「三十人って聞いとったけど……新設される部隊やしウチとパルにやられるような奴はいらんやろ。そういう訳で二十人まで減ったけど精鋭中の精鋭やで」
なんて事を楽しそうにティーガーは言っているが……ラシアが体に感じる圧が違うので、騎士や聖騎士の中から選ばれた本当の精鋭なんだと思う。
そもそもティーガーとパルサーも十分に強者の部類だ。それに勝てるとなると、本当に強者なのだ。
「それで最終的な合否は言っていた様にラシアが決めてくれ。見てのとおり竜はいるからな。ここが竜騎兵団の始まりだ」
言ってませんが!? と思うが言える様な雰囲気でもない。二十人の竜騎兵達を見ると一人につき一匹の騎乗竜、ドラゴンがついている。流石にティーガーが乗っている様な虹竜ことゲーミングドラゴンはいないが、グオンと同じ灰竜もいればロディーと同じ火竜もいる。
「ほんで言うとったみたいに天風のダンジョンで最終試験するん? ここまでの精鋭なら死ぐらいは恐れんと思うから……踏破に連れて行っても全然問題ないで?」
大きな声で言いたい。一言も言ってませんが!? と。
連れて行っていいと言われたら戦力的にも申し分ないので、全然連れて行きたいが……この人数は流石に無理になって来る。
それは戦力が増えると支援と防御が回らなくなるからだ。
LLLが超級ダンジョンに行く時の回復はラシアの回復アイテムとリレッサの支援魔法で補っている。中級ダンジョンや難易度の低い上級ダンジョンぐらいなら支援は殆ど必要ない。ラシアの火力で何とかなるし、グオンの守りで大体防げるからだ。
超級はそんなに甘くない。支援あり回復魔法あり食事バフあり。全ての事をやってラシアでもなんとか無事に進めるぐらいだ。
この前行った獄炎のダンジョンがまさにそうで、支援無しでジェネシスライオンマンを倒せとかはどうやっても無理なのだ。
ゲームでも回復無し支援無しでダンジョンの踏破などできないので、現実でも当然無理だ。
それにここまでの人数がいるのに支援職がいないのが大問題。狩りを安定させるなら、支援職一人がサポートできるのは三人。多くても五人までだ。それ以上になるとMP回復薬とか使いながらになるので支援職にかなりの負担がかかる。
流石のリレッサでもこれだけの人数を見ながら支援するのは無理だろう。そう思って一緒についてきたリレッサに尋ねると、ギリギリいけるそうだ。
「私は天使を召喚して支援させる事もできますからね」
できるんだ……となるが、問題はそこではなくて流石にこの人数の面倒を見ながら進むのは無理だ。ラシアはリレッサを連れて少しその場を離れ、相談する事にした。
「そういう訳で姫様……良い方法ないですか?」
ラシアがそう尋ねると、リレッサはすぐに「ありますよ」と言ってくれた。流石は姫様と思っていると、とんでもない事を言い出した。
「全員。ここで倒しましょう。それが最も楽で手っ取り早いです」
「どうしてそうなるんですか!?」
「そこまで驚く事ではありませんよ。まず、いくら精鋭とはいえ竜に乗り始めた者を天風に連れて行きたくないでしょう?」
「はい」
「ラシアが人と話したくないというのは、この際置いておいたとしても指示を出さない事には話になりませんし、私の支援の事も気にかけてくれていました」
「……」
「そして私はラシアが負けるとは思っていませんが、炎神フレディムやジェネシスライオンマンは力だけならラシアより強いはずです。そういう者達が超級にはたくさんいるぞと教えておく事が重要なんですよ」
リレッサはこう言ってくれているが……ラシア自身はジェネシスライオンマンや炎神フレディムのようなボスと一対一でやり合ったらたぶんだが負けると思っている。
だから話し慣れていない大量の人間に指示を出しながら超級ダンジョンを抜けていくのは無理なのだ。
「それにラシアは……ここにいる人達に死んで欲しくは無いでしょう? ラシアが相手なら手加減できますし、戦って諦めさせてみてはどうでしょう。ラシア自身、超級ダンジョンをとても警戒していますし、『私とまともに闘えない者が挑むなど早い』的な感じで」
確かにリレッサの言うとおりだなと思う。この人達には死んで欲しくないし、ラシア自身、自分が最強とは思っていない。
自分と戦って手こずる様では、はっきり言って超級の踏破は無理だ。
「それにこういう方々を言葉で説得するのは無理ですよ」
まさにその通りなので……ラシアは覚悟を決めて、ティーガー達の所へと向かった。
「おかえり。決まったけ?」
「はい。変な案出した私も悪いので……私が最終試験をします。これから時間ってありますよね?」
「全然あるで? 何するん?」
流石に……この直りかけてる騎士団の訓練場を更地にするのは気が引けるのでやるならダンジョンの方が良い。勝手に直るからだ。
「では……時間も惜しいですし、移動しましょう。リレッサ。すみませんが天城のダンジョンの一階層のあの広い丘にゲートポータル繋いでもらえますか?」
「分かりました」とリレッサは返事をした。ポータルが繋がれると全員がそこへ入って行く。
そして全員が通り、また並ぶとラシアはティーガーとパルサーに一つのお願いをした。
「ティーガーさん。パルサーさん。ぱっと見た感じ人は少ないですが……この辺で狩りをしている冒険者達に避難する様に指示してください」
それを聞いてティーガーはすぐに察した様で、笑顔で「分かった」と言って虹竜に乗って飛んでいった。
パルサーも少しは分かった様だがあえてラシアに尋ねる。
「皆さんが精鋭なのは分かりますが……少し超級ダンジョンの危険性を本気で伝えておこうかと。私とやり合えるぐらいでないと超級の踏破なんて無理ですからね」
「分かった。合格ラインは?」
「これから加減はしますが全力で行きますので、心の強さを見せてもらおうかと思います。私が尊敬する勇者達は……どんな強大な敵が現れても折れる事無く立ち向かったので」
「なるほどな。お前がそう言うのなら偉大なお方だったのだろう。避難させたら私達も混ざればいいか?」
「お任せします」
「分かった」と言ってパルサーは手を上げて去って行った。ラシアは話を聞いて戦闘態勢に入っている竜騎兵達の方を向いた。
「怪我をしたら私が責任を持って治します。ローウェンテニアの王女直属の騎士であるラシア・ラ・シーラが相手です。新たな兵団の騎士達よ。その胸を借りるつもりで挑みなさい」
そう言ってリレッサはラシアを含めて全員に支援をかける。
もうラシアは覚悟を決めている。
「見せてもらおう! 君達の勇気の力を! そして浪漫の力を! 聖銀鋼の鎧よ来い!!」
ラシアの掛け声と共にアイテムバッグから光があふれ出し、聖銀鋼の鎧が生き物の様に飛び出した。
そしてラシアの周りをぐるぐると飛び回った後に、ラシアの体に装着された。
「流石に味方だからな! 今回は俺の出番はねーな!」(幻聴)
「だったら今回は僕の番だな!」(幻聴)
「おうっ! メテオドライブハンマァァァァァ!」
この時点で危険察知能力の高い者は竜に乗り空に舞い上がっているし、ラシアに向かってブレスを飛ばす者もいる。だがそんな物が効くはずも無く、簡単にハンマーでかき消されてどよめきの声が上がる。
その間にラシアはいくつかのアイテムを使用し、メテオドライブハンマーを振った後に発生するメテオの確率を上げていた。
そして最後にスキルを使って準備が整う。
「今から使うスキルは君達の様な竜に乗る者にはほぼ必須のスキル。プレゼントするので覚えておくといい。使い方は体で覚えろ!」
ラシアは左手を突き出しそのスキルを使用する。
「リボルバーボックス!」
ラシアの前に銃の部品に似た、穴の開いた幾何学模様の何かが召喚される。
これは簡単に言えばスキルとスキルを繋いでコンボを作るスキルだ。通常攻撃、スキル、アイテム、武具が覚えるスキルといった物は全てここに入れられる。そうして入れた物が一度の攻撃でリボルバーの様に勝手に発動する。
便利なのは便利だが人が使うと攻撃力が落ちるので、一撃に重きを置くラシアは殆ど使わない。だが竜に乗っている者達には必須スキルなのだ。竜のブレスはダメージが落ちずに連射できる様になる。
その内ティーガーやグオンにも教えようと思っていたのでちょうど良いのだ。
ラシアがリボルバーボックスに入れるのはメテオドライブハンマーのメテオと相手の行動を阻害するクラックフォールだ。
これを入れておけばランダムに発生するメテオの確率が上がり、相手は地面に落ちた瞬間に固定される。
だから一人で波状攻撃が可能となる。ダメージもリボルバーボックスの特性で落ちるので即死は防げる。
「よっしゃー! 行くぜーー!」(幻聴)
幻聴に合わせてラシアが思いっきりハンマーを振るとリボルバーボックスが回転し始める。
地面にいた者達はクラックフォールで固定され、空を飛んでいる者達に向かって大量の隕石が飛来し戦闘が始まった。
そしてダンジョンにいた者達に避難する様に言ったパルサーも、その戦闘に加わろうとした。そこへ飛んできたティーガーに呼ばれてそちらを見ると、ティーガーの虹竜が面白い物を捕まえていた。
「おーい。パル。猫怪人おったから捕まえてきた!」
「おお。フウコウか。タイミングがいい。これで猫組が集まった訳か」
「離せにゃ! ワッチは毛皮集めてるだけにゃ!」
そう言ってフウコウが暴れるが、基本的に竜は自分が認めた人間の言う事しか聞かないので離す事は無い。
「ええやんけ! 見たら分かると思うけどやる気満々のラシに鍛えてもらう機会って滅多にないからなー。フウコも一緒に行こや!」
「拒否権奪ってからそれ言うのやめろにゃ! しかもやる気満々のラシアとかただの地獄への近道にゃ!」
そんなフウコウを無視してティーガーとパルサーは進みながら話を続ける。
「だが、フウコウがいると色々と巻き込まれないか?」
「はっきり言うて、あの中やったらウチらが一番弱いからな。ちょっと本気で鍛えんと置いていかれるから。フウコウがおるぐらいでちょうどええねん」
「それもそうか」
「おみゃー達が一番弱いとかどのレベルの話にゃ! ワッチは帰るにゃ! 離せにゃ!」
そんなフウコウの叫びも虚しく、三人は戦闘エリアに入った。パルサーはクラックフォールで行動不能になり、ティーガーとフウコウに向かっても大量の隕石が飛来した。
「にぎゃーーー!」
「お? 今日はいつもの『ふっ不幸にゃ』は言わへんのやな?」
「そんな余裕ないにゃ! ティーガー覚えてろにゃ!」
「ほんだらここから落とすけどええか?」
「お前まじで覚えてろにゃーーー!」
フウコウの叫びの後に戦闘はさらに激化し、選ばれた精鋭にすら「二度としたくない」と言われる程のラシア式竜騎兵入団試験がここに生まれた。