思う。今の状態でもスキルに関しては殆ど未解明で、最適化もされていない。そんな状態で「モンスターのスキルを覚えられますよー」となってもさらに選択肢が増えるだけで、下手をすれば弱くなる可能性もあるからだ。
「となると……言うほど気にしなくていいか」
「むしろ言わない方がいいな。そもそもモンスターのスキルを使うデメリットって何があるか分からんだろ? モンスターの名前は皆知っててもモンスターのスキル名まで知ってるのはお前ぐらいだから黙っとけ」
そうなって来るとラシアの悪いクセが出て、この世界におけるスキルってなんぞや? と考え始める。ゲームならスキルと言えばその職が使える必殺技みたいな物だ。
剣士なら剣技。魔法使いなら魔法みたいな物なのだが……
「スキルって何?」
「下手したらこの国で一番知ってそうな奴がどうして俺達に質問するか」
「私が昔聞いたのは魂の記憶とかそんな感じだったわねー」
ラシアは頭に?を浮かべる。昔から受け継がれてきた記憶みたいな技とか魔法をスキルと呼ぶのだそうだ。
だから迂闊にモンスターの魔法とか技を覚えたりすると、モンスターになってしまうかも知れない。そんな訳で、モンスターのスキルを覚えられる事はラシアの心にしまっておく方がいいという話になった。
「って事は明日の朝になったらダードは猫怪人ならぬキノコ怪人って感じか。ラシアの実験のせいでダードは人間やめる事になったのか。可哀想に」
「キノコ怪人……おやっさん。そうなったら嫌なので変な事言うのやめてください」
流石にそんな事にならないのはラシアも分かっているので、皆で笑っているとセレットが少し面白い事を教えてくれた。
それはスキルもモンスターと同じでダンジョンから来たであろうという事だった。
「え? そうなんですか?」
「どれぐらい大昔かも分からないけど、そうじゃないかという話が出てるのよ。魔力は当たり前にこの世界にあったんだけど、スキルって調べられる範囲では、歴史の記録に急に現れたみたいな感じなの。それはモンスターと同じ様にね」
「へー。面白いですよね。でも世界の歴史と一緒で、そういう記録も争い事とかで焼けたりしてるからあんまり残ってないんですよね?」
「そうなのよねー。破れた書物とかの残ってる所を頼りに、足りない部分を想像で補ってるの。だからたぶんそうだろうって話なのよね。今のスキルの話にしてもスキルを研究してる人がそうじゃない? って言ってるだけだからね」
その辺は面白いなとラシアは思う。確認のしようは無いのだが、大昔にダンジョンに入った人がモンスターと戦ってその技を見て、適当に言葉をつけたら発動したとか。その辺なのかなーと思うと少し浪漫がある。
「って事は現存するスキルって職で覚えるというよりモンスターが使ってる物ばかりが出回ってるのかな?」
「それだと私やお父さんみたいな製造職はスキル覚えられないから、キングさんみたいに言葉を話せるモンスターが出てきて教えたのかもね。もしくはロディー様みたいにダンジョンから出てきた人が教えたとかね」
当たり前の事だが……ちゃんとこの世界にも過去があって歴史がある。昔の人達がどんな生活をしていて、その中でダンジョンをどう使っていたのか? 等と三人で話が盛り上がった。
そしてモンスターが人のスキルを覚えるというラシアの懸念について、セレットは気にしなくて良いと言った。
「危険なのは間違い無いけど、キングさんとかフェリスロステさんぐらい頭が回ると絶対に気がつく事だから、ラシアちゃんが気にしなくて大丈夫よ」
「そんなもんですか?」
「じゃあ。お前はキングにこの国の法律とか店の出し方とか教えたか? クッキーの作り方を教えたら自分で店開いてほんの二、三日で借金返すような奴だぞ? 気にするだけ無駄だ」
まさにおやっさんの言うとおりだった。キングにしてもフェリスロステにしてもスキルって聞いたら、覚えられるとかではなくて、自分でなんか新しいの作れるんじゃね? って考えるタイプだ。
だから二人はラシアが気にしている所を確実にもう通り越している。考えるだけ無駄なのだ。
「おやっさん。セレットさん。ありがとうございます。考えるだけ無駄という事が分かりました」
「どういたしまして~」
「アホみたいに言いふらすのは駄目だが、余計な事は言わないぐらいのスタンスでいいぞ。本当に気がついていない可能性もあるしな」
二人の話を聞いて、余計な事は言わずに今まで通りでいいとラシアの中で決まったので、もう一度二人に礼を言った。
ラシアの悩みも消えたところで晩酌は続いた。
そして夜が明けて、ラシアが昼に起きた所……一階ではダードとエリエスとビエットの三人がご飯を食べていた。ダードは昨夜言っていたキノコ怪人にはなっていなかった。
「おう。ラシア。もう昼だぞ……もう少し早く起きろよ」
「昨日はクランの今後の事を考えていたので……」
「おやっさんとセレットさんから一緒に遅くまで飲んでたって聞いたぞ」
「そういうのも含めてです」とラシアは言ってから、座っているダードの上から下まで何度も視線を往復させた。
そんなラシアを見て三人組が「どうした」と不思議がったので、ラシアは答えた。
「いえ。ダードさんがキノコ怪人に変身したら嫌だなーと……」
「するか! 変身ってなんだ。そもそも前から思ってたけど怪人ってなんなんだ!?」
「特に意味は無く……フウコウさんと似たような物かと」
なんて事を話していると宿の扉が開き、フウコウが帰って来た。今の話も聞こえていたらしい。
「ダードはキノコ怪人……そう聞くと猫怪人がマシに聞こえるから凄いもんにゃ。その内流行らせるにゃ!」
そう言いながらおやっさんに料理を注文するとダードが文句を言う。
「うぉい! やめろ馬鹿猫!」
「ワッチも怪人仲間欲しいからやめる訳ないにゃ!」
「ラシアも馬鹿猫もマジでやめろ!」
ラシアは特に流行らせる気は無いが、ダードの隣にいるビエットもエリエスも「あーあ」という様な顔でダードを見ている。
フウコウはフウコウで楽しそうに「ティーガーに言えば一発にゃ!」と笑っている。
「Bランクぐらいで二つ名つく奴は基本的に大成するからそんな凹む事じゃないにゃ。しかもキノコとかいう二つ名がつく奴は歴史上でも聞いた事ないにゃ。喜べにゃ」
「嫌すぎる!」
「諦めろにゃ。わっちの猫怪人みたいに定着するにゃ。まー昔の死招猫とか不幸猫よりはマシだから良いような気はするけども……名前より猫怪人言われる方が多いにゃ」
「大変ですねー」
「誰のせいにゃ!」
ラシアが言い出しっぺだが流行らせたのはティーガーなのだから、自分は悪くないとは思う。ただ確かになんか猫怪人って言いやすいので仕方ない。
「あーそうそう。後はわっち、ラシア、ティーガー、パルサーがいる猫組に入りたいって獣人がめっちゃ多いにゃ」
そういえばそんな設定あったなーとかラシアは思い出す。その辺はティーガーがなんか二つ名に猫が入ってる奴しか無理みたいな事を言っていたが……何処に入りたい要素があるのかとラシアは不思議に思う。
「入りたい要素しか無いにゃ。ラシアについて行ってるのはあるけども、全員に超級ダンジョン踏破の実績がつくし、スキルとかモンスターについても教えてもらえるにゃ。それは金を出して買える物でもないにゃ」
「LLLの方はギルドからも絶対に入団できないってお墨付きだしなー」
「新しい人が入ったら私の精神が持ちませんからね」
そうなって来るとラシアと関係を結びたくても、誰かさんがすぐに逃げるのでまともに会話ができない。で、ティーガーが騎士団とか聖騎士で自慢している猫組に入れば付き合いができるんじゃね? となっているらしい。
「普通に話しかけてくれれば答えますからね……」
「おみゃー。嘘言うのやめろにゃ……この前、ラシアが王都に行った時に実力者達が揃って話しかけようとしたのに、消える様に全員撒いたって話は有名にゃ!」
はっきり言ってラシアはそんな事は知らない。なぜなら毎回、話しかけられる距離を避けて歩いているからだ。
それをどう説明しようかと悩んでいるとエリエスが変な事を言い出した。
「なるほど。それが入団テストという事ですね。ラシアさんに話しかけられる事が最初の一歩と……」
「違いますけど!?」
「もうめんどくさいから今度聞かれたらそう答えておくにゃ~」
「そう考えると……ラシアと話せてる俺達って奇跡に近いんじゃねーか?」
「本当だにゃー」
そう言って頷く猫怪人とキノコ怪人は本当に失礼だなとラシアは思う。
「それで話は変わるにゃけど、今度ラシア達がダンジョン行く時はワッチもついて行くのでよろしくにゃ。天使の件も落ち着いたから時間余ってるにゃ」
駄目ですって言ったら来ないのかなーとは思うが、不幸な所を除けば戦力的にも欲しい人材だ。ラシアがOKを出すとフウコウは喜んで礼を言った。
そのタイミングで頼んでいた料理ができたので、それを受け取りフウコウは席に座る。
そして……ソースみたいな液体を料理にかけていると……容器の蓋に不具合があったようで一気に全部出て料理は一色に染まってしまった。
「……フウコウさん。相変わらずですね」
「ある意味……才能だよな」
「ふっ不幸にゃ……」
そんな事があってから数日が経ち、明日には天風のダンジョンに向かうとなった頃。ティーガーに呼ばれてラシアが騎士団の兵舎に向かうと、新設された竜騎兵団の面々が約二十人揃っていた。
「と! いう訳で三十人よりは少ないけど、二十人の竜騎兵が揃ったから、明日の天風のダンジョンの準備はばっちりやで!」
「……どういう訳ですか!?」