ラシアとダードの模擬戦の結果は屍累々という形で終わった。
ダードだけだと相手にならないので途中からビエットとエリエスも参戦した。
だが矢を射ようが魔法を放とうがその攻撃はラシアには届くことはなく、ちょいちょい吹っ飛ばされ三人とも動く事ができなくなった感じだ。
地面に仰向けで寝ている三人のおかげで分かった事はかなり多い。
まずダードが使っていたアックススラッシュ。これは使えてはいるが武器や職業に適性がないのだろう。
簡単に言えば燃費が悪い。ゲームで言うなら威力を抑えて消費MPが上がっている感じだ。ゲームなら剣士が使うソードスラッシュならもう少し連発が効く。
だがダードが使うアックススラッシュは連発が効かない上に、受けたラシアからするとちょっと重い通常攻撃程度だ。
だから適正職業以外がスキルを使う弊害なんだろうと考える。ビエットにもライトヒールを使わせたが使用も合計で三回と、まったく使えないレベルだった。
アーチャー職はもともとMPが少ない上に適正でないスキルだから回復もしない上にMPの消費が異常に多く、使用回数が減っている感じだ。
エリエスに関しては他職のスキルは使っていないが覚えているスキルがロックバレットとマッドウォールだけと非常に少なく、スキルLVも1とか2ぐらいの感覚で非常に弱い。
「ラシアが強すぎる……」
「しっ死ぬ……」
「強いのはしってますけど……同じ人間ですか……」
ダード、ビエット、エリエスの順で文句が届き、見ていたノアはとても驚いている様子だ。
そしてラシアが加減が苦手な事も分かった。
それは……戦いになると攻撃にクリティカルヒットがのるからだ。
加減しても加減した攻撃にクリティカルヒットがのる時とのらない時があるのでダメージがバラつく。
これが原因だ。同じ力で殴ってもクリティカルが出ればダメージが増す。
日常生活にはクリティカルは出ないので同じ力で加減もできるが、戦闘になるとクリティカルヒットが出る確率が発生する。
スキルでクリティカル率上昇とクリティカルダメージアップなどを取っているので、そこそこの確率で出てダメージが上がる。
出ない時もあるので加減が難しいといった感じだ。
倒れている三人のおかげでそれが分かったのは本当に大きい。
ラシアは感謝の言葉をかけてから鞄の中で眠っていた初級の回復薬を取り出して三人にかける。
小さな傷も全てが塞がり三人はゆっくりと立ち上がった。
「回復薬まで使わなくても大丈夫だぞ」
「ダード!先にお礼!」
「ラシアさん。ありがとうございます」
「こちらも気になっていた事が分かりましたし、旅も続きますから余計な疲れを残す事もないと思いますので」
そしてこの世界のスキルの習得方法も分かった。と考えていると戦いが終わったのを待っていたのかベルエドがパンパンと手を叩く。
「ラシアはクレイハウンドの戦いの時も思ったが……マジで強いな。俺とも一戦やらないか?」
知りたい事も知ったし勝っても負けても失う物は無い。どっちかというとAランクに勝ったCランクとかいう話題が残るだけなのでラシアは丁重にお断りする。
「すみません。流石に疲れたのでやめておきます。ダード。すみませんが木剣を返しておいてもらえますか?」
「おう。いいぞ。また時間があったら相手してくれ」
ラシアは木剣を渡して皆に頭を下げてから宿へと入っていった。
そんなラシアを見てベルエドがノアに話しかける。
「魔法使いから見てどうだ?ちなみに恥ずかしい話だが……俺は全く勝てる気がしない」
「どう頑張っても無理すぎる!ベルエドがいない時にダードくんがラシアさんの木剣に引っかかった時があったんだけど……そのまま片手で持ち上げてたからね!」
「あいつ……何で冒険者してるんだろな?というか中身ゴリラか?」
「失礼すぎる!」
そんな話をしている間にラシアは部屋にたどり着く。簡素なベッドと机があるだけの部屋だが他人がいない空間にラシアは大喜びだ。
ティアの宿と同じように中からかんぬきを掛けるタイプだ。
一息ついてから大きく声をだす。
「やっと個室!ビバお一人様!」
外に人がいたら確実に聞こえる音量だが気にしない。硬いベッドに飛び込みゴロゴロする。
そしていつも通りに「おうちかえりたい……」と嘆いた後にベッドに座り先程の事を考える。
スキルの事だ。
ダード達と戦っている時に聞いた。この世界でスキルを覚える方法は基本的には三つあるそうだ。
一つは誰かから教えてもらう。そのスキルを見せてもらってどういう物か聞けば使える様になるそうだ。ただいくらでも覚えられる物でもなく限りはあるとの事。これはスキルポイントの事だろうとラシアは考える。
もう一つは本から学ぶ。これはエリエスから教わった。本や書物を読んで覚えるとの事だ。師や先生の様な人がいても学んで覚える事もできるが、そういうのは秘匿されている事も多く、覚えるときは魔術書などを購入し覚えるらしい。
エリエスは元は農民だったが親が元冒険者で魔法を教えてもらったので使える様になり冒険者になったと言う話だ。
三つ目はかなり少ないが偶然覚える事があるそうだ。日々の生活や戦闘中に覚える事があるらしい。これは三人も人から聞いた話なので詳しくは分からないとの事だった。
三つ目は偶然の産物だろうとラシアは思う。盾で殴ってシールドバッシュと言えば覚えられるのか?というそんな感じだ。
話を聞いて戦いながらだが……答えはまとまった。
この世界の職はラシアがやっていたゲームの様に最適化されていないと言う事だ。
剣士がブラックスミスのスキルを覚え使用できる。最適化されてないからダメージが落ちMPの消費が増える。そういう事だ。
ゲームなら職によって取られるスキルは決まっており、それはすでに最適化され戦いで使えるがこちらの世界はそれが無い。
たぶんだが全ての職が全てのスキルを習得できる。
これが大問題だ。数ある職の中でそれ以上に多いスキル。組み合わせは無限になるだろう。
可能性が多すぎて必要か不要かが分からなくなるのだ。
ラシアのスキルにも死にスキルは存在する。だがそれは他のスキルを取ったり、生かすための必要な物だ。
剣士のダードがブラックスミスのスキルを取っても斧で戦う事はあっても鍛冶はしないのだ。
だからスキルが生きずに死んでしまう。
この世界に見合ったスキル取りは存在するだろうが……それはきっと夢物語なんだろうなとラシアは思う。
「消費激しくて威力落ちるなら他の職のスキルとか取れないよな……というかエリエスさんが村人の時に魔法覚えたって言ってたから、もしかしたらゲームみたいに大きく分ける職の概念って無いのかもしれないなー」
そこから繋がる話がある。講習の時に教官が言っていた言葉だ。冒険者が問題を起こした時に止める兵士がいる。
これはきっと兵士の方が上司や上官から技を教えてもらう機会が多いからスキルがある程度最適化されていると言う事なのだろう。
それが対人、対モンスターかは分からないが、人の強さがだいたい同じなら最適化されている方が強いのは明確だ。
冒険者は自分で考え自分で学ぶ。教えてもらう人でもいれば最適化されていくが……それがない。死が近いのも一つの原因だろう。
「……わかった。それで連携が上手くなるんだ。言い方は悪いが個人が弱いから、連携して学んでそっちが伸びていく。この世界で見つかってないスキルとか普通にありそう」
アクティブスキルでそれなら身体を強化するとかの系統のパッシブスキルはどうやって覚えるのだろうと思うが……たぶんだが大半の冒険者は習得してもないし知らないままなのだろう。
今回の事は明確にラシアにとってメリットになるばかりの事だった。急に仲良くしようとか言われても困るが……今日のように少しで良いなら模擬戦に付き合おうと考えるほどに。
そして夕食の時間までゆっくりとした時間を過ごし、また皆で食べることになった。
その時にベルエドから話があったが、この村の村長に話を聞いた所、今のところは特に困った事も無いとの事なので明日の朝はすぐに出発する事になった。