予定より二日遅れで、ラシア達は天風のダンジョンに行く為の準備をしている。
準備と言っても忘れ物の確認と点呼ぐらいの物だ。
メンバーはラシア、リレッサ、グオン、ノア……そしてフウコウになる。
ダードはいくらキノコ怪人になったとはいえ、実力的にはまだまだなので、遭難組とグオン組と一緒に秋の味覚を狩りに行くとかなんとか。
ゲームだとそろそろハロウィンのイベントが始まり女の子モンスター達がハロウィンコスして華やかなのだが、こちらの世界ではそういうのは一切無いみたいだ。
おやっさんにその辺の話を聞くと季節ごとのイベント関係のモンスターはいないそうだ。サンタ帽子被ったモンスターもいないし、お正月モンスターもいないというかおやっさんも見た事はないとの事だ。
それはそれで悲しい。ハロウィンの時はコアラキングの王冠もカボチャになるので、それも無いのは悲しいのだ。そこで売ってるカボチャに穴を開けて中身を取り出し、キングに被せてみると本人は喜んで今日もクッキーを売りに行ったので、天風には行かないらしい。
本人曰くなんとなく分かったらこれ以上は聞く必要はないとの事だ。
何の事かと思いラシアが尋ねると、間違ってても良いから自分なりに答えを探す事が大事だと言われ教えてもらえなかった。
そんな事を考えつつ忘れ物の確認なども済ませ、皆に見送られながら宿を出て王都へと向かう。
ルインエルデの冒険者ギルドでいつもの受付嬢さんに会釈をしてから王都の冒険者ギルドへと向かうと、最近は評判も上がっているのか……ラシア達を中心にクレーターの様な綺麗な円ができ、人が寄ってこないフィールドが形成される。
「ラシアさん……また何かやったの?」
「ノアさん失礼過ぎますからね。何もやってませんが?」
「おみゃーはちょいちょい嘘言うのやめろにゃ」
今回ばかりは嘘を言った記憶がないのでフウコウに抗議しようとすると、ヒソヒソ話が聞こえて来る。
……
「竜に乗る兵団が新設されるって話あっただろ? 前に見たあれと一人でやり合えるのが、あそこの白の騎士らしいぞ」
「その兵団って一人一人がガチのエリートの奴だろ? 有名人ばっかりの」
「そうそれ、俺も天城ダンジョンの丘で遠目から見たが……マジで一人でボッコボコにしてたぞ。あの人は」
「こえー……てか猫怪人も良く一緒にいれるな」
「アイツ馬鹿猫だからな」
……
なんて話が聞こえて来るので、ノアもリレッサも苦笑している。
「……ちょっとあいつらしばいて来るにゃ」
そんな怒れるフウコウを「まぁまぁ」とラシアがなだめているとティーガーとパルサーがやってきた。
そしてラオメとレクトアも一緒にいる。
来てくれるなら戦力的にもありがたいなーとラシアは思う。アトラスの事や天使の事が落ち着いて時間ができたので、一緒に行きたいそうだ。
「そういう訳で足は引っ張らないと思うのでついて行っても良いだろうか?」
「はい。前衛と支援職は多くても大丈夫なのでよろしくお願いします」
「ラシア様もリレッサ様もよろしくお願いします」
そう言ってレクトアとラオメは丁寧に頭を下げた。
「それはそうと……ラシア殿。竜騎兵団の事は聞いたが、徹底的に上下関係を叩き込んだらしいな」
「うぐっ……」
「そんな苦虫を噛み潰したような顔をしなくても誰かが死んだ訳でもなく丸く収まり精鋭が誕生したのだから、良い事ずくめだろ?」
「王女陣営の方の顔も立ててあるしな~」
この場に竜騎兵団の人達がいない理由だが……ラシアの最終試験で徹底的に叩きのめしたからだ。
竜を掴んでそのまま投げ飛ばしたり、隕石落としまくってダンジョンを穴だらけにしたりだ。
それでも本当に騎士団と聖騎士の精鋭というだけあって、逃げる者は一人もいなかった。
ちょっとやり過ぎた事もあって足が吹っ飛んだ者もいたりしたが……戦いの中で変な連帯感が出たようだ。動ける者が負傷者をリレッサの元まで連れて行き、回復した者はすぐに戦いに復帰した。
そんな戦いを数時間続けて徹底的にやったが、それでも脱落者は出ずに竜騎兵団をやめる者はいなかった。
もちろんティーガーとパルサーも脱落せずに乗り切った。パルサーに至っては竜に乗れないので、常にラシアと地上戦になるがそれでも乗り切ったのだ。
そんな中でラシアの記憶に一番残っているのがフウコウだ。
獣人なので身体能力の高さは目を見張るものがあるが、なんというか……レベルに換算しても八十台近くまで上がってるんじゃね? とラシアは思ったのだ。
気のせいでは無いと思うのだが……他の者達がラシアに簡単に吹っ飛ばされ空を舞う中で、フウコウの攻撃はガードこそされたがラシアに届いた事が何度かあった。
他の竜騎兵の攻撃もラシアがガードする事はあったが、ティーガーとパルサーはそこまで攻撃を届かせる事ができなかった。
だから知り合いの強さランクみたいなものを作れば……自分とリレッサは置いといて、ロディーとデゴットは同じぐらいだろう。フウコウはラオメやヘッジ、アトラス辺りにいるのでは無いかとラシアは思う。
不幸な部分さえなかったら、ティーガーとパルサーよりは強いと思う。
「にゅうん? 人の顔見てどうかしたにゃ?」
「いえ。フウコウさんって結構強いなーと」
「ワッチの攻撃が一発も当たらなかった奴が言う台詞じゃないにゃ~」
そんな感じで全員ボッコボコにして立てなくしたつもりだったが、一人だけ立ち上がった者がいた。それが獄炎のダンジョンで出会った聖騎士だった。
獄炎のダンジョンに行けるぐらいなので、誰かが立ち上がるとしたら彼が一番先だろうとラシアは思っていた。予想通りと言えば予想通りだった。
そして後日、ティーガーに「誰に隊を任せるん?」と聞かれたので深く考えず「その時の彼」と答えた所、その聖騎士が竜騎兵団の隊長になる事が決まった。
ロディーは聖騎士長だし、ティーガーは竜には乗っているが聖騎士だからだ。
乗り方や竜の事などはロディーが教えるそうで、困った事があれば先輩のグオンにも聞きに行くとの事だ。
あとはその選択のお陰で王女の陣営側の顔も立ったとロディーが喜んでいた。
そんな世間話も終わり、ラシア達は冒険者ギルドのポータルを抜けて天風のダンジョンへと向かった。
……
ポータルを抜けると景色が切り替わり、空と雲の世界が広がる。
天風のダンジョンは簡単に言えば空に浮いている土というか岩というか島を進んで行くダンジョンだ。
今、ラシア達がいる場所も空に浮いている島の上だ。こういう島を渡って進んで行く。
他のダンジョンとは違い、次の島へ渡るごとに階層が切り替わる感じなので、上に行ったり下に行ったりする事は無い。
「そっ、空が近い!」
「一度、来た事はあるが……このダンジョンは本当に進み方が分からない事で有名だからな。変な気流があって空を飛んでも明後日の方向に飛んでいく」
ラオメの言う事は本当で、ゲームと同じならの話だが一階層から二階層に行くには気流に乗って行くギミックがある。
一階層はそんな感じでモンスターは殆どいなかったはずだが……こちらの世界ではどうなっているかは分からない。
「グオンさんとティーガーさんは常に竜に乗っておいてください。竜は気流に乗れますが自由にも動けますから、もしもの時は誰かをキャッチしてください」
二人が頷いたのを確認してからリレッサに浮遊する魔法と支援魔法をかけてもらう。
すると全員が浮かび上がったので、ラシアは皆に「ついてきてください」と言って今いる場所から右の方へと移動する。
「では私が先に行きます。ここは流れに任せれば二階層まで行けるので気にせず進みましょう」
そう言ってラシアが空に飛び出すと足下から凄まじい風が吹き抜けその体を簡単に持ち上げ運んでいった。
皆もそれに続き、何かあった時の為にグオンとティーガーは後から気流に乗った。
鳥になった様に空を飛び、気分が良いと思うのは……最初だけだった。
この世界はゲームではなく現実。天城ダンジョンより遙かに高い位置に天風のダンジョンはある。
その為、空気はどういう訳かなんとかなっているが……かなり寒い。
これはミスったなとラシアは思いながら顔を青くし、歯をカタカタと鳴らして我慢した。そうしてようやく二階層へと流れ着いた。
「すみません、こちらのミスでした。皆さん大丈夫でしたか?」
そう尋ねたがメンバーは割と大丈夫そうだった。というのもリレッサやレクトアの支援が届く範囲にいたので、寒さは問題にならなかったとの事。
ラシアは先行してたので支援が届く範囲を超えていたとの事だった。
ティーガーやグオンにしても竜の体温が高いので大丈夫だったとの事だ。
自分が寒いだけなら大丈夫だなとラシアは笑い、体を温めるアイテムを飲んでから準備を整える。
二階層からはモンスターが出てくるからだ。今はまだいないが、島から島へ渡る時は空中戦にもなるので今の様な寒さ対策も必要になるなと気を引き締めた。